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家康の主魔保特訓 その一

◇◇


――『主魔保スマホ』を制する者は、天下を制する。


 織田家が主魔保を活用して敵を圧倒している様子を目の当たりにした徳川家康は、徳川家でも主魔保を活用して天下泰平の世作りをしていくことを決意した。

 しかし、極度の電話嫌いな上に、電話帳には妾を除けばわずか数名しか記載のない家康。

 このままでは完全に時代に取り残されてしまうと危惧した彼は、ついに『主魔保特訓』をすることにしたのだった――

 

◇◇


――プルルル!


「で、電話だぁぁぁ! うおおおお! だ、誰だ!?」

「平八郎! 番号を見てみろ! どうだ!?」

「こ、これは……!? 小平太! 見覚えがない番号だ!」


 そう本多忠勝が顔を青くして言った瞬間だった――

 

――ドゴオォォォォン!!


 と彼の顔面が粉砕されたような轟音が鳴り響いたかと思うと、彼は壁際まで吹き飛ばされてしまったのである。

 そして彼が元いた場所には、鬼のような形相をした榊原康政が、鉄拳を振り抜いたままの姿勢で立っていた。

 ちなみに、象をも倒すと言われている康政の一撃。

 しかし忠勝はすぐに立ち上がると、顔を真っ赤にさせて吼えた。

 

「てめえぇぇ!! 突然殴るとはなにごとだぁぁ!!?」


 すると康政は瞳いっぱいに涙を浮かべながら、部屋の空気を震わせた。

 

「平八郎! 貴様は忠義という言葉を知らんのかぁぁぁ!?」


 それを聞いた忠勝は「心外だ!」と言わんばかりに彼に詰め寄った。

 

「何を言い出すかと思えば!! この本多平八郎!! 殿の恩義を忘れたことなど、片時もない!」

「ならば……ならば答えてみよ!!」


――プルルル!


 まるで獅子と虎が睨みあいをしているような緊張感が、忠勝と康政との間に走る中にあっても、電話の着信音は虚しく鳴り響いている。

 しかし彼らの耳には、互いの声しか届いていなかった。

 

 康政は鳴り続ける主魔保を指差して叫んだ。

 

「あの番号をどなたのものと心得る!!?」


 それを耳にした瞬間、忠勝の顔がさっと青ざめた。

 そして彼は慌てて自分の電話帳を開いたのである。

 そこに書かれた、たった一つの電話番号を確認するために……。

 

「とのぉぉぉぉぉぉ!! うおぉぉぉぉ!! 俺は……俺はぁぁぁぁ!!」


 それはまさに『徳川家康』の番号だった。

 わんわんと大泣きを始めた忠勝に対して、康政はそっと背中をなで始めた。

 

「よいのだ。平八郎。誰にでも失敗はある。その失敗を次に活かせるかどうか。そこに『おとこ』の価値があるというものだ」


 見れば康政の瞳からも一筋の涙が流れ落ちていた。

 

――プルルル!


 なおも鳴り続ける着信音が、さながら二人の友情を奏でる琴の音のように、彼らの心を震わせていた。

 

 ……と、その時だった――

 

――ピシャッ!!


 突然、部屋の襖が開けられたかと思うと、そこから夏の陽射しが射しこんできたのである。

 

「うおっ! 眩しい!」


 と、忠勝が叫ぶ。

 一方の康政は光の中に、立つ一人の人物を見て、目を見開いた。

 

「後光だ……。後光が差しておられる……」


 康政は感嘆のつぶやきをもらすと、忠勝もその人物に目を凝らす。

 すると彼の顔はみるみるうちに興奮の赤色に染まっていった。

 

「とのぉぉぉぉぉ!!」


 なんとそこには険しい表情をして仁王立ちしている徳川家康の姿があったのだ。

 忠勝は急いで平伏して、許しをこいた。

 

「殿! お許しくだされぇぇ! 俺は……俺は殿の電話番号を……」


 それ以上は涙で言葉にならない。

 すると隣の康政が彼の代わりに続いた。

 

「殿! 平八郎は確かに殿の電話番号を覚えていなかった。しかしこれは平八郎だけの落ち度ではございませぬ! 普段より接している俺の落ち度でもあります! もし平八郎を罰するなら、俺も罰してくだされ!!」


 康政の必死の言葉に、忠勝はばっと顔を上げた。

 再び滂沱のように流れ落ちる涙。

 しかし、彼はそれを拭わずに、咆哮をあげた。

 

「いやっ! これは俺だけの落ち度だぁぁぁ!! 康政はなにも悪くない! それどころか、愚かな俺に、熱い友情でこたえてくれたのだ!! とのぉぉぉ!! 罰するなら俺だけを! そしてこんな俺をいさめてくれた『心の友』には、温情を与えてくだされぇぇ!」

「馬鹿野郎!! 平八郎と小平太は二人で一つ!! 平八郎の罰は俺も受けるのがさだめだ!」

「小平太!!」

「平八郎!!」

「「うわあああああん!!」」


 とうとう抱き合って男泣きをはじめた二人に対して、側まで寄ってきた家康は、腰をかがんだ。

 そして二人の背中を優しくなでながら言ったのだった。

 

「二人とも。もうよいのだ。これも全てわしが悪かったのじゃ」


 家康の優しい言葉に、二人はぱっと泣きやんで彼の顔を覗き込んだ。

 それはまさに菩薩のような慈愛に満ちた表情に、二人には感じられたのだった――

 

「殿……」

「殿……」

「二人とも、さがっておれ。ここはお主らのような者たちが『戦う』場所ではない。槍や弓の稽古に励んでおればよい」


 そう告げただけで家康は二人に背を向けた。

 慌てて忠勝が声をかける。

 

「とのぉぉぉ!! 罰を! 罰を与えてくれねば、兵たちにしめしがつきませぬ!!」

「俺もだ! 殿! 俺にも罰を!!」

「なにを言うか、小平太! 罰を受けるのは俺だけでじゅうぶんだ!」


 再び睨み合いを始めた忠勝と康政の二人に対して、家康は最後まで穏やかな声で言い残したのだった。

 

「二人がこの部屋から立ち去ってくれれば、それだけでよい。徳川には忠義の臣を罰する掟など、持ち合わせていないからのう」


 部屋を静かに立ち去っていく家康の背中を追いかけるように、部屋を出た二人は、深々と頭を下げて叫んだ。

 

「これからも殿のため! 徳川のために、命を賭して奉公いたします!!」


 と――

 

◇◇


 自室に戻ってきた家康。

 彼は苦虫をつぶしたような顔で、隣にいる石川数正と酒井忠次に言った。

 

「誰じゃ? あの二人をわしの主魔保特訓の相手に任命したのは?」


 数正と忠次は互いに顔を見合わせると、忠次の方が神妙な面持ちで答えた。

 

「申し訳ございませぬ、殿。あの二人が『特訓の一番槍は絶対に譲らぬ』と言って聞かなかったもので……」


 こうして家康の主魔保特訓は、出だしから暗雲がたちこめていたのだった――



「後光だ……」じゃねえよ。とっとと電話に出ろよw


と、最後まで言わなかった、神君家康公の懐の大きさが伝われば幸いです(嘘)

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