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主魔保部屋(スマホべや)は戦場だった

 岐阜城にある『主魔保部屋スマホべや』の中を目にした瞬間に腰を抜かしてしまった家康。

 彼の目に飛び込んできたその光景とは……。

 織田家の人々が巨大な部屋にずらりと座り、一心不乱に電話をかけている光景であった――

 

「いったい何をしているのだ……」


 口を半開きにしたまま、ぼそりとつぶやいた家康の頭上から、信長の低い声がかけられた。

 

「こっちへこい」


 彼は言われるがままに、信長のいる部屋全体を見渡せるほどの高い場所へと移った。

 

「の、信長殿。これはいったいなんなのでしょう?」


 家康が声を震わせながら問いかけると、信長はさらりと答えた。

 

「見れば分かるであろう。戦場だ」

「戦場……」


 そう言われてみれば確かに人々は戦場にいるかのような真剣な表情で電話をかけ続けている。

 しかし槍も鉄砲もない場所で『戦場』と言われても、いまいち実感がわかないのが本音だ。

 信長は家康の怪訝そうな顔を見て、ふっと口角を上げた。

 

「もうすぐ貴様にも意味が分かる。ひとまずここへ座れ」

「はぁ……」

 

 家康は信長に促されると、彼の横に腰をかけて、しばらく部屋の様子を見つめていた。

 すると……。

 

――ドドン!!


 と、大きな太鼓の音が部屋中に響き渡ったのである。

 そして織田家の家老とおぼしき初老の男が、大声で告げた。

 

「あらためー! あらための時間じゃー!!」


 すると人々は、電話をかけながらしたためていた紙面を彼に手渡し始める。

 それら全てに素早く目を通した初老の男は、再び大きな声を上げた。

 

「これより結果を発表する!! 戦功第一位は……」


――ドドドドド……ドドンッ!


 と太鼓が鳴らされると、彼はくわっと目を見開いて言った。

 

「木下藤吉郎秀吉!!」

「よっしゃあぁぁぁぁ!!」


 名が告げられた瞬間に、部屋の末席の方から元気な返事が聞こえてきた。

 すると細くて小さな男が、ぴょんと飛び跳ねたのが見える。

 彼は人々の間を縫うようにして部屋の中を駆けてくると、ぴょんぴょんと跳ねながら信長の前までやってきた。

 そこで初老の男が手にした紙面を読み上げ始めたのだった。

 

「寝返りの約束を取り付けた人数! 足軽大将級三人! 足軽級二十人! 米と銭の提供約束……」


 それらは言うまでもなく、先ほどまで電話をかけ続けていたことによる『戦果』だ。

 なんと織田家では『調略』や『交渉』を、『主魔保』を用いて家臣団全員で行っていたのである。

 家康は唖然としながら『戦後』の『論功行賞』の様子に、引き続き耳を傾けていた。

 

「ハゲネズミよ。よくやった。褒美をつかわそう」

「ははーっ! ありがたき幸せぇぇ!!」


 信長は目の前でひれ伏す男にそう告げると、一枚の紙をはらりと落とした。

 男はそれを手にするなり、ぴょんと飛び跳ねた。

 

「うっひょおおお!! これは堺の商人たちの『私的電話番号』じゃ!! さっすが信長様! きまえがええのう!!」


――電話番号が褒美だと……!? それになんなのだ『私的電話番号』とは……?


 家康はますます混乱してしまった。

 しかしそんな彼をよそに信長による『論功行賞』は続いた。

 

「もうよい。下がれ」

「へいっ!」


 信長の一声に、男は弾かれるようにして元の席へと戻っていった。

 なお彼こそ、後に『豊臣秀吉』と呼ばれるようになる英傑。

 今はまだ織田家に奉公に励んでいるいっかいの武将にすぎないが、この頃めきめきと頭角を表しつつあったのは、この『論功行賞』を見ても明らかと言えよう。

 

 秀吉から始まった『戦果』の報告は、その後も続いていくと、ついに残り五人というところまできた。

 そして初老の男が大きな声で締めくくったのだった。

 

「残りの五人は目立った『戦果』はなし! 以上でございます!」


 すくりと立ち上がった信長は一同を見回すと、低い声で告げた。

 

「その五人。立て」


 シーンと場が静まりかえる中で、五人が震えながら立ち上がる。

 中には他家の家康でさえも見覚えのある、『家老級』の者や『猪武者』と名を馳せた者も含まれていた。

 だが信長は彼らの顔や格などにはまったく興味がないのだろう。

 まるで醜いものでも見るように、冷ややかな視線を浴びせながら命じたのだった。

 

「うぬらは当家に必要ない。去れ。ただし、戦果をわれに示せば、再び末席に加えてやろう」


 家康は思わず「そんな!?」と声を漏らしてしまった。

 たかが『電話』での成果が挙がらなかった程度で追放されてしまうなんて……。

 彼の想像の範疇を大きく超えた現象に、自身の制御がついていかない。

 すると信長は、慌てて自分の口をふさいでいる彼にギロリを視線を移すと、突き刺すような口調で考えを口にしたのだった。

 

「織田では結果が全て。そして、この世は『槍』も『電話』も同じ武器。敵を崩せぬ者にくれてやる禄などない」

 

 と――

 

◇◇


 『主魔保部屋』の見学を終え、夕げの時間まで束の間の自由を与えられた家康は、ぐったりしながら、今夜寝泊まりする部屋へ急いでいた。

 織田家と徳川家では、あまりにも『電話』に対する考えや扱い方が違いすぎるため、まるで別世界に飛び込んできたような居心地であったのだ。

 

「とにかく疲れた。少し休みたい」


 げっそりした顔でそうつぶやいた彼を、隣の酒井忠次や石川数正は心配そうに見ていた。

 ……と、そんな時だった。

 

「ぎゃはははっ! そりゃあ愉快だのう! うむ、うむ! ぎゃはははっ!」


 と、下品な笑い声が前方から響いてきたのだ。

 家康、忠次、数正の三人は眉をへの字に曲げて、声の持ち主に視線を移した。

 するとそこには、先ほど『主魔保部屋』で『戦功第一位』として称えられた木下藤吉郎が、電話片手に大笑いしている姿があったのだった――



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