黒薔薇の女王
今回はちょっとティターニアの過去が明かされたり、エンジュが一大決心をしたりと、物語が動き始めましたねぇ。
あれから少したち、日が沈む頃、勤めて冷静に驚いた表情のセバスさんに発見された私たち。
ユリウス様は、まだぐっすり眠っていたので今夜は邸にお泊りになるそうだ。
ヴィクトール様とカティス様に付き添われ自室に戻り、ドレスや装飾を解いてお風呂へと向かう。
疲れていたので、髪の毛だけ洗って貰い早々に人払いをお願いした。
「ふぅ。なんだか大変な1日だった。私、狙われているのよね。でも、一体、誰が?」
心当たりは無い上に、誰が敵なのか皆目見当もつかない。
手元にある情報を組み立てても、何も導き出せない。
(アキナ?どうしたの?そんなにコワイ顔して?)
ぷかぷかと湯船に漂うチーク。
「どこに行ってたの、もう。あの後、大変だったんだから!」
(くふふ、知ってるよ。アキナに無理させちゃったね。ごめんなさい)
湯船に半分沈みながら申し訳ないといった表情のチーク。
「やたらに高度な魔法は禁止よ!カティス様が教えてくださるから安心して」
(へぇ、、、そう。くふふ。アキナの事が心配でたまらないんだろうなぁ)
「ティターニアの生まれ変わりだから?」
(カティスにとってティターニアは娘みたいなものだから親として心配なんだと思うよ)
「え!?カティス様の子供だったの?」
(みたいなって言ってるでしょー。ティターニアもカティスの薔薇園で産まれたんだから)
「そっか、妖精は薔薇から生まれるものね」
(妖精界でも稀に見る黒曜石の様に輝いた黒バラから生まれたのが黒薔薇の女王ティターニア)
(黒の髪と瞳は、人間界を含めてあの子だけ。その容姿も相まって多くの人が夢中になったんだよ。求婚されるなんてしょっちゅうだし、毎日すごい量の贈り物があってね。でも結局、彼以外は誰もあの子の心に入り込めなかった……)少し寂しそうに顔を伏せて
(あぁ、ごめん。喋りすぎたね。疲れただろうからゆっくり休んで。僕たち妖精はいつもアキナのそばにいて、いつだって味方だよ。元気出してね)
私の心を知ってかしらずか、笑顔を向けてふわふわ漂いながら消えて行った。
「もう、相変わらず気まぐれなんだから。でも貴重な話が聞けたわ。妖精も味方してくれるし、私も出来る限り犯人に抵抗できるだけの備えをしなくちゃね」
湯船を上がり、一連の支度を終えて寝室に戻るとエンジュが緊張した面持ちで待っていた。
ハーブウォーターで喉を潤し、夕食を勧められたけれど昼餐が豪華だったので、ちっともお腹が減らない。
そう告げると「少し、お時間を頂いても宜しいでしょうか」とその口ぶりから、皇宮での出来事を聞いたんだろうなと思ったが、続きを促した。
「皇宮での出来事を聞きました。そんな者がアキナ様を付け狙っているなんて恐ろしいです」
「えぇ、私も驚いたわ。でもユリウス様が解決に動いてくださるし、ヴィクトール様だけでなくカティス様も護衛に付いてくださったから、きっと大丈夫よ。それに明朝には邸を移るからエンジュたちに危害を加える様な事にはならないと思うわ」怖い思いさせてごめんなさいと頭を下げると
「こんな状況なのに私たちのことなどご心配くださるなんて…顔をあげてくださいませ」
そっと顔をあげると何かを決意したエンジュと目が合う。
「実はお願いがございます。私も侍女としてお連れください」
「エンジュ……ありがとう。申し出は嬉しいけれど何かあってはエンジュのご両親に申し訳ないわ。貴方はまだ若いし、こんな危険な事に関わってはいけないわ」
「他の方ほどではありませんが魔法も使えます。宮廷作法も皇宮の女官には劣らないと思います。私もお側でアキナ様をお守りしたいのです。必ずお役にたちますから、どうかお側に置いてください」
頭を下げたきり動く気配のないエンジュに根負けした。
「顔を上げてエンジュ。私のためにありがとう。ホントはね、そうだったらいいなって少し思ってたの。
この世界に来て、エンジュとは色々話せて親身にお世話してくれて…だからすごく嬉しい」
「そんな、勿体ないです。これからもずっと一緒です」
「えぇ、2カ月間でこの世界の事を一通り学びたいから覚える事が山とあるわ。色々と教えてちょうだいね」
「はい。勿論です。お任せください。実は、もうセバス様には許可を頂いているんです。アキナ様の了承次第でしたが…だから嬉しいです」
さて、明日は日の出前に出発ですから荷造りをいたします。キリッと表情を整え、大きなトランクを用意させた。
「数日分の着替えを用意いたします。何かお持ちになりたいものはありますか?」
「そうねぇ…カティス様から頂いたバラを少しお願いできるかしら」
「では、持ち運びやすい花瓶に入れて私がお持ちします」
さて、と言うや否やアキナ様はもう寝てくださいとベッドへ追いやられる。
荷造りに参加すると言っても聞いて貰えない。
天蓋を閉じて、ほぼ暗くなったベッドへ横たわる。
極力音を立てずに支度をしているのかカーペットの上を何人もが往復する足音だけが静かな部屋に
響いた。
考えたい事はたくさんあるけれど湯船に浸かりリラックス出来たお陰か、瞼が重くなってきた。
朝は早いし、お言葉に甘えて眠ろう。
寝落ち。。。
主人公もお酒は結構飲んでましたが、見かけによらずザルですね。
カティス様といつか飲み比べをさせたいところ。
ワインの二日酔いはキッツイですからw