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響が真っ先に行ったのは、死んでいた若者を蘇生させることだった。
まだ死んで間もない。
憎しみや恨みを持って死んだ者ならば妖かしとなるかもしれない。だが、それでもこのままにしておくわけにはいかない。
響はその手に力をこめ、死んだ伊織の額に手を当てた。すぐに生命が彼の身体へと流れ込んでいく。
心臓の鼓動が動き始める。
もう大丈夫だ。
そのうち目を覚ますだろう。
だが、響には違和感があった。以前にも亡くなった人に生命を吹き込んだことがある。だが、その時は特殊な気がその人を包み込んだのを感じた。
今はそれがない。
ごく自然に。当たり前のように息を吹き返している。むしろ、それが奇妙な感じだった。
(これは?)
意見を聞こうと振り返った時、なぜかミラノと千波が睨み合っていた。
「あなた、確か隣のクラスのーー」
「蓮華千波です。あなたは御厨ミラノさんですね」
「私を知っているの?」
「もちろんです」
「やっぱり私もあなたたちの監視対象になってるってことかしら」
「監視対象? あなたなんかにそんな必要ありませんよ。私たちとあなたとは根本的に違うものです。あなたは少し普通の人と違うところがあるくらいですから」
ミラノの表情が固くなる。
「ずいぶん上からものを言ってくれるのね」
「上から? そんなつもりはありません。ごく当たり前のことを言っただけです」
「あなたたちがそれほど特別な存在だというなら、こんなことにならないようにちゃんと対策したらどうなの? この子だって殺されていたかもしれないのよ」
ミラノは気を失い足元に倒れている女子高生を指さした。
「そうですね。あなたの働きには一応感謝しておきます。しかし、一つ間違えば、あなただってどうなっていたかわからない。あまり素人がこういうことに首を突っ込むのは感心出来ませんね」
「素人ですって?」
「言うまでもないことですが、この事は他言無用にお願いします」
そう言いながらも、かなり口調は厳しい。
「口止めしようっていうの? それならそれなりの良い方ってものがあるでしょ」
「これでも丁寧にお願いしているつもりですよ。なんなら力づくで忘れていただいてもいいんですけど」
「千波さん、待ってくれる」
慌てて響が二人を止めに入った。このまま二人だけで会話を続けさせたら、収集がつかなくなりそうだ。
「何ですか?」
まるで邪魔をするなとばかりに響を睨む。
「あれは何だったの?」
「アレですか? アレは魂を食われ、グールとなったものです」
「魂を喰われた? 誰に?」
「たぶん……『魂を喰う者』に」
「……それは誰?」
「そんなこと今の段階でわかるわけないでしょう。そうそう、こんなことしてる場合じゃないんですよ」
そう言って千波が背を向けるのを慌てて止める。
「どこに行くの? この人たちは?」
「そのまま寝かせておいてください。そのうち目覚めるでしょう」
千波は凄まじい速さで走り去っていった。