妹と旅行してたら旅先で彼女と遭遇して修羅場になった件について
腹の傷は深く、魔力は底を尽きていたため。完全に修復することが出来なかった。
朦朧とした意識の中アイラに支えられながら進んだ。3時間ほど歩いたところでアケドニアの宿に着く。
既に辺りは暗くなっていた。
宿代を払った後部屋に入りベッドに倒れ込んだ。
「大丈夫ですかお兄様?」
心配そうにアイラが問いかける。
「あぁ‥‥大丈夫だ。あと1時間もすれば完全に治る」
強がりを言い、そこで僕の意識は途絶え眠りについた。
♦︎
目を覚ますとアイラが杖と僕の手を握り、ベット横で座りながら、眠っていた。
僕に魔力供給をしていたらしい。そのお陰もあってか僕の傷は完全に修復していた。
僕はアイラをベッドに寝かせた後シャワーを浴びる。
これから何度もこんな目に合うのだろうか。ミツェルには半日以上は眠る魔法をかけたが、目を覚まして僕がアケドニアに向かったことを伝えられたらまた追っ手が来るかもしれない。今すぐにでも逃げたい、ここに留まるのが怖い。
部屋に戻りアイラの顔を見る。
今はまだ休ませてあげたい。
大丈夫、まだ猶予はあるはずだ。
僕はアイラを見守り、夜を明かした。
♦︎
夜が明けた5時頃、僕はアイラを起こし宿を出る。
その時、3機の飛行物体が空からこちらに向かって来た。僕たちは咄嗟に身を隠す。
「朝っぱらから勘弁してほしいね。全く。クリスは何考えてやがるんだ」
「全くその通りですね。今日はせっかくの休日だったのに。もっと寝ていたかったわ」
「‥‥‥」
元の世界で例えれば、バイクのような形をした飛行魔道具から3人の人間が降りてくる。聖騎士だ。リアムとエマと、セレナか‥‥。
昨日ミツェルさん相手にあのザマだった。戦闘用魔道具を持った聖騎士3人相手に勝てるわけがない。見つかったら終わりだ。
無理にでもアイラを早く起こして逃げるべきだったか‥‥。
いや違う、これはチャンスだ。
どうせこのまま徒歩で逃げたとして限界がある。捕まるのも時間の問題だった。
あの飛行魔道具を奪えばいい。
3人が宿に入っていくのを見て飛行魔道具の元に向かう。そして起動させようと飛行魔道具のハンドルや、あらゆるスイッチを手当たり次第に押す。
しかし飛行魔道具は動かない。
どうやら詠唱で発動するタイプの魔道具だったらしい。
「アイラ、この魔道具を動かす詠唱式分かるか?」
「いえ‥‥。移動系魔道具は整番ごとに魔術式が異なるので、持ち主にしか詠唱式はわかりません」
何で異世界のくせに生意気なセキュリティ対策してるんだよ。
どうする‥‥もうすぐ宿から出てくるぞ。
考えろ。
♦︎
クリスの頭が閃く。
クリスのノートに魔道具の魔術式を読み取る魔術があった。
それを使ってこの魔道具の魔術式を解読し、そこから詠唱式を構築すれば動かせるかもしれない。
僕は詠唱し、解読を始める。
宿から3人が出てくる。
「おいクリス! 何やってんだ! 」
リアムが叫んだ。
魔術式の解読が終わる。詠唱式を頭の中で組み立てる。
聖騎士3人が走り、迫ってくる。
「アイラ、しっかり掴まっててくれ」
「はい! 」
僕は詠唱し、飛行魔道具を起動させた。
起動と同時に飛行魔道具は高度50mほどまで急上昇し、上空で静止する。
かなりの高度と急上昇に恐怖を感じたが、それ以上に焦りが上回り、なるべく下を見ない工夫と共になんとか平常心を保ち、操作を試みる。
バイクであれば右ハンドルを捻ることで前に進むがこの魔道具には右足辺りにアクセルペダルらしきものが付いている。
この魔道具では右ハンドルを捻ると高度が変わり、ペダルを踏むと前進した。かなりの速さだ。
空を飛ぶ爽快感に浸っていると後ろから魔術を纏った弓矢が飛んでくる。
バッグミラーからそれを確認し、ギリギリで避ける。
後ろには早くも2機の追っ手が来ていた。
あの3人の聖騎士の中で高精度な遠距離攻撃が出来るのはエマとセレナ。つまり二人の攻撃を避けるか耐えなければならない。
後ろから第2、第3の弓矢と魔法攻撃が飛んでくるが、僕はがむしゃらに詠唱し、それを魔防壁によって防ぐ。
攻撃を受け続けていてはいずれ破られてしまうため、魔道具を加速させる。
しかしアクセル一杯に踏み100km/時は優に超えているであろう魔道具の速さを、敵の飛び道具の速さが上回る。
ーーまずい、詠唱が間に合わない
そしてとうとう風魔法攻撃が直撃し僕とアイラは飛行魔道具から空へ放り出されてしまった。
「アイラ!! 」
空に放り出され、最初に僕の意識が向いたのはアイラだった。落下し、体の自由が効かない中、必死でアイラを空中で抱き寄せる。
アイラを上に抱き、超高速で詠唱し背中に魔防壁を張って着地の衝撃に備えた。
防壁を張った一瞬にして地面に衝突する。
魔防壁により衝撃は若干和らいだものの完全には防げず、全身を激しく地面に打ち付けられ、一生動けなくなる程度の痛みを味わう。
「う……あ……」
着地した先は森の中だった。
薄れゆく意識の中、人影を目にする。
「ーーーーうぶ!?」
僕を必死に呼びかけている。
僕は彼女の顔に目を向ける。
超絶美少女で、髪は金髪ロング、瞳の色は碧色そして長い耳。
エルフの少女がそこには居た。