悪役令嬢の秘めたる「想い」俺はそっと彼女を抱きしめた
「「神樹」の場所を教えてくれないか?爺さん」
翌日、僕は長老に問いかけた。
「どうしてじゃ?クリス殿」
「僕が「神樹」を解放してきてあげるよ」
周囲がどよめく。
「やめておきなさいクリス殿。「神樹」の周りには帝国の見張りがついておる。儂らも戦ったがまるで歯が立たんかった」
それに続いて隣の弓兵が言う。
「クリス、悔しいが奴らには敵わない。奇妙な魔道具を使ってきて、私たちではまるで歯が立たなかった。特に大剣を使う―
「大丈夫だよ。僕ならどんな奴でも一瞬で制圧できる。直ぐに「神樹」に張り付いた魔道具を破壊して森を救ってみせるさ」
エルフたちは奇異の目で僕を見る。
「……そこまで言うなら場所は教える。だが、悪いがお主だけで行ってくれ。儂の仲間をこれ以上危険な目に合わせられん」
長老が諦めたように、悲しげにそう言った。
「ありがとう、爺さん」
――――――――
回想終了
僕はアイラと共に「神樹」へ向った。
しばらく歩き、道半ばのところで後ろから呼び止められた。
「リザ、付いて来たのか?」
「放って置けなかったからね。クリス君、様子がおかしかったし。私結構弓と魔法に自信があるから、危なくなったら逃げるのをサポート出来ると思ってね!」
「そんな心配しなくて大丈夫だよ、リザ。一瞬で片付くから」
それから暫く歩き「神樹」に辿り着く。
神樹とは巨大な大樹だった。
高さは50mを超え、太さは10m程。
神々しい雰囲気と併せて、その巨大さによる威圧感があり、神の名を冠するに相応しい大樹である。
「神樹」の周りにはキリシアの兵士が5人ほど見張っていた。
僕はアイラ、リザと共に合図をし、弓、魔法攻撃で兵士を不意打ちした。
「ぐわぁ!」
あっけなく兵士5人は気を失う。
こんなものか、見張りって。あっけなさすぎる。
エルフたちは何に怯えていたんだ?
そして、僕が「神樹」に張り付いた魔道具に手をかけようとした時、聞き覚えのある声が聞こえた。
「おっ、クリス。今から探すところだったのに運がいいな。まさかそっちから来てくれるなんて」
聖騎士リアムが言った。
「神樹」の前には僕を追っていた聖騎士3人が集結していた。
「奇遇だね僕も会いたかった所だよ」
「威勢がいいな。お前、出力特化魔道具持ってないだろ?俺たちに勝てると思ってるのか?」
「よく分からないけど、勝てるよー
「クリスっ!!!! もう止めようよ!!」
僕とリアムの言い合いに割り込み、セレナが叫んだ。
「今なら戻って謝ればまだ間に合うかもしれないから、戻ろうよ! どうして圏外に出るなんて馬鹿なことしたの? そんなことしなかったら追わずに済むのに……。クリスを攻撃しなくて済んだのにっ……。私、クリスと一緒に居たいよ……」
セレナが泣き崩れる。
リアムとエマはその様子を悲しげに見つめ、こちらを睨みつける。
「セレナ、ごめん悪かったよ。僕が悪かった。だから泣かないでくれ」
僕はそう言い、セレナを抱きしめ頭を撫でる。
「クリス……」
そして詠唱し、彼女の意識を奪った。
「クリスお前何やって―
僕は詠唱し時を止め、リアム、エマの頭を鷲掴んで同様に意識を奪う。
時が動き出し、僕の目の前で聖騎士3人は倒れ出す。
時を止めることができれば、敵なんていない。どれだけ強かろうが、封殺できる。
「一体何が起こったの……?」
リザが戸惑った様子で言う。
「おいおい、全滅してるじゃねえか。聖騎士ともあろう者がなんて醜態だ」
グレーの髪と髭を生やしていて、風貌から見るに30〜40辺りだろうか。大剣を持った黒い鎧の男が現れた。
黒い鎧の男はこちらを見る。
「おっ、君は確かクリス君か。なるほど。君聖騎士団で1番強いんだっけ?君がこれをやったのかい?すごいねえ。3対1で圧勝なんて、やるじゃないか。で、どうして聖騎士の君がこんな―
僕は詠唱し時を止め、その男に向かい走る。
どんなに強かろうが、どんなに大物ぶっていようが戦う前に意識を奪えばいい。
男の頭に手を伸ばす。
「っ!?」
その瞬間僕の手は空中で弾かれる。
男は魔防壁を張っていた。
魔防壁を貼られた状態では頭に触れることができないため、「眠らせる魔術」は使えない。
僕は距離を取り、再び時を動かす。
ーことをするんだい?」
魔防壁で「時止め」は防がれたが関係ない。それなら出力でゴリ押せばいい。
僕は詠唱し男に魔法を放つ。アイラ、リザもそれに続けて魔法、弓を放った。
しかし、悉く魔防壁によって防がれる。割れる様子もない。
「いきなりから攻撃か。おじさんと話す気は無いってことかい?」
男は大剣を振り衝撃波(斬撃)を放った。
僕はそれを魔防壁で防ぎ、再び魔法で攻撃するが魔防壁によって弾かれる。
しかも魔防壁が壊れる様子がない。
ということは、この男、魔防壁に多くの魔力を消費している。これだけの強度と長い時間で魔防壁を張り続ければそろそろ魔力が尽きるはずだ。
魔防壁が途切れたタイミングで攻撃すればダメージを与えられる。
僕は再び魔法を放つ。
「こっちの魔力が尽きるまで、攻撃しようって魂胆かい?」
男はそう言うと、大剣を「神樹」に突き刺した。
すると「神樹」の魔力が男に流れ込んで行く。
「この剣は強欲大剣。魔力吸収に特化した魔道具だ」
男は大剣を「神樹」から引き抜く。
「だからお前たちの攻撃は永久に俺には届かない」