第47話 朝練は絡まない
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清々しい朝を迎え、いつもの体操を宿の近くのスペースでする。同じく朝から身体を動かす冒険者を見つけ感心した。片手剣で型をなぞっているのか、黙々と風を斬る音を鳴らしており、額には汗が浮かび長い時間かけていたことが窺える。
「あまり観られるのは好きじゃ無い」
動きを止めた冒険者が背を向けたまま鞘に剣を戻す。意外に透き通る声で、男性だと思っていたが女性だった。
って、俺のことだ!!
「すいません!!キレイな型で見惚れてました」
「・・・ふむ。では、模擬戦をしないか?」
『急に何言ってるんだ、この人?』と思ったが、黒っぽい服を着た女性の口角は既に上がっている。
「しかも魔族か・・・場所はここで良いか?」
「いや、ダメでしょ?えっっと、外!!外いきましょ?」
「では約束だな。朝食後、宿の入り口で待っているぞ」
俺の言葉を模擬戦の了承と受け取った女性は宿へと戻っていった。朝から脳筋っぷりが半端ない。頼むから脳筋族は脳筋族で国を興してくれないだろうか?多様性は認めるし、敬意も払うが巻き添いだけは勘弁である。
「あっ、ゲイン。おはよう。昨日のお祭りすごかったねぇ」
メイプルが食堂に入る俺の姿を確認する。この子くらい平和で思いやる人ばかりの国なら喜んで住みたいし、そこで自分が役に立つことを考え行動するだろう。
「メイプル、朝食をお願いします」
「はーい」
ツタツタ小走り気味で動くメイプルを目で追いかける。なんだろうあの生き物、ちょっと目が離せない動物みたいだ。ただ、さすがに恋愛とか欲情とかはしないとハッキリと伝えた方がマスターと俺のためかもしれない。いまも怪しげに俺を睨みつけている。
「なぁ、マスター。俺、メイプルは可愛いと思うけれど、女性のタイプは大人の感じが好きなんだわ」
「あ”ぁ”!?うちのメイプルに文句あんのか!!?」
マスターの溺愛が底無し沼のように俺の意図は伝わらず、会話を飲み込んでいく。これは長くなると思ったところで意外な助け舟が入った。
「マスター、つまりゲインはロリじゃないってこと。私みたいなのが好みなの」
「いえ、ペッタン子もあまり」
「あ”ぁ”!?てめぇ、朝からガン見しててキショいんだよ!!はよ、模擬戦いくぞ!!!」
解決しない方が平和なことがあるという教訓でしょうか・・・。西の森の集落も解決しないことが解決みたいなことにならないだろうか。ポルテ会長にミスリル丸投げしたから後日行くとして・・・。
俺はそんなことを考えながら朝食をペッタン子と座って食べる。そういえばきちんとした朝食を一緒に誰かと食べるなんてアブリュート家だと思い出す。今頃、ナスカも武者修行中だろうか。他国とか他の集落を蹂躙している画しか浮かばない。
◇◇◇◇◇◇◇
「それじゃぁ、準備は良い?」
「これは模擬戦で、寸止め、魔法はあり、致命傷は与えないって事で良いですか?」
「そう、それで良いわ」
俺の確認に静かに頷くエグザは微笑みをたたえている。薄緑の髪が肩あたりで揃えられており、きれいな二重の青眼は物騒な武器さえ構えて無ければ、きれいな人である。いまはその微笑みが狂気にさらなる華を添えている。
ゾクッッ!!
身体の反応に従い身体強化を使い、バックステップで飛ぶ。俺のいた場所へエグザの片手剣が止まらずに地面へと叩きつけられる。
ズガァアアアアン!!!
「ちょ、ちょっ」
「戦闘中におしゃべりなんて死にたいの?」
いや、死ぬって。あの威力って中級魔法クラスだよな?それを初撃の様子見で打ってくるなよ。
「戦闘じゃなく、模擬戦!!!」
エグザの振るう剣にミスリルダガーを合わせる。刃こぼれ覚悟で向かったが、3合目でミスリルダガーの刀身半分まで食い込む。
「持った方じゃ無い!!」
エグザが声を上げて笑いながら剣を振るってくる。
「ふっざけんな!!』
半身で剣を躱し、足で踏みつけたところからエグザの左脇腹に右フックを叩き込む。エグザは武器を強く握っていたが、身体が吹っ飛ぶほどの物理的な威力を支える握力は無い。10m程度ぶっ飛ばした先でエグザは受け身を取る。
「わたし専用の武器なんだから!!」
「サイン、斬れ!!」
帯剣していたサインを抜き、地面に突き刺さる剣に水平に3度振るう。かすかな抵抗を手に感じたが、サインを鞘にしまう前に刃こぼれが無いことは確認できた。
「あっ・・・あっ、わぁああん!!」
自分の4つに別れた剣に近づいたエグザが大声で泣き出した。
「俺だってミスリルダガー壊されたんだからなっ!!」
「貴方のは剣戟中じゃない!!私のは故意的に壊されたのよ」
「いや、『持った方じゃ無い!!』って笑ってたじゃん」
「弱い武器が悪いのよ!!!」
エグザのその言葉が俺に刺さり、がっくりと肩が落ちた。
「ご、ごめんなさい。戦闘になると見境がなくなって」
「あぁ、『戦闘』なら謝る必要は無い。だから、俺は謝らない。そして」
「そして・・・?」
自分が思った以上に激昂していたのが分かった。
「『戦闘』と言うなら殺されても文句無しな」
壊れかけたミスリルダガーでエグザの右腕を斬り落とす。
「あっ、あっ、あっーーーー!!!』
「エグザ、きちんと説明しろ。俺を殺す依頼でもあったか?」
「う、腕がわたしの腕がっ!!」
頬をペシっと叩き、そのまま顎を軽く上げてこちらを向かせる。さきほどまでキレイな顔が涙と鼻水でグチャグチャになっている。
「わたし、冒険者ランクAなの!!それで魔族の冒険者がアイルランダーで調子に乗ってるって聞いて」
エグザの話では、他の依頼でアイルランダーの冒険者ギルドに寄ったところ、魔族の冒険者が調子に乗っているとの話を聞く。模擬戦相手も困る程度に強く、朝の鍛錬をしていたら『型』として確認した相手が話題の魔族の冒険者だった。武器破壊も殺傷能力のある攻撃も戦闘になると見境がなくなる性格からだった。
「おい、そっち持て。真っ直ぐしないとまた斬るハメになるぞ。『ヒール』」
右肩の軽装鎧は壊れたまま(当たり前)だが、きちんと白肌の右腕は繋がれる。ただ命令を従って失った右腕を持っていたエグザは美人が台無しな顔をしている。
「へ?えっ?えぇぇ!」
右手をグーパー・グーパーしている。
「おかしなところあるか?」
「ゲイン」
「俺じゃなくて、右腕の話だ!!!」
エグザは右肩に手を当てながらグルグルと腕を回す。やっと落ち着いたのか、ゆっくりと立ち上がりズボンの埃を払い、こちらにエグザが振り向く。
「ゲイン、好き♪」
昨晩、ポルテ会長が眉間に手を当てていた気持ちを知った。




