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「ほら、泣くな」


 ルードルフ様に手を引かれてぽてぽてと歩く。

 私が泣いてるのは、何処か怪我したとかじゃ無い。途方に暮れたからだ。

 謁見と知っていれば…何かが違っていたかもしれない。それは、良い方に? 悪い方に? 謁見って特別なものの筈。お祖父様がご挨拶って言ったけど、知ってれば練習した。めっちゃいっぱいした。それだって、上がっちゃったら訳わかんないんだよ? お祖父様のお馬鹿ぁ。

 という訳だ。 


「なぁ。そのハンカチ」


 ぽろぽろ出る涙対策に、ちょこちょこ抑えてた目元から離してルードルフ様を見た。何? って問う代わりに「ひうっ」ってなった。


「手当てに使うなら、そっちのハンカチじゃ無いのか?」


 えっ? どういう意味ですか? 分からなくてむぅっと考え込む。

 一つしかないならこれを使うけど、二枚無いし複数枚あるならこれは使わない。これは大切な物だし、私が使う事に意味がある。

 そう言ったけど、ルードルフ様には分からないみたい。価値観の問題なのかな? 確かにシルクのハンカチなんて、普段使いしないし、手当てになんて使う事は無いだろう。普通は木綿だよね。で、私が使ってるのが木綿のハンカチだった。


「あれは、手に入れようとすれば手に入る物で、これは、私の大切な物なのですよ。私が使う為に用意された物です」


 今度は、ルードルフ様がむむっとなった。


「これは、お母様が刺繍をしてくれた大切な物です。お守りです」


 使う必要があるなら、私はこれで、鼻ちんだってする。使う為にとわたされた以上使う。それでぼろぼろになったとしても使う。そして最後は大切にしまい込むつもりだ。もう手に入らない物でも、そう願われた物だから。あっちは繭を自分で拾い集めて作られたハンカチ。糸紡ぎや織りは人任せだ(そっちの方が手間が大変)。ハンカチにしてる部分って、服を作った残りだもん。はしっ切れの有効活用の物だから、比べる事なんて出来ない。

 力説すれば、「そうか」と笑って頭ぽんぽんされた。


「その繭を拾うって?」

「すみません。拾うのは間違い。枝にあるのを見つけて取ります」

「何処で?」

「山ですけど」

「お前が?」


 そうですと頷いたら、爆笑された。何で?


「可笑しくないですよ。笑うの駄目です。お祖父様も言ってました。きちんと領地を知る事は大切なんだって」


 だから、当たり前にお母様と山を歩った。

 産業になる物。領民の役にたつ物。色んな物探しは楽しかった。

 お母様を思い出して、ぽろっと涙がまた出た。


「だから、泣くな」


 ルードルフ様が、自分のハンカチで拭いてくれた。

 ありがとうございます。と、ルードルフ様を見上げた。優しくされると、キラキラ度が上がる。


「ルードルフ。何をしてる!」

「伯父上」

「その子供はどうした?」

「私が泣かせてしまいました。ミシェイラ。私の伯父上だ」

「ミシェイラ・エイブ・マクラーレンでしゅ」


 か、噛んだ…。

 ルードルフ様が手を繋いだままだったから、きちんと礼は出来なんだが…。気分はしょぼん。

 はっはっはと、気の毒な者を見るように笑われた。

 気が付けば、その伯父様も一緒に、一団になって歩ってる。

 私は、一体何処へ向かっているのでしょうか?




 この少し後。私は、「知らない人について行ってはいけません」という言葉は本当なんだと知る。

 誰かに足を止められる事無く進んで、行き着いた所で、ルードルフ様が名乗って礼をした。私もするのかなってした。ルードルフ様の真似っ子なのは仕方ない。だってここが何処か、何で礼をしてるのか分からないんだもん。

 周りを見て人が居るのは分かるし、少し高い所の目の前の人は、偉い人っぽい。

 後ろから慌てたお祖父様の声が聞こえた時は、ルードルフ様の手を離して駆け出してた。ガシッと腰にへばりついてわんわん泣いた。

 実は、お祖父様の所にまで、連れてって貰えると思ってたのだ。待ちの時間を潰す為のお部屋にね。なのになので、予想外過ぎてぷっつんといってる状態だったのだろう。

 これは、後の私にとっての黒歴史になる。

 謁見の間に泣きながら入室し、大泣きをかました公爵令嬢…。そんな令嬢は、きっと私一人だろう。

 お母様、ごめんなさい。

 貴女の娘は、駄目令嬢の烙印を背負う事になりました。




 私はぎゃん泣きだけど、謁見の本来の目的は無事にすんだみたいです。

 お祖父様の目的は、山繭やままゆの織物の権利を、公爵家ではなくて、私の物とする事。

 山歩きの時に見付けて、特産に出来ないかと奔走していた先のお母様の事故死です。お祖父様は、どうしてもこの権利をお父様達には渡したく無いみたいです。

 綺麗な緑色の繭から作られた織物は、既存の絹に匹敵する程綺麗です。

 今現在は、私が着ている服と、今回献上したドレス三着分のみ。生産の体制(虫の繁殖込)が整えば、流通も可能だけど、今のところは年三四着分が精一杯。

 でも、希少価値から王家の後ろ盾が貰えた様です。

 そう、後になって知りました。それも、他人の口から。

 お祖父様。報連相って大事だって、お母様が言ってましたよね?

 後。ルードルフ様は、本当の王子様だった。第二王子様。お子様は居るんだけど、お嬢様達なので跡取りとして養子に入るんだって。それで、ルードルフ・キエナ・トルエンと名乗ってくれたの。キエナ領って国境の城塞都市って教わった覚えがある。大事な所だから、王子の養子入りもありなんだろうね。

 ルードルフ様に、キエナ領に招待されたよ。

 お家に居ても面白く無いから、是非お邪魔させていただきましょう。

今話も、お読み頂きありがとうございました。

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