ネタ装備ガチ勢はゴブリンを切り倒す
「「いただきます」」
リューとコレットは夕飯を食べていた。
「どう?この村は」
「良いところだね」
コレットの質問にリューは素直に答える。
「みんないい人だし、食べるものに困ることもなかなかなさそうだ」
二人の前には川で取れた魚を焼いたものと芋を煮たもの、それに果物だ。煮た芋はコレットが村のおばさんに渡した芋を煮てもらった。
「そうでしょ」
コレットは少し自慢げだ。住んでいる村を褒められてうれしいのだろう。
「この煮た芋、うまいな」
カーン、カーン、カーン
静かな夜に鐘の音が鳴り響く。
「何の音だ?」
「村の警鐘だね。何かあったのかな?」
コレットとリューは家の外に出た。
外に出るとすでに村の男たちが集まっていた。
「何かあったんですか?」
男性の一人がリューを見る。
「あんたは、コレットが連れてきた」
「リューです」
「こんな時間に警鐘鳴らすなんて何かあったの?」
男性がコレットの方を見る。
「ゴブリンだ」
「!」
「だからお前は家の中にいろ。出入口は全部塞げ」
「わ、分かった」
コレットは駆け足で家に戻る。
(ゴブリン)
知識にはある。アニメや漫画でも良く出て来る背の低い魔物だ。
大体の場合、女性を攫って子供を無理矢理産ませる。
コレットを家に帰したところを見るとこの世界でも同じようだ。
しかし、そうなるとよりここがフォレスティアである可能性が低くなった。
フォレスティアにはゴブリンやオークのようなファンタジーに出て来るような魔物は存在しない。
「あんた、戦えるか?」
昼間にリューが話を聞いた男性が声をかけてくる。
「多少なら」
正直分からない。まだこの世界に来てから一度も武器を握っていない。
だが同時にこれはチャンスだと思った。自分がリューなのか龍也なのか。自分がこの世界でどのくらい戦えるのかを知ることができる。
「戦えるなら問題はない。ただ、危ないと思ったら下がってくれよ」
「はい」
リューたちが村の外に出ると少し離れたところに赤く光る眼がいくつも見えた。
「多いな、30はいるか」
近づいてくるのは全身が緑色の皮膚、醜い顔、背は小学生程度、手にはこん棒を持った小人の群れだった。
(あれがゴブリン)
イメージ通りの姿だったが、イメージしていたよりもずっと醜く、嫌悪感を抱いた。
「なあ、リュー。お前武器は?まさか素手か?」
「いえ」
リューはメニュー画面を操作して武器を出現させる。
「これです」
「なんだこれ?魚か?」
そう、魚である。
「マグロです」
冷凍マグロ、武器種大剣。
「でっけー魚だな。そんなんで戦えるのか?」
「まあ、見ていてください」
そんな話をしているうちにゴブリンの群れは村のすぐそばまで来ていた。
リューはゴブリンに向かって突っ込んだ。マグロをつかんだ瞬間に戦い方が、マグロの使い方が頭の中に入ってきた。
「よいしょー!」
マグロを横に振ると、その軌道上にいたゴブリンが血しぶきをあげて切り裂かれる。リューはマグロを縦に、横に振りながらゴブリンを切り倒していく。
「なあ、それ何で切れるんだ」
当然の疑問だ。マグロに刃は付いていない。鋭いところも特にはない。
「分かりません!」
「分かんないのに使ってるのか!?」
「これが武器で、振れば切れる。それで充分です」
「そ、そうか」
村の人たちは少し困惑気味だが気にしない。そんなことを気にしていてはネタ武器は振れない。
「危ない!」
ゴブリンの1匹がリューの後ろに回り込んでいたが、村の1人の弓矢に貫かれた。
「ありがとうございます」
「旅人だけにやらせるわけにはいかねえな!俺たちも行くぞ!」
その号令と共に村の男性陣がゴブリンに突撃する。
「これで最後」
リューが最後の1匹のゴブリンを切り伏せる。
「しかし、何でゴブリンが?」
「この近くに巣を作ったなんて話聞いてねえよな」
ゴブリンの死体は1ヶ所に集めて燃やすそうだ。放っておくとアンデット化する可能性があるのだそうだ。
「とりあえず、町の冒険者に森の探索依頼を出そう」
村に戻り、ゴブリンを駆逐したことを伝えると家々から人が出て来る。
「大丈夫?怪我してない」
コレットもリューのところに駆けてきた。
「ああ、何ともないよ」
「こいつの活躍、すごかったぜ」
大柄な男性がリューに肩を組んでくる。
「そうなんだ」
「おうよ、どうだ、このままこの村に住まないか?」
「え?」
困惑するリューをよそに賛成の声がどんどん上がる。
「何だったらコレットと所帯を持たないか」
「はい?」
「ええええ!」
(所帯を持つって、結婚てこと、だよな?)
困惑しつつコレットを見ると、こちらも驚きの表情をしている。
「いやあの」
「リューにだって旅してる理由もあるかもだし」
一瞬それもいいかもと思ったがコレットの言葉で考え直した。
(旅の理由か)
この世界のこと、なぜ自分がこの世界に来たのか。まだまだ分からないことばかりだ。
「すみません。俺にはやらなければならないことがあるので」
リューがそう言うと騒いでいた人々がどんどん静かになっていく。
「そうか、それは残念だ」
「いつまでこの村にいるんだ?」
(あんまり長くいるとまた引き留められそうだな)
「明日の朝にはここを発とうと思います」
「そうか、無理には止められないな」
そうしてその場はお開きとなった。
翌朝、村のみんなに見送られる形になりながら村を出ることになった。
「これは少ないですが昨日のお礼です」
村長だと思われる老人にそう言って渡されたのは村で採れたであろう野菜と少しのお金だった。
「ありがとうございます」
お礼を言って受け取る。
「それとな、コレット」
「はい」
「これを町まで届けて欲しい」
長老はコレットに手紙を渡した。
「これは?」
「森の探索の依頼書じゃ。これを町の冒険者ギルドに届けてくれ」
そして長老はリューに向き直る。
「すまんが、町までコレットを護衛してくれんかな」
「それは良いですが」
(これはまた戻ってきてくれってやつか?)
リューはそう思った。
「コレット、これを届けた後はおぬしの好きにするといい」
「え!?」
コレットは驚きの声を上げる。
「おぬしが良く旅人を泊まらせていたのは外の世界に興味があったからじゃろ」
「それは、そうだけど」
「わしらは何度もおぬしに助けられた。だから今度はおぬしの夢を手伝いたい」
「それに外の新しい技術とか持ってきてくれたら俺たちも楽になるかもしれないしな」
村の全員が首を縦に振っている。
「皆、うん、分かった。じゃあ、行ってくるね」
コレットがリューの隣に来た。
「でもここが私の故郷だから。必ず帰ってくるから」
手を振りながら2人は村を後にした。
まただ、ゴブリンの書き方がクトゥルフっぽく。
やっとをマグロを出せた。