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 その後、ミラノを落ち着かせるのが大変だった。

 いっそのこと本当に力づくで忘れさせてもらえないかと思うほどミラノは怒り、ずっと千波への、一条家への悪口を聞かされることになった。

 そんなミラノを宥めながら、とりあえず今日は不死人捜しを止めて帰ることにした。

 帰ってみると、既に一条家は慌ただしい空気に包まれていた。

 すでに千波から報告を受けたらしく、多くの術者たちが入れ替わり立ち代わり動き回っている。

 それを横目で見ながら部屋に戻る。おそらく報告は千波から受けていることだろう。それ以上、自分が話せることは何もない。

 部屋に入った途端――

「皆さん、忙しそうですねぇ」

 ベッドに寝転んだ双葉伽音が言う。彼女はいつも当たり前のように響の部屋にいる。一緒に暮らす親戚だからといって、もう少し遠慮してほしいと思うこともあるが、それを言っても決して彼女は行動を変えることはないだろう。

「大変らしいよ」

 おそらく、皆、『魂を喰う者』を捜しているのだろう。

「そういえば、あなた、グールと会ったのだそうですね。あなたが浄化したのですか?」

「まさか。千波さんに助けてもらった。ボクなんて、正直、何も出来なかったよ」

「何も? 今のあなたならグールごときに遅れを取るはずがありませんけど」

「ずいぶん信頼してくれているんだね」

「もちろんです。私はあなたのことを誰よりも買っているんですよ」

 そう言って伽音は意味深な笑顔を見せる。

「確かにボクには妖かしとして普通の人とは違う力がある。でも、グールに対してどうすればいいのか、そういう知識がない」

「知識ですか、そんなものは私たちに必要ありませんよ。妖かしというのは基本、本能で生きる獣のようなものなのですから」

「でも、ボクの力ではグールを倒せなかったよ。千波さんが来てくれなかったら、ボクとミラノさんだけでは対抗出来なかった」

「そういえばあのずる賢い猫が一緒でしたね。あの猫はともかく、あなたが処理出来なかったのは、それはあなた自身が本気で危険を感じなかったからでしょう」

「そういうものなの? 千波さんは、ちゃんと技術を習得しろと言われたよ」

「そう言う千波さんからは教えてもらえたんですか?」

「いや、それが……こういうのは教えるものじゃなく盗むものだと」

 それを聞いて伽音は笑った。

「彼女らしいですねぇ。彼女は本能で生きているタイプだから教えろと言われても教えられないのでしょう」

「やっぱりもう少し、ボクはちゃんと力を使えるようにしておくべきなんだよ」

「何のために?」

「こういうときのためだよ」

「普通の人間に、こういう時が訪れることは万人に一人もありえないのですけどね。しかし、あなたはどんどんその道を進んでしまうのですね。普通の人として生きるという道もあったはずなのですけれど。しかし、ここに暮らしながらそれは無理というものかもしれませんね」

「伽音さんは、手伝わないの?」

「何をですか?」

「『魂を喰う者』、それを見つけようとは思わないの?」

 きっと伽音ならば、自分が手伝うよりもずっと力になりそうだ。

「そんなこと、私にとって何の意味もありませんから。なんなら、あなたがソレを捜してみたらいかがですか?」

「そもそも『魂を喰う者』ってどういう存在なの?」

「多くの場合は妖かしです。人間の魂は魅力的な食べ物ですからね」

「亡くなった人の魂が食べられるとどうなるの? あ、それじゃ、そのせいであのグールに? あれはもともと人間ってこと?」

「あれは町村保まちむらたもつです」

「え? それってーー」

 その名前には聞き覚えがあった。すぐに響はそれが誰だったかを思い出した。先日、ある事件の殺人犯として逮捕された市会議員だ。

「そうです。あの男、逮捕された後、留置所で自殺したようです。きっと死んで浮遊霊のように漂っていたところを、『魂を喰う者』に出会ってしまったのでしょう」

「それじゃ早く見つけないと。亡くなった人がどんどんグール化したら大変だ」

 だが、伽音はのんびりした声で答えた。

「そうはならないはずですよ。本来ならば亡くなった人間の魂が喰われたからといって、全てがグールになるわけではありませんよ」

「それならあのグールは?」

「それはよくわかりません」

 あっさりと伽音は言った。

「なら、『魂を喰う者』が魂を食べたからといって問題はないってことだね」

「いえいえ、そういうわけにはいきません。それは人間のためというよりも妖かしのためでもあるのです。どんなに魅力的で美味しい食べ物であったとしても、それが身体に良いわけではありません。もし、人の肉が美味しいものだったとして、あなたは食べますか?」

「……いや」

「妖かしが死魂を食べたところで、それだけで何か起こるわけではありません。しかし、死魂を食べた妖かしはそのうち生きた魂を食べたくなる。そして、さらには人の血肉を食べたくなる。そういう者へと変化していくのです」

「それって結構大変なことだよね」

「ええ、一条家の術者たちもそうならないために動いているのです。ただ、それを捜すのはそう簡単なことではないでしょう。『魂を喰う者』は見てわかるものではありません」

「何かボクに出来ることはないのかな?」

「そうですねぇ。確かにあなたなら見つけられるかもしれませんね」

「どうして?」

「あなたは全ての生命に繋がりを持つ者です。その一つを捜し出すのにどんな苦労があるというのです?」

 伽音は漆黒の瞳で響を見つめた。


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