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姉川の合戦

◇◇


「出陣」


 織田信長の一言で、織田と徳川の連合軍が一斉に岐阜城を発った。

 もちろん徳川家康をはじめ、徳川家の主だった人々もこれに加わっている。

 目指すは近江の姉川河原。

 敵の浅井と朝倉の連合軍はそこで待ち構えているらしい。

 

 そして数日後――

 

 両軍は姉川という川を挟んで対峙する。

 早朝の朝もやがかかる中、川の向こう岸にいる敵の大軍を見て、徳川家康の血は騒いでいた。


「天下に三河武士の強さを轟かせてみせよう!!」


――オオッ!!


 陣頭に立った家康が大きな声で鼓舞すると、兵たちは一斉に雄たけびをあげた。


「さあ、あとは信長殿からの突撃の号令を待つだけじゃ!!」


 瞳を爛々と輝かせながら、いまかいまかとその時を待ち続けていた。

 ……と、そんな時だった。

 

「徳川殿! 徳川殿!」


 と、彼を呼ぶ声が味方の方から聞こえてきたのである。


「むむっ!? その声は佐久間殿か?」

「おお! 間に合ってよかった!」


 それは佐久間信盛だった。

 彼は家康の側まで馬で駆け寄ってくると、さっと『とある物』を差し出した。

 

「なんじゃこりゃ?」

「これは当家が開発した『装着主魔保そうちゃくスマホ』じゃ!」

「そうちゃくすまほ?」


 それは後世で言う『ヘッドセット』だ。

 ただし、頭上に装着するため、重い兜を一回脱ぐ必要がある。

 

「めんどくさいのぅ……」


 家康は苦々しい顔をしたが、佐久間信盛が「殿の御達しならば、どうか御勘弁を」と何度も頼みこんできたので、しぶしぶ装着したのだった。

 すると佐久間信盛が耳をちょんちょんとつついて言った。

 

「耳にある突起を押してくだされ」

「うむ。これか」


 ブスッとそれを押すと、耳があたっている部分から雑音が聞こえ始める。

 

「な、なんじゃ!?」

「これは殿の主魔保と繋がっております」


 佐久間信盛が家康に告げた直後、信長の低い声が聞こえてきた。

 

「みなのもの、聞こえるか? 聞こえたら返事せよ」

「木下藤吉郎! ばっちり聞こえております!」


 遠くからでもよく響く藤吉郎の返事を皮切りに、続々と一軍を任された武将たちが返事をすると、家康もまたそれにならって返事をした。

 

「うむ。よろしい。では各々準備をいたせ」

「はっ!」


 家康は「いよいよ突撃か!」と鼻息を荒くして槍を握りしめたが、佐久間信盛が慌てて手をふって彼をいさめた。

 

「か、勘違いされるな! 槍を下ろしなされ!」


 家康は訝しみながらも、しぶしぶ槍をおろした。

 徳川軍の兵たちもまた一斉に槍を下ろして、顔を見合わせている。

 

「どういうことじゃ!? 敵はすぐ目の前にいるというのに」

「まあまあ、しばし待たれよ。敵が目の前にいるからこそ、槍を下ろすのじゃ」

「言っている意味がさっぱり分からぬ」

「すぐに分かるから、しばし待たれよ!」


 佐久間信盛の声に苛立ちが感じられたところで、家康は口をへの字に曲げて沈黙した。

 すると信長の雷を落としたような大号令が鼓膜を直接震わせたのだった。

 

「いっせいに、『かけよ』!!」


 『かかれ』ではなく、『かけよ』とはどういう意味であろうか……。

 しかし家康がそれを口にする前に、戦場に大異変が起こったのだった。

 

――ブルルルル!

――リリリリン!

――ブウウウウン!!


 なんと川を挟んだ敵陣から一斉に『着信音』が鳴り響いたのである。

 そして直後に織田陣営から大声が上がった。

 

「時はきた!! 寝返るのだ!!」


――オオオオッ!!


 姉川の向こう側で鬨の声があがると、朝もやがかかっていても敵が大混乱に陥っている様子が見て取れる。

 

――う、裏切り者めぇぇ!!

――欲にかられて、恩義を忘れおったか!!


 それは『主魔保部屋』での戦果が花開いた瞬間であった。

 つまり浅井、朝倉の連合軍から次々と内通者が蜂起しはじめたのである。

 家康はいったい何が起こったのか理解できず、ただ口をあけて敵が自滅していく様子を見ていた。

 すると、ようやく彼が待ちわびた号令が発せられたのだった。

 

「全軍! 突撃! 一人残らず滅せよ!!」


――うおおおっっ!!


 待ってましたと言わんばかりに、一斉に川を渡り始める織田の軍勢。

 しかし徳川軍は動かなかった。いや、動けなかった。

 なぜなら大将の家康が口を半開きにしたまま、茫然と立ちつくしてしまっていたからである。

 佐久間信盛は「ちっ! 田舎侍め! もしなんの手がらも挙げられなければ、目付けである俺の責任になってしまうではないか!」とポロリと本音をもらすと、バンと家康の背中をはたいた。

 

「それっ! 徳川殿! ぼけっとしている場合ではございませんぞ!」

「あ、ああ、はい。……みなのもの! 進めぇぇ!」


――お、おおっ!


 あまり気合いが乗らないまま川を渡っていく徳川軍。

 だが目の前の浅井と朝倉の連合軍は、もはや軍勢が素通りするだけで、勝手に潰れていった。


「弱い。弱過ぎる……。いや、戦が始まる前に既に決着がついていたということか……」


 家康は未だに目の前で起こっている現象が信じられず、前をいく自身の軍勢の後ろをただついていった。

 するとそこに再び信長の号令が耳に飛び込んできた。

 

「このまま小谷城へ突き進め」


 小谷城とは浅井氏の本拠で、姉川からほど近い場所にある。

 つまり信長は一気に浅井氏を滅ぼすように命じたのであった。


「攻城戦なら小細工はきくまい!!」


 家康は目を輝かせると、力強く馬の腹を蹴って軍勢の中ほどへと躍り出ていく。

 なお、信長からの指示は、『装着主魔保』をつけた家康しか聞こえない。

 そこで家康は信長からの指令をそのまま、自らの口から発した。

 

「小谷城じゃ! 小谷城を落とすぞ!!」

――オオオオオッ!!


 ようやく気合いの入った家康の号令が響くと、先頭を行く本多忠勝をはじめとして、三河の猪武者たちの口から咆哮が聞こえてくる。

 その様子に目付けである佐久間信盛も、ほっとした表情を浮かべていた。

 

「誰にも遅れをとるな! 三河武士の強さはここで見せてくれようぞ!」

――オオオオオッ!


 ずんずんと全速力で進んでいく徳川軍。

 次々と織田家の武将たちを追い抜いていくと、いつの間にか先頭へ躍り出ていた。


「よぉぉし!! 一番乗りはわしらじゃぁぁ!!」

――オオオオオッ!


 結束の固い三河武士たちは、まさに一丸となって目の前に迫った小谷城へ向かって突進していく。

 ……と、その時だった。


「小谷城! 一番乗りぃぃぃ!!」


 と、後方から甲高い声が響き渡ったのである。


「はあぁぁぁ!?」


 思わず家康は足を止めて声の持ち主の方に目をやった。

 すると彼の目に飛び込んできたのは、主魔保を片手にゲラゲラと大笑いしている木下藤吉郎の姿であった。

 さらに……。


「三の丸と二の丸を同時に攻略完了いたしました!」


 と、別の方から声が響いてきた。

 家康は首をグルンとそちらに回すと、両手に主魔保を持ちながら、馬に乗っている明智光秀の姿が目に入ってきた。


「お市様とお子らの無事を確保いたしましたぁ!」

「当主、浅井長政とその父久政の身柄を同時に拘束完了!」

「ぐぬぬぅ! 小谷城の本丸を制圧しましたぁ!」

「ふっ……城門を同時に三つ開放!」

「光秀めぇぇ! わしゃ負けん!」

「ふっ……その程度か?」


 いつの間にか藤吉郎と光秀は馬を並べながら、火花を散らして功を競い始めている。

 家康はそんな二人の様子をポカンとしながら見ているより他なかった。

 そうして先頭を行く徳川軍が小谷城の大手門に到着する頃には、城中に織田家の旗が高々と掲げられていたのだ。

 大空にはためくそれらを見上げながら、家康はボソリとつぶやいた。


「主魔保を制する者は、天下を制する……冗談ではないかもしれん……」


 家康は心の底からそう思ったのだった――

 







実際の私の『信長の◯望』のプレイに近いですね。

戦に出てくるだろう武将を予想して、ことごとく内応しておく。

そして戦開始とともに次々と寝返らせると、今考えればおおよそ中学生らしくないプレイをしてました。

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