第27話 到着、アイルランダー
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あれから2泊経ち、少しずつ大きなっていく街の防壁が見える。多分、3m程度だろう、思いのほか低いことに驚いた。あれなら俺でも1ヶ月頑張れば作れる気がする。やっぱり人外なので魔力の振れ幅が大きいのだろう。改めて自分の魔法特性を認識する。
馬車の検問はすれ違いに2台が通れるくらいで、徒歩は寺院の入り口程度だ。ここで商隊や冒険者”白鷲の尻尾”ともお別れである。休憩所も3箇所ほど建てて、道中の索敵と指示をしただけで金貨1枚貰えるなら儲け物だと思う。
「そうだ、ゲインよ。私の商会に時間があれば寄ってくれ。融通は効かせよう」
「はい!!ありがとうございます。ぜひ拝見しに伺いたいと思います」
商会の会長であるポルテ・クーガが気作に声をかけてくれる。拠点を作っている魔法よりも、夕食時の匂いにつられてきた食いしん坊会長である。最後まで白鷲の尻尾の面々には渡さなかった串焼きをポルテ会長にはお裾分けした。依頼主には好印象がモットーです。・・・すいません、正直に言いますとアリスさんには1本あげました。あざとさに乾杯。
少し離れたところには立派な門が設置されている。多分、貴族系なのか偉い人用だろう、小綺麗な馬車が入っていくのが見えた。
「おい、次はおまえだ」
「はい、よろしくお願いします」
貴族らしきマークが入った馬車に見惚れていたのか、いつの間にか前が空いていて門兵に呼び出しをくらう。槍を持ったものと帯剣した者がそれぞれいる。聞いた話だと銀貨2枚で入ることができる。
「ん?おまえ、魔族か。珍しいな、この街になんのようだ?」
槍持ちの兵士が真剣な顔で話しかけてくる。
「冒険者としてアイルランダーでしばらく過ごす予定です」
「ふむ、冒険者タグを見せてくれ」
「実は初めて魔族の森を出ました。冒険者タグを持ち合わせておりません」
俺の”魔族の森”発言で周囲がざわつく。一気に後ろで並んでいた人たちは後退り、門兵も3人追加で目の前に現れる。
「貴様が街で争わないと誓えるのか?」
「はい。ポルテ・クーガ商会会長様と街道でご一緒させていただきました。こちらが証文になると言われた文書です」
着く直前に渡された文書を帯剣している門兵に渡す。以外にも丁寧に文書を受理してくれた。
「・・・そうか、了解した。門は通すが会長様に迷惑の掛からぬようにな。それと」
「それと?」
「『社交辞令じゃないから来るように』とポルテ・クーガ会長からご指名だぞ、ゲインとやら」
「はっ!はい!!了解しました」
最後は周りも笑いながら通してくれた。ゴブリン・キング(亜種)だし、ここまで人扱いされるとは思わなかったので涙が出てきそうになる。うぉおお!!!ちょっとテンション上がってきた。
「ちなみに冒険者ギルドの場所とオススメの宿を教えてください」
感じの良かった門兵が丁寧に教えてくれて、今からでもギルドは登録することができるようだ。門をくぐり抜け、人の流れるのるとメイン通りらしきところに出る。
街並みは中世ヨーロッパよりも少し古いだろうか。色彩が少なく、どの建物も灰色っぽい感じがする。ただ、とてつもなく違和感を感じるのが、良く分からん生物が荷車を引いていることだろう。まぁ、そういう意味では歩く人々の髪の毛と瞳がカラフルなのも違和感だらけだ。
露天でうまそうな匂いを漂わせている店があったので、肉の串焼きを3本食べてしまう。1本だけにして冒険者ギルドへ向かおうとしたが、店のおばちゃんと話が弾んでしまい、2本追加してしまうほど話し込んでしまった。やけに元気がよく恰幅の良い人で友達の母親を思い出した。
◇◇◇◇◇◇◇
3階建ての冒険者ギルドに着く。よくあるテンプレにワクワクする自分がいるが、下手に問題を起こすとどうなるか門兵の言葉を思い出す。それにポルテ会長にも迷惑をかけたくない。
入って右手に受付カウンターと雑貨?らしきものが置いている。左手にはパブ兼食堂だろう。結構なスペースがあり、この世界で吹き抜け構造の建物を初めて見た。客はまばらだが、流石に昼間っから飲んだくれている冒険者なんてテンプレ君以外いないだろう。
「登録したいんだけど」
書類処理をしている事務職員と思われる方に話しかける。
「はい、少々お待ち・・・って!えぇ!?」
受付のお姉さんが視線をこちらに向けると驚きで声をあげる。まばらなパブの客達の視線を感じる。
「あの・・・魔族の方ですよね?」
「はい、魔族では冒険者登録ってダメでしょうか?」
「いえ、失礼しました。冒険者ギルドのルールで、魔族の方が冒険者登録する場合はギルマスとの面接が必要になります」
「ギルドマスターの方と面接ですか?」
俺の質問に大きく肯く美人な受付嬢。なんか面倒なことにならなければ良いのだけれど。
「では、ギルマス?の時間が会うときにお伺いしますね」
「俺なら空いてるぞぉ」
カウンター奥でハゲ気味のおっさんが抜けた声でこちらに向かってくる。声の抜けた感じと現役としか思えない鍛え上げられている身体の違和感がハンパない。歩く所作に隙が少ないのも好ましい。模擬戦してくれないかなぁ。
「おう、おまえが魔族の森から来たゲインか?」
「はい、そうです。もう伝達が?」
「あぁ。まっ、ここじゃ何だから部屋いくか」
背を向けたギルマスがカウンター奥の階段へと向かっていく。受付嬢がカウンターを跳ね上げ、俺に付いていくよう促す。あんなごっついおっさんに付いていくのヤダなぁと顔に出ていたのかもしれない。受付嬢が「ご案内しますね」とやさしく笑顔で話しかけてくれた。惚れてまうやろぉ。
「ゲインさんをお連れしました」
「おう、シグル、お茶用意してくれ」
ゲインは受付嬢さんの名前をゲットした。
「ゲインはシグルみたいなのが好みか?」
急に真面目な顔でギルマスが俺に話しかける。
「普通に美人だと思います。受付の方々ってイケメンとイケジョ率高くないですか?」
「荒くれ者ばっかりだからな。顔がいいと平和に解決できることが多いのは認める」
やっぱり顔も選定基準の1つなのか。報酬も良さそうだし冒険者ギルドって就職率厳しそうだな。
「お前もギルド職員になるか?」
「ぶっっ!!魔族のギルド職員って魔族領に冒険者ギルド設置する気ですか?」
「いや、ここでだよ」
思わず吹いたが、ギルマスの目がガチだったので気を引き締める。ギルマス、少し『威圧』つかってない?
「冒険者で身を立てて、いろんな国々を回りたいんですよね」
「・・・ふー、そうか。なら仕方ねぇな。シグル!!Dランクの冒険者タグだ」
「は〜い、こちらがゲインさんの冒険者タグになります」
「Dランクからで良いの?」
俺の問いにギルマスは答えず、「あとは任せた」とギルマスは応接室を出て行き、シグルさんが引き継ぐかたちになる。魔族の戦闘力は基本的に高く、冒険者ランクを低く設定すると問題を起こす事が多かったとのこと。そのためギルマスの面接を受けさせ、人物(?)評価をしてから冒険者タグを渡す仕組みになったと。
「俺は合格できたわけだ」
「そうですね。久しぶりですよ、魔族の方に冒険者タグをお渡しするの」
「へぇ〜、尚のこと迷惑かけないようにしないと」
シグルさんは俺の言葉が面白かったのか、目を見開き肩を揺らしている。なんもおもろい事言ってないよね?
「えっ!?変なこと言った?」
「だって、魔族の方なのにユルイんですもの。・・・いえ、すいません」
口に手を当てた笑顔から表情を少しだけ戻し謝るシグルさん。いや、ずっと魔族って硬派なの?俺の知る魔族はかなり人間味が溢れてる人たちばかりだけれど。
その後、シグルさんに冒険者ギルドの仕組みや依頼の受け方など教えてもらう。パーティーは魔族なので入りにくいことまで説明をしてくれる。逆に気を使わせて申し訳なかったが、もともと暫くソロでいく予定なので問題はない。ひと通り説明が終わり冒険者ギルドを出るとちょうどお昼だった。




