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 草薙響くさなぎひびきがその噂を耳にしたのは、梅雨明け間近の暑い日だった。

「不死の子供?」

「そういう者が夜、街を彷徨っているって。今、噂されているのよ。知ってる?」

 それを教えてくれたのはクラスメイトの御厨ミラノだった。彼女の目は溢れんばかりの好奇心で輝いている。

「不死人ってどういうものを言うのだろう?」

「質問に対して質問で答えないでくれる?」

「あ、ごめん」

「冗談に素直に謝らないでくれる? 私が意地悪言ってるみたいじゃないの」

 いつもながらミラノとの会話は難しい。

「えっと、質問はなんだっけ?」

「質問なんてしていないわよ」

「そうだっけ」

「ただ、噂を知っているかどうか聞いただけよ」

「それは質問ではないの?」

「ただの話の導入部分よ。それで? 知っているの?」

「いや、知らない」

「どうして知らないの? 一条家に住んでるくせに」

 響は今、一条家というこの地域では有名な家で暮らしている。一条家は資産家であり、さらには不動産や建築関係の会社を複数所有しており、地方の有力企業の一つとして広くその名を知られていた。だが、その実体は『妖かしの一族』であった。もちろん、一般の人がそれを知ることはないのだが、ミラノには一匹の妖かしが取り憑いている。

「一条家の人たちはそういうことをボクに話さないよ」

 響は周囲に気を遣いながら答えた。

「あなたって一条家でどんな立場にあるの?」

「ボクはただの親戚だよ」

「相変わらずそんなことを言っているの?」

 ミラノは呆れたような声を出した。「部外者の私ですら、一条家が裏でどういう人たちなのか知っているのよ」

「それはそれで問題だと思うけど」

「何よ。あんな不思議な家、知りたくなるのが当然じゃないの。家の中にいるのに興味を持たないあなたのほうが不思議よ」

 以前、響と同じく一条家で暮らす双葉伽音が『好奇心は猫を殺す』とイギリスのことわざを彼女に当てはめていたことを思い出す。そうはいっても、それを本人に言えば激怒することだろう。

「なんにせよボクはただの素人だよ」

「じゃあ、あなたは不死者の存在が気にならないの?」

「ならないってわけじゃないけど。そもそもどこからそんな噂が?」

 噂なんてものは大抵の場合、冗談や勘違いから発生するものだ。もし、その噂がそういうものならば、情報源はきっと曖昧なものだろう。

 だが、意外にもミラノはすぐにそれに答えた。

「八百藤のおばあちゃんが見たらしいのよ」

「八百藤?」

 学校に来るまでの途中、古くから続く商店街の中に小さな八百屋がある。今は駅前にある大きなスーパーにお客を取られ、商店街に足を運ぶ客は少ないが、八百藤はその中でも意外と頑張り続けている。おそらくミラノが言っているのはそこのことだろう。

「若い頃に知り合った人と、最近になって会ったらしいの」

「それってただの懐かしい人との再会って話じゃないの?」

「違うわよ。その再会した人の姿がその時とまるで変わっていなかったらしいの」

 だが、それだけで不死者と言えるのだろうか。

「人違いってことは?」

「さあ。詳しいことまでわからないわ。おばあちゃんはもう90歳を過ぎてるし、最近はちょっとボケてきてるらしいから」

「微妙な話だね」

 90歳の老人の言葉をどこまで信じられるのだろう。

「でも、本当に不死者だったとしたら面白いと思わない?」

「面白いとは思わないけどーー」

「何ですって?」

「……少し興味はある」

「――でしょ? 捜してみない? その子のことを」

「ま、いいけど」

「ずいぶん消極的な言い方ね。それに草薙君っていつもどこか遠慮がちなのよね。何か言いたいことがあるならちゃんと言ってみたら。私なら何でも聞くわよ」

 ミラノは顔を近づけると、真っ直ぐに響の目を見つめていった。好奇心いっぱいの青い目がキラキラと輝いて見える。それはまるであのモノの目のようだ。

 響は思わずーー

「ねえミラノさん、語尾に『ニャ』ってつけてみたら?」

 ミラノは少し驚いたような表情で響を見つめ、少し声を低くして言った。

「そうね。確かに私は、言いたいことがあるならちゃんと話してほしいって言ったわ。なんでも聞くって言ったわ。でも、それで怒らないとは言ってないわ」


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