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辺境領主の視察旅  作者: 水浅葱ゆきねこ
雪と氷の街 サロッポ

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21/21

デュラン、肖像権を放棄する

 翌朝は、からりと晴れていた。

 広場での氷雪祭り開催セレモニーを見学しに行く。

 舞台の上には祭りの責任者、街長、そして領主の代理人などが立ち、挨拶を述べている。

 最後に声を合わせて祭りの開始を宣言すると、舞台の脇に控えていた楽団が楽し気な音楽を奏で始めた。




「さて、どうしようか?」

 広場をぐるりと回って、問いかける。基本的に、視察の進め方はデュランに一任しているのだ。

「公共の建物の周囲には、大きめの雪像が作られているらしい。そこを回ろう。歩いている間に、小道も通るだろうし」

 こちらもとっくに決めていたのだろう。あっさりと広場から横道へ足を向ける。


 目当ての氷像は、実にバラエティに富んでいた。

 役場の前の車寄せには、高さ二メートルほどの氷の壁が作られていて、そこに領主の紋章が浮き彫りにされていたり。

 鍛冶屋通りの入り口には、岩に突き刺さった巨大な剣の氷像が置かれていたり。

 農業ギルドの前には、サイズを大きくした、数々の農作物を盛った籠が氷で作られていたり。

 問屋街には、見上げるほどのサイズのタヌークの氷像が子供たちに群がられていた。

「何で?」

「問屋街だし、取引があるのかもしれない。商売繫盛のシンボルだしな」



 公園には、食べ物や雑貨を売る露店が広がっていた。

 季節柄か、温かいものが多い。スープやシチューなどの汁物や、串に刺して焼かれた羊肉、スパイスを入れたホットワインなどだ。

 一昨日御馳走になった焼きニョッキもあった。

 何か適当に食べようか、ということになって、周囲を見渡す。

 歩きながら串焼きを食べている者は多少いるが、大多数は手に持っているだけだ。

 周囲にベンチなどもないし、と思っていると。

「お二人は氷雪祭りは初めてかい? その辺の雪小屋に入るといいよ」

 と、仔羊肉を煮こんでパンに挟んで売っている男が教えてくれる。

「雪小屋?」

 もう一度ぐるりと見渡すと、公園のそこここに、大きな雪玉が散乱している。高さは、成人男性の背ほど。

 何なのか、と近づき、回りこむと、それは雪玉の内部を抉られて作られた小屋だった。中に、雪を固めて机や椅子に使えそうな台が置いてある。

「なるほど、これも夜は光るんだな」

 デュランが、雪玉の各所にくぼみが作られ、小さな光鉱石が置かれているのに気づいて、呟く。

「お金かけてるなぁ。失くなったりしないのかね」

 庶民の感想を零すと、楽し気に笑われる。

「少し光る程度の石だよ。それに、失くしても春になったら地面に落ちてるだろう」

 雪の椅子は冷えを考慮してか、薄いクッションが敷かれている。中に入ってみると、意外と雪小屋は暖かだった。

「おお……。結構落ち着く」

「入り口が狭いからかな」

 元々、ダインの生家は狭かった。今住んでいる広い部屋も嫌いではないが、こういう空間もたまにはいい。

 二人は、賑やかに会話しながら、買いこんだ品を台に並べた。




 腹を満たした後で、また街を散策する。

 街の外から観光にやってくる人々が多いのか、時折頭上をドラゴンが滑空していく。

 わいわいと騒ぐ声も響き、彼らが楽しんでいることが伺える。

「流石に盛況だな」

「国内でも有名な祭りだからね。ギルドはこの時期、飛竜を優先的にこちらに割り当ててる」

「飛竜、ねぇ。……ドラゴンって、ひょっとして、こっちの国だと結構一般的なのか?」

 国境近くだったせいもあるが、元の国ではドラゴンなど見たこともなかった。いるとしても、王都周辺だけだろう。

 まあ今も、身近にいるのは黒竜一頭だけだが。

「そうだな。我が国は、昔からドラゴンとの縁が深い。王家の者は大抵ドラゴンと契約しているし、貴族にも多くいる。近衛隊には飛竜を扱う小隊もあるしな。商館でも、規模が大きければ、自前のドラゴンを持っている。色々なギルドでも保有しているし、少しばかり高くつくが、庶民でも利用できないことはないはずだ」

「へぇ」

 街のそこここにある氷像にも、ドラゴンのモチーフは多い。祭りの時にはこうして多く訪れるのだろうし、この街にとっても親しみのあるものなのだろう。

「そろそろドラゴンコースターを見に行こうか」

 思いついたように、デュランが提案した。



 ブリザードドラゴンコースターに近い門へと足を向ける。

 はしゃぐ声が、一際大きい。

 コースターを滑りたい人々が集まっているのを迂回して、まず、遠目に様子を見る。

 外の大階段を登っているのは、老若男女、どれが多いとも言えなかった。

 だが、歳をとっている者、また女性などは、階段の上の眺めを見たいだけの者も多いらしく、しばらくすると内側の階段を降りて行ってしまう。

 (そり)に乗って滑り降りるのは、やはり子供が多い。それに同伴する保護者らしき男たちだ。

 まあ中には、大声を上げて滑っていく大人たちもいるが。

「どうする? 最後にもう一度乗るか?」

 デュランが視線を向けて問いかける。

「いや、一回乗ったしな。いいよ。子供たちの邪魔はしない方がいい」

 すぐに断ったが、小さく笑われた。

 自分だってちょっと腰が引けているくせに、とじろりと睨む。



 最後、というのも、今日の午後にはここを発つからだ。

 既に街には三日間滞在している。帰路を考えればぎりぎりだった。

 宿に預けていた荷物を引き取り、発着場へと向かう。

 到着したところなのか、純白のドラゴンが一頭、発着場の外れに立っていた。周辺に十人ほどの人影がある。

「……あれ」

 眼を(すが)め、訝し気な声をデュランが上げる。

「どうかしたか?」

「いや、あのドラゴン、何か……」

 眉を寄せて、語尾を濁した。

 首を傾げ、視線をドラゴンへと向ける。

 きらきらと輝くドラゴンは、じっと見つめていると微動だにしていない。身体を前傾させ、今にも走り出すか飛び上がるかしそうな体勢なのだが。

 その傍に立っていた男の一人がこちらに気づき、大きく手を振る。

「あ、あの人」

「昨日会ったな」

 壮年の男は、昨年までブリザードドラゴンコースターを作っていた、と言っていたうちの一人だ。

「何でこんなところにいるんだろう」

 祭りの醍醐味は、コースターを除けば街の中だ。ここにいる理由は、発着場を利用するぐらいしか思いつかない。

 とりあえずそちらへと足を向ける。

 近づいていくと、ドラゴンに感じていた違和感の理由が判る。

「こりゃ凄い」

 その純白のドラゴンは、雪でできていた。


「よかった、あんたたちに見ておいて欲しかったんだよ」

 男がほっとした顔で声をかけてくる。

「やっぱり。これ、ハバリだな」

「え、あ、ほんとだ」

 色が黒くないのでダインには判りづらかったが、言われてみれば、身体のバランスが彼そのものだ。

「昨日、手伝ってもらっただろ。その時に色々憶えていたから、作業が終わった後で、みんなで作ってみたのさ」

 胸を張って、男が告げる。

「モデルは断ったんだけどな」

 苦笑しながら、デュランは雪像を見上げた。

「頭で覚えて作ったんだから、正式なモデルじゃない。若いのも刺激になっただろう」

「あ、みんなって、今のチームの人たちもなのか」

 ダインの呟きに、男は少々気恥ずかしげに視線を逸らせた。

 ハバリの雪像に群がってはしゃいでいた子供たちが、親に促されて街へと向かい始める。大声で挨拶されて、男は笑顔で手を振った。

「ここに作ったのは、発着場の雪を使おうと思ったからなんだが、着いてすぐに雪像があるから、みんな喜んでくれてなぁ」

 嬉しそうに見送る男に、二人はつられたように笑みをこぼす。

「それじゃ仕方ないな。モデルに関して、今回は目を瞑ろう。なあ、ハバリ」

 デュランの背後に姿を現した黒髪の少年は、難しい顔で白いドラゴンを見上げている。

「どうかした? ハバリくん」

「いや、その、……俺、もう少し、こう、鼻が高くないかな、と」

 小声で零したハバリに、顔を見合わせた三人の男は、揃って噴き出した。


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― 新着の感想 ―
[一言] 若者と熟練者とが協力出来るようになり、丸く収まって良かったです。かまくら、入ったこと無いんですがやはり風情がありますね。ぼんやり光るの最高です! 鼻の高さきにするハバリめちゃめちゃかわいい…
[一言] これにて一件落着! ハバリくん、可愛いぞwその辺は、ほら、見てつくったわけじゃないから! ちゃんと協力すれば、技術も継承されていくよね。また来年も頑張れ!
[良い点] ハバリちゃんにはちょっとご不満かもしれないけど……良い刺激になったみたいで良かった!
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