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ゴブから始まるヴァンパイヤロード  作者: とかじぶんた
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第34話 物見遊山

ブクマありがとうございます。

どんな評価を入れてくれても嬉しいです。

よろしくお願いします。

 やっと予定も無く、周りに気を遣う必要もない朝を迎える。護衛からずっと他者が近くにいる生活だったのが、知らないうちに気疲れしていたようで朝の静寂が心地よい。


 できれば鍛冶場を借りれたら良いんだけれど。肩掛けには鉱石が入ったバッグがあり、晩餐のお礼にとポルテ会長から頂いたモノである。運んできた人たちは大人3人掛かりだったが、俺が片手で持ち上げると唖然にしていた。「そもそも人族との基本スペックが違いますから」と笑って済ませておいた。


 朝食を運んでくれたメープル(看板娘)にお礼を言う。厨房奥ではガタイの良いオッさんがこちらをチラチラ見ている。心配しなくても俺はロリではない。むしろしっかりと伝えたほうが正義かも知れない。


 そう。


 ナスカの手紙を朝読んだ。中身は少し寂しがってたりするのかと思いきや、「てめぇ、今度会ったら胴体分離させてやる」とか物騒な内容が前半埋め尽くされていて、そろそろ読むの止めようかと思った頃に「また冒険に出かけよう」って転換が入って思わず泣く。あぁ、泣いてしまったとも。



 今は修行に専念しているらしく、もともと魔族学校?に行く予定だったのを外遊(がいゆう)することにしたと手紙にある。外遊ってナスカらしくない表現に思わず首を傾げてしまう。そんな知的な物じゃないだろうし、実際は武者修行のことだろう。花嫁修行なら爆笑ものだと思ったところで、《あと、花嫁修行を連想して爆笑してたら殺す》と記述があった。・・・うん、勘の良いナスカお嬢様にはできる限り近づかないようにしよう、半分ガチで。



 メインストリートも外れ、南門の肉串売りのおばちゃんと挨拶をして武器屋の集まる通りへ向かう。見て歩くだけでいろいろと刺激があり、人々の生活や物々交換の交渉につい耳を向けてしまう。安い、新鮮、高級などよく聞くキーワードが聞こえてくるものの、俺ほどキョロキョロしている人は他にいない。自分でも浮いているのを自覚している。異世界人の日常生活にテンションが上がった。




◇◇◇◇◇◇◇



 そんなテンションも下がり気味で、いくつか武器屋を巡るも程度の良い武器を見かけなかった。それなりの武器に煌びやかな装飾を施し、値段をボッタクル物まであった。案外、アイルランダーの武器屋はレベルが低いかもしれない。



 ほぉ〜。


 店の外の樽に入れられた古びた剣に目を惹かれる。明らかに古びており握りに腐食も見られるにも関わらず、元の造りがしっかりしている。きっと幾度も使い手を助けてきたことだろう。



 「おじゃましまーす」

 「イタッ!!なんだ貴様は!!!」


 期待感に溢れてドアを開けると勢いが良かったのか、店員の腰にドアが当たる。ヒゲモジャ・・ドワーフだ!!!


 「す、すいません。外の剣に見惚れて。武器を見せてもらっても良いですか?」

 「当たり前だ。ここは武器屋だ、勝手に見てけ」


 腰を摩りながらドワーフは店のカウンターへ向かっていく。こっそり『ヒール』を使うと、すぐにドワーフがこっちを睨みつける。


 「貴様、勝手に魔法をうちの店で使うな!!」

 「すいません。先ほどの件で申し訳なく」

 「今度やったら衛兵に叩きつけるからな!!ったく・・・」


 語気が強めのドワーフはそう言ってカウンターの奥へ入っていく。店に誰も居ないが許可は得ているので無造作に置かれた武器を見る。


 「すべて無造作に置かれてるのに粗末にされていない感が謎」


 あたりは所狭しと武器がある。片手剣、ハルバート、槍、三叉の矛、ウォーハンマー、どれを見ても惚れ惚れする出来である。そして、刀があることに静かに感動する。こっちの世界ではどんな人が使うのだろう、1本妙な気配の刀が樽の中にあって思わず声が漏れる。



 「ほぉ〜、そいつを見つけたか」



 武器に夢中になっていたのか、店主のドワーフがいつの間にか近くにいた。片腕を組み、立派な髭をゆっくりと触り、試すような顔をしている。


 「どうだ使ってみるか?」

 「あの、、僕では使いこなせません。ただ、後学のため見せてもらっても良いですか?」


 自然と頭が下がる。この刀、ジグさんが造った剣を超えている。


 「なんだ、貴様。同業者か?」

 「いえ、同業者というのはおこがましいです。鍛冶好きが高じて自分の武器を作る程度です」


 俺の言葉に苦笑を浮かべたドワーフは、「そりゃ十分鍛冶士だろう」と言葉を残しカウンターへ戻る。えっ、刀見ても良いんだよね?



 ゆっくりと刀身を鞘から抜く。使うわけでもないのに緊張で震える。刀の波紋、剃り、全体が少しずつ見えていく。少しかすれ気味の独特の刀を抜く音。



 「これ、店主が打ったんですか?」

 「あぁ、ここ最近じゃ会心の出来だな」

 「簡単に言ってはダメなんでしょうけれども、惚れ惚れします。本当にキレイな刀ですね」



 震えていた手はすでに止まる。あまりの興奮にアドレナリンが全開になったのだろう、こんなにテンション上がる日が来るとは・・・。


 「店主、俺はゲインと言います」

 「なんだいきなり。おまえ、魔族か?」


 いまさら俺の顔を見て気づいたらしい。どうもおっさんドワーフは俺の帯剣に興味があるご様子。


 「これ餞別に頂いた剣なんです」

 「ふむ、見せてもらっても良いか?」


 ベルトからサインを外し、両手で剣をおっさんドワーフへ渡す。おっさんドワーフは俺の剣を俺以上に丁寧に受け取り、いろんな角度で確認をする。


 「手入れ、もう少ししっかりしろ。ここ油切れてるぞ」


 おっさんが俺へ剣を返す際、(つば)と剣身の接合部を指差した。少しの擦れが歪みに繋がり、振った時にブレとなって現れる。命を預ける武器だ、メンテナンスを怠れば、それは自身へと跳ね返る。


 「ありがとうございます。宿でやるわけにはいかず、鍛冶炉をお借りできる場所なんてあります?」

 「ふむ・・・・。まぁ、在るといえばあるが・・・。明日、早めにまた来い」


 おっさんドワーフは俺の質問に回答せず、『呼び出し』だけしてそのままカウンター奥へと消えていく。あ、あのお店って・・・。俺は少しいたたまれない気持ちになり、刀を鞘へゆっくりと戻す。ほんとうにここが保管場所で良いの?ってくらい何本も剣を入れた樽へ丁寧に戻す。アンバランスの中にバランスを見出した華みたいに樽がなる。



 「やっぱりいるところにはいるんだな。変人確定だけど」



 素晴らしい武器が見れて本当に良かった。あのままテンション下がったまま宿に帰っていたら、アイルランダーを近い内に出ていただろう。おっさんドワーフのおかげで鍛冶炉もどこかで借りれそうだ。



 夕食近くなった街ではいたるところで煙が上がっている。メイプルが待つ美味しい宿への道は明るかった。




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