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ゴブから始まるヴァンパイヤロード  作者: とかじぶんた
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第16話 わだかまり感想戦

 帰りは無言だった。ナスカはヒックヒックと泣きじゃくって止まらず。アントはなぜか激オコ状態で、とてもじゃないが声をかけれる雰囲気じゃない。唯一、話せそうなバームは会った時に目でなにか伝えようとしていたが、それ以降まったく目を合わせやしない。


 「なぁ、ナスカ。もう泣くなよ」


 いい加減耐えられない沈黙をやぶる。無事だったわけだし、なんとか生きてるわけだし、良かった良かったじゃね?


 「主、帰ったら当主様にご報告が必要と思われる」

 「え”ぇ”ーーー、なにを?」


 アントは俺の質問に答えない代わりに少し駆け足になった。並走するバームも同じタイミングで駆け足で帰路を辿る。こいつら案外仲良いんじゃね?



◇◇◇◇◇◇◇



 「ゲイン様、当主様がお呼びです」


 アンさんが笑顔以外の表情をしていることが、”当主様”と言うことも含め、どれだけ珍しい状況なのか示している。先に自室で体を拭き、着替えてから廊下を先に歩くアンさんについていく。ダイニング以外で当主様にお会いするのは初めてで、目の前の扉はダークウッドで重厚な作りだ。


 「失礼いたします。ゲイン・シュバルツ、只今戻りました」


 ノックの後に声をかける。少し間があき「中に入れ」と当主様より許可がおりる。アンさんは入らないようで、ここでお別れだ。ひとりかよ!!


 執務室は入ると広い作りになっており、ちょうど与えられた自室2部屋分の広さはある。すべて重厚な空間を押しとどめるためなのか、品の良い調度品が揃えられている。


 「ゲイン、討伐ご苦労であった」

 「とんでもございません。温かいお言葉ありがとうございます」


 臣下の礼をしながら正しくない返答かもしれない。いかんせんマナー全般習得済の大人ではないのだ、ご容赦いただきたいところである。


 顔をゆっくりと上げると、当主様と目がある。少しだけ首を右に傾け、何かお考えのご様子だが、見惚れるほどの美形だと再認識するくらいで深慮を読み取ることなど不可能である。俺はノーマル(同世代の女子好き)だが、何度見ても当主様の超絶美形っぷりは突出している。チャームが混ざっているとしか思わずにいられない。


 「ナスカのことをどう思っている?」

 「ナスカお嬢様のことですか・・・失礼をお許し頂けますか?」

 「許す」

 「妹のように感じております。ただ、単純な戦闘力では僕よりも高く、精神面では僕よりずっとか弱いと思ってます」


 当主様は僕の返答に表情ひとつ変わらない。「不敬だ!!」とも言われる雰囲気はない。いったい俺はなぜ呼ばれたのだろう。


 「なぜ呼ばれたのか?・・・か」

 

 っっつ!!


 「ゲイン、どうやってダガッツに勝った?」


 威圧と殺気が室内を充満する。壁のような圧力ではなく、部屋を確実に満たす水のように少しずつ、確実に迫る死を想起させるには十分だ。


 「相手の油断があったからです。それが無ければ勝つ要素はありませんでした」


 寒いのか熱いのかさえ分からないが脂汗が止まらない。単純に首を斬られたほうがいっそ清清するかもしれない。まとわりつく空気が、ただただキツい。プレッシャーでゲロしそうだ。


 「説明は可能か?」

 「はい、不得手ではございますが、ご説明をさせていただきます」


 それから俺なりに整理して伝えた。魔法を使いナスカの逃走時間を稼いだこと。敵への魔法攻撃も視覚に訴えやすい火系、水系を多用し、風系でも水しぶきで視覚的に捉えやすい環境へ誘導したこと。相手は目に自信があるのが分かったので、最終的には霧で視界を遮り、戦闘に飽きて一気にキメに来た相手に無詠唱で魔法を当てたことを伝える。


 「それは戦闘する前から考えていたことか?」

 「いえ、流れでそうしました」

 「誰に教わった?」

 「だれに、、、ですか?う〜・・・あえて申せば、ナスカお嬢様かと」


 当主様は何も言われず、先を促すべく顎を向ける。


 「模擬戦でナスカお嬢様の攻撃が来たときに、躱す選択肢は無数にあります。その中で模擬戦で実行できるものもあれば、実行できないものもあります。それらの組み合わせを僕は自室で更に考えます。それが今回の戦いに活きたのだと思います」


 俺はたどたどしく、それでも一生懸命説明をしたつもりだ。当主様はしばらく間を開けてから1度頷いた。


 「そうか。これから3ヶ月、ゲインの滞在を許す。もちろん、途中で切り上げて出て行っても構わん」


 いきなり退館命令が下される。俺なんかヤバイことしたか?


 「がんばれ」


 俺の焦燥を無視する当主様、最後の「がんばれ」は初めてかもしれない笑顔で言われた。俺、ノーマルなのに、ノーマルなのに危うく落ちそうになった。絶対、当主様はチャーム系があるに違いない!!


 「あ、ありがとうございます。それでは失礼いたします」


 部屋を出ると既に日は暮れる間際で、廊下にアンさんのシルエットが見える。ちょうど逆光で表情は見えないが、ホッとした途端、自分の膝が抜けて前に躓く(つまづく)


 「ゲイン様、大丈夫ですか?」


 アンさんの声色が変わっている。何を言われたか想像ついているのだろうか?


 「アンさん」

 「はい、なんでしょう?」

 「残り3ヶ月、いろいろとお世話になります」


 膝を掴み、自分を鼓舞して起立する。教わった一般教養に習った礼をする。意味は”親愛なる家族に対する感謝の礼”だったはず。それを認めたアンさんはクスリと笑い、綺麗なカーテシーで応じてくれる。一線は引かれたままだが、少なくとも支援は続けてくれるようだ。


 

■■■■■


 「3ヶ月、ゲインに滞在の猶予を与えた。好きに学ばせてくれ」

 「かしこまりました。ダガッツがやられるとは思いませんでした」

 「見ていてどうだった?」


 ジグは丁寧にオールバックにされた白髪を右手で触りながら応える。当主様の前で癖が出てしまうほど迷いが現れている。


 「よい、正直に答えよ」

 「個人的に、私がゲイン様であったとしてもダガッツに勝機は見出せなかったと思います。少なくとも威圧的にも存在的にも格が違いすぎます」

 「だが勝った」

 「その通りでございます」


 当主様が椅子から立たれ、ご自身でコーヒーを入れる。当主様は頭を巡らせるとき、従者を使わずにご自身で淹れるが、その姿をジグは久しぶりに見つめる。


 「まいったなぁ。これほど判断がつかないことも久しぶりだぞ」


 淹れ終わったコーヒーをジグの分までカップに入れ、テーブルに配置される。テーブルにつく許可に感謝を示し、当主様の対面に座る。当主様は腕を頭の後ろで組み、悩んだ様子であるが表情は明るい。


 「で、ジグよ。おまえの剣を渡した理由を聞いていないのだが」


 前屈みになった当主様は悪戯(いたずら)する相手を私に絞ったようだ。早めに観念するのがもっとも矢面に立つ時間が短くなることを私は知っている。


 「遺品になると思ってました。せめてもの手向け(たむけ)です」

 「ほんとぉ〜?」


 口調がどんどん崩れ、柔かな笑顔をご当主様が向けられる。この展開は既に詰んでいますね。


 「玉石混合の中、私は少し惹かれたのかもしれません」

 「だよねぇ。やっと心根を漏らしたね。ナスカも間違いなくゲインに惹かれてる。あれから表情を無くしたナスカが元に戻るとは思わなかった」


 当主様のお言葉に返すことはない。ナスカお嬢様は奥様を亡くしてから別人のように変わってしまった。それがゲイン様が来られたときに急変したのだ。以前のナスカお嬢様のように明るく笑い、拗ねて、わがままを言う。年齢を考慮しても当たり前の行動を取らなくなったナスカお嬢様に我々従者は何もできなかったのだ。


 「ずっと置いておく、という選択もあった」


 そこで言葉を止めた当主様は天井を見上げる。


 「ただ、それだと・・・やはり3ヶ月だな」

 「左様です」


 執事長として当主様の判断に意を申すことはない。


 「ありがとう、ジグ。鍛えてやってくれ」


 話は終わり、当主様がソファから立ち上がり執務机へ向かわれる。ゲイン様について、当主様から()()()()()()()()()()()()()()()()。私は頂いたコーヒーを片付けながら、高い成長効率と精神をギリギリ壊さないメニューを思案し続けた。


 

 






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