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蜂蜜色の氷が溶けるまで

不器用な騎士さん、大好物です。(大切な事なので二回……)

チークを横にも縦にも引っ張って、早く元の場所にお返しする様に凄んで見るがあの贖い難い感情が押し寄せて来る。


(ほらほら、心はやっぱり正直だね)

(じゃあボクはお邪魔にならない様にちょっとお出かけしてくる)

(蜂蜜色の氷が溶けきる頃にはきっとアキナを好きになってくれるよ人間時間だと軽く一年後くらいだけど)


(一年!?バカなこと言わないでチーク‼︎)

その言葉は聞いてか聞かずか

ポンッと姿を消したチークに愕然としつつ、この状況をなんとかせねばと知恵を絞る。


「??申し訳ないが一体、これは……」

あぁぁ、申し訳無いのはこちらです。

先ずは土下座しかないと思いソファーから降りヴィクトールを見上げて

「帝国騎士であるヴィクトール様に対するご無礼、お許しください」

日本人でも見惚れる完璧な土下座で精一杯の謝罪。


「顔を上げてください。その妙な事になりましたが、、、よければ事情をお話しください」

こんな状況にも関わらず動じずに私を許してくれるようだ。とは言え、事態は一向に改善していないのだけれど……。何をどうしたら最善なのか考え過去のケースをなぞってみてもこんな事態に陥ったなんて

なかったし…八方塞がり。


順序立てて話すにも、、、と目線の端にナイトキャップ用のお酒が入ったカラフェとチョコレートが目に入った。

「ヴィクトール様、何も仰らずに、お互いのために一杯飲みませんか?」

我ながら無茶苦茶な提案だったけれど、すでに酔っ払っているので素面のヴィクトール様と

対峙できる訳がない。

三本のカラフェをテーブルに並べて、お酒を選んで貰った。

「ヴィクトール様はブランデーがお好きなのですね」

「好き嫌いはないのですが、それでもワインより飲む機会が多いのです」

私も同じものをクリスタルのロックグラスに注ぐと意外だと言わんばかりの顔をした。

「女性なのに珍しい。ブランデーがお好きで?」

「わたくしが居た世界で、日常的にお酒のお付き合いも合ったので何でも頂けます。でも強い訳ではなくて……きっと直ぐに酔ってしまいますわ」

もう既に昼餐で飲んだシャンパンとワインのおかげでほろ酔いだったけれど。


軽くグラスを合わせて、ゴクリと琥珀色の液体を流し込むその姿に見ほれていると目線が合ってしまった。

いくつか話題を振ってみたが、ヴィクトール様の警戒も解けないしこの事態について話すしかないと覚悟を決めた。


「ヴィクトール様、今からお話しすることは信じていただけなくて当然です。ただ今回のことは決して貴方を傷つけたり評判を落とすためでない事、お含みおきください」

少しホワホワして気分がいいのに、身体の芯は凍る様な寒さを覚え、酷く震えが来る。

きっとティターニアの恋心が彼に嫌われたらと震えているのだろう……


そんな私を見たヴィクトール様は

「失礼を承知の上で」と前置きをしてそっと両手を包んでくれた。

間近で見る彼の深い赤色の瞳には鋭さよりも心配の色が浮かんでいた。

精悍な顔つき、ゴツゴツとした大きな手のひら、引き締まった体に、厚い胸板

今まで自分の周りにいたタイプとかけ離れているから、最初こそ怖いと感じたけれど

自分に対する気遣いや紳士的な態度がいつしか好感に変わっていた。

(こんなに風に感じるなんて、きっと恋心のせいね)


「お心遣いありがとうございます。ヴィクトール様の大きな掌は安心感がありますね」

うまく笑えた自信はないけれど、返せる精一杯の笑顔を返して不快でないことを伝えた。


「ヴィクトール様は妖精女王の物語をご存知ですよね」

目線で問いかけると、彼は何か察した顔をした。

でも、この時の私にはそんな意味だとは読み取る事も出来ず一生懸命に事のあらましを話し始めた。


「……と信じていただけないと思うのですが、時の騎士オスカー様の生まれ代わりがヴィクトール様で、私の心の中にティターニアの恋心が居て、前世で2人が離れたことを不憫に思った妖精が良かれと思って………これが今回のヴィクトール様転移事件と私が泣いてしまった理由になります……」

恥ずかしくて消え入りそうな声で頭を下げる。


……よく考えたら事実は述べているけれど、相手の迷惑も考えずに、これはほぼ告白してるじゃない!

あぁ、ヴィクトール様も何も仰らない、無理もないけど……顔を上げるのが怖い。

あの鋭い赤色の瞳に蔑まれるのは、どんなに辛い事だろう。


ギュッと目を閉じて、彼の一言を待った。


目を閉じたままでも伝わってくる葛藤。

国賓と言えど、貴族か王族か庶民では無いだろうヴィクトール様とお近づきになるなんて烏滸がましいというか、失礼に当たるのよね。

顔を上げられずにいたせいか滲んだ涙がいつしか雫となり、ヴィクトール様の手に溢れ落ちた。


いけない、とその雫を拭おうとした次の瞬間には、逞しいヴィクトール様の腕の中にいた。


「申し訳ない。…こういう事に縁遠いオレには貴女にどんな言葉を掛けたらいいか分からないのだが」

一層抱きしめる力が強くなり耳元で「もう少し時間がほしい…貴女を知る時間を、オレを知ってもらう時間を」視線を上げると、今まで見たどの表情より優しく少しだけ熱のこもった眼差しで私を見据える。

「はい………私もヴィクトール様のこと、もっと知りたい…です…」安堵から、そう返事をするだけで精一杯だった。


(くふふ、良かった良かった。あの人間も少なからずアキナが気になってたみたいだし…人間って面白いなぁ。前世なんて分からないけれど運命はこんな風に転がるのか…フゥむっ。)


以前の世界でも、会ったその日に恋に落ちた話はあったけれどまさか自分の身に起きるなんて。

許婚がいて恋愛らしい恋愛もしたことのない私にはとても新鮮だった。


ふと思う。この気持ちはティターニアのもので、ヴィクトール様の気持ちもきっと私の話からオスカー様に引きづられた形なんだと思う。

ヴィクトール様はお優しいから、こんな状態の私に同情して気遣ってくれているだけ。

聞いてはいないけれど、恋人か奥様がいるだろうし、この先、本当に結ばれる日が来るとは思えないこと。


あちらの世界では死んだことになってるとはいえ、私にも愛すべき旦那様と子供たちがいる。

感情に追いつけず複雑な思いだ。


抱きしめられたまま少しの時間を過ごし、どちらからともなく離れた。

甘い痛みだけを心に残して。

ブックマークしてくださった方、評価くださった方ありがとうございます!

励みになります。


初日から受難続きの主人公ですが、受難仲間が出来ましたね。

次回は事件が起きる臭いがしますねぇ。。。

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