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ゴブから始まるヴァンパイヤロード  作者: とかじぶんた
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第18話 それぞれの想い

ブックマーク&評価ありがとうございます!!

 私がこれほどゲインに苦戦するとは思ってもいなかった。ジグが戦闘訓練に参加するようになり、ハンディキャップ無しでの模擬戦にテンションが上がる。ゲインはゲッソリした顔をしていたが、いざ戦闘になると雑念が抜けた目で私の一挙一動を追う。私はその目が好きだと思う。




 昨日、ゲインが倒した魔物を見たとき、私は不覚にも死を覚悟した。隣にゲインや子ども達がいることも忘れ、お母様のところへ行くのだなと意識すら手放しかけていた。


 「ナスカ、子ども達を連れて待避所へ行け」

 

 霧がかかった意識が一瞬でクリアになった。ゲインの声にすぐに応じることができたのは幸いで、情けない姿を晒さずに済んだ。私は心の中でそのことにとても安堵した。


 「いけ!!約束は守る」


 ゲインの言葉は約束を守らなかったお母様と同じ響きだった。やさしくも残酷な嘘。ゲインは死ぬ。それでも子ども達を救う使命がアブリュート家にはある。私は待避所で子ども達を置き、村へ行く手筈を整えてここに戻ることを誓った。せめて私の骸をゲインの横に並べてやろう。


 両腕に1人ずつ抱え、1人背負ってバームとアントのいる休憩所へ全力で走る。魔力による身体強化をフル活用し、通れる樹々の隙間を蹴飛ばしながら進む。1秒でも早く、刹那でも良い、ゲインの声が聞こえるうちに。



 なんとか休憩所につき、子ども達3人をバームとアントに任せ、ゲインのところへ戻ろうとしたところでバームに止められた。


 「主人を死地へ向かわせる従魔などいない」


 前に立ちはだかるバームを蹴散らそうとしたところ、横から『ファイヤ・アロー』が飛んできた。


 「主の意思を汲み取らない従魔もおりませぬ、ナスカお嬢様」


 そうしてアントまでが邪魔だてを始め、無駄に時間がすぎた頃に攻撃魔法の音が止まる。


 「バーム、アント、お願いだから。ここで死んでも私は誰も恨まない。どうかゲインのところに行かせて」


 ほとんど掠れた、声にならない音をなんとか絞り出す。膝から崩れ落ちる私の魂の叫びは、声と反比例して大きいだろう。


 「バカ鹿、すまん」

 「アホ馬、珍しく同意見だ」


 バームが私を背に乗せる態勢を取る。ゆっくりと近づくと、バームの目にはゲインのところへ連れていく覚悟があった。


 「ありがとう。ごめんね、バーム」

 「アホ馬にしては上出来だ」

 「アントもごめんね」

 「魔法も止んだ。急ぐぞ!!」


 私の身体強化以上の移動に特化した能力を駆使してゲインの元へ駆けつける。地を蹴る音と景色がどんどん後方へ溶けていく。



 「すでに終わっているようだな」


 ゴブリンの集落でアントの発する言葉の意味を捉えられずにいた。そこには煙を眺めているゲインが立っていた。私たちの足音に気がついたのか、こちらをゆっくりと振り返る。


 「ナスカ、なんで泣いてるんだよ」


 ゲインが約束を守ってくれたことだけは確かだった。



■■■■■



 「アホみたいにやられてるぞ、お前の主」


 アホ馬が懲りずに絡んでくる。俺はお気に入りのベリーを食べている最中で、ご機嫌だから大体のことを許せる自信がある。アホ馬の口から溢れる腐ったセリフ以外という限定はつくが。


 「貴様の主人もいままで以上に苦戦を強いられているではないか」


 俺がそういうと厩舎内の従魔どもが騒ぎ出す。


 「ナスカお嬢様の敵ではないわ!!」

 「おう、バカ鹿の分際でお嬢様ディスったか!?おう、俺の聞き間違いか?」

 「ポチャ型贔屓もほどほどにしろよ、デブ鹿!!」


 有象無象が無駄に遠吠えだけ大きいからに・・・。


 「バカ鹿、お嬢様の悪口は1つたりとも許さんぞ」


 隣でアホ馬が本気で魔力を練り始めているが、こっちこそ我慢の限界だ。


 「いまこそ厩舎の王は誰だか教えてやろう」


 ゆっくりと立ち上がり、苦汁の入った桶に首を突っ込む。一瞬で口に含み、自慢の歯の間から苦汁ジェットを噴出する。


 「秘儀:苦汁ジェエエエエエト!!!」


 苦汁のジェットストリームは厩舎を阿鼻叫喚、地獄絵図へとかえる。先ほどまで鼻息荒いアホ馬も奥へと引っ込み、いきがっていた他の連中はすべて叫び声をあげている。


 「クハハハハッ!!おい、おまえら!!誰が王だ?おい貴様ら答えよ」


 王である俺の勝鬨に周りは静まり返る。さきほどの阿鼻叫喚がいっきに・・・いっきに?


 ぐあぁあああああ!!


 「はい、そこまで〜。今日の夕食と明日の朝食、アントは抜きね。あと、バームとヤッコ、ジャボルは夕食抜き」


 痛い痛い痛い痛い!!俺の、俺の左すね毛が燃えている。なんか黒い炎が足にこびりつき、地面に擦り付けても消えねぇ!!!


 「姉さん!!!火消して!!!火、燃えちゃうよ。燃えちゃうってば!!!」



 この後、「燃えちゃうってば!!」を10回ほど叫んだ後、黒い炎は静かに消えた。


 左前脚だけが綺麗に脱毛されている。



▲▲▲▲▲


 ゲイン様が訓練へ出掛けた部屋で私はシーツを取り替えている。ジグから聞いた訓練内容はLv10と答えたが、自分が受けるとなるとLv10は優に超え、精神崩壊を招くほどである。それでもジグのことだから、ゲイン様が耐えられることを計算し、厳しい内容を組んでいるのだろう。つい昔の自分の訓練を思い出し、少しだけ身震いする。


 アンは静かに部屋で祈りを捧げる。


 あと3ヶ月、ゲイン様が無事に過ごせるように。

 少しでも当館での思い出に身震いする機会が減るように。

 この間、お話してくださったケーキを作ってくれますように。


 すべての願いが平等に叶わないことを知る大人(アン)は、一番叶いそうな願いにオールベットするのであった。




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