第40話 平和な集落運営
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「主、長身ノッポの野郎とは気が合いそうにありません」
「ソウベエと言う。筆頭従者を拝命して」
「してない。全くしてない」
アントを迎え行き、集落の入り口でソウベエの所に連れてくると口喧嘩ばかりする。筆頭従者って、こんなに拗れるのものなのか?
「シルク、統治者って誰でも良いの?」
「誰でもってことは無いけれど・・・」
「フラッドのときは?」
フラッドはバンパイアの眷属だけあり、お約束というか集落は吸血用と襲撃対策用に確保していた人員だった。シルクは名持ちであっただけあり、集落では頭1つ実力が抜けているようで、他の集落の人々は一騎討ちなら勝てないとのこと。
「じゃぁ、ブリック家については?」
「それは・・・その上納先、みたいな?」
シルクはとても歯切れ悪く答える。それを見かねた鬼人が代わりに答えてくれたが、近くの山からミスリル鉱石が取れるとのこと。フラッドはそのミスリル鉱石をブリック家へ供給していたらしい。
「どう考えても不味いでしょ。ブリック家の規模も分からんのにケンカ売ったようなものだ」
「主、間違い無くケンカ売ってると思う」
「ゲイン様、ここを始めに魔族領の覇者となりましょうぞ」
アホな従魔の言葉は無視する。素朴な疑問として上納品として渡せるほどミスリルが採れるのか?今在庫があるか?とさっきの鬼人に確認したところ集落の中へと案内される。行く途中途中で集落の人々の視線を感じる。
「しっかし、女性の外見にあれこれ言うのはおこがましいが、キレイどころばかりだ。男性陣は明らかに肉弾戦闘系が多いな」
完璧に用途別という考え方が見てとれる。
「すべてゲイン様の集落お好きにされてよろしいかと」
もうソウベエの言葉はずっと無視してていい気がしてきたが、ただそのまま行動されるのは無視できない。
「あのなぁ、ソウベエ。お前のその考え方は修正しろ。少なくとも共存共栄が俺の理想だ」
魔族に共存共栄を求めること自体が無理かもしれないが略奪側ヒャッハー集団とか率いたくは無い。
「申し訳ありません。改めます」
「だから貴様では筆頭従魔を名乗ることなど許されないのだ」
アントがマウント取りに来ている。おまえらガチで仲が悪すぎるだろう。アントがここまでムキになるのは食事のときしかなかったのだが・・・。
「あれ、アントデカくなってる?」
「いま、それを言いますか?」
アントは口をアングリと開け歩を止める。うん、自分のサイズが大きくなったため、相対的にアントのデカさに違和感を感じなかったが、アブリュート家の可愛らしいアントとは大違いである。角の形状も色艶も品が溢れている。食いしん坊のアントが懐かしいほどに。
「そういう主もすでに格が違います」
「ゴブリン・キングになったんだよね」
「なれるものなんですか?」
アントの質問には答えず、集落を進むと他の建物とは明らかに違う大きめの家に案内される。他の家は藁作りで明らかに風通しが良さそうだが、きちんとした家がここだけある。フラッドはちびっ子で、手にかけたことが心のわだかまりとして残ると思ってが現状を知れば知るほど軽くなる。
「こちらでございます」
「うへ〜」
奥の部屋に案内されるとミスリル鉱石がゴロゴロと大小構わず置かれている。俺のダガー何本造れるか考えるだけ無駄な量である。
「これってミスリルの価格相場崩しそうだな」
「主、この量はアブリュート家にも無い」
「おぉ!!そうだ。アント、アブリュート家に集落統治してもらえばいいんじゃね?」
ミスリルも採掘できるし、アブリュート家にもメリットはあるだろう。アンさんがすぐ来るぐらいだし、集落の管理くらいできるだろう。
「それは無理ですね、主」
アントが速攻で俺の希望をぶった切りる。俺が目で続きを促すと長いため息を吐いた後、アントが口を開く。
「統治者を倒したのが主だからです。アブリュート家に属しているならともかく、親交がある程度です。集落の放置は魔族にとって三大禁忌事項です」
ナニソレ、シリタクモナイ。
「んじゃぁ、譲る方法は・・・もしかして俺DEAD?」
「主の死か、主がどこかの統治者に属することですね。ちなみに属した場合は、そこの統治者の命令に逆らうことは難しいです。逆らうと大体が戦闘になります。念のため」
口からゴッツイ犬歯をアントが出して言葉を締める。なんだろう、ムカつくから殴りたい。無性にアントの横っ面を殴り、その少し伸びた髭をモシャモシャ触った後、引き抜いてやりたい。
「主、申し訳ありません。ですが、事実です」
そうだよな。八つ当たりするわけにはいかない。従者に八つ当たりなんてする魔族にはなりたくない。
「とりあえず、ソウベエ、この集落に名無しは何人いる?」
◇◇◇◇◇◇◇
集落の中央広場にこの集落で暮らす全員を集める。皆、着る物もボロく、靴に至っては殆どが履いていない。集落には子どもはおらず、これまでの事情を察するところだ。
「で、皆には説明した通り、俺が名付けをして良いなら付けてやる」
ソウベエに確認したところ、フラッドは住民に名付けが出来なかったらしく、シルクを除く全員が「名無し」であった。名無しでも言葉を操れ、ソウベエ(リザードマン)は命令を理解して敵(今回は俺)と戦闘する。かなり有望だと思う。
「ゲイン様はそれほど名付けして問題はないのですか?」
「アホノッポ、覚えておけ。主は規格外なのだ」
ソウベエとアントがまた訳のわからない会話をしているのが遠くで聞こえた。しかし、俺以外と話すとき、アントの口が酷すぎる。
「ゲイン様に名付けを所望する者たちは跪け」
列を整えるソウベエも問題がある・・・。
神様、どうか俺に加護を。ゴブリン以外の加護をください。
そうして20名弱の名付けが終わる。結局、全員が名付けを希望し、名付けとともに体が瞬時に変化していく。その様はマッドサイエンティストもびっくりな構造変換である。
「いいなぁ、私もゲインに名付けしてもらいたかった」
シルクがボソッと声を漏らした。シルクという名前はなかなか素敵だし、体全体は藍色なのに耳先だけ白い様は名前と合っていると思う。
「シルク、おまえの名付けをしたのは誰だ?」
「・・・忘れたにゃ」
「・・・そうゴブカ」
お互いにその後笑い転げた。知らないことで平和を保てることなどいくらでもある。すべてがオープンな世界が正しいとは俺は思えない。




