プロローグ
ライル
リューさん今日は何処に行きます?
リュー
そうだな
リュー
皆、今回実装されたゲリラクエストにはもう慣れたか?
ユウカ
バッチリです。攻撃パターンも大体憶えたです。
SYUNN
そろそろいつもの、ですか?
リュー
ああ、そろそろやろうかなと
ライル
了解。準備してきます。
リューこと斉藤龍也は「Planet Research Online」通称PROでチームリーダーをしていた。このゲームは惑星調査隊の一員として様々な惑星を探索するゲームだ。チームとは他のゲームで言うところのギルドみたいなものだ。
ユウカ
準備できたです
ライル
こっちもできたで
リュー
よし、それじゃあ行こうか
リューたちは4×3人のパーティを組んでクエストに向かった。今回追加されたのは火山の惑星ヴォルケールでのドラゴン討伐だ。
12人でパーティを組んでクエストに挑むのはべつにおかしなことではない。しかし、子の12人はおかしい。何がおかしいかといわれるとその装備だ。
全員がマグロを装備しているのである。
冷凍マグロ/大剣
凍らせてカッチカチになったマグロ。そのマグロに切れ味を追加させて武器として使えるよう加工したモノ。どうやって切れ味を追加したのか。なぜ氷が溶けないのか。なぜ冷たくないのかすべてが不明。
完全にネタ武器。運営がネタのために追加したとしか思えない。別にレアリティが高いわけでも攻撃力が高いわけでもない。そんな装備でゲリラクエストの最上位難易度に挑むのは彼らくらいだろう。ネタ装備ガチ勢の彼らくらい。彼らのチーム「ネタでガチろう」のメンバーくらいだろう。
カタカタカタ
リュー
皆揃ったか?
ライル
こっちはおk
SYUNN
おいユウカ、それマグロじゃなくてカジキじゃねえか
カジキこと冷凍カジキは冷凍マグロの上位互換的なものでレア度が1つ高く、攻撃力も若干高い。
ユウカ
ごめん、付与能力変えようと思ったんだけど失敗して今攻撃アップ1しかついてないのです
ライル
付け替えなかったのか?
ユウカ
お金がないです
ライル
しゃーない。終わったら金集め付き合ってやる
ユウカ
ありがとうです!
リュー
まあいいか、出発しよう
龍也はテレポーターを起動する。
ナビゲーター
これより、フレボリュス・ドラゴンの座標に転送します。
いまだにフレボリュス・ドラゴンの暴走は続いています。
このままでは原生生物に甚大な被害が出てしまいます。
このままでは生態系にも問題が生じてしまいます。迅速な対処をお願いします。
3,2、1
転送した先には巨大なドラゴンの後ろ姿があった。頭が少しだけ見えていて上下している。口の下には何かの死体が見えた。おそらく食事をしていたのだろう。
ドラゴンがこちらに気づいたのか振り返り、咆えた。
ユウカ
やっぱあれ、グロイ
ライル
あれくらい慣れろ
ユウカ
無理
SYUNN
お前ら話してないでマグロを振れ
ライル
すまん、しくじったわ
ユウカ
回復するです
ライル
すまん、助かった
オートワード(条件によって勝手に流れるセリフ)が飛び交う中、クエストは終盤を迎えていた。BGMが変わり、相手の体力が2割を切ったことを告げる。ただ、やることは変わらない。ただマグロで殴る。ただそれだけだ。マグロを持った12人がドラゴンに向かっていき、ひたすら殴る。
SYUNN
終わったー
リュー
お疲れ
ユウカ
お疲れです
ライル
何やかんやで行けるもんだな
ユウカ
今度はサンマ縛りとかやりません?
リュー
サンマ、刀だな
リュー
面白そうだな
チャットでの会話がひと段落すると龍也は椅子から腰を上げ、ベランダに出た。
「んー、やっぱネタ装備縛りは楽しいな」
伸びをしてふと空を見上げると、何か違和感を感じた。違和感の正体を探すとすぐに分かった。
月が、紅かった。
「紅い月、ねえ」
少し不思議に思ったが、深くは考えなかった。
「まあいいや。コーヒー淹れてくるか」
龍也はキッチンに向かうために階段を降りようとする。すると、突然足に力が入らなくなり、目の前がぐるぐる回りだす。
(これ、目眩ってやつか?)
ここは階段だ。このままじゃまずい。そう思っても身体はいうことを聞かない。龍也は階段を落ちていく中意識を手放した。
なんか最後すごいクトゥルフぽくなった気がする。きっと気のせい。そう気のせいだ!