第38話 冒険者ギルドの忘れ物
誤字指摘ありがとうございます!!
今回、グロ表現があります。
苦手な方はスキップしてください。
次話にあらすじ書きます。
明日が氷像勝負の日なので冒険者ギルドに寄り、手ごろな依頼がないか掲示板で確認する。
「ゲインさん、ちょっと忘れていることない?」
受付カウンターで誰かを呼ぶ声がした。受付嬢も忙しい仕事である。早く相手が見つかると良い。
「ちょっと、ゲインさん!!聞こえてるでしょ?」
俺は手早く常設の依頼を確認し、西の森へと訓練のためランニングをする。
◇◇◇◇◇◇◇
「いやぁ〜、すっかり忘れてた。鍛冶に夢中になり過ぎたかも」
すでに冒険者パーティーが何組かグリーン・オーク狩りをしている。台車を引く手伝い要員も汗を流して働いている。皆、命がけなので無駄に手を抜く奴はいない。まぁ、手を抜く奴がいたら報酬を引かれるか、パーティーのメンバーから抜けさせられるのだから相互に監視が行き届いているとも言える。
俺はこないだ戦った場所より、更に西へと向かっていった。なんとなく感覚的にだが、この世界で最初に覚醒した場所に近い気がしていた。つまり、『名付け』を教えてくれた話す樹がいたところだ。
すでに森は陽を遮り、昼間なのに薄暗く感じる程度に茂っている。魔素濃度も上がっているだろう、妙にしっくりする感覚がある。魔族ってこういうとき便利だ。魔素は魔法を使うものにとって基本となるエネルギーで、俺の感覚では酸素みたいなイメージだ。助燃性があって、濃度が濃くなると毒になるのも一緒・・・みたいな。
結構なスピードで西へ向かっていると索敵で判明した集落が見えてくる。
「おい、貴様止まれ!!!」
ある程度集落に近づいてきたところで、きちんとした服を着るリザードマンに呼び止められる。ここからはゆっくり行動しないと即敵対行動と思われる。俺は両手に武器がない事を示すため、両手をゆっくりと上に上げる。
「突然来てすまない。俺はゲインだ。敵意はない。」
名乗った俺に槍の先を向けたまま、リザードマンは憮然としている。横にいる猫耳の門兵(ケットシーか?)が興味深そうに俺の格好を見ている。
「ゲイン、おまえはなぜ此処に来た?」
語尾に『にゃん』とか付かないのかよ!!
「アイルランダーで冒険者をしてるにゃん」
「おっ、おまえ、殺されたいのか?」
「ちょっ、違う。予想と違ったから動揺して、つい」
「おまえだって語尾に『ゴブ』付けねぇだろうが!!!」
「ごめんゴブ」
「うるせぇ!!!」
俺の言葉にブチ切れ、指をバキバキと鳴らしながらケットシー(仮)がこちらに近づいてくる。俺の気のせいか、ケットシーが俺に近づいてくる度に身体のサイズが肥大していく。えっ・・・ちょっ、嘘だろ?
目の前に2m超えのケットシー(仮)がゴリマッチョ姿で立っている。
「あぁ・・・私の名前はシルクだ。いくぞ」
いい終わる刹那、すでにフライパンサイズの握り拳が目の間にある。俺は身体強化を使いながら後ろに飛ぶ。想像以上の圧力と魔力が乗せられた拳に吹き飛ばされる。
吹き飛んでいる最中、ケットシーがすぐに地面を蹴り砂塵を巻き上げる。どこぞの戦闘民族のように俺の着地地点で構えていたが、風魔法と水魔法で踏みとどまる。
「あの・・・ごめん。悪気は無かったんだ」
「おまえも魔族なら拳で語れ」
いや、魔族って全員肉弾戦派じゃないから!!どちらかっていうと俺は姑息な罠とかしかけて勝つタイプだ。ただ、シルクの言葉は妙に俺に刺さる。チャームとか持ってるのだろうか。あの猫耳がけしからん。
「おまえ、いま邪なこと考えてるだろ!!」
右ストレートを受け流し、右肩に俺のハイキックを当てる。ゴブリン・キングの膂力は以前と比較にならない。身長も伸びており以前なら届かない蹴りも余裕で届く。
蹴りの勢いを消せず、林へ突っ込んだシルクへこちらから間合いを消しに行く。近づく俺に片膝をついた状態から左アッパーをシルクが放つ。うまくステップでシルクの右側に回り込むが、上空にあった樹が折れ降ってきたため、バックステップで間合いを取る。
シルクが肩で呼吸している。
「もう右肩あがらんだろ。やめとけ」
「まだ終わってねぇ」
シルクの目は死んでいない。門兵のリザードマンに目で訴えかけると、ゆっくりと頷き俺に答える。
「シルクにトドメをさせ」
「はぁ!?バカなんじゃねぇの?」
「お前はシルクに喧嘩を売った。それをシルクは受けた。それだけだ」
お前らと俺の価値観は違う。1回戦って命を落とすなら俺はいままで何回死んでいたか分からない。
「シルクは休んどけ。次はそこのトカゲ野郎だ」
俺はぶらっと集落を見せて欲しかっただけなのに戦闘が始まる。ただいつもは避けていた戦闘だが、リザードマンだけは許せない。シルクにトドメをさせなど、それでも魔族か。
槍の間合いに入るとリザードマンが3連突きを放ってきた。槍の軌道や速度がナスカよりも遅く、3回目の突きを槍の横から手で握る。
「イデッ!!!」
すぐに手を引くと何箇所も切り傷ができていた。『キュア』『ヒール』を即座に唱える。
「油断はあれど対応に無駄はない」
縦長の線が入った金の瞳がこちらを捉えている。てめぇ、わざとゆっくり3連突きしたな。毒までご丁寧に塗りやがって。
「魔族なら拳で語らないのか?」
「脳筋とは違うからな」
俺の言葉に初めてリザードマンが表情を崩す。友好的な表情じゃないのは残念だが、少しは人間味が感じられる。
「ところでお前、名乗らないのか?」
「まだ名は無いからな!!」
ソウセキさんと叫びそうになる気持ちを堪え、苛立ったのか単調になった突きをサイドステップで躱す。申し訳ないことに、相手のゲキオコボタンを押したらしい。
シルクと同じようにリザードマンの右肩にハイキックをかます。シルクよりも低い側頭部も狙えたが殺す気は無い。動きについてこれなかったのか、リザードマンの肩が粉砕した感触が伝わる。
何本か細い樹を倒し、藪のところでリザードマンは止まった。敗れた服からお腹が出ていたが、表側はマットグレイだったのに艶のある白だった。綺麗なグラディエーションとツートンカラーだ。
「おしっ!!模擬戦ありがとうございました」
俺は声を張り礼をする。集落の門近くで戦闘を見ていた住民たちが安堵の表情を浮かべる。小さい子が俺に向かってかけてきた。
「お兄ちゃん、強いねぇ。シルク姉ちゃんぶっ飛ばされるの初めて見たよ」
「そう!!お兄ちゃんは強いのです。でも、もっと強いヤツはいーーーーっぱいいるから模擬戦してるの」
「そっかぁー。僕も兄ちゃんみたいに強くなれるかなぁ」
「ごめん、シルクとリザードマンに回復魔法かけるから待っててくれ」
会話を続けたそうにしていたが、相手が怪我しているのにのんびりと話していられない。俺はいつも逆側(ナスカへの生贄)だった。少しだけ相手を回復するくらいの強さを手に入れたことに喜びを感じる。
「シルク、頼むから治っても襲うなよ。『ヒール』」
柔らかい青白い光がシルクの右肩を中心に包まれる。いくらか明滅を繰り返し、しずかに消えていった。シルクは肩の痛みが引き、違和感があるのかグルグルと右腕を回している。
「どうした治ってないのか?」
「いや・・・そうでは無い。・・・すまん、ありがとう」
シルクが素直に頭を下げて礼を言う。俺はそれを受け入れ、リザードマンの方へと振り返る。
リザードマンが槍で貫かれていた。小さな子がケラケラと笑顔を浮かべ、片手で持った槍を伝う血に体を幸せそうに染めている。お、お、お、おい!!!!!!
「なにしてんだ、てめぇ!!!」
「えぇー?ゲインこそどうしたのぉ」
槍を振り、刺さっていたリザードマンがこちらに飛んでくる。『ウォーター・ボール』で即席クッションを作り、やさしく受け止める。
「もう負けたんだよぉ」
無邪気な声に寒気を感じさせる温度がある。
「模擬戦だ。もっと強くなれる」
「無駄無駄無駄、そんなの名無しには無理だよ」
リザードマンに『キュア』『リカバ』をそれぞれ唱える。
「『ヒール』」
詠唱し魔力を込めた光がリザードマンの体を包む。
来い、
来い、
来いぃ!!!!
一瞬、ビクンと動いたように見えた。
「お前の名は『ソウベエ』だ」




