たぶん、運命なんだと思う
不器用な騎士さん、大好物です。
少し遅い昼食を摂り、皇太子殿下は準備があるからと皇宮に戻られた。
私の護衛を信頼している帝国騎士のヴィクトール様に任せて。
「ヴィクトール・シィ・アングラウス。帝国騎士団第0師団 皇太子殿下の直属部隊の隊長を任されております。妖精の華客様が我が国にいらした慶事に立ち会えたこと僥倖にございます。」
ワインレッドの髪に同じ色の瞳。精悍な顔つきのガッシリとした筋肉質の男性は膝まづいてそっと手の甲にキスを落とし挨拶をしてくれた。
ヴィクトール様の手に触れた時、心が跳ねた。
この気持ちを言い表す言葉が見つからない…今まで、経験したことのない焦燥感と大切ななにかが見つかったような安心感…心の中に嵐がおきたようだ。
いきなり涙が溢れた私をみてヴィクトール様は、挨拶が嫌だったと勘違いし、そっと手を離そうとして、謝罪の言葉をいいかけた。
咄嗟にヴィクトールの手を両手で包み謝罪をした。
「泣いてしまってごめんなさい、違うのです。うまく言えないのですが、、、、嫌な訳ではなくて、、、むしろ…ずっと…」(え?私何をいいかけた)
ハッと我に帰り、「も、申し訳ありません。ヴィクトール様のことが嫌な訳ではないのです。お許しを」
私が頭を下げると、ヴィクトール様はきりりと表情を引き締め「この先、何があっても貴女をお護りいたします」と誓いをたててくれた。
私室に戻りドレスから白いワンピース(パジャマ?)に着替え、1人にしてほしいとみんなに部屋から出てもらい
やっとひと心地ついた。
夕日が差し込む窓際の広いソファーに腰を降ろすと、チークがポンと現れた。
(アキナ、アキナ。ビックリしたね。大丈夫?)
(一体、何がなんだか)
(ねぇ……チーク、いくつか聞いてもいい?)
(うん、なんでも聞いて、アキナが困るとぼく悲しいもん)
(えっとまずね、私はこの先、元の世界に戻れるの?)
(ううん、無理。だって前の世界のアキナは死んじゃったでしょ?)
ある程度予想はしていたけれど、そっかやっぱり悲しいなぁ。
子供たちは、どうしてるかな。ピアノの発表会はどうだったのかな?
運動会は、学芸会は?バザーも………でも一番は、私はこれから、どうしたら良いんだろう…
思うことがありすぎて、次の言葉を紡げずにいると
(ねぇねぇ良かったね。ずっと恋しかったあの人間に会えて)
くふふと笑いながらコロコロ転がりながらチークは続ける
(アキナの中のティターニアが、嬉しくて嬉しくてアキナも泣いちゃったね)
(ティターニアの恋心がアキナの中には居るんだね)
(恋心??)
(あの人間が触れた時に、心がぎゅーっと締め付けられなかった?ティターニアはそれが恋だってよく言ってたよ。ぼくたち妖精には良くわからないけど)
(待って!待って!私、人妻、子持ち、、、あ、死んじゃったから関係ないのか、いやそうじゃなくて、、、恋??………そっか、あの感覚が、恋するって事なんだ……)
色んな情報が錯綜して頭がこんがらがってきた。
(いまのアキナは結婚してないよ?それならさっきの人間とさっさと番になればいいのに)
(番って……いい?よく聞いてねチーク。人間は結婚するまで複雑な過程があるし、何よりお互いの気持ちが大切なんだよ)
(ふーん、、、じゃああの人間がアキナを好きだと言えばいいの?)
くふふと何か企む仕草をしたので(チーク…魔法は便利だけど人の心まで想い通りにはならないよ。操るなんてダメ。いけない事だよ)
(うーん。ぼくはアキナが嬉しいならあの人間の気持ちなんてどうでもいいけど、、、でもそれじゃあアキナは嬉しくないのか……人間って面倒なんだね)
通じたのかなと思った……が、妖精の思考はやっぱり人間とはだいぶ違う……
(じゃあ、アキナの事好きになるまで、、、閉じ込めちゃおう!)
言うが早く、座った私の隣に薄青い模様が浮かぶ。
(手取り早いし、あの人間をここに呼んじゃうね!)
パッと光が引くと、白シャツにピッタリとしたシルエットの黒いパンツスタイルのヴィクトールが現れた。
眉間に皺を寄せる彼に、何を話せばいいのか、目を覆いたくなる。
こうなる事が私と彼の………たぶん運命なんだと思う。
騎士様にやっと出会えましたね。