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異世界でカレー作り〜ドライカレーの極意〜

「ああ、ドライカレーね」


「なんだ。知っていたのか」


「でもあれって何か特殊なルーとかが必要なんじゃないの? 普通のカレーとは別物だと思ってたんだけど」


「そんな事はない。 ドライカレーはその名の通り乾いたカレー。つまり普通のカレーから水っ気を弾けばそれはドライカレーだ」


 そう言ってノアは鍋に油をしき、粉々となった具材を入れ、手際よく炒め始める。

 かなり慣れた手捌きだ。


「すごいなぁノア君。料理できるんだね。僕に何か手伝える事はあるかい?」


「そうだな……。 じゃあ、あの馬鹿共を見張っててくれないか?」


「え?」


 チェルシーとサラは米を炊いている飯盒の前で何やら話している。


「サラちゃん、知ってる!? 炊飯はね、「はじめちょろちょろなかぱっぱ」なんだよ!」


「知ってる」(小声)


「だからそろそろ火を強くしなきゃいけないから、一緒に最上級「火」属性魔法の「アルティメットプリズンフレイムガイアメガファイア」を唱えよう!」


「分かった」(小声)


 2人は杖を手に持ち、合図をする。


「「せーの!」」


「待った! 待った! チェルシーちゃん、サラちゃん、火の調整は僕に任せてくれないかい?」


「え〜〜? せっかく盛り上がってたのに〜」


「僕、炊飯の火加減には自信がある(?)んだ!」


 僕は2人の前に割って入り、杖をかざす。


 昨日夜中に基本的な魔術式と詠唱式は覚えたが、実践は初めてだ。


 火力はさっきノア君が唱えていた詠唱式の値が〜だったから、(クリス)の魔力出力を考慮して割り出すと……


 頭の中で詠唱式を組み立てる。


 そしてその式を詠唱した。


 ボッ


 すると飯盒下の火力が上がり、ふさわしい火加減になる。


「よし、成功した」


「僕」の人生初めての魔術。

 まさか、米を炊くのに使うとは。


「火弱くない? もうちょっと強くした方がいいんじゃない?」


「いや、これくらいで多分大丈夫だよ……。それよりノア君が面白いカレーを作ってるから観に行こうぜ」


 先程から素材の炒まったいい匂いが鍋の方からする。恐らく、ここからルーの投入だろう。


「ノア君、調子はどうだい?」


「いい所に来たな。ここから一気にドライカレーに仕立て上がるぞ」


 ノアは鍋にルーと少量の水を入れる。


「あとは混ぜて煮詰めて、炒めるだけだ」


 彼がヘラを捌くにつれ、見る見るうちに僕の知っている「ドライカレー」が出来上がる。


「あ! 「ドライカレー」だ! なるほど、すごいねノア君! そんな難しそうな料理作れるんだね!」


「ノア、さすがね。私の意図を汲み取ってくれるなんて。そう、私は最初から「ドライカレー」を想定して具材を切っていたの。だからさっきのは別に失敗じゃないわ」(小声)


「……」


 ノア君が苦い顔になる。

 2人に対して腹が立ったのか、あるいは「ドライカレー」が当たり前に知られていて楽しく無いのかは分からない。


「米は炊けたか? 冷めない内にさっさと食うぞ」



 僕たちは皿に米とルーを取り分け、それぞれ席に着く。


「「いただきます」」


 僕はドライカレーを口に運ぶ。


 ……うまい!

 ドライカレーって濃すぎたり、くどかったりする事が多いけどこれはルーと水分量が正に適量なんだろう、どんどん(スプーン)が進む味付けだ!

 具材も無駄に均一かつ綺麗な形で食感が楽しいし、「ドライカレー」と調和している。

 米も中まで火が通ってて美味しい!


「すごい! 美味しいよ、ノア君!」


「……まあまあね」(小声)


「当たり前だ。この俺が作ったんだからな」


 ノアは得意げになる。


 最初は、ノア君は輪を乱す問題児でチェルシーがこの班のまとめ役、みたいな印象だったけどまさか正反対とは。

 人って分からないものだなぁ。


「お、この班はもう出来たのか。早いな」


 巡回していた先生が僕たちに話しかける。


 そういえば、他の班はどうなってるんだろう。


「馬鹿! 何やってるんですか! リアム君!」


「仕様がねえだろ。ちまちました調整は苦手なんだ」


「アルティメットプリズンフレイムガイアメガファイア!!!」


「シノちゃんやめて! お米が消し飛んじゃう!」


 ……



 なるほど僕たちと似たような感じか。

 けれど、何だかんだ料理は「成り立っている」様子だ。

 どの班も常識人vs非常識人の構図で上手いこと制御されている。



「はい。ノア君が料理上手で。殆どやってくれちゃいました」


「そうだったのか? 以外だな。ノアは料理ができたのか」


 先生も最初の僕と同じ認識だったらしい。


「けど、他の班もそろそろ出来そうですね。 このクラスの面子(知ったかぶり)でカレー作りが成り立つなんて思いませんでしたよ」


「当然だ。 俺が上手くいくように班を組んだんだからな!」


 この先生、形だけの先生だと思ってたけど、以外と生徒たちの事をよく知ってるんだな。


「この班はクリス、お前がいるから心配は無かったぞ!」


 クリス君は優等生だったらしい。

 まさか中身が最底辺陰キャに変わっていると知ったらさぞショックを受ける事だろう。


「ノア君、お代わりちょうだい!」


 チェルシーが威勢よく催促する。


「……もうちょっと味わって食えよ」



 けどいいな。この感じ。

 先生がいて、クラスメイトがいて、みんなが仲良くしてくれて。

「僕」も最底辺陰キャラじゃなかったら現実世界でもこんな青春が味わえたのかな。


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