きっと会えると思っていたわ
遅くなりました…(土下寝)
食事を運んでくれたエンジュに青い薔薇の事を尋ねたら予想外の答えが。
「それが数時間毎にベッドに降り注いでくるんですの……恐らく妖精からの贈り物だとは思うのですけれど」「そう…綺麗に飾ってくれてありがとうエンジュ」
姿を見せなかったチークからのお見舞い?
「青い薔薇なんて初めて見ました。本当に綺麗ですね」
「この国にも存在しないのね。そうだ、この薔薇、エンジュにもあげるわ」
花瓶を指差して、好きなだけ持って行ってと伝えると
「え………本当によろしいのですか?こんな貴重な薔薇を……」信じられないという表情のエンジュに
「もちろんよ、こんなにたくさんあっても、困ってしまうもの。看病してくれたお礼になるかしら?」
と答え、ヴィクトール様にも差し上げるようにお願いすると快く引き受けてくれた。
大盛りの温野菜を食べて、コーンポタージュにローストビーフとチーズとレタス、それに揚げ物とトマトが挟まったボリュームのあるサンドイッチを3つずつ完食して、デザートのマフィンやケーキを完食してやっと空腹が治った。
「お腹はいかがですか?まだ召し上がりますか?」
「うーん流石にお腹いっぱいよ。魔法って燃費悪いのね。こんなに食べなくちゃ身体が戻らないんですもの」みんな大変ねとため息をつくと「私たちはこんなに魔力を消費する事なんてありませんわ」と苦笑された。
フルーツと花の香りが素晴らしい紅茶を注いだカップを手渡しながら
「アキナ様はまだお身体も本調子では無いのに、妖精が無理に高度な術を使ったんですもの…負担は計り知れません…命に関わる事もあると聞くので食べて回復されるなら良かったですわ」
「心配かけてごめんなさい。無闇に魔法を使わない様に言い聞かせるわ…毎回、寝込むわけにはいかないもの…」つぎにチークが来たらお説教だわ。
紅茶を飲み干すと、また眠気が襲ってきた。
食べてすぐ横になるのは憚られるけれど、仕方ない。
ベッドに潜り込むと、数分経たずに意識を手放した。
天蓋付きベッドの幕が開けられた様で、朝日が差し込む。
もう少しベッドと仲良くしていたいけれど、皇太子殿下がお昼頃にいらっしゃると起こされたからにはそう言う訳にもいかない…
入浴を済ませてドレスルームに入ると濃紺のシフォン素材に胸の下辺りに宝石でラインを縁取った、丸みを帯びたオフショルダーの清楚なドレスが用意されていた。
短めの白いレースでできたケープマントを羽織り、白のグローブ、真珠のジュエリーと髪飾りを付けてもらい面会の準備が整った。
その少し後にヴィクトール様がお迎えにきてくださり皇太子殿下をお迎えするサロンへ。
暖かな日差しの注ぐ大きな窓にグリーンの敷物とウッディな家具やゴールドの調度品の置かれているその部屋は豪華でありながら他の部屋とは違って落ち着く。
それから30分もしないうちに数人の男性を引き連れたユリウス殿下が現れた。
立ち上がり礼をしようと腰を屈める前に止められた。
「どうぞお掛けになったままで。お身体はもうよろしいのでしょうか」
不安げに見つめるユリウス殿下に「お気遣いありがとうございます。食事を摂って休んだのでもう大丈夫です」と笑顔で返すと安心した様だ。
「不徳の致すところです。こんな目にあわせて…申し訳ない」頭を下げようとするユリウス殿下を今度は秋菜が慌てて止めた。
「こういった現象は妖精に愛されているからだと聞きました。少し驚きましたけれど…殿下に謝って頂く必要など全くございません」「それどころか、滞在に当たり御心配りいただき快適に過ごしております。遅くなりましたがお礼申し上げます」
そう返すと
「それは良かった。この国や妖精たちを嫌いにならないでくれて」
甘く低い声が返ってきた。
「あぁ、ご紹介しますね。こちらは大地の妖精王、カティス様です」
「俺は一方的にだが秋菜を知ってたから初めましては違和感があるな。カティスだ、遠慮せず名前で呼んでくれ」
「まぁ、もしかしてカティス様は……チークの…お父様??」
少し面食らった様子のカティスは「ハハ、秋菜は面白いな。だがチークは俺の使い魔の様なものだよ。妖精は薔薇の花から勝手に生まれるから」
「そうなのですか、失礼しました。…薔薇の花からお生まれになるのですね…神秘的なお姿にお似合いですわ。とてもロマンチックです」「そうか、気に入ったのなら良かった。秋菜さえ良ければ今度、俺の薔薇園を見に来ないか?」
「まぁ、素敵です。ぜひ。もしかして青い薔薇を下さったのもカティス様でしょうか。あんなに綺麗な薔薇は生まれて初めて見ました」「今回の件の詫びだ。人の世ではとても貴重で高価なものらしい。売るなり染料にするなり好きに使ってくれ」
「大地の妖精王はアキナに謝罪したいと我々と共にいらしたのですよ」
「そうでしたの。でも先程もお話ししたように私は何も気にしておりません。綺麗な薔薇をたくさん頂いてしまって、かえって申し訳ないくらいです」
「そう言ってもらえて良かった。秋菜には嫌われたくないからな」
その後、もう二人の従者をユリウス殿下が紹介してくださった。
セバスと紹介された精悍な顔つきのグレーがかった白銀の髪にグリーンの瞳の執事服を着た初老の男性と、深緑の髪に同じ色の瞳を持つ表情は優しそうな笑みを浮かべているが、モノクルの奥には何か秘めて居そうな宰相のクレーべ・ヘイニングス。
「セバスにはこの邸の管理を任せている。困ったことがあれば伝えてくれ。クレーべは宰相として私を助けてくれている。ヴィクトールやまだ紹介していない二人を含めて私が誰よりも信頼を預けているんだ」
「ご紹介ありがとうございます。わたくしアキナ・シドウと申します。ユリウス殿下のご厚意でこちらのお屋敷にお世話になっております。妖精の華客としてこの国に参りました。お見知り置きくださいませ」
簡単に挨拶をすませると、ユリウス殿下とカティス様とクレーべ様と共に昼餐のために移動した。
今日は正餐の様でカトラリーの数やテーブルの飾り付けが前回とは違っていた。
「アキナの今後のことも話し合いたいと思っているから、少し長い昼餐になるけど大丈夫?」
「はい、殿下。私は特に予定もございませんし」
ゆうに2時間近くの時間が過ぎ紅茶を飲み終えた頃、少し顔を強張らせたユリウスが
「実は、一つアキナに謝らねばならない事があります」と話し始めた。
クレーべ様とカティス様も少し顔を強張らせた。
それを見たアキナは努めて平静を装い続きを促す。言葉を躊躇う彼に代わりクレーべ様が続けた。
「貴女の歓迎式典を行うよう国を挙げて準備を始めたのですが…皇宮内に用意した貴女の部屋が荒らされたのです。ただのイタズラにしては悪質といいますか、、、おそらく命を狙われていると考えられるのですよ…」
「すまない。必ず犯人は探し出す、だから2カ月ほど時間を貰えないだろうか」
ユリウス殿下の申し訳無さそうな表情に私も困惑してしまう。
「俺の国で秋菜を匿うことも検討したが、犯人が分からない以上、得策ではなさそうだ」そう言ってカティス様も厳しい表情を崩さない…でも皇宮ではよくある嫌がらせだろうに、そんなに大ごとなのかな?
「そうでしたか。ではクレーべ様、私からも二つほど伺っても?」
「無論だ」
「まず、命を狙われる様な事態というのは、どういうことでしょう?」
「貴女の為に用意したドレスや宝飾品が切り刻まれ、ベッドには毒ヘビの死骸が大量に…それは恐ろしい有様でしたよ」
「では、その犯人にお心当たりは?」
「皇宮内…というかこの国にアキナを歓迎する者は多くいても、害そうとする輩がいるなんて想像もしてなかったんだ」「私の意見も殿下と同じです。敵対する勢力の嫌がらせとも考えましたが…貴女に対して敵対行動はまず取らないかと」
「俺にも、さっぱりだ。だが、一つ気になる事はある」
「どの様なことでしょうか?」
「毒ヘビだ。俺も実物を見たがあのグレー色したヘビは人が簡単に手に入れられる代物じゃない。それをあれだけ用意できるとなると…妖精でも人並みの知性を持つ高位の者か、そういう奴に伝手があるかだろう」
「まぁ、それは厄介な事ですね…でも、狙われて居るのが私だけなのでしたら何処か別の場所に移ったら皆様に害は及びませんよね?……わたくしが囮になりますわ。これ以上皆様を煩わせるのは心苦しいですし……」さっさと犯人見つけてこの国に受け入れて貰いたいもの。いつまでも住所不定無職では…
ニコニコと話すアキナを見たユリウスは
「とんでもない!」ガタンと席を立ち、
「アキナにそんな危ない真似はさせられない。…2ヶ月ほど時間をくれないか?その間に必ず犯人を見つける」
「この邸も相手に居場所が割れて居ないとも限らない…暫く帝都の中でも比較的皇宮に近い場所に邸を用意したのでそこに移りましょう。2カ月の間、貴女は国の事や宮廷作法などを学びながらのんびり過ごしてください。決して自分を囮にしようなど考えない様に」
口調は優しいけれどモノクルの奥の瞳は、苛立ちを隠せていなかった。
重苦しい沈黙を割いたのは、カティス様だった。
「そうだ、俺から1人紹介したいヤツが居るんだ。仕立てる服や宝飾品にも気を配らないとならないだろ?コイツほど信頼出来る奴はいないとおもうぞ?」
カティス様が何か唱えたと思うと淡い光から、シフォンの様なヒラヒラと長い羽を持つ蝶が現れた。
私の近くに止まると、ポンッと人型へと変わった。
「まぁ、懐かしいわぁ」
そう言って現れたとびきりの見目麗しい女性。
「久しぶりねぇ、ティティ。きっと会えると思っていたわ」
エンジュとヴィクトール様には無意識に警戒を解いてるアキナが伺えますね。
さてさて、登場人物も増えて見目麗しい妖精さんも増えて、アキナの周りが賑やかになってきましたねぇ。