未来に何があるのか
南方へ向かうにはここから早くて3日はかかる。
はっきり言おう。3日かけて来たのかい?君。
「っち、ここからだと少なくとも3日はかかるか。」
そんな不機嫌になるぐらいなら来なければいいのに。
『そもそも、何でイノリがここまで来てるわけ?可笑しいでしょ?3日かけてここまできて明らかな時間の無駄と戦力喪失だよ。』
「腑抜けた事言ってんじゃねーぞ。
一日ちょいで着いた。」
・・・・・だからどうやってだよ。物理的考えて無理で・・・・・
『まさか。』
「おお。超能力できた。」
超能力。この世界では一部の限られた生き物が使える力だ。
魔法が一般的なこの世界では最初の頃、超能力はあまり特殊な力とは思われていなかった。
それは、超能力と同じ事が魔法でも代用可能だからだ。
しかし、ここ最近の研究ではこの考えはかなり浅はかな考えであると言うものが多い。それは、魔法とは根本的に異なる事があるからだ。
魔法とは、生まれ持った属性や魔力の量によって使える能力や幅が変わってる。厄介なのがこの魔力というものはなかなか増えることはなく増やそうとするのは相当苦労するということだ。この魔法というのは遺伝的な部分も大きく今現在自国や周辺諸国も含めほとんどの国の人々が魔法の属性や魔力の量を結婚相手に求める一つの基準になっている。
そのせいで色々な問題も起きている。
そして超能力。この超能力とは魔法とは違い基本的に魔力の量ではなく体力に依存する。だから本人の努力次第でいくらでも力を伸ばせる。
本来魔法と同じようなら生まれもった魔力によって使えるレベルが決まってくるが、この超能力というのは本人次第でどれだけでも伸ばせる。ある意味魔法よりも伸び代があるのだ。
それだけではなく、この超能力の中には魔法では到底代用出来ないような能力も存在する。これを特殊能力という。
イノリの超能力もその一種だが、本人はそうは思ってないようで頑なに魔法だと言い張っている。
まぁ、この話はこのぐらいにしておいて問題はイノリが何も考えず超能力でここまで来たという事だ。
・・・・・・・・・馬鹿だ。本物の馬鹿だ。
だいたいどれだけの距離があると思ってるの。体力的にも・・・・・。
???
『君。体力的に大丈夫なの?』
「少し怠いだけだ。問題ねーよ。」
・・・・・・・問題しかない。
だいたい超能力をそんな長時間使ったなんて話聞いたことがないんだけど。・・・・・・もうゴリラを通り越してスーパーサ◯ア人に見えてきたのだけれど!
『一応言っておくけど、私の戦闘能力が低いことぐらい君もわかっているだろう?
だから、君が私の盾にならない場合私は直ぐに死んでしまう。そうなると、』
「うるせぇ。」
イノリは話を聞きたくなかったのか眉間にシワを寄せてそう言うなり馬車の中で寝転がってしまった。
因みに、私達が今のっている馬車は木で出来た素朴な馬車で所謂荷物用の馬車だ。
目立たない目的もありこの馬車になった。
・・・・・・・馬車よりも馬でかけた方が速いだろうに。
それを避けなければいけないほど超能力を使ったと言うことか。
・・・・・先が思いやられる。
何でこうも考えなしなのだろうね。
イノリはシャツ一枚にズボンだけのだいぶシンプルな服装だが今の季節は冬。急ぎ過ぎて羽織を羽織るのを忘れたんだろうか。
私は自分の着ている上着を脱いだ。
パサッ
『本当に君はミトコンドリア並みの頭をしているね。』
「あ〝ぁ。っ。」
『嫌かも知れないけど少し我慢するんだよ。』
そう言って、寝そべっているイノリの頭を膝におき、彼の体の上に自分の羽織をおいた。そうすると何だかんだ言いつつも気持ち良さそうに彼は寝始めた。
全く。普段の君からは考えられない寝顔だね。
私と話すときは心底嫌そうな顔をするのに。
なんて幸せそうに寝るんだい?君は。
馬車に気持ちよく揺すられながら私は自分の着ていた羽織に手を置いた。
ガタン。ゴトン。ガタン。ゴトン。
ふぅ。
向こうに着いて、戦った後、私はまた元の生活に戻るのだろうか?
今の生活はとてもつまらなく退屈だけれど、ご飯も出てくるし辛い労働もない。
私が全てを投げ出して自由を手に入れた所でどうやって生きていく?
それこそ、普通に生きていけるのか?
私が全てを投げ出したとしても私はこの国に関わりすぎている。
必ず命を狙われるだろうね。
それでも、私は。
ガタン。ゴトン。ガタン。ゴトン。
っ。
あー。寝てしまったか。
ガタン。ゴトン。ガタン。ゴトン。
今は、夜?
ギュッ。
・・・・・・・痛い。お腹が潰されそうだ。
『君さ。私の体は抱き枕ではないのだけれど。わかってるかい?』
だらー。
ヨダレが垂れてるんだけど。
ぐー。がー。
イビキもうるさいんだけど。
はー。こんな男の何処がいいのか。
てか君全くモテないイメージだったのだけれど、案外本当にモテないんじゃないかこれ。
君のどこを見て好きになったのか。
奇特なお嬢さんだ。
『暴力的で、言葉遣いが乱暴で単細胞な君が選んだ子なのだろう?・・・』
『そんな君を好きになってくれた子なのだろう?・・・・大事にしなきゃ駄目だよ。・・・・・・私のように扱ってはいけないよ。』
もう。この顔も見納めかもね。
額に手をあてる。
そのまま顔を上に向けて、私はその唇にキスをした。
此が、君とした初めてのキスだと君は知っているのだろうか?
私はこの時知らなかったんだ。
自分が泣いていたことも。君が起きていたことも。