お出掛けは、動き出すまでが長い。①
お出掛け! お~出掛け、やっほー!
馬車でも、馬でぇも、どんっとこ~いです!
「お嬢様?」
お菓子に、お弁当な~んだろな?
甘いの沢山! 塩っぱはちょっと!
辛い~のは、い~り~ま~せ~ん~っ!
「お嬢様っ!」
「はいっ! 何、ケリー」
「先程からの、変なお歌はおやめ下さい」
「歌? 私、歌ってた?」
ケリーを見るとつり目になってる。レナは困った顔を笑顔に見せようとしてた。
そっか、声に出てたのか。
「ごめんね。ケリー」
エントランスで立ち止まって素直に謝る。
「お出掛けも、お泊まりも、ケリーはとても心配です」
「大丈夫だよ。自分の事は自分で出来るから」
でも、髪の毛は上手に結べ無い。
レナが三つ編みにしてくれた毛先をいじる。
うっかり浮かれ過ぎたと反省。
だけど、お出掛けだよ! それもお泊まり。もうちょっとしたら、お迎えが来る。楽しみだなぁ~。
お知り合いになったルードルフ様とご養子先のキエナ領トルエン辺境公爵様がおいでと誘ってくれた。城塞都市ってどんなの? もちろん行くつもりだったけど、キエナ領に戻るのに、一緒にどうかと誘って頂いたの。護衛付の往復の保証をトルエン辺境公爵様がしてくれたので、お祖父様の許可が出た。
旅のおともはジーク。まだ数日で分からない人だけど、仲良くなれるといいなぁ。
お荷物は何だか大きいのが二つあるけど、一つはお土産。もう一つは、私とジークの荷物。一つにまとめるのに苦労したみたい。入らないんじゃなくて、一緒に入れるのをジークが遠慮したの。でも、冬場でも無い子供の荷物なんて、そんなに無いんだよ? 子供だから、ドレスもお化粧道具も要らないんだし。あっ。謁見の時のワンピースは持って来てって言われた。辺境公爵様のお嬢様に、見せてあげたいんだって。それが一番扱いに困る物かな?
「お嬢様は、公爵家のご令嬢なのですよ」
「大丈夫。やる時には出来る子だから」
扉の前には料理長が居る。
本当は、料理長を連れて行きたいな。
「俺は行きませんよ」
「声に、出てた?」
「普通に喋ってるのに、分からないんですか?」
「うん。子供だからかな?」
「お嬢様は、侍女も従者も必要無いのですか?」
うわぁぁぁん。レナを傷付けちゃったの? 違う! 違うのぉ!
「あのね。本当は皆で行きたいよ。でも、お母様の物の整理もお願いしたいの。ケリーとレナには、お母様のドレスのお直ししてもらいたいし。ジークは、セバスのお手伝いが出来るでしょ? それでね、料理長は散策に慣れてるからって思っただけだよっ!」
あの人達は、あの人達に指示された使用人達は、本当に私達の物を雑に扱ってくれた。ドレスも書き付けもぽんぽん放り込んだ。途中で花瓶を倒したか水を振りまいたか…。滲んだインクで汚れたドレス。日付けも分類もばらばらな書き付け。それを、本当は自分で整頓したいけど、ここに移ってからの時間があっても向き合うのは無理だった。でも、そのままにはしておきたく無いの。だから私は、目先を代えるという逃避を選んだ。
「レナ。お願い」
「わ、分かっております。楽しそうにされてたので、寂しくなっただけです」
「レナ~! レナ、大好き!」
ぽふんっと抱きついてぎゅっとする。
「お嬢様。お気を付けて」
「うん」
くるっとケリーに向かい合う。ぽふんからぎゅっとはセットだ。
「旦那様も、お、お母様もご一緒では無いのです。…知らない土地ですから、ご無事でお帰り下さいね」
「はい。ケリー母さん。行ってきます」
セバスと料理長…。どっちが父さんかな? と、挨拶しようと思ったら、開いた扉の向こうに、ルードルフ様がいた。
「こんにちは。ルードルフ様。本日は、お迎えにまで来て頂いて、大変光栄に存じます」
ほら、ケリー。私は出来る子でしょ?
「ああ。ミシェイラ。今日も君は元気だね」
「はい。あの、お時間過ぎてしまいましたか?」
「否。こちらが早い。荷物が離にと聞いたので迎えに来た方が早いと思ってな。行けるか?」
頷いて、ルードルフ様に並ぶ。
セバスとジークは、ルードルフ様の用意した馬車に、荷物を積み込んでいた。
「荷物少ないな」
「手荷物は多いですよ。あっ。背負い荷物です」
レナが持つリュックを指さした。
「お出掛けの必需品が入ってます。あれは、手元に置きたいです」
「分かった。公爵にも挨拶があるから行こう」
積み終わったのを見計らって、促された。馬車に乗り込む時に、「行ってらっしゃいませ」と、皆の声。そこで、挨拶をしていない人に気が付いた。
てとてと戻って料理長。ぎゅっとしたら「おやつは、ジークに預けてあります」だって。セバスは「ジークを信頼してやって下さい」と、言った。
「行ってきます。珍しい物見付けて来るね!」
そう言って馬車に乗り込んだ。
今話も、お読み頂きありがとうございました。