異世界二日目にして林間合宿!? 〜林間合宿編スタート〜
「クリス様! 起きてください! 林間合宿に遅れますよ!」
「うが……?」
僕は昨日の夜中、林間合宿のしおりと魔術書を読み込んでいて……、そしてそのまま机に突っ伏したまま寝た様だ。
「もうこんな時間か!?」
時計は6時を指している。
普段(と言っても昨日異世界に来たばかりだが)は7時起きで全く問題無いのだが、林間合宿のため早めに出なければない。
僕は私服に着替え、急いで食事と支度を終える。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃいませ、クリス様」
外は涼しく、まだ人通りは少ない。
そして丁度日の出が出かかっている。
そんな町の中を心地よさと高揚感を感じながら僕は走る。
林間合宿。
元の世界でのそれは僕にとって地獄だったが、クリスとしてなら、それを楽しむことが出来るに違いない。
僕は失われた青春を取り戻すんだ。
学校に辿り着くと、門の近くに大きな魔道具が停まっていた。
「おい、クリス! 遅いぞ! 」
そのバスの様な魔道具の前で先生が僕に気づき、呼びかける。
「す、すいません!」
「もうみんな中で座席に着いている。 早くしおりに書いてる座席に座れ」
魔道具の中に入る。
外見だけで無く中身もバスみたいだった。
「ええっと、席は……」
「クリス君、こっちこっち!」
大型魔道具(以下バス)後方から声がかかり、僕はその席に向かう。
席卓は2席2席が向かい合わせになっており、計4席。(新幹線みたいな)
そこに僕を除いた3人が既に席に着いていた。
僕は空いていた通路手前の席に着く。
「お、おはよう」
「おはよー!」
「…………おはよう」(小声)
「ふんっ……」
個性溢れる(僕にとって)初対面の面々にあいさつを返される。
「よし、そろったな。じゃあ出発するぞ」
僕が席に着くと同時にバスが動き出す。
「ふぅ……」
良かった。間に合って。
「クリス君……すごいね! あと1分遅かったら置いてかれてたよ! ギリギリを生きてるね!」
対面に座っている女子、チェルシー(しおりで名前は確認した)が僕に話しかける。
チェルシーは超絶美少女で髪色はオレンジ掛かった茶色、長さはセミロング。明るい色の瞳。胸は大きい。
また頭に鶏のぬいぐるみの様な愛くるしい帽子を被っている。
「あはは。寝坊しちゃってね」
最初に僕を呼びかけてくれた事や、雰囲気からチェルシーは陽キャラっぽいことが分かる。
対して、他の2人はクセが有りそうだ。
「…………むにゃむにゃ」(小声)
チェルシーの隣に座る少女、サラは枕を抱きしめ、眠そうにしている。
サラは超絶美少女で、薄水色の長く綺麗な髪だ。暗い色の瞳で背が低く胸が小さい。高校生にしては幼い外見である。
先程僕の挨拶に返してはくれたものの大人しく、小さい声だったので、雰囲気と併せても彼女は陰キャラ寄りだと判断できる。
「……」
そしてこの卓の最後の1人、僕の横の席に着いている男、ノアは頬杖をつき足を組みながら窓の外を見ている。
ノアは超絶イケメンで髪色は黒。目つきが鋭く片目を隠す程前髪が長い。身長は175cmくらい。
見た目、言動から察するにクール系だろうか。
陰キャラか陽キャラの判別はつかない。
林間合宿のしおりによると、この3人は僕と同班であるらしく、山に着いてからも一緒に行動するらしい(何をするかは分からない)。
だから、今の内に彼らのキャラを掴み、良好なコミュニケーションを行わなければ。
「早速なんだけど! みんなと親睦を深めるためのいいものを持ってきたんだ!」
陽キャラチェルシーが鞄の中から何かを取り出す。
「じゃじゃ〜ん! トランプ〜!」
この異世界トランプあるのかよ……。
もっと異世界っぽい魔法学校らしいものはないのか?
僕にとっては有り難いけど。
「…………!」
それを見て眠そうにしていたサラは急変し、分かりやすく目を輝かせる。
サラちゃんかわいいな。
ともあれ、せっかくチェルシーが取っ掛かりを作ってくれたんだ。
これに乗らない手はない。
「いいね。やろうやろうーー
「下らん。貴様らだけで勝手にやっていろ」
なるほど。
ノア君はそういうキャラか。
陰キャラとはまた別のそういう。
「え〜〜? そんなこと言わずにノア君もやろうよ!」
「断る」
「ノア君、林間合宿は親睦を深めるための授業だよ。行動を共にすることで、ほら、コミュニケーション能力?とかチームワーク?とかを学ぶんだ。だから……
「トランプをすれば戦闘の連携が取れる様になるとでも言うのか? クリス、お前の言ってることは詭弁だ。馴れ合いとチームワークは違う」
ノア君手強いな。
けれど、ちゃんと対話してくれるタイプらしい。
それなら……
「トランプだって頭を使う戦いの一種だろう。4人でトランプで戦って通じ合う事で、実際の戦闘でも連携する力が高まるなんて事も無くは無いんじゃないかなぁ」
僕は一呼吸おく。
「いやそれとも、もしかして、ノア君はトランプで負けるのが怖いのかな?」
「何……?」
「ここに居る可愛らしい女子や僕に、遊びとは言えど「負ける」のが怖いのかな?」
少し驚いたような様子でノアは僕の方を見る。
「ククク……。クリス、お前がそんな挑発をするとはな……」
ノアは続けて言う。
「いいだろう、俺がお前らを完膚なきまでに叩きのめしてやる」
「いいね! ノア君、クリス君! じゃあ早速手札を配るね!」
…………
「ノア君弱〜い!」
「……手加減しようか?」(小声)
「馬鹿な……この俺がまた大貧民だと……?」
ノアがトランプ(大富豪)でコテンパンにされ、美少女2人に煽られている。
因みに僕はと言うと、現実世界で陰キャラだったのでカードゲームの類には長けている。だから、そこそこ勝ち越すことが出来た。(サラちゃんが群を抜いて強かったが)
「しょうがないさ、ノア君。やってる感じ、君はほぼ初心者だろう? 」
「未だだ……! もう一回だ……! この俺が敗北したまま終えるなどあってはならない……!」
「お〜い! そろそろ着くぞ〜! 降りる準備をしろ〜!」
バス前方から呼び掛けがかかる。
「くっ……!」
「まあまあ。君と僕で泊まる部屋は同じらしいし、また夜やろうぜ」
「あ、それならトランプ貸してあげるよ〜」
チェルシーが鞄から2個目のトランプを取り出す。
まさかトランプを2個持ってきているとは……陽キャラの鑑だ。
ノアはチェルシーからトランプを受け取り、僕に言う。
「いいだろう。次こそお前のそのにやけ面を歪ませてやる」
僕たちはバスから降り山の中を歩いていく。
しばらくすると炊事場? バーベキュー場のような場所に辿り着く。卓の上には食材の様なものが置いてあった。
どういう事だ……?
僕はこれから森の中で魔術訓練みたいな事をすると思ってたが、まさかカレーでも作らせるつもりじゃ……。
「今からお前たちにカレーを作ってもらう!」
「「えーーーーー!?」」
僕も驚いたが、それ以上に周りが驚いている。
昨日図書館で得た情報によるとこのクラス、先進魔術学科は帝国全土から集められた選りすぐりの魔術エリートのクラスだ。
こんな所に連れてこられてカレーを作れと言われたら驚く、のは僕の感性と一致しているらしい。
他班の真面目そうな男子が前に飛び出して言う。
「先生、僕たちは仮にも上級魔術師です! 国から依頼を受ける事も有るのに、カレー作りとは余りに僕たちを馬鹿にしてはいませんか?」
「お前こそ「カレー作り」を馬鹿にしてはいないか? どうせ、魔術の勉強ばかりやっていてカレーなんて作った事ないだろう」
「うっ……それは……」
「いいか、お前たちは「魔術馬鹿」の世間知らずだ。 料理なんていつも使いの執事やメイドさんに作ってもらってるんだろう? それじゃあ駄目なんだ。 これから人の上に立つなら、一般的な教養を身につけなきゃあならない。 「人」として尊敬される存在で在らなきゃならない。じゃないと下の人間は誰もお前たちについて行かなくなるぞ」
お〜〜先生っぽい説教!
ただ、元「下の人間」である僕から言わせて貰えば、的外れもいい所な説教だけど。
「カレーは班ごとに作ってもらう。素材は卓上に置いてあるから好きに使え。では授業開始!」
生徒たちは班ごとにばらけ、動き始める。
「ひぇ〜〜、カレー作りかぁ。みんなは作った事ある?」
「…………無い」(小声)
「僕もそんなに無いかなぁ」
食事はスーパーの弁当や、インスタントで済ませていて自炊は余りしてなかったからなぁ。
「ノア君はどうなんだい?」
「……さあな」
……。
彼が料理をするイメージが湧かないので、多分作った事はないだろう。
「でも取り敢えずお米を炊かなきゃだよね!」
そう言ってチェルシーは炭に向かって杖をチャッカマンの如く扱い、魔術によって火を起こす。
そしていい感じに火が灯った。
「あとはお米を火で炊くだけ!」
チェルシーは無駄に手際良く卓上の袋から飯盒(飯盒炊爨の米炊くやつ)の中にそのまま水も入れずに米を入れ、それを炭上に設置し「焼き」始める。
「よし! これでお米はおっけー!」
「チェルシー、貴様馬鹿なのか?」
「へ?」
僕がツッコミを入れる前にノアがツッコミを入れる。
「水を入れずそのまま米を「焼いても」炊ける訳がないだろう」
「水!? で……でも……! 炊けたお米ってホカホカモチモチだし、水なんて入ってないよ!?」
ノアは唖然とした様子で彼女を見た後、飯盒からボウルに米を移し水を入れ、米を研ぎ始めた。
「まず米は洗え、糠が残って不味くなる」
ノアは米を研ぎ終えた後飯盒に米を移し、水を適量入れ炭上に設置し、チャッカマン(杖)で再び火をつける。
「米は水を吸うから、貴様の言う「モチモチ」になるんだ。 貴様のやり方だと「アチアチカリカリ」の謎の物体が出来上がるだけだぞ」
「うっ……うう」
チェルシーが顔を赤らめながらたじろぐ。(かわいい)
「チェルシーは馬鹿ね。お米も炊けないなんて」(小声)
チェルシー達が米漫才をしている横で、サラはまな板に具材を並べていた。
それも、かなり丁寧に綺麗に並べている。几帳面なのだろうか。
具材を並び終えた後、サラは杖を取り出した。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!(詠唱)」(小声)
サラが長い詠唱をすると、まな板の具材が宙に浮かぶ。
すごい! これが上級の魔術か!
高度で精密な魔術で具材を切るために、几帳面に並べていたのか!
「はああああ!」(小声)
サラが威勢悪く叫ぶと(因みに詠唱は終わってるので全く魔術に関与しない)、風の刃によって空中の具材がカット……否、微塵切りにされる。
肉も野菜も粉々の形状となり、まな板の上に落ちる。
おおよそ「カレー」の具材に相応しくない形状である。
「ごめんなさい……。やり過ぎた……」(小声)
「サラちゃんこそお馬鹿さんだよ! これじゃあカレーにならないよ!」
「わざとじゃないもん……」(小声)
女子2人が言い合いになっている。
僕はこの班で唯一頼りになるノア君に話しかけた。
「困ったね。どうするノア君? 先生に新しい具材を貰いに行くかい?」
「いや、その必要は無い」
「そうは言っても、ここまで粉々になった具材だと、完全にルーに溶け込んでしまうんじゃないかな? それはそれで美味しいかも知れないけど」
「クックック。クリス、お前はあのカレーを知らないのか?」
「あのカレー?」
ノア君はヘラを手に取り格好いいポーズを取る。
「今から魅せてやろう、「煮込む」事でなく「炒める」ことで生成される獄炎のカレーを」