相互理解は馬車の中①
身を乗り出して手を振れば、危ないと言わんばかりに心配したケリーの顔。心配なんだろうね…。私が馬に乗るかもに、泣きそうな困り顔があった。元気に見せてたって、落ちるか落ちないかのもしもに心配するなって言えないし、馬車だって…もしもがある。でも、心配させない為に出掛けないは…選択肢は無い。今回は、他所の領地にお出掛けだけど、自領に戻る事はこれからいくらでもある。乗り越えないといけない事は、皆にある。
ため息を飲み込んで、見えなくなったから座ろうとしたら、辺境公爵様とルードルフ様の間に座らされる。
騒いだから喉乾いたな。お茶出来なかったルードルフ様は、大丈夫かな?
ちらりと隣を見れば、キラキラが居る。反対側は、渋みの強いおじ様。それもただのおじ様違う。辺境公爵様だ。
お誘いにすぐ乗ったけど、二人とも、会うのは三度目。距離近過ぎで、ちょっと遠慮したい。人見知りはしないと思うけど、一段も二段も高い場所に居る方達だもの。
落ち着かないなとジークを見たら、料理長からのお出掛けセットの中から水筒を出してくれた。
ありがとです。
「ルードルフ様? 屋敷で、お茶も出せませんでしたが、いかがですか?」
「それは何だ?」
「水筒ですよ。中身は、冷めたお茶と…お水?」
「オレンジ水と聞いております」
「オレンジ水だそうです」
「どうして冷めたお茶なんだ?」
「熱いと、飲めないからです。お毒味、要ります? オレンジ水は、レモン水と同じですが、私が酸っぱくて飲めないのです」
お毒味云々は、ルードルフ様が王子様だから聞いてみた。
お毒味不要だってとして、飲みたい物を私が飲んでしまってからでは失礼かと思って。
さぁ、さぁ。どちらを?
「ミシェイラは?」
「出来れば、オレンジ水を」
そうしたら、ジークの隣に座ってた従者の人が、コップを出してくれて、ジークが注いで渡してくれた。
「飲みやすいな」
「そうですか? なら、良かったです」
こくこくっと、二口分くらいのを飲み終わして、コップを返す。飲みすぎると、お花摘みが近くなるからね。
「ルードルフ様。さっきは、謝罪を受けてくれてありがとうございました」
ルードルフ様の眉が寄ったのが、横顔でも分かった。
やっぱり、怒ってるのかな?
「ミシェイラ。君が謝るのは変だ。それに、聞きたい事がある」
「何でしょう」
「あの屋敷の者達は何だ?」
「マクラーレン家の者達ですけど」
「家族では無いのか? 公以外の態度は目に余る。それに、あれが父親か? お前を無視して、もう一人の娘の失態を取り繕うともしなかったぞ!」
それにも、マクラーレン家の者達だとしか答えられない。
お父様とお祖母様を、嫌いで括ってみても、何がどうで嫌いというのでは無い。接点少ない上で、嫌われている様だから嫌い。別のお家で、家族仲良く暮らしていた事は知っていても、私にとって、王宮で王子様が三人お暮らしでと変わらない。あの子の名前も、今日初めて知ったし。様変わりした屋敷には戸惑ったけど、基本、私のスタンスは変わらない。何時も通りに。それが、お母様の望む事だと思うから。問題は、ルードルフ様の言う家族って何だになる。離れて暮らしていた距離が目と鼻の先になっても、この一月は、それ以前と変わらなく過ごしていた。私が屋敷に近寄らなければ、何の接触も無く日々が過ごせる。私が無関心なら、あちらも同じなのだろう。
でも、今日みたいな事があると、今のままでは不味いと思う。私は兎も角。疲れたお祖父様が病んでしまう。私が、ルードルフ様に謝罪をさせたのは、あの子が、公爵家の一人だと、お祖父様が考えていると定義したからだ。どんな縁であろうと、屋敷に訪れた王子アンド高位貴族に、挨拶をしないさせないは無い。私と同じ歳のあの子にも、同じにお祖父様はお考えになるのだろう。
「おい。聞いてるか?」
「…はい」
「ミシェイラっ!」
「ふぁいっ」
「何故、考え込む」
「私には、難しい問かな、と」
ルードルフ様は呆れた様なため息で、辺境公爵様は、苦笑いでルードルフ様を見た。
そもそも、十歳児には難しい話しを、十二歳が聞く…。
むむむっと疑問が持ち上がる。
なら、私にも聞きたい事はある。
「私の事情は、辺境公爵様も知ってらっしゃいますよね? どうして、この一行に入れて下さったのですか?」
護衛を考えれば、渡りに船。即飛び付きの私の頭は単細胞。でも、お祖父様や辺境公爵様は違う。好意以外に意味がある。
じっと辺境公爵様を見上げれば、良い笑顔だ。
このおじ様。本当にかっこいい。領地の親父さん達や情けなお父様しか知らない私には目の毒だ。出来るおじ様ってだけじゃなくて、体も鍛えていらっしゃる。太ももだの二の腕だの、かっちかちなのです。
「王家に続いて、親しくなりたいからだよ。ミシェイラ嬢」
「王家に?」
私は、何時、王家と親しくなったのだろうか?
お祖父様は公爵家当主で、お若い頃は、何がしかの役職に付いていたのは聞いた気がするけど、親しさを思わせる遣り取りはなかった気がする。
「難しく考える事はあるまい。駄目なら、君の祖父殿が止めていただろ?」
あれ? 辺境公爵様の浮かべる笑みが、含み笑いに見えるのは何でだろう。
「純粋な君と言う子供への興味と、下心だと思って貰っていいかな」
ぬっ? そういう趣味の人ですか? 奥様もお嬢様もいらっしゃると思って居ましたがと、少し距離を離すように座り直して辺境公爵様を見る。
「そんな目で見られるのは困る」
なら、どの様に見れば良いのでしょうか?
ん? としたら、ルードルフ様が「義父上」と声を出す。
「せっかく楽しく領地に帰れるのだから、君にも、楽しんで貰いたい。だから言ってしまうが、最終的には、フェアリーシルクだな」
「何ですか、それ」
ぶふっと、笑ったのはルードルフ様。
キラキラなのに失礼だと思った私は、お二人の間を逃げ出して、ジークの隣にお尻をねじ込んだ。
今話も、お読み頂きありがとうございました。