勇者登場!まあ俺が軽くひねりつぶしてやるか
勇者?
確か図書室で調べた情報によると、キリシアは300年前魔王を倒した勇者が作った国だ。その勇者の末裔が王ってことか?
となるとこいつはキリシアの親玉だ。
「王様自ら来るとはね。わざわざこんなところまでありがとう。アレス君」
「ああ、お前に寄越した聖騎士が役に立たなかったのでな。この俺自らわざわざ出向いてやった。感謝しろ」
アレスは挑発に乗らない。
アレスには確かな王としての威厳があった。
「話ってなんだい? 」
「クリス、お前神樹の魔力吸収機を破壊したらしいな 」
「違う。 僕は壊してない。神樹様が怒って壊したんだ」
「番人の黒騎士ガゼットがお前に倒されたと聞いているが」
あのおじさん「ガゼット」って言うんだ。
「お前にチャンスをやろう」
アレスは続けて言う。
「お前が帝国の邪魔をしないなら、逃がしてやってもいい。俺は非合理が嫌いなんだ。お前を殺してもいいが、何もしないなら放っておいてやる。「俺」自らお前を殺すのは大人気ないのでな」
「本当かい?それは願ったり叶ったりだ。僕はただ、アイラと一緒に平穏な暮らしがしたかっただけなんだ。戦争とは無縁な生活がしたかっただけなんだ。ありがとう、アレス君」
「そうか。ならばこの国を出て、好きに生きるがいい」
アレスは背を向けその場を立ち去ろうとする。
僕は詠唱しアレスに氷柱の魔法を放つ。
しかし、アレスはそれを察知し攻撃を避ける。
「何のつもりだ、クリス」
「君を倒せば、この世界は「平穏」に近づくだろ?だから今僕が君を倒すよ」
アレスが臨戦態勢に入る前に僕は「時を止める魔術」を使う。
そして致命傷を与える氷柱の魔法を放った。
「時を止められるのが自分だけだとでも思っていたか?」
アレスは時の止まった世界の中を動き氷柱を剣で弾いた。
「俺は「勇者」だ。この世界で一番強い。魔術師風情がこの俺を倒せるわけがないだろう」
僕はアレスに攻撃をし続ける。
しかし一向にダメージを与えられない。
「お前が世界最強の「魔術師」でも俺は世界最強の「勇者」だ」
アレスはこちらに向かい剣で斬りかかる。
「つまり俺の方が強い」
剣は魔防壁を破り、僕の右腹部を斬り裂く。
幸い、深くまでは到達せず傷は浅い。
どうしてだ?僕は世界最強の魔術師だぞ?
本気で戦ってる。なのにアレスを倒せるビジョンが見えない。
「聖騎士最強の魔術師とはこの程度だったのか?まるで戦術がなってない。ただの魔法を振り回している「子供」じゃないか」
僕はその挑発に怒り、我を忘れアレスに向かう。
アレスは向かってくる僕を魔防壁ごと剣で裂き、僕に魔法を放った。
魔法が直撃し、僕は跪く。
「う…あ……」
「そろそろ終わらせるか」
アレスが僕に向かってくる。
そして剣を僕に向かって突き刺しにかかった。
ブスッ
その剣は僕に到達しなかった。
「お…にい…さま…」
勇者の剣はアイラを串刺しにした。
アレスはアイラから剣を引き抜く。
「ああああああああああああああああああああ」
僕は叫び、地を這いながらアイラのもとへ必死で駆け寄る。
アイラの胴体から大量の血が流れている。
僕はアイラに回復魔法を最高出力でかける。
「わたし……ずっと…お兄様に…守られて…ました…から…」
アイラが言う。
僕は詠唱し続ける。
「やっと…お兄様…を…助けることが…できました…」
アイラが事切れる。
僕は詠唱し続ける。
「興が削がれた。実に不快だ」
アレスは不機嫌に言う。
「一生己の愚かさを悔い続けろ」
アレスが去っていく。
僕は詠唱し続ける。
♦︎
アレスの言う通り僕は「子供」だった。イキったガキだった。
人の力を好き勝手振りかざし、得意げになって調子に乗ったガキだった。
なんでアレスの提案を受けなかった?
なんで合理的な判断ができない?
なぜ帝国に立ち向かう?
帝国なんて放っておけばいいのに。
結局お前の行動原理は「気にいらないから」じゃないか。
そこには大義も信念もない。
お前は我儘に暴れているだけだ。
自分ではない人間の皮を被って。
少しは冷静に考えろよ。
大人になれよ。
♦︎
それから5時間がたった。
アイラは魔法で回復し、呼吸もしている。
しかし、目を覚まさない。
「クリス君…」
リザが悲しげに、続けて言う
「一度死んだ人間は、魔法で体は回復しても魂までは元に戻らないんだよ」
「は……?」
じゃあこのアイラは、箱だけってことか?
魂のない植物状態ってことか?
アイラは死んだのか?
僕は絶望し、その場で項垂れる。
……
しばらくして、リザが思い出したように言う。
「クリス君、アイラちゃんを生き返らせられるかもしれない!」
「本当か!?」
「噂なんだけど、確かこの町の外れに、死霊術師が住んでる屋敷があるって聞いたことがある」
「その人に頼めば、アイラちゃんの魂を呼び戻せるかもしれない」