第2話 衣食住への渇望
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日差しは強く、森から湖に近づくにつれて明るくなってくる。文字通り空を飛んだから自分と湖までの距離が把握できていることも安心材料の1つだ。いまのところ、ゴブリンやオークなど他の魔物にも遭遇していない。仮に俺がゴブリンと遭遇した場合、相手がどう出てくるのか、自分がどうしたいのか迷っている。
いくら異世界だとしても、これが人族なら人と一緒に生活すると思う。文化レベルも気になるが、魔法もあるから日本とは明らかに違うことくらい誰にでも予想できる。アルアルみたいに中世ヨーロッパの街並みなら散策してみたい。
ただ、ゴブリンだと話は変わってくる。はぐれゴブリンは集落に迎え入れてくれるのだろうか。”ゴブリン生活実態”とか”週間ゴブカツ”なんて論文や雑誌があるわけでもないので全くの未知だ。特に種族欄のホワイト・ゴブリンの価値が分からん。ゴブリン・キングとかだと小説アルアルで上位レベルとか判断もつくのだが・・・。
そんなことを考えながら何らイベントもなく湖のほとりにつく。水面は風もそれほどなく凪いでいる。見回すと対岸に鹿みたいな動物の親子がいた。
「鑑定、検索、分析・・・『アナライズ』、あっ、これか」
手応えが『ステータス』と同じで、これなら他の魔法もいけるんじゃないか。
「『ヒール』、おおっ!!」
自分の手元にやさしい光が浮かぶ。適性があるからなのか、思った以上に魔法が使える。魔法なんて初めて使うのに手慣れた感触さえするからホワイト・ゴブリンは魔法適性が高いのかもしれない。
「おっと、それよりもあっちだな。『アナライズ』」
改めて、鹿らしき親子に『アナライズ』を行使する。
種族:サイレント・ディア
種族名が出るのか。向こうもこちらに気がついたのか、親子ともに一気に森へと逃げていった。湖の水を飲んでいたところから、飲料水としても大丈夫だろう。魔物が下痢するとかあるのか?
他に目につくのはキャンプしたかのような焚き火の跡がある。周りの足跡をみると・・・ゴブリンだな。なぜなら俺と同じような足型が残ってるから。
「ガチでゴブリンかよ」
水面に写る自分の顔を見て思わず口からこぼれる。顔はもっと見目悪く、裂けた口のゴブリンを想像していたが、髪はピンク色と派手だが耳にかかる程度あるし、目鼻も普通に人型だ。特徴的なのは耳かもしれない。少し寝た角度で尖り気味なところがイメージしていたゴブリンっぽい。あと、ポッチャリ・・・ぽっちゃり型の人族っぽい感じだ。目もクリっとしていて転生前の俺なんかより愛嬌もある・・・ただし人としてではなく人形の方向でだ。
「『ステータス』」
名前:ゲイン・シュバルツ
性別:雄
種族:ホワイト・ゴブリン(亜種)
職業:
適性:光魔法適性、火魔法適性、水魔法適性、体術適性、鍛冶技術、種族進化
スキル:言語操作Lv 5、魔力操作Lv 2、体術Lv 3、光魔法Lv 2、火魔法Lv2、水魔法Lv2
加護:神に無駄な神力はない
装備:
これがどの程度戦いに向いているのか分からん。せめてクラスの連中と一緒なら差が分かったり、模擬戦してみたりできただろうが今の状況では望むこと自体無理だ。水は良し、次は食料だな。
サイレント・ディアが森へ消えてった方向へ向かうことにした。
◇◇◇◇◇◇◇
サイレント・ディアの親子の足跡を追っていると先から小さな動物の悲鳴が聞こえた。その周囲にはクギャクギャ、ギャバギャパとテンション上げ上げな同族がいた。あっ、これ嫌悪感ハンパない。サイレント・ディアの親は遠くから襲われている子鹿を見ているも、流石に4体いるゴブリンに突っ込みはしない様子だ。
ゴブリンは近接系3体と弓1体の構成だ。なかなかに親を挑発しているのか子鹿にとどめも刺さず、あわよくば親鹿も狙っているのだろう。
手近の樹に登り、障害物がない角度を確保する。
「『ファイヤ・ボール』」
奇妙に長い指先に魔力がほとばしり、種火のサイズから轟々と音が鳴るほどデカくなる火玉。これ、ちょっと怖いかも・・・。内心の動揺で狙いを外さないよう、距離があるゴブリン・アーチャー(推定)へと飛ばす。
ゴブオォォォォン!!
轟音と土煙がひどく立ち込め、つづいて周りの木々から飛び立つ小鳥の声が響く。
「やったか?」
自分で言った瞬間、フラグったと思った。着弾点を凝視すると周りの樹々に火が燃え移り始めていた。
「やべぇよ!!ヤッっバ!!水、水、『ウォーター・ボール』」
火系と同じだろうという予測があたり、水球が魔力を込めた分だけ出来上がり、すぐに消火活動に入る。
「・・・ふぅ〜」
消火に気を削いだせいで戦闘中であったことを忘れていた。眼下にはゴブリン達はおらず、傷ついた子鹿といつの間にかすぐそばまで親鹿が来ていた。
「それではいただきます」
・・・
流石に無理だ。
なんか純粋な目をこっちに向けている。どちらが魔物かと言えば、当然、俺なわけで。世間一般的にもどちらが美味しいかと言えば、ゴブリンではないだろう。ゴブリン・シチューとかないよな?っていうか、ゴブリン・アーチャーは多分消炭にしたが、他のヤツラが仲間を引き連れてくるとかあるかも。
樹からサッと降り立ち。なるべく気配と音、殺意がないことを相手に分かってもらえるよう、注意しながらサイレント・ディアに近づく。親鹿は後脚をその場で蹴り始め、俺に闘牛のように威嚇を始めている。さっきまでゴブリン4体に行かなかったくせに!!!
少しずつしゃがみながら子鹿ににじり寄り、届きそうなところで止まる。
「『ヒール』」
柔らかい光が子鹿の右脚へと注がれる。一瞬、びくんと跳ね上がった子鹿が、ゆっくりと立ち上がり親鹿の体に顔を擦り始めた。
「良かったな。次あったら食べるけど。なんか美味そうだし」
子鹿が俺の方へ向く。親鹿も頭が良いのか、俺が回復したことを理解しているようで落ち着いたようだ。謎の生態系である。ちなみにジビエ料理はきちんと血抜きと味付けを行えば、十分に旨いものだと前世から知っている。田舎に住む叔父さんから冷凍肉がたまに送られてきたからだ。異世界の鹿がうまいのかは分からん。
「そういう意味でも早くいなくなれ。次はガチで追いかける」
あまりに純粋な目で見続けている小鹿に声をかけ、さっきの湖への道を戻る。そもそも食料確保のためにサイレント・ディアを追ったはずなのに全然関係ないことが分かった。
俺はゴブリン(緑色の口裂け気味のウルサイ奴)と一緒に暮らせない。