ネタ装備ガチ勢、異世界で目覚める
「……の、あの、大丈夫ですか?」
声がする。女性だろうか。知らない声だ。
「う、うーん」
龍也は目を覚まし、身体を起こす。
「あ、良かった。目を覚ました」
声の方へ顔を向けると1人の少女がいた。肩で切りそろえられた茶髪を持つ整った顔の少女だ。
「君は?そしてここは?」
龍也は辺りを見回してみる。どうやら森の中のようだ。
「私?私はコレットよ。あなたは?」
「俺はたつ」
(まて、今の名前。日本人っぽい名前じゃねえよな。そうなると)
「いや、リューだ」
「何でこんなところで寝ていたの?旅人?見たことない服装だけど」
(見たことない服装?そうか、今の俺はジャージか)
そう思って自分の服装を見ると、目を見張った。
(この服装、ゲームのリューの服装そのままじゃないか!)
リューは自分が寝る前の服装、ジャージだと思ったが、今の服装は黒に青の光の線が入ったバトルスーツに黒のジャケットを羽織ったSF感しかない服装だった。
目の前の少女がファンタジー系というか中世ヨーロッパ系というかそう言った感じの服装だ。
「あー、まあ、旅人、だな」
そういうのが一番不自然じゃないと思ってそう言った。
(それにしても不思議な感じだ)
コレットが話している言葉はもちろんだが日本語ではない。しかし、聞いたことがない言葉であるにもかかわらずなぜか意味は日本語のように分かる。
そしてこちらも日本語を話すような感覚で知らない言語を話している。
「コレットさん、ありがとう。俺はそろそろ行くよ」
リューは立ち上がりながらそう言った。ふと視線を感じてコレットの方を見るとなぜかリューの顔をじっと見ていた。
「ん?俺の顔に何か?」
「あ、違うの」
コレットも立ち上がる。
「良かったら私たちの村によってかない?」
「え?」
リューは「何言ってるんだこいつ」と思った。こんな怪しさしかない人間を自分の村に呼ぶなど。
「私たちの村はこの近くだから」
コレットはそう言いながら置いてあった果物などが入った籠を担いだ。
「良いのか?自分で言うのもあれだが怪しさしかないぞ」
「大丈夫だよ。あなた、悪い人じゃないでしょ」
「どうしてそう思う?」
コレットはリューの方を向いて笑顔で言う。
「私、人を見る目には自信があるんだ」
コレットに説得されリューはコレットの村にお邪魔することになった。リューは村に行く途中で今の状況を整理してみた。
(俺はゲームをしていて、コーヒーを入れようと階段を降りようとしたときに目眩がして、落っこちたんだったか)
そして、現在、ゲームキャラの姿でここにいる。これはいわゆる異世界転移や異世界転生というやつか。
周りを見回すと木、木、樹。ゲームの知識で言えばここは森林惑星フォレスティアだろう。しかし、リューは隣を歩いている少女を見る。
(フォレスティアには人間はおろか、コミュニケーションをとれる種族はいなかったはずだ)
そうなると、ここはゲームとは関係ない異世界である可能性が高い。
(そうなると、ゲームでの能力を使えない可能性もあるのか。メインメニューを開ければ)
「うわ!」
「どうかした?」
「いや、何でもない」
コレットが心配そうにこちらを見るが、リューは何でもないと首を振る。
リューがいきなり声を上げたのはメインメニューと頭に思い浮かべた時、目の前にゲームでよく見たメニュー画面が出てきた。その画面は頭で思うだけで操作できるようだ。
(やっぱりか)
自分のコスチューム画面にすると自分のアバターが出て来る。黒髪に赤のメッシュが入ったゲームのリューの姿そのまんまだった。
(それで武器は、と)
武器の画面にして今持っている武器を確認する。そしてリューの顔に笑みが浮かんだ。
「着いたよ。ただいまー」
「おう、おかえり。誰だ?隣の奴は」
「旅人だって。森で寝てたから連れてきた」
(俺は猫か)
「だからそんな変な格好を。まあ、何にもないところだがゆっくりしていくといい」
(え?)
すんなりと受け入れた村人に驚きつつ村に入った。
「コレットちゃんおかえり、今日はどうだった?」
「それなりに採れたよ」
そう言うとコレットはおばさんに籠の中を見せる。
「あら、いいわね。少しもらってもいいかしら。今夜煮物にして持っていくわ」
「はい。ありがとうございます」
その後、コレットの家に移動した。家は木造の平屋で部屋が3つ。食事をする場所と思われる場所とあと部屋が2つ。
「お昼の準備するからちょっと待ってて」
コレットはナイフで果物や野菜、何かの肉を切る。部屋の真ん中の囲炉裏のようなもので肉と野菜を焼いていく。
その間にリューはメインメニューを操作し、服を変えようと思った。
ゲームでは服はコスチュームから変えるものと、装備から変えるものの2つがある。リューが今身に着けているバトルスーツはコスチューム、ジャケットは装備だ。
リューはジャケットを外し、コスチュームからあまり不自然さのなさそうなシャツとズボンに変更する。
「よし、できた。え、服が変わってる!」
「着替えたんだ」
「いつの間に」
不思議そうな顔をしながら、しかし、詳しくは聞いてこなかった。
「それじゃ、ご飯にしましょう!」