世界を救う為
「あの時」と同じだ。
やはり帝国が魔力源としている、魔力を内に秘めている物は魔物であるらしい。
そして栗栖川と槍の男はいつの間にか姿を消していた。
ドラゴンの攻撃対象は僕たちに向けられる。
来るっ……!
「グォオオオオオオオ」
ドラゴンは僕たちに向かって火を吐く。
「あ、熱っ! もう!ダメですよ、ドラゴンさん!」
メアリーは防壁を張り炎ブレスを防ぐと同時に、燃焼を打ち消す。
「隙だらけだぜ、ドラゴンさんよぉ!」
その間にミラはドラゴンに距離を詰め、両氷刃剣で切りつける。
「グァアアア!」
ドラゴンはミラに切りつけられると、鳴き声を上げて怯む。
「有難う、2人とも。 はぁっ!!! 」
ヘンリーは「土」属性魔法による岩石隆起によってドラゴンの足、胴体、尾を串刺しにし、動きを封じ込める。
すごい……これが聖騎士か……!
おそらく「木の巨人」と同格であろう岩石のドラゴンを圧倒している。
僕たち4人も加勢し、ドラゴンにダメージを与える。
「グァアアアアアア!」
ドラゴンは弱っていき、動きが鈍っていく。
これなら僕がドラゴンの頭上まで登っていき、「眠らせる魔術」をかけられそうだ。
案外呆気なかったな。
いや、「木の巨人」の時とは魔力残量も人数も段違いだからか。
味方が強すぎるだけに過ぎない。
しかしなんだこの違和感は……。
まるで掌の上で踊らされているような。
まあいいや、さっさとドラゴンを眠らせて帰ろう。
「はあっ!!」
僕がドラゴンに近づいたその時、上空から降ってきた男の槍の一撃により、ドラゴンは絶命させられる。
ドラゴンの体が崩れ落ちていく。
神樹の時とは違い、元の「魔光岩」の姿に戻る気配はない。
「ありがとうねみんな。僕のために働いてくれて」
気がつくと、栗栖川がドラゴンの死骸の上に立っていた。
「また」だ。氷柱に囲まれていた時突然現れた槍の男と同じように、栗栖川も気づいたらそこにいた。
「僕たちの戦力じゃあこのドラゴンを「倒す」のは一苦労だからねぇ。君たちみたいな強い人がいてくれて助かったよ! 」
そう言うと栗栖川は死骸の中から何かを拾い上げる。
玉……?
遠くてよく見えないが、紅色の小さな玉のようだ。
そして栗栖川の台詞から僕の予感が的中していることが分かった。
僕たちは栗栖川にいいように使われたらしい。
「じゃあ僕たち、そろそろ行くね」
栗栖川が虚空に手をかざす。
「待ってくれないかい、栗栖川君。君はその「玉」を手に入れるために、ドラゴンを起こして僕たちに戦わせたのかい?」
「うん。そうだよ」
「一体何の目的で?」
栗栖川はキョトンとした顔になる。
そして顎に手を当て何かを考えている。
しばらくして、にやけ顔で答えた。
「世界を救う為、かな!」
栗栖川は手をかざし、そこに生じた次元の歪みの中へ槍の男と共に入っていく。
そしてその場から消失した。
なるほど次元を歪ませて、空間の中をワープしていたのか。
射程は短いとは言え、一撃必殺かつ、汎用が効く能力。
正真正銘のチート異能力だ。
「あいつなんだったんだ?」
ミラが投げかける。
「私、ちょっと怖かったよ。得体が知れないって言うか、異様な雰囲気っていうか……」
「うーん……レナはそう感じなかったかなぁ」
「何はともあれ「魔光岩」が無くなったから火山の活発化は時期に収まるだろう。まぁ、同時に魔力源も失ってしまったわけだが……。嫌だなぁ報告するの……」
ヘンリーが溜息を吐く。
ん? 「魔光岩」が無くなったらこの山はどうなるんだ?
火山じゃないただの山とかになるのか?
まあ危険がないなら僕には関係ないや。
「ここにいても仕様がないからとりあえず、帰ろうよ。ここ暑いからさ」