第45話 氷像祭り その4
「それでは氷像祭りの優秀者3名の発表を行う」
ポルテ会長は悠然と壇上からマイクっぽい魔道具を使い街中に音声を流す。
「3名は名を呼ばれたら後、案内人とともに壇上へ上がるように」
閉会式はポルテ商会前ではなく、中央広場みたいなところで開催となった。アイルランダーにこんな広場があったことに驚いく。まだまだ見てない名店とかあるのかもしれない。もう少し街中に興味を置いてもいいかもしれない。設定された壇上の前には参加者60名が敷き詰めあい、その周りを観衆は息を呑んで見守っている。中には賭けをしたためか、手を組み祈りを捧げている人までいる。
「それでは発表する。・・・・・・・・・・・・1位!!!の前にごめん、ごめん!!」
皆ががっくりとコケそうになるのを俺は幻視する。この世界でもそれがあるのかとちょっと感心さえした。
「11位から4位までを先に発表を行う」
取り直し、ポルテ会長は話をするものの、上位3名だけが包丁をもらえると思っていた参加者と観衆の反応は薄い。
「言い忘れてたが3本以外にもミスリル包丁が8本ほど用意した。それを賞品として贈呈させていただく」
しっかりと聞き取った参加者から歓声があがる。急に確率があがったから元気になったヤツまで出ている。現金なものである。
「それでは11位〜4位までの発表を行う。11位ーーーー」
参加者、観衆ともに拍手や歓声で受賞者を称える。受賞者のなかには3位以内を真剣に狙っていたのか、悔しがっているものまでいた。賭けで外したことが分かった観衆は預かり札を空へ投げている。歓声とともに盛大に舞う札は花不引きのように場の盛り上げに一役かっている。
「では、いよいよ3位の発表だ。第3位 エド!!!職業:ポルテ商会料理人見習い」
「えぇ〜〜!!俺っ、俺っすか!!?」
場違いの叫び声をあげるエドに案内人がゆっくりと近づいていく。エドは腰が抜けたのか、情けない立ち姿で案内人に誘導され壇上へと上がっていく。
「エド、実力とアイディアの勝利だ。おめでとう」
「あっ、ありがとうございます」
エドの発言とともに壇上に氷像が突然現れる。その演出に参加者はもちろん観衆もテンションを驚き、声を上げる。壇上のエドに至ってはビックリしすぎてポルテ会長の差し出した手を握れずにいる。
「はよう握手せよ!」
「はいっ!!!」
エドのその返事が一斉に中央広場に響き、皆、笑顔になる。エド、ほんっっとキャラ勝ちなんだけれど、氷像の作品は『上空からみたアイルランダー』だった。どれだけこの街が好きで把握しているのかが分かる、荒削りだが力作だった。
「続いて2位、1位もだな」
会長、なんか面倒臭くなってないか?司会だぞ。
「2位 イヴォーグ!!職業:イヴォーグ防具店、続けて1位、つまり優勝者は・・・ギブリ!!!職業:武器屋ギブリ」
2位のイヴォーグと呼ばれた人がスッと立ち上がる。きれいな青みがかったシルバーの髪、後ろ姿しか見えないが、一纏めにした髪の間から尖った長い耳が出ている。多分、エルフだと思うが初めて見た。美男なのは間違い無いだろう、イケメンオーラが出ている。
一方、我ら(?)がギブリはブーイング三昧である。めちゃくちゃガヤ芸人集団に絡まれている。すでにイヴォーグは壇上についているのに、ギブリはまだ参加者集団から出ていない。ポルテ会長とイヴォーグのギブリを見る視線が冷たすぎて俺のツボを刺激する。
「はよ来んか!!ギブリよ!!」
「文句はこいつらに言え!!!!」
マイクも使っていないのにギブリの声がポルテ会長の怒鳴り声と同じレベルだった。さすがにやり過ぎたと認識したのか、参加者はギブリの怒鳴り声でピタリと止んだ。すばらしい連帯感だ、同志達よ。
イヴォーグ、ギブリの作品がともに壇上に現れる。1位のギブリを挟んで左右にエド、イヴォーグが立つ。
壇上に飾られた氷像はどれも力作で夕暮れどきの広場でキラキラと輝いている。イヴォーグのドラゴンの彫刻も第迫力で見事だが、ギブリのネーリスさんの氷像は艶かしく、いつ動いてもおかしくないレベルだ。
壇上で中央前まで進んだポルテ会長が発言する。
「今回、初の氷像祭りが開催された。いろいろと不手際もあったが、皆のおかげで盛り上がれたことに感謝をしたい。これほど盛り上がってくれた街を私は心から誇りに思う。特に参加者には感謝の念を禁じ得ない。どうかいまいちど表彰者とすべての参加者へ盛大な拍手を送っていただきたい!!!!」
ポルテ会長のスピーチに歓声が中央広場を満たす。「ポルテ、ポルテ、ポルテ」とコールが聞こえ始めると、いっきに広がり広場全体がうねっているかのようだ。
「皆、ありがとう!!!それでは1位のギブリの挨拶で締めたい。ギブリよ、前へ」
ゆっくりと壇上のポルテ会長へ近づくギブリ。歓声はさらにボルテージをあげてポルテ・コールからギブリ・コールへと切り替わる。それをギブリがひとしきり聴いたところで、広げた右手を上げて皆を抑制する。参加者や観衆、全員がギブリの一挙手一投足に注目し、何を言うのかと固唾を呑んで見守っている。
右手を下ろすことなく、ギブリは話し始めた。
「だははははは!!!この右手を掴んでくれたんだよーーー、超柔らかいの!!!」
「死ねっ、死ね、死ねぇええええ!!!!!」
「リア充滅、リア充消えろ、リア充消されろ!!!」
「バカドワーフが調子のってんじゃねぇ!!」
「閉店しろ、いますぐ街からいなくなれぇえええ!!」
一気に罵声がそこら中を高速で反復横跳びし、中央広場にいる男性陣だけ阿鼻叫喚である。それを観ていた女性陣がうふふと笑っている人たちもいれば、パートナーなのか鬼のように凍った表情の方もいる。『ヲイ、全員、今横にいる人の顔を確認しろ』と言いたい。同志達の無事を祈るばかりである。
「さて・・・と。『ウィンド・ホール』」
俺は静かに風魔法で小さな竜巻を作る。竜巻の中は賭けで外れた札が洗濯機の中の汚物のように回っている。ただし、速度は超速で衣類ならバラバラになっているだろう。
「いつまでもニヤニヤしてんじゃねぇ!!!!」
「ゲイン、いげ、いげぇえええええ!!」
すでに同志は喉を潰した(潰された?)らしくダミ声で俺を後押しする。
ギブリにいくつもの小さな『ウィンド・ホール』が襲いかかる。一見すると風の中に札が舞い、紙吹雪のようにみえるが実際は結構なジャイロ回転で当たるとギブリがヨロケる程度の威力はある。
「ぬぉおおぉおぉ!!!」
ギブリが不自然な風の球に気がついたらしく、両拳でそれらを弾き飛ばす。だが2本の腕で叩き落とせるような数ではない。生ぬるい数では無いのだよ!!!あははははは!!!
「ぬぐう、ぉぉおおおおお!!!」
ギブリの腕が全開で動いている様はどこぞの百烈拳である。
その後、ギブリが根をあげて中空に飛ばされたところを確認し、ポルテ会長が「これにて終了!!!」と氷像祭りをきっちりと締めた。




