第39話 魔族領の忘れもの
ゲインは冒険者ギルドでの甘味の約束をすっかり忘れていた。
そのままトンズラして魔の森の奥へ行くと集落を発見。
集落の門番がケットシーでネコ耳相手に喧嘩を売るかたちになり、戦闘が始まる。
ケットシーに勝ち、その後、もう1人の門番であるリザードマンと勝負となるが同じく余裕で勝つ。
2人に回復をかけようとしたところ、リザードマンが集落のちびっ子に殺されかけたところをゲインが『名付け』で助けようとする。
8/13 誤記訂正しました。
「おまえの名前は『ソウベエ』だ」
すぐにリザードマンの身体が分厚くなり、髪が生え、額とコメカミからは角が伸びている。グレイがかった体表は、すべてキレイなシルバーへと変容し、鱗もきめ細かく骨格も人族に近い姿になった。
「・・・ゲイン様、名をありがとうございます」
横たわっていたソウベエが片膝を地面につけ、俺に頭を下げる。槍が刺さっていた場所はすでに塞がっていて分からない。
「良かったなぁ。ソウベエ、これから・・・これから、どうしようか?」
なにも考えてなかった。いや余裕なんて無かった。必死で『名付け』による魔力供給ができれば救える可能性があると思っただけだ。
「ゲイン様の従魔として、命のかぎ」
「重い!!重い!!そういうのイヤだなぁ」
頭をボリボリ掻いていたらジッとこちらを見つめる視線に合う。あぁ・・・そうでしたね。
「ソウベエ、ちょっと終わってからにしよう」
「ゲイン様、私が参ります」
ゆっくりと立ち上がったソウベエが俺と小さな子の間に立ち塞がる。ちょっ、俺よりも身長高いし手足長い!?ヤッバッ、190cmあるんじゃね?しかも無駄にイケメンに仕上がっている。
「名が付いたくらいで偉そうに」
「ソウベエだ。参る」
ソウベエが名乗りを上げる。小さな子がため息をついた瞬間、二人の身体が動き出す。元々リザードマンが持っていた槍は小さな子の倍くらいの長さがある。すぐにソウベエへ投函するも簡単に蹴り返して槍の軌道を変える。
「さっきより異様に動きが良いな」
ソウベエがリザードマンだった時とは段違いの動きだ。名付けによるパワーアップ効果ってそんなにあるものなのだろうか?
「ゲインつったか?あいつ、何であんなに強くなってるんだ?」
「シルバー系長髪長身イケメンの主人公クラスだからじゃない?」
「何言ってるのか分からんが、おまえも分かってないのか・・・」
呆れ顔で横に来たシルクに睨まれる。そして、正解だ。俺にはさっぱり分からない。なんでもお見通しなんて地球にいるちびっ子探偵くらいだろう。少なくとも俺になにか聞いても異世界歴5ヶ月未満ですけど何か?
肉と肉がぶつかる鈍い音が森の中で不規則に響く。肉弾戦では明らかにソウベエがちびっ子を圧倒している。ちびっ子はそれに気がついており、表情に苛立ちが目立ち始める。
「くそぉ、おまえなんて名前も付けなかったのに!!」
「・・・ゲイン様に頂いたソウベエという名がありますから」
聴力全開で二人の会話を聞くと違和感を覚える。
『アナライズ』
って、あぁ、ごめん。こっちに気を取られたのかソウベエに顔面を殴られ地面と友達になる。
アナライズ結果が興味深い内容だった。
名前:フラッド
性別:男
種族:下級ヴァンパイヤ
職業:ブリック家の眷属
適性:吸血、魅了、水魔法適性、無属性魔法、闇魔法適性、体術適性、
スキル:吸血魔法Lv 2、魅了魔法Lv1、闇魔法Lv1、魔力操作Lv 1、体術Lv 2、気配察知Lv 3、隠密Lv 3
特技:分散
ヴァンパイヤだった。下級だけれど本物のモノホンのヴァンパイヤだ。憧れ・・・なんか微妙なヴァンパイヤ ・・・もっとテンション上がると思っていたが、実際に遭遇すると冷静な感じで「あぁ、いますね」という気持ちになる。
これは俺が好きだったアイドルの握手会で見た時と同じだ。
「つまり、憧れは頭の中でこそ光り輝き、現実はまた別物、ということか」
「ん??何の話をしてるの?」
もう目の前の勝敗はすでについている。ソウベエの圧勝である。相手は魔法を使わなかったことが気がかりではあるが・・・。
「ゲイン様、トドメを差しますか?」
「う〜ん、下級ヴァンパイヤなんだよね、しかもブリック家の眷属って。知ってる?」
「いえ、この集落の統治者と認識してましたがブリック家の眷属とは知りませんでした」
うん?この集落の統治者ってことは、アブリュート家の当主と同じってこと?どちらかと言うと規模を考えるとゴブリン・キングのダガッツのようなものか。
「シルク、ブリック家って何してるの?」
「はぁ?てめぇ、ブリック家に喧嘩売りに来たんじゃねぇのかよ」
違うだろ。俺はケットシーらしき君に語尾に「にゃぁ」付けないのか疑問があっただけで、それでゲキオコになった君が俺に喧嘩を売ってきたのが事実だろ。
「あははは。ゲイン、すまん。私から喧嘩を売ったんだった」
シルクをガン見していたら大人しく事実確認が取れた。俺にはアリバイがあり動機も無い。これで容疑者からは外れてちびっこ探偵も迷宮入りである。
「で、ブリック家について教えてくれ」
シルクが俺の言葉に固まったかと思うと、急に俺に向かって殴りかかってくる。目は正気じゃなく、意識が朦朧としているのか呼び声に反応もない。
魔力探知を深く使うとフラッドが魔法を使っているのが分かった。
「すぐに解除しろ。さもなくば殺す。5・・・4・・3」
「待て!!分かったからちょっと」
「2・・・1」
「クソったれ!!!!」
集落の人が一斉に俺とソウベエを囲んで襲いかかってきた。
「0・・・。」
フラッドの首をミスリルダガーで斬り落とす。すぐさま、極小範囲で魔法を唱える。
「『フレア・ボム』」
業火が噴き出し、フラッドの体を灰も残さず消し去る。ヴァンパイヤ退治の方法など知らないため、徹底的にチリも残さない措置を取る。これで復活されたら仕方がないだろう・・・しないよな?
取り囲み襲ってきた面々は魅了が解けたのか地面に伏している。もう操られていないよな?
あれ?震えている人もいるな。
「あの怒ってないですから皆さん顔をあげてください」
「「「はっ、はいぃ!!」」」
返事をした3名は問題なく顔をあげる。その様子が分かったのか、続けて少しずつ顔があがる。皆、困惑と恐怖をミキサーで痛めつけた顔をしている。
「まず、ここの統治者はなりゆきで倒したけど、俺は統治する気はない」
「なのでソウベエが此処にいるので困ったら相談するように。ソウベエ、皆を束ねて平和に暮らしてくれ」
「はっ!!!」
返事いいな、おい。俺なら丸投げされてるんだから絶対に引き受けないぞ。
「ゲイン様が戻るまで、私がこの集落を守り、発展させます」
「違う。0点です」
0点の意味すら通じなかったので、今後、ソウベエが統治者として中心となり集落を守っていくことを伝える。銀髪ロングのイケメンが首を斜めにしたときは純粋に腹が立つも、ソウベエが真面目すぎて引いてしまう。
「それでは私がゲイン様の筆頭従魔として集落を統治します」
「うん・・・もうそれでいいや」
「お待を。主、筆頭従魔は我なはず」
声の方を振り返ると少し離れた岩場に青と赤のツノを持つジャイアント・ディアが佇んでいた。
「アント!!!!」
考えるよりも先にアントへ向けて駆けていた。




