③
お部屋に通された。
ここで待てという事かしら? お祖父様を伺うと、お隣に座る様に促された。
きょろきょろと調度品を見るのも不躾だしと俯いてもじもじしてたら、お部屋に控えていた侍女さんが、お花摘みへと連れ出してくれた。ありがとうございます! ちょっとパンク寸前だったの、頭の方が。
お祖父様の側を離れるのも不安だけど、ちょっとくらいいいよねって冒険心もあった。
たけど、案内されたのはお花摘みのお部屋じゃ無くて、外に面した回廊の端っこだった。
何で? っと首を傾げて侍女さんを見る。
「青白いお顔をなさってたので、差し出がましいとは思いましたが」
顔色、悪かったのか…。どきどきすると、血色がよくなると思ってたけど違うのかな? 顔色は、自分では分からないけど、緊張からか、体ががちがちになってた。
ぐるんと腕を回して、腰を捻る。そして深呼吸。
「お嬢様?」
「連れてきてくれて、ありがとうございます。朝から訳が分からなくて、とっても緊張してたみたい」
にっこり笑ってお礼を言うと、侍女さんも笑ってくれた。
令嬢らしくないかもしれないけど、こんな端っこなら、子供らしくでいいと思う。
ここは王宮かもしれないけど、王宮だって言われて無いしぃ。
「お嬢様。そろそろ戻りませんと」
声を掛けられて振り返る。そして頬を抑えて侍女さんを見る。
意図を察した侍女さんは、大丈夫ですよと頷いた。
ならば良しと歩き出したら、裾が引っ張られた。端っこに行き過ぎて、枝に引っ掛けてしまってた。ちょっとしゃがんで枝から外す。破れてなくて良かった。
「お嬢様。そのような事は私がします」
「そうなの?」
「そうでございます。さあ、公爵様の元に戻りましょう」
立ち上がって二歩三歩と歩き出して侍女さんと並ぼうとした時、ガサッと植え込みが揺れた。
「ひっ!」
と引きつった侍女さん声と、騎士さんの腕が目の前を過ぎってドンってなってぐるんってなった。
動いてないのに景色って動くんだ。何て無邪気に思った時にはひっくり返ってた。
「お嬢様っ!」
助け起こされても呆然としていた。
何があったの? びっくりだよ。
「お怪我はございませんか? 何処か痛いところは?」
おろおろと侍女さんが気の毒なくらい。
「この様な所にお連れしなければ…。申し訳ございません」
「痛くないよ。大丈夫。そんな事言わないで、ねっ」
私は騎士さんを見る。
騎士さんは、何かから私を守ってくれた…ん、だと思う。でも、その場合って、ぎゅっと抱き抱えられるとか? 突き飛ばされたみたいになるのかな? 本当に何があったんだろう。
「悪かった! 人が居るとは思わなかったんだ」
騎士さんの後ろからひょっこり顔を出したのは王子様だ。
キラキラでサラサラの金の髪。青と水色の目。絵本の中の王子が居た。
「おい。大丈夫か? 膝が当たったと思うんだが、痛くないか?」
膝蹴りを貰ったの? 私…。
「いえ。突き飛ばしてしまったのは私です。申し訳無い」
んっと、どうなったの? 転びそうな方に腕はあったよ。あっ! もう片方の腕で、このキラキラ王子様を止めてくれようとしたのかな?
「それからこれが…」
騎士さんに差し出されたのは私の髪留め。とっさに頭に手を置く。目の前にあるなら、頭の後ろにある訳無いね。拾ってくれてありがとうって受け取る。ちょっと欠けちゃってるけど、無くさないで良かった。隠しのポケットからハンカチを出す。欠けちゃってると危ないから、包んで仕舞おうって思ったの。
でも、騎士さんの手、怪我してた。引っかき傷。隠すようにしたのを掴んで出したハンカチで縛ったよ。ぽたぽたに流れるのを服に押し付ける様に誤魔化して…。気付かれない様に職務を全うするなんて、かっこいい。
「大丈夫みたいだな。それよりお前は?」
「ミシェイラ・エイブ・マクラーレンと申します」
侍女さんに、髪や服を直してもらいながら答えた。
相手も見ずにだけど、しょうがないよね。ひっくり返ったのだって見られたしさ。原因は貴方ですけど。
「マクラーレン公爵家の? 俺はルードルフ・キエナ・トルエンかな?」
「ルードルフ、さま?」
「そうだ。それより、本当に悪かったな。これから謁見だろ? その、不都合は無いか?」
「え? 謁見?」
私は、こてんと首を傾げて侍女さんを見た。申し訳なさそうに頷く。それは肯定ですか? 騎士さんを見たら、騎士さんは不動だった。分からないので、キラキラルードルフ様を見た。
「謁見待ちしてたんだろ? 知らなかったのか?」
知らなかったです。こくんっと頷いた。
今話も、お読み頂きありがとうございました。