もう目覚めないのかと
さてさてちょっとした事件ですよ。
2人の気持ちが近づきますねぇ。
だがしかし、まだ始まったばかりですから…そんな簡単に生きる伝説はハッピーエンドにはなりません
翌朝、目が覚めたら…まだ夜でした…?
あれ?まだ夜?この国は日が昇るの遅いのかな?
っっ、首や腰が凝り固まった感じがする…
うーんと伸びをすると、ヴィクトール様がベッドサイドの椅子に腰掛けていた。
昨日の騎士団の制服よりは少しラフな制服姿にカッコいいなぁなんて考えながらぼんやりと見つめていたら「やっと目覚めたか。大変だったな」
「ん?大変??何かあったのですか??」と呑気に返しもう一度、伸びをした。
「なんだかすごくぐっすり眠れたと思ったのですが、まだ夜明け前ですか」
と尋ねると「妖精の気まぐれから4日たった。今は深夜2時くらいだ」
「!!あれから4日も…なぜでしょうか?」
「部屋を隔離した魔術のせいだと聞いたが…」
スッと近づいてきたヴィクトール様の顔が酷く疲れてみえた。
「もしかして、ずっとついていて下さったのですか…お顔の色が優れませんね…」
そっと手を伸ばし彼の頬に触れようとしたその時「良かった、もう目覚めないのかと」少し乱暴に手を引かれすっぽりとヴィクトール様の腕に収まった。
あら、以外と情熱的なのね…出会って1日、離れた時間はたった4日、それなのにこの腕の中はとても安心できた。私も胸に顔を埋めてヴィクトール様を強く強く感じた。高い体温、心臓の音、ヴィクトール様の匂いに心のざわつきを覚えた…
「ご心配をおかけしました」ぽつりと呟いて「ヴィクトール様、護ってくださってありがとうございます」「いや、オレは何も出来なかった、何一つ…」悔しそうな声音のヴィクトール様に顔を埋めたまま「そんなことありません、私の身体は傷一つなく無事だったのですから」顔を上げると戸惑いを隠せないヴィクトール様が。「だから、ヴィクトール様もお休みになって」
ポンポンとベッドの横を叩いた。
「さぁさ、お顔の色も悪いですし早く寝ないと…明日に障りますよ!」そこまで言ってから気づいた…また子供との生活のクセが…何か少し葛藤がみられたが「いや、そういう訳にも……理性が……もたん」顔を背けながら言うその姿が、少し可笑しかった。
少しの間抱きしめてもらって名残惜しそうにヴィクトール様が言う。
「いま、侍女達を呼んでくる。朝には皇太子殿下も見えるだろうからそのつもりで」
「はい。ヴィクトール様……もお休みになってくださいね」
「2時間ほど毎日仮眠は取っていたから、心配ない」
「2時間!?なおの事お身体が心配です」
「職務ではあったが、いや、例え命令が無かったとしても、目を覚ましたアキナに誰よりも早く会いたかった」その一言に体温が上がるのを感じ赤くなった私を見て安心したのか、そっと腕をといた。
「また、ゆっくり時間を取ろう」そう言って部屋を後にした。
(////不器用だなんて仰るけれど、天然?こんなにキュンとさせられているのに!)
1人先程までの事態を思い返して、赤くなったり赤くなったりしているとエンジュが
「お目覚めになられてよかったです。本当、心配でした」と声をかけてきた。
「うん、私もまたエンジュの顔が見られて嬉しいわ」
あの夜と同じように微笑むと少し涙目になったエンジュが「先ずはハーブウォーターを召し上がってください」流石、お世話はきっちりとしてくれる。
そういえば、四日ぶりなのに思いのほか喉がカラカラでないことが不思議だった。
「冷たくて美味しい。なんだかリラックスできる香りね」
「眠ってらした間も、2時間おきにティースプーン一杯少々ですけど、召し上がっていたんですよ」
「そうだったの、ありがとうエンジュ」
「私よりヴィクトール様ですわ。ずっとお側にいらしてお世話されてましたもの」
うっとりため息をつくエンジュを見て「ねぇ、エンジュ?念のために聞くけれど、妙な噂にはなったりしてないわよね?」「もちろんです。ヴィクトール様は護衛としてお側にいらしたんですもの。お部屋も私とヴィクトール様以外は立入らない様にユリウス様の厳命もありましたし」
「そう、、、なら良かった」
「アキナ様は、相手の立場を慮るのですね。ずっと不思議でしたの、まるで皇族の方とお話している様な感じがするので」
「昔の癖なの。前の世界で皇族や王家の方ともお付き合いがあったから」
「そうでしたか。礼儀作法やマナーも含めて品がおありになるなってメイドたちも噂していて…もう成人されたって伺ってもにわかに信じられないのですけど、やはり教養の深さを見ると…成人されているのですよね…見た目の幼さと色香が相反しているのに、、、絶妙ですもの」
「い、色香!?」
「あら、お気付きでないのですか」
「思い当たる節は……」
ピッとバストを指差して、立派な物をお持ちですのに……と。
「ずっとこうだったのでよく分からなくて……」
「教養や品性と同じくらい武器になりますわ」とエンジュに言われ、側と考えてしまった。
そんな私を余所に、あ!既存のものではお胸が窮屈かと思うのでドレスを仕立てなくてはいけませんねと楽しそうに話す。
「仕立てるのですか?」
「もちろんです、何か不都合が?お針子は女性ですしご心配には及びません」
「い、いえそうではなくて…国賓とはいえそこまでして頂く理由もございませんし……それに私自身は住所不定の無職ですから……着ていく様な場所もありませんし……」
自分で言ってて、何だか悲しくなりますね……力なく笑った私を、大層驚いたエンジュに窘められた。
「まぁ、何を仰っているんですか。アキナ様のお陰で全帝国民が魔法の恩恵を受けていますし今は閉ざされた妖精の国には我が国は返しきれない恩義がございます。ですからアキナ様は何も気にせずにお過ごしくださいませ。住所が必要ならば、ユリウス様にお屋敷を用意頂いたらよろしいのです」
「私は、アキナ様のお世話係に選ばれて、とても光栄だと思っておりますのよ」
「魔力の恩恵云々はよく分からないけれど、エンジュがそう思ってお世話をしてくれていたのは嬉しいわ。ありがとう」
そう言った事で、納得してくれた様だ。
「長々とお話しして申し訳ありません。お食事をご用意いたしますが、どの様ものでしたらお口に入りそうですか?」
「恥ずかしいのだけれど、、、とてもお腹が空いてきたわ。でもこんな時間だからパンと紅茶があったら嬉しいのだけれど…」「でしたら、お肉などでボリュームを出したサンドイッチをご用意しますね」
急いでキッチンへ向かおうとしたエンジュがお腹の足しになるかともと、小箱をくれた。
先日話していたショコラです。と。
空腹に耐えかねて箱をあけると、色とりどりの丸いボンボンショコラが綺麗に並んでいた。
一粒口に入れるとナッツの香りに優しい甘さとほろ苦さが絶妙にマッチしたとてもレベルの高いショコラだった。(美味しいなぁ。エンジュの気遣いが沁みる)
でも、4日も経っているだなんて、魔法を使ったとはいえ一体何が起きたんだろう。
ベッドの周りを見ると瑞々しい青いバラが花瓶に生けられていた。
それにしても凄い量だことちょっとした花畑の様だわ。どなたかからのお見舞いかしら?
もしかして、ヴィクトール様??
妖精はやる事なす事、予想外ですね。