第41話 自分の想いと周りの思い
「主、集落の名を付けるべきかと」
「えぇ〜、もう名付けばっかりして疲れたよ。候補ない?」
流石に適当な名前を付けるわけにもいかず、目の前の20人弱に一人一人真剣につけた(『ソウベエ』はヒラメキで付けた)。
「『主と愉快なアントたち』はいかがでしょう?」
「却下」
「『ゲイン様、万歳村』はどうでしょう?」
「0点」
ダメだ、こいつら・・・。参謀になるようなタイプの従馬が欲しいと本気で感じる。さっき名付けした中で、サキュバスとロウ・デーモンになった二人を呼ぶ。
「スピカ、サイダ、なんかいい案ない?」
「ゲイン様がお付けになるなら誰も文句は言いません」
「俺もそう思います」
スピカの意見にサイダが同意を重ねる。う〜ん、なんかアントが怪しい。『余計なこと言うなよ』感が出ている気がする。背後に立つアントに振り向くとなぜか目を合わせない。ソウベエも腕を組んでいるがソワソワしている。
「わかった。集落の名前は俺が付ける。ただ、いい名前が思い浮かんでからにする」
集落全員に名前をつけ、簡易の家を土魔法で作っていると陽も傾いてきている。ミスリル鉱石をそこら辺にあったバッグにパンパンに詰めてもらったのを肩に下げる。
「それじゃぁ、アントは影の支配者。ソウベエは表だった統治者で頼むね」
「我、無事に暗躍する」
「ゲイン様、影武者として存分にお使いください」
物騒な話しだが、他の魔族が集落を襲ってくる可能性は否定できない(むしろ高い)。その場合、ソウベエに指揮を任せ、アントは俺への伝達と最悪の場合アブリュート家の繋ぎをお願いしている。名付けした20名弱も魔族として進化したため、そこそこ強いと思う。多分、冒険者ランクでBはいくと思う。
「ん?Bランク魔族20名弱の集落って・・・人族的に不味いかな?」
俺の平穏な狩猟生活の夢は見事に砕かれるわけで。村長とかしたく無いのだが名付けをした以上、ある程度は責任も発生するだろう。ちなみに名付けても集落を離れる魔族はいなかった。不思議である。
あとは集落の生活の流れさえ作ってしまえば、ソウベエに引継ぎ、俺は隠遁生活がしたい。相談役みたいな立ち位置が理想である。
◇◇◇◇◇◇◇
アイルランダーの南門についたのは日が暮れ始めてた頃だった。
「珍しく遅いお帰りだな」
いつもの感じの良い門兵が俺に話しかけてくる。今日はツンケンした相方はいないようだ。
「西の森の奥の方へ行ってたので遅くなりました」
「そうか。命は大事にしろよ。俺が言うのもなんだがな」
門兵は俺へ一声をかけると俺の後ろに並んでいた人へ話しかける。この門兵がいるならアイルランダーも平和だろう。賑やかなメインストリートへ歩いて行くと、いつもの肉串のおばちゃんに話しかけられる。
「明日、楽しみにしてるからね!!」
「えっ、なんのこと?」
俺が首を傾げるとおばちゃんも同じく首を笑顔で傾げる。いや、そうじゃなくて、意味を教えてくれよ!!
「だって、氷像祭りの主催者なんだろ?」
「はぁぁぁ!?なんだよ、それ!!」
「ポルテ商会前で売り子さんたちが宣伝してたよ。あのミスリル包丁、すっごいね!!」
オイオイオイオイ、ヲイ!!!ポルテェェェェ!!!
おばさんに別れの言葉を告げ、ダッシュでポルテ商会へ向かう。そこらに砂塵が待っていたが風が通ったと思うだろう。スピード制限標識もなく、違反では無い。騒ぎになるかどうかは別の話だが。
ポルテ商会の目の前は夕食時なのに混雑していた。男女問わず、それぞれ騒めいており中には「あのミスリル包丁、私も買いたいわぁ」と少なくとも見せ物的に展示していることが分かる。
なんとか人混みをかき分けると3本の包丁がガラスケースらしき物に鎮座していた。しかもそれを護衛A,Bが重要物件のように見守っている。豪華商品を展示してます。ドドーンって、ねぇ、バカなの?ポルテ、バカなの!?
騒ぐ集団から離れ、商会へ入る。
「すいません、ゲインです。ポルテ会長をお呼びください」
「すいません。会長は明日まで『いないいない病』でおりません」
先日、俺のせいでティーカップを落とした女性に話しかけると即答で断られた。ニコッと笑った笑顔がやたら可愛い。いらん。いまはいらんのだよ!!!!
「ごめん、めんどくさい。包丁返せ」
「ゲイン様、ほんとうに申し訳ありませんが、それは出来かねます。あと、私と夕食へ行ってください」
俺はガチでウィンクしてくる女性を初めて見た。あまりの衝撃に固まる。石化魔法か?
「あのさ、ポルテ会長に」
「ゲイン様、明日、きちんと会長から説明をさせます。それまでご容赦ください。詳細は夕食時にご説明します。どうか夕食へ一緒に行ってください」
言い切ると女性はきれいなお辞儀を俺にする。・・・ダメだ、完敗です。
「それじゃぁ、お店を決めてください。俺がご馳走します」
「やっった!!」
小さく嬉しそうな声を上げた受付嬢。それを自覚したのか、少しだけ恥ずかしそうにしてる。なんやこの可愛らしい生物。おっさん、なんでもおごったるぞ。
◇◇◇◇◇◇◇
案内されたレストランは異世界初の本格料理のお店だった。ドレスコードもあるようだが、ポルテ商会で用意された黒パンツと白いドレスシャツは勿論問題はない。どちらかというと準備周到なポルテ商会に問題と文句があるだけだ。
「それでどうしたの?」
「もう少しお料理と会話を楽しみません?ほらゲイン様がお好きなお魚料理ですよ」
メインの料理が綺麗な盛り付けで静かにテーブルに置かれる。すべてテーブルは適切な距離があけられており、人の声をはっきり聞くことは難しい。それでも周りの人たちが料理をすごく楽しんでいるのは空気で伝わるものだ。
それにしても最初にティーセットを落としたメイドに見えない。あれほど怯えていたのに別人だと言われた方が納得はいくくらいだ。
「別人ってことないですよね?」
「私がですか?違います、あのときは驚きましたけれどね」
フォークを口に運ぶと大きい目が細くなり口角がキュッとあがる。「んんっ!!」と声にならない心の叫びが漏れている。確かに美味しい・・・次は料理を楽しめる心の余裕があるときに絶対に来よう。
「美味しい料理どころでは無いってことですね。ご説明します」
ポルテ会長は始めは予定通り中庭で氷像作りを競わせようと考えていたのだが、誰かがゲストの方も来るし、『豆打ち』終わって時間も経ったから商会前の通りでやれば?と提案したそうだ。それを聞いたポルテ会長は、ミスリル包丁3本の展示場を作るよう指示し、氷像祭りの参加費を徴収し始めたとのこと。あぁ、出れるんだね、一般の方々が。
「ただ、さすがに人数が多くなると勝負にならないと制限を設定していたのですが、商会連中がこぞって面白そうだとノリ気になったが最後・・・」
そう言ってゲンナリ顔をするネーリスさん。表情がコロコロと変わり、一緒に食事をしていて楽しい方だ。
「そっか。それでポルテ会長は?」
「料理人と使用人、商会連中に『明日まで探すな、運営はしっかりとミーティングせよ』と手紙を残して消えました」
「あの人、ほんっっっといろいろ大丈夫なの?」
「『ゲイン様には誠意を込めて対応しろ』と残されてました」
いま厨房スタッフの前に立ったらポルテのクリームシチューの材料にされるだろう。アホだなぁ、というかポルテ会長のことを考えると、簡単に厨房スタッフの怒りを買うような行動をするとは思えない。・・・あまり考えても仕方がないか。
俺は目の前のイケジョとウマ飯を食べる事に専念した。
「うわぁっ!!このデザート、ウマッッ!!!」
どっかで聞いたことのある言葉を発していた。




