陰キャラと陰キャラが集まっても会話は弾まない
「しまったなぁ。こんな所で聖騎士である君に出くわすなんて」
栗栖川は臨戦体制を取り、後ろに下がる。
「いや僕はもう聖騎士じゃ無いし、君に攻撃したりしないから、そんなに身構えないでよ」
「え? そうなの?」
「うん。 あの時は攻撃してごめんね栗栖川君」
僕の言葉を聞き、彼はあっさり警戒を解く。
「そっか……。そうなんだね……! いやあ、実は違和感があったんだよ。レストランで見た時から「何となく」君にはシンパシーを感じてたんだ。 だから君みたいな人間が聖騎士に属しているのは不自然だったよ」
「それには色々事情があってね。 君にシンパシーを感じていたのは僕も同じだよ。 取り敢えず、その辺のベンチにでも座って話そうぜ」
「うん! 」
僕たちはコンビニからしばらく歩き、水路前のベンチに座る。
「嬉しいなぁ。こんなに僕に親しくしてくれた人は君が初めてだよ! クリス君!」
ちょっと駄弁るの誘ったくらいで大袈裟だなぁ。
「そうなの?」
「うん。大抵の人間は僕に「冷たい」んだ」
「へえ」
でも異世界に来る前は僕も似た様なものだったな。
「だからこういう時、何を話せばいいのか分からないんだよね」
……。
最初僕は彼のことを詮索するつもりで、探るつもりで対話を持ちかけたが、そんな気も失せてきたな……。
「僕も分からないよ。けど、たぶんどうでもいい事で良いんじゃないかな。例えば、「栗栖川君、さっきコンビニで何を買ったんだい? ちなみに僕は水を4本買ったよ」」
僕は袋からクリスタルゲイザーを取り出し、見せる。
そして彼は嬉しそうに問いに答える。
「僕は炭酸ジュースだよ。 この世界……じゃないやあのコンビニにしか売ってないジュースが有るんだ」
栗栖川は袋からペットボトルを取り出す。
「この「ソルティライチソーダ」が好きなんだ。元々ソルティライチが好きだったんだけど、あのコンビニでこれを発見してからどハマりしてしまってね」
僕も現実世界でよく飲んでたなぁソルティライチ。
「へえ。僕も後で買ってみようかな」
「いっぱい買ったからクリス君にも一本上げるよ!」
「本当かい? 有り難う!」
僕は彼から受け取る。
蓋を開けるとプシュっと炭酸の心地よい破裂音が
鳴る。
涼しく、水の流れる音が聞こえ景観の良い心地良いベンチで僕はそれをグイッと飲む。
「うおおおお、何だこれ。めっちゃうめぇ」
「そうだろう、そうだろう」
栗栖川は嬉しそうな顔で、同様に蓋を開け飲み始める。
「……まあこんな感じだよ。最初は他愛のない無難な話から始めるのがベターだ。 間違っても初対面の人に自分の趣味の話とか理屈っぽい話をしちゃあいけないよ。陰キャラだと思われるからね」
「でも僕たちは初対面じゃないし、今確信したよ。僕たちは「親友」だ」
「そこまでかい?」
滅茶苦茶人懐っこい奴だなぁ。
最初会った時からは想像もつかない。
あの時は不意打ちで僕を攻撃しようとしていたのに。
「そういえばあの時君は「世界を救う」とか言ってたけど、それは順調かい?」
「……うん。順調だよ! 言ってなかったけど、実は僕「勇者」なんだ! 」
「勇者?」
確かアレスも勇者を名乗っていた様な。
アレスは「勇者はこの世界に1人」という風に言っていた気がしたが、この世界には勇者が複数いるのか?
「僕はこの世の全ての「不幸」と「不平等」を無くす為の旅をしているんだ!」
ああ、勇者って言うのは比喩表現か。
「それはとても素晴らしい「勇者」だね。人を力で支配する「勇者」よりもよっぽど」
それを聞いて笑みを浮かべていた栗栖川の顔つきが変わる。
「そうだろう。僕から見れば帝国の、「勇者」を名乗っているアレスは、「魔王」だよ」
「アレス君を知っているのかい?」
「もちろんさ。僕は今まで彼によって、彼等によって多くの人が蹂躙される光景を見てきた」
栗栖川は立ち上がる。
「だから僕は魔王を倒すためにこの町に来たんだ」
「魔王を倒す……? 確かに君はすごい能力を持っているけどそれは無理だと思うよ。僕は一度対峙した事があるんだけど、彼は別次元の強さだった」
「やってみなきゃ分からないさ」
「それに仮に彼を倒せたとしても、帝国が為すことは変わらないんじゃないかな。第2第3の王が現れて、同じ様な事をするだけだよ」
「だから、彼に関わったり、逆らったりしない方がいい。下手をすれば君は殺されてしまうかも知れないよ」
「殺されるのなんて怖くないさ。僕は既に死んでいる様なものだしね。そして、アレス一人を倒したところで意味が無いのも分かってるさ。だからこそ僕は「宝玉」を集めているんだ」
「宝玉」。
火山で彼が手にしていた物だ。
「その「宝玉」って言うのは一体何なんだい?」
栗栖川は少し悩む素振りをし、「まぁ、いいか」と呟いた後答えた。
「武器だよ。帝国を倒すためのね。正確には「勇者の剣」のトリガーなんだけどね。なんと、あの「宝玉」を4つ集めて「勇者に剣」に装着すると、一振りで国を滅ぼせる代物が出来るらしいんだ!」
彼は例の能力を使い、異空間から「勇者の剣」らしき物を取り出す。
「おっとっと、相変わらず重いなぁこの剣」
……一振りで国を滅ぼす?
馬鹿げた話だけど妙な説得力がある。
トリガーとなるらしい「宝玉」は帝国がエネルギー源としていた魔物の核だった。だから、「宝玉」が高エネルギーを内蔵しているのだとすれば、4つ集めると凄まじい力を発揮する、と言う話は辻褄が合わなくも無い。
それに何と言っても彼は「転生者」だ。
それも、馬鹿みたいな能力を持っている。
だから彼が馬鹿みたいな武器を持っていようが何の違和感もない。
「それは恐ろしい代物だね。でもそんな物で帝国を滅ぼせたとしても、やっぱり意味なんてないんだよ。 帝国が消えればまた、他の国が台頭して同じ様な事をするだけさ」
「そしたらまた、その支配者を滅ぼすだけさ」
「……そんな事を続ければ世界は滅びるんじゃないか?」
「いいじゃないか、それで」
「え?」
「世界が滅びれば、支配者は居なって、虐げられる人間は居なくなる。 誰も悲しまないし苦しまない、平等で平和な世界だ」
「本気で言ってるのかい……?」
今まで僕は彼のことをどこか英雄視していた。
「転生者」の彼こそ、この異世界の「主人公」なのでは無いかと。
「馬鹿げてるよ。そんなの帝国なんかよりよっぽど「悪」じゃないか」
「悪?」
栗栖川は笑みを浮かべて言う。
「僕はね、この世に善悪なんて無いと思ってるんだ。 だってそもそもそれって誰が判断するんだい? 誰が決めたんだい? 好き勝手人間が決めたものだろう? 例えば魔物を殺しても悪にならないけど、人を殺すのは悪いことだよね。けど僕には魔物や動物は殺して良くて、人は殺してはいけない理由が分からない。 どちらも同じ、掛け替えのない生命を奪う行為だ。だから結局善悪なんて、人間が自分勝手に決めた自分達に都合の良いように作った概念でしか無いよ」
「……哲学でもするつもりかい? その通り、善悪を決めるのは人間だよ。そして、人間が作った勝手な概念に過ぎない。けど、僕たちはそれを決して蔑ろにしてはいけないんだ。だってそれは人がみんなで幸せに生きていくための概念だから。それが無くして人と人は共存できない。善悪は人が他者と共に幸せになるために作られたんだ。だから、他者を幸福にする事は善だし、他者を貶めたり、蔑ろにする事は悪だ」
「みんなが幸せに……ねぇ……」
栗栖川は続けて言う。
「でも善悪は僕を助けてくれなかったよ? いや、僕だけじゃ無い、この世には他者に貶められ、搾取され続けている被虐者がごまんといる。結局善悪は強者のための概念なんだ。力がなければ悪を悪として倒すことは出来ないし、他者を幸福にすることは出来ない。力がない奴に善悪は意味がないんだよ。僕には善悪が、裕福な人間が貧しい人間に「盗みを働くな」と言ってるようにしか聞こえないし、生きる事が幸せな人間が死にたいと思っている不幸せな人間に「俺たちを殺すな」と言ってるようにしか聞こえない」
「それは違う、善悪は被虐者を救う為の物でもある。力ある者が弱者を、被虐者を救う理由を作っているじゃないか」
「それで救われる人間は結局運が「強い」、「持っている」人間だけだよ。大抵の「持っていない」人間は搾取されたまま、虐められたまま、不幸せなまま、死んでいくよ」
「だからって、善悪を否定して人を傷つければ不幸な人間が増えるだけだよ」
「そうさ。僕はそれを望んでいるんだ。僕は幸せな奴らが嫌いだから、そいつらが不幸になるなら本望だ。そもそも善悪に救われない僕がなんで善悪に則る必要があるんだい。そんな義理どこにもないだろう。君は僕に泣き寝入りをしろと言ってるのかい?「復讐することは悪だ。人を殺すことは悪だ。だから、お前を虐めてきた奴らに復讐するのはやめろ」、そんなの「僕」が納得出来るわけないだろう」
「……僕に君が今までされた事とか、どんな背景があるのかは分からないよ」
そして本当の弱者にとって善悪に意味が無いのも事実かもしれない。結局のところ人間は皆誰かを、何かを犠牲にしながら生きていて、皆んながみんな幸せになるなんて不可能だ。悪人が必ず裁かれる訳でもないし、善人が必ず報われる訳でもない。
結局善悪関係なく「自分さえ良ければそれで良い」と思ってる人間が幸せになりやすいのだろう。それを押し通せるのが強者で、それがやりたくても出来ないのが弱者だ。
「おかしいだろ、今まで散々僕を追い詰めといて、いざされる側になったら僕を悪だと見なすのは。結局、善悪それは大多数の「強者」にとって都合のいいだけのまやかしだ」
「そうだね……。ごめん、確かに君にとって善悪は意味が無いし、僕が善悪を君に押し付けるのは傲慢だった」




