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 志乃が叫び声をあげた。

 途端に響の身体が弾き飛ばされる。

 その羽は一瞬で翼のように広がり、志乃の身体を包んで自由を奪っていく。

 羽が飛んできた方向へ、それを投げた人物へと視線を向けた。

 そこにいたのは二宮瑠樺だった。

 響の先輩であり、音無雅緋のクラスメイトであり、そして、妖かしの一族を束ねる『和紗の一族』の長。

 それはあの伽音がもっとも警戒している人物だった。

「何をするんだ!」

「破壊するんです。彼女の中の『魂を喰う者』を」

 冷静な口調で瑠樺が答える。

「破壊ってーー」

「その子の中にソレはいますよ」

「中に?」

「魂を食した場合、彼女の中に『魂を喰う者』が別に現れる。それと本人とは表裏一体。ただし、人の魂を食そうとした瞬間にだけ、それは現れる。あなたもさっき、ソレの存在を感じたでしょう?」

「さっきのはそういうものか」

「だからこそ、ここに誘い込んだんです」

「誘い込んだ? どうしてそれが現れると?」

「あなたと二人きりになれば現れると思ってました」

「どうして?」

「あなたの魂はそれだけの意味があるからですよ。そういう者たちにとって特別なものですからね」

 つまり、自分は餌にされたということか。

「じゃあ、彼女は救われるんですね?」

「それはまだわかりません」

「わからない?」

「自分の意思とは別だったとしても、自分とは別に『魂を喰う者』がいたとしても、それが彼女であることには違いありません。全てがなかったことにするということは出来ません。そして、私の羽は彼女も一緒に貫いています」

「もとに戻すことは出来ないの? 助けられないの?」

「そうですね。あなたなら出来るのかもしれません」

 瑠樺はそう言って響を見た。

「ボク?」

「あなたは生命を与えられる。そして、同時に生命を抜き取れる。生命を失うことで、もう一つの存在とは切り離されます」

「つまり『魂を喰う者』ではなくなる?」

「ただの魂となります。そして、再びあなたが生命を与えることによって、新たな妖かしとなるでしょう」

「救えるんですね?」

「ただ、彼女は彼女ではなくなる」

「彼女でなくなる?」

「妖かしとなるのです」

「今のこの状態とは、どういう違いがあるの?」

「彼女は魂として300年以上を生きてきました。強い恨みを持った妖かしになっても不思議ではないほどの人生だったにも関わらず、彼女は妖かしにはならなかった。おそらく亡くなってすぐ何者かによって術をかけられ、恨みや憎しみの感情が表にでないような今の存在になったのでしょう。でも、妖かしとなれば、過去の感情を取り戻すことになるのかもしれません」

「それは彼女にとっては辛いことになるのかな」

「感情を持つというのは苦しみを持つこと。感情を失えば苦しみは感じなくなります。私にはそれのどちらが幸せかを言うことは出来ません。それでも、あなたは彼女を助けますか?」

「助けるよ。それが『助ける』という言葉で表現出来るものならね」

「やっぱり、あなたならそう言うと思っていました」

「どうすれば?」

「あなたは生命を感じ取れますね? 彼女の額に手を当てて、その生命を感じ取ってください。あなたはその生命を掴み取れるはずです。あなたはそれを抜き取り、そして、再び生命を与える」

 響は瑠樺の言葉に従い、妖力を自らの意思で集中させていく。それは響にとって、決して難しいものではなかった。だが、少しでも間違えば彼女の生命が消えてしまいそうで、ゆっくりと細やかにしなければならなかった。

 全てが終わり、志乃の生命がしっかりと鼓動するのを感じ、響はホッと息をつく。

「さっき何者かによって術をかけられていたって言っていたけど、あれは?」

「あれはおそらく呉明の術」

「呉明?」

「私たちの一族の者です。ずっと昔にこの地を去った『八神家』の一つ」

「……八神家」

 詳しいことまでは知らないが、その言葉は聞いたことがある。

「私たち一族には、過去にも今にもいろいろあるようです。私も知らないことも。あまり考えすぎても良いことにはなりませんよ。ところで、その後、御厨ミラノさんの様子はどうですか? 彼女に憑いた妖かしは問題を起こしていませんか?」

「それは大丈夫だと思う」

 ミラノが不死者に興味を持って調べていたことは黙っていたほうがいいだろう。

「そうですか。好奇心は猫を殺す。気をつけてほしいですね。草薙さんも注意してあげてください」

「わかりました」

 素直に頷く響を見て、瑠樺は微笑んだ。

「じゃ、そろそろ行きましょうか。皆も待ってるでしょう」

「待ってる? ひょっとして……みんなは全てを知っていて? あれは芝居だったの? 伽音さんも?」

「伽音さんは事情を知らなかったと思いますが、あの人は頭の良い人です。きっと察してくれたんじゃないかと思います」

「音無さんも?」

「あ……」

 瑠樺の表情がひきつる。「き、きっと大丈夫かと……」

「本当に?」

「ええ、もう戦いは終わっているはずですよ。戻りましょう」

 少し慌てたように急ぎ足の瑠樺と共に、響は志乃を抱き上げて戻っていった。


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