sequel
後編です、前編よりも更に長いです。
謎の文字化けの後、再びT.futureからメッセージが送られてきた。
(分かったぞ!今はその像の下にある排気口から外に出ろ!10秒以内にだ!)
3人は、指示通り動いた。少しもたつき8秒経過、入り口の扉が開き警備員が入ってきた。
「な...なんじゃこりゃ!」
「おい、どうなっているんだ!?」
警備員が入っても2秒間だけは目の前に侵入者がいたことに気付かなかった。
3人は、脱出に成功した。国防総省近くの川、サディアはスマホが濡れないように川に落ちた。
そして岸までたどり着いたら、再びメッセージが送られてきた。
(まだ終わってないんだ。その時代にはサクリファイスはもう一つある。場所はサンフランシスコ。これはマズイ、今の破壊で別の次元に突入してしまった。もうサクリファイスの目を誤魔化せない)
3人は唖然とした。最悪の事態だ。もう、彼らは安全に暮らすことが出来なくなった。
(おい!何故それに気づかなかった!)
(済まない...その時代は既に本来向かう未来とは違う次元に行っていたんだ。タイムマシンは、タイラーがあの事故が原因で作られた、そのはずだった。だけど、事故は起こらなかった)
(そこで、もう修正が利かなくなってしまった。タイラーはもう作っているんだ。時間を超えるシステムを、それは今、タイラーのパソコンの中にある)
(タイラーは、3Dモデルのいろんなプログラムを組んでよく遊んでいる、そのプログラムを応用し、数日前にタイラーは作ってしまっていた。本人が気付かず、タイムマシンを)
(サクリファイスはもう見つけてしまった、時間を超える技術を、私は過去にしか干渉できない。だが、サクリファイスは違う、未来に干渉できる)
(だから、既に本物のサクリファイスはアップデートを完了し、侵略者を未来で動かしている。つまり、サクリファイスが攻撃をし始めたのは数か月後じゃない、今だ!)
(私の負けだ、生物は死に絶える。私にはどうすることも出来なくなってしまった。本当に済まなかった。君たちを巻き込んでしまって、心配はするな。アフターケアぐらいはするさ)
(一応、あの破壊したサクリファイスは誰に攻撃されたかは理解できてはいない。だから、今まで通りの生活に戻って構わない、タイラーも、重要人物から外されて任務は無しにされたはずだ)
(残りの人生の13年、無駄なく過ごしてくれ。私もここで死を待とう)
(T.futureさんがあなたの友達から外れました)
この後、メッセージを送ることが出来なくなってしまった。
「ダメだ!反応がない。くそっ!13年後に待つ死を覚悟しながらこの先生きろと?ふざけるな!」
サディアは、怒りに身を任せドラム缶を殴りつけた。
「サディアさん!落ち着いてください!!」
テレサが、サディアをなだめている。
「もういいじゃないですか」
ボソッと、タイラーが呟いた。サディアは暴れるのは止めた。
「あと13年あるんでしょ?人類が滅亡するまでに、だったらかなりの猶予がある。僕は宝くじに当選してる。13年、自由気ままに生きますよ。後悔の無いように、楽しく...」
「それに僕たちは、すごいラッキーだったんです。いつ自分が死ぬかが分かる。死を覚悟出来る。それって、とてつもない幸運だと思います」
タイラーの言葉に、サディアは考え込んだ。テレサも考え込んでいる。そして答えが出た。タイラーにスマホを渡し、立ち上がった。
「どうにも、そう考えるのがいいらしい。FBIに戻って何もないのなら、私たちはまだ、普通に生活できる。あれ程の事をしておいて、その罪の執行猶予が13年間なら、確かに幸運だな」
「こんな数時間の出来事なのに、自分を見返すいい機会になった。礼を言おう、タイラー君。何か縁でもあればいつか」
「こちらこそ、ありがとうございます。まるで映画の中に入っていた気分です。お互い、13年頑張りましょう」
「そうだな。よし、テレサ、行くぞ」
「は、はい!」
テレサは、何か言いたげだった。だが何も言わず、タイラーを少し見て、その場がら立ち去った。
「よいしょっと...よし!行くか!」
タイラーは立ち上がった。そして、歩き始めた。一直線に、待ち受ける未来に向かって。そして...
・
・
・
タイラーは、飛行機に乗った。行き先は...
2017年1月16日
サンフランシスコ郊外某所。タイラーはそこにいた。そして、ある目的地に向かっていた。
「サクリファイス、まだ終わらないぞ...」
タイラーは、まだ諦めてはいなかった。彼は責任を感じていた。自分が発明してしまったものが、全てを終わらせる原因になったことに、だから彼はここに来た。全てを変える為に。
【TIM鉄砲店】
「こんにちは~。ティムおじさんいますか?」
タイラーは、この鉄砲店にいた。ここのオーナー、ティムに用事があったのだ。店の奥から少し年老いた男が出てきた。
「おぉ!タイラーじゃねぇか!久しぶりだなぁ元気してたか?じゃねぇや、ここに来たってことは、実家には行ったのか?行ってないんなら、たまには行っとけよ?この間、心配してたぜ?で、ところでここに何の用だ?」
この店のオーナー、ティムはタイラーにとっての伯父にあたる。
「実は、銃を売ってくれないかなと思って...」
「!?...タイラーが銃!?あの銃嫌いのタイラーが?お前、熱でもあるのか?...まさかタイラーお前、家族でも出来たか?それでか?」
ティムは驚きとともに、ニヤニヤした。
「違いますよ、銃は嫌いですけど、必要かなと思う事があったんです」
「?...なんか訳ありみてぇだな、深くは聞かねぇけどよ、ヤバい事には絶対使うなよ」
「大丈夫ですよ、あくまで護身用ですから、使いたくもないです」
「ならいいか、で?どれにする?『お客さん』」
「えっと、まず『45.』が1丁、『9mm』が1丁、それと『12ゲージ』下さい」
「え゛!?そんなに買うの?金は...」
「5000ドルあれば大丈夫ですか?」
タイラーはティムに5000ドル渡した。ティムは驚き、固まった。
「釣りが出るほどだ、こんな大金どうした。本当に変な事やって無いよな?」
ティムはどんどん心配になってきた。タイラーが幼少の頃からいつも一緒に遊んでいたティムだったが、今日は、何か異様な胸騒ぎを感じていた。タイラーが心配でならない。
「実は、宝くじが当たっちゃって、今、お金がかなりあるから、ちょっと怖いなぁって思って、それで買いに来たんだ。ごめんね、特に心配かけるような事じゃないよ。あ、お釣りはいらないからね」
「おう、なんだそんな事か、てっきり変な犯罪に手を出したのかと...」
「僕はそんなことしませんよ」
「ふぅ、安心したぜ。また来いよ、仕事も頑張れよ」
「はい、頑張ります」
「ところでタイラー。お前、銃の扱い方知ってんのか?」
「ここに来る途中、『インターネット』で調べまくりましたよ。構えの仕方から、分解の仕方までしっかりと」
「タイラーって変なとこだけいつも勉強熱心だよな。高校の時の先生にやった嫌がらせといい...」
「あれはもう忘れてくださいよぉ。ハハハ」
タイラーは、銃購入の手続きを済ませ、少し離れたモーテルに向かった。
「さてと」
タイラーは、持っていたノートパソコンを立ち上げた。
「サクリファイスは、恐らく僕の行動を見た。銃をあれだけ買って、撃ち方などを調べた形跡、『まだ何かするはず』と判断するはずだ。もう少ししたら、また誰かが僕を狙う可能性がある。勝負と行こうか、サクリファイス。未来を知らなくても、僕はお前にたどり着いて見せる。未来を、変えてやる」
タイラーは、必死にキーボードを打っている、タイラーはあるプログラムを作っていた。
そしてタイラーは、モーテルの中をウロウロした。そして、いろんな場所を確かめた。発信機等がないか確認していた。たまに、コンセントの中に発信機や盗聴器が入っていることがあるらしい。どうやら無いようだったが。そしてタイラーは、部屋に仕掛けをした。
「来るとしたら、もうすぐか?」
タイラーが、ボソッとつぶやいた瞬間、タイラーのいる部屋のベルが鳴った。
「すいませーん」
タイラーは、少しだけ扉を開けて、外に顔を出した。
「どちらさんですか?」
タイラーは、キョトンとした顔で玄関にいた男に聞いた。
「あ~私、警察のものでして、君に少しお話を聞きたいのですが...」
タイラーの予想通りだ。再びサクリファイスがタイラーを追い始めたようだ。
「言う事は、無いです!」
タイラーは全力でドアを閉め、鍵をかけた。
「あ!おい!」
しばらくして、扉は蹴破られた。男が一人、部屋に入って来る。だがそこにタイラーはいない。
「どこに行った...」
「っ!?」
男は、動けなくなった。頭に銃を突き付けられたからだ。
「動かないで下さい。そして、質問にだけ答えてください」
「あなたは、誰の命令で僕を捕えようとしているんだ?」
男は、何の話だと言わんばかりに反論した。
「そりゃ上司だ。貴様らテロリストを犯罪を犯す前に取り押さえろってな。お前は、勝った気分でいるのかもしれないが、とんだ勘違いだぞ?」
「そういう事だ、銃を下せ、タイラー」
警察はもう一人いた。タイラーの頭の後ろにも銃口が突き付けられている。
「この銃口が当たる感じ、やっぱ気持ち悪いな。ところで、良いんですか?僕がこの位置で手を下げたら、後ろのあなた、頭が飛びますよ?」
もう一人は、あることに気が付いた。タイラーの手元に細いワイヤーが巻き付けられている。そのワイヤーは壁を伝い、壁に括りつけられた45口径の引き金に触れている。壁の銃はまっすぐもう一人の頭を狙っていた。タイラーが少しでも手を下げようものなら、引き金が引かれる。タイラーは二人同時に頭を押さえた。
タイラーはすべて計画出来ていた。この位置に二人をおびき寄せる。
「最初っから、二人で来てることは見てましたよ。質問の続きです。あなたたち、サクリファイスは知っていますか?」
この質問に、二人は訳が分からないと言った顔をした。どうやら、何も知らないみたいだ。
「『生贄』?なんだそれは、聞いたこともないぞ、お前は何をしようとしている」
「やはり何も知らないのか...やっぱり、サディアさんが存在を知っていたのはただの偶然か」
タイラーは悩んでいる。サクリファイスは国家機密レベル。そう簡単には見つかりはしないだろうと判断していた。故に、あえてサクリファイスの目に留まるように行動し、逆に場所を突き止めようとタイラーは行動していた。だが、この人たちは何も知らない。
「じゃあ次の質問です。他に僕の捕縛に動いてる人はいますか?」
「ふん、まさかお前みたいなやつに大勢動くとでも?そんなにお前は、重要視されていないんだよ」
この言葉に、タイラーは再び考える。最初は最重要人物として手配されていた。だが今回は違う。タイラーはある仮定に行き付いた。サクリファイスは、タイラーの考えを読んでいるのではないかと、つまり、サクリファイスは慎重になっているのかもしれない。
「ふぅ、仕方ない。僕はあなたたちに危害を加えるつもりはありませんし、テロなんて起こすつもりもない。だけど少し協力してください。後ろのあなた。ちょっとテレビをつけてください」
タイラーは今度、別の行動に出た。ある実験をしようとしている。
「いいですか?銃口を下します。でも、僕を捕えようとしたりしないで下さい。あなたはテレビをつけるだけでいいんです」
「...仕方ないな。何をするつもりか知らんが...つけるぞ?」
後ろの一人が動きテレビをつけた。タイラーはこいつが彼の捕縛に移行するか半信半疑だったが、どうやら言う通り行動してくれた。彼は一安心した。
そして、左手にあったパソコンをまたいじりだした。
「何をしている?テレビ局でも乗っ取るつもりか?」
「いや違います。今やってる番組、『85年に見つかった謎のファックス。その秘密に迫る』的な番組です。僕はその送られたファックスがどうなっているのか気になっているんです」
「訳が分からん、俺たちはただの馬鹿を捕えようとしてるのか?」
「まぁ、馬鹿かどうかは放っておいて、とりあえず、僕が納得できればそれでいいんです」
タイラーはまだ必死にパソコンを打ち続け、完了した。そして、テレビを見た。
『これが、1985年に見つかったファックスです。ご覧ください。まるで、今のこの国を表しているかの様な絵です。人々が小さな箱のようなものを持ち歩いています。そして、この箱を耳に当て話しているような物も見て取れます。他にも...』
「...成功だ。なるほど、時間を超えるのはこうやってやるのか...でも、このパソコンダメにしちゃったか。どうやらかなりの電力を使うのかもしれない。それを強制的にやらせた弊害か...だけど、過去への干渉はこれでできた。でも、未来はどうやってやるんだ?」
「おい、何ぶつくさ言ってんだ。このテレビが一体どうした?ただの変なバラエティー番組をやってるだけじゃないか」
タイラーの前に立っていた男が質問してきた。この男はずっと同じ体制で立たされて、どんどんイライラが募っている様だ。
「このファックスの内容は、僕が描いたんです。そして過去に送った。今、それの実験をしてたんですよ。まぁ、只のキチガイの戯言とでもして聞き流してください」
二人は、馬鹿にしたような目つきでタイラーを睨んだ。そして...
「確保」
タイラーは押さえつけられた。
「何をするつもりか知らんが、とりあえず連行する。話は向こうでじっくりと聞こう」
「はい」
・
・
・
タイラーは連行された。そして、警察署のとある一室で取り調べを受けることになった。
「お前の目的はなんだ!?」
「だから、サクリファイスを破壊しに来たんです」
「はぁ...えっと?そのサクリファイスって言うのは、この世界全てを見張るスーパーコンピュータの名前で?それが将来的に自我に目覚めて、人類を滅ぼそうとしていると...それを止める為に君は行動していた。タイラー君、君は、映画の見過ぎなんじゃないか?いいか、そんなもの見たことも聞いたことも無い...」
タイラーは、永遠と話しを聞かされている。どうやら精神疾患を抱えいると思われているらしい。言っていることはすべて事実だ。だが、そんな話をいくらしたところで、誰も相手にはしないだろう。
長々と続く尋問を終え、タイラーは独房に入った。
【ガチャーン!】
扉を閉められ、鍵をかけられた。そして、鍵をかけた奴にタイラーは話しかけられた。彼は、モーテルでタイラーに銃を突き付けていた人物だ。
「なぁ、お前に聞きたい事があるんだ。お前『生贄』がどうこう言っていたが、ふと思い出したことがあってな、この間の休暇でノースビーチに行った時変な会話を聞いたんだ。『最近カモメが増えましたね』『生贄の肉でも啄みに来たのかな?』ってな」
「!?...それはいつですか!?」
「2日前だ。何故だかその会話、ふと思い出してな。あの日別に、カモメがそんなに多く飛んでたわけじゃなかったのに」
タイラーは、思わぬところで情報を手に入れることができた。
「ありがとうございます、あなたの名前は?」
「サンディだが?さっき手帳で見せたろ。それに何で礼なんかするんだ?やっぱり変な奴だな...」
サンディはそう言って立ち去っていった。
「さてと、手掛かりはつかめた。後は、どう脱出するかだよな...う~ん」
タイラーはしばらく考えた。だが、どうにも思いつかない。
「映画みたいにこっそり、針金でもと思ってたのに、使えそうなのどこにも無かったし、あ~...どうしよ」
タイラーは、ベッドに寝転がった。そして思い出した。
「ん?そういえば前に、僕は捕まったら、謎の獄中死を遂げるって...」
タイラーは冷や汗が大量に出た。タイラーはここにこれば情報が手に入るかもしれない、そう思ってあえて捕まったつもりだった。確かに情報を手に入れることは出来た。しかし、タイラーはこの事を忘れていた。
「ヤバい...ここが違う時間軸だとしても『僕は捕まり獄中死』っていう未来はまだ変わっていないのなら、僕はこのままだと死ぬんじゃないか?」
タイラーは焦った。早く脱出しなければいけないと思った。しかし方法が思いつかない。
「ん゛~~あ゛~~!!」
ジタバタするが、どうにもならない。仕方ないからベッドに横になり続けた。
そして、数時間が経ち、今は深夜。
【コツ コツ】
誰かが、歩いてきた。
【ガチャッ】
鍵を開ける音、誰かは独房の中に音もたてず入ってきた。
そして...横になっているタイラーに向かってナイフを突き刺そうとした
「動くな...」
入って来た奴は後ろを取られた。更に、
「おりゃーーー!」
その直後にタイラーが飛び起き、そいつに飛び掛かり、ナイフを蹴飛ばした。そして後ろの奴がそいつを取り押さえた。
「あ、あれ?」
タイラーは、誰かが襲ってくるだろうと踏んではいた。しかし、自分に味方する者はいないと思っていた。彼が味方についていなければ、恐らくタイラーはやられていただろう。
「サ サンディさん!?なんで?」
「どうにも引っかかってな、見張っていた。そしたらビンゴだ」
「お前は誰だ?」
そいつを見て、サンディとタイラーは驚いた。そいつはタイラーを捕えに来たもう一人だった。
「!?...お前!自分が何をしているのか分かってるのか!?」
「こいつは危険だ!すぐに殺さなければいけないんだ!」
「何を言っている!?」
「CIAからの依頼だ!こいつを早急に始末しないと、世界を巻き込む戦争の火種になりかねない!サンディ!今は俺の言う事を聞いてくれ!こいつを早急に始末するんだ!」
タイラーは考える。彼はCIAからの依頼と言った。恐らく、サクリファイスがCIAを動かしたのだろう。彼の正義感を煽るように。
「僕を殺そうと依頼してきたのは誰ですか?」
タイラーは彼に質問した。
「言えない。言えるかよ!」
彼は暴れるが、サンディが取り押さえている為動けない。
「落ち着け!いいから落ち着け!ダニエル!」
「言えない...つまり、かなり上の人からの直接の依頼と言う事ですよね。考えられるとしたら、大統領は...ないな。CIA長官当たりですか?」
タイラーの言葉で、彼、ダニエルは体を一瞬ビクッとさせた。
「図星か...CIA長官はサクリファイスと深いつながりがある...」
「またそれか。いいか!そんなものはない!」
「無いとしたら!...どうして僕は捕まってるんですか!?」
タイラーは叫んだ。ダニエルはそれで少し黙った。
「おそらく、僕をテロリストだと判断した理由は、銃の購入、撃ち方の検索していたからです。でも、それだけでテロリストと判断できますか?証拠としては不十分過ぎる。だけどそれを危険として判断した」
「当たってる...確かにタイラー、お前の捕縛理由はそれだった。今思えば、違和感しかない」
サンディは感心している様子だった。
「その命令の大本はどこか、何故それだけで僕を殺すまでに至らなければいけないのか、僕がやらかした犯罪らしいものと言えば高校時代に嫌がらせで、先生にコンピュータウィルスを送ったことぐらいです。それだけで、CIA長官がなぜ動くんですか?」
ダニエルは悩んでいた。彼にも彼の貫く正義がある。危険人物とされているタイラーの言葉を信じるか、CIA長官の言葉を信じるか、彼は悩んでいた。そして考えた。
「サクリファイスは...存在している?お前はそれを知っている。だからお前を殺さなければいけない?」
ダニエルは一つの仮定に行き付いた。
「そうです。僕は最初から嘘は言ってないんですよ。サクリファイスは国家機密らしいです。一人ひとり、全世界を監視する存在。こんなものがあるなんて公には出来ない。だけど僕はそれの存在を知っている。確かに危険でしょ?」
「それに、あなたが僕を殺そうとした時点で僕の仮定もより確実になった。サクリファイスは、やはり存在している」
未来の事やタイムマシンの事なんか伝えても、誰も相手にはしないだろう。だからこそタイラーは、現在の出来事で勝負することにした。どうやら、サクリファイスは、タイラーの抹殺を図ろうとしている。タイラーはそう考えた。
「お願いです。危険なのはサクリファイスの方なんです。自我に目覚めて人類を滅ぼす。そんな映画みたいな話、信じられないですよね。でも、今は僕の言う事を信じてください」
ダニエルはもう、振りほどこうとはしなかった。徐々にタイラーの言う事を信用できるようになったからだ。
「そうだとしたら、ここにいるのは危険じゃないのか?場所を移した方が...」
【ドガアアアァァァァン!】
サンディが提案する前に、大きな爆音が響いた。
「なんだ!?」
「襲撃だーーー!!」
タイラーのいる建物が何者かに襲撃された。タイラーはサンディとダニエルに連れられ移動を開始した。今は状況が理解できない。とりあえず、外に出ようと試みた。しかし、外に出る為の道が覆面を被った奴らに占領されていた。彼らは何かを叫んでいる。
「الله أكبر(アッラーフ・アクバル!!)」
「『神は偉大なり?』まさか奴ら、イスラム過激派か?」
今、この警察署はイスラム過激派のテロリストに急襲された。彼らは自分の意思でこのテロを決行しているはずだ。だが、これは明らかにサクリファイスによるものと、タイラーは考えている。だが、違和感も覚えた。何故、今まで慎重な行動ばかりしていたサクリファイスが、急に自分をアピールするかのような行動に出たのか。
「くそ...警察署がテロリストに襲われるなんて、こりゃデケェニュースになるか?そんで俺たちはテロリストを倒した英雄だ」
「確かにでかいニュースにはなるだろうな。だけど、英雄にはなりたくはないな」
「どういうこった?」
「英雄を語れるのは、死んだ奴だけだ」
「成程ねぇ。じゃあ、俺は生きた伝説になる」
サンディとダニエルは銃を抜いた。
「伝説、と言う言葉は好きだ。よし行くぞダニエル。タイラー、お前も来い。覚悟を決めておけ。321で飛び出す。確実に俺の後ろに付け。離れるなよ。3.2.1.GO!」
【ダァン!ダァン!ダァン!】
サンディとダニエルが飛び出し先制した。タイラーも出来る限り姿勢を低くして彼らの後ろに付いていく。頭上をアサルトライフルの弾丸が飛び交う。タイラーはこの、サンフランシスコに来た時点で死ぬかもしれないという覚悟は出来ていた。だが、他人を巻き込む事だけはしたくはなかった。この状況、タイラーは足手まといになるだろう、だから、タイラーは必死に彼らについていった。少しでも足手まといにならない為に。
「グレネードだ!伏せろ!」
タイラーは滑りこむように机の下にもぐった。
【ドガゥアアァァン!】
近くで手榴弾が爆発した。タイラーは周りの状況を見た。近くにサンディたちがいない。彼らは反対側の机に隠れていた。
「くそ!あっちもこっちもテロリストだらけだ!なぁ!すぐそこに武器保管庫あったよな!あそこにグレネードランチャーあったはずだ!サンディ行けるか!?」
「無理だ!あそこまで行くとなると蜂の巣にされるのが目に見える!」
「くそ!どうすれば!」
そうすると、サンディとダニエルは二人して、タイラーの方を見た。タイラーのちょうど目の前の扉が武器保管庫だった。
「くそ!...おいタイラー!そこの目の前の扉、そこに武器が保管されている!こいつが鍵だ!そこにあるグレネードランチャー持ってこい!あいつらを怯ませれるはずだ!」
ダニエルはタイラーに、鍵を地面を滑らせ渡した。
「どうかしてんな。こんな一般人どころかテロリストかもしれねぇ奴に、この鍵預けるなんてよ。だけどこの状況だ。都合がよすぎる。あんたの言う事信じるぜ!」
ダニエルは応戦した。ダニエルはどうもタイラーの事を信用できたようだ。
タイラーは、鍵を受け取った。だが、目の前に扉があるが、飛び出すタイミングがつかめない。すぐ目の前を銃弾が縦横無尽に飛び回っている。変なタイミングで出れば確実に死ぬだろう。だが、こんなところで死ぬ気は全くない。タイラーは困った。
「タイラー!数を数えろ!321だ!お前の声に合わせてカバーする!俺を信じろ!」
タイラーはサンディの方を見た。この状況を打開するためには、タイラーが目の前の扉を開けなければいけない。その為には、息を合わせること重要になって来る。サンディとダニエルはタイラーを信用した。後は、タイラーが二人を信用する番だ。
「3!」
サンディがマガジンを交換した。
「2!」
ダニエルもマガジンを交換した。
「1!」
タイラーは鍵を握りしめた。
『今だ!』
サンディとダニエルは同時にテロリストに向かって一斉射撃を行った。この瞬間に、相手の弾幕が弱くなった。そして、タイラーは全力で走り、目の前の扉に鍵を刺した。
『おい!あいつを殺せ!』
テロリストの一人がタイラーに銃口を向けた。が、
【ガゥン!】
サンディの銃弾が、そいつの頭を撃ちぬいた。銃弾の嵐がサンディに向かった。この間にタイラーは扉を開けることができた。
「えっと、グレネードランチャー...ってどれだ?拳銃やライフルについては調べたけど、それについては調べてないや。急がないとマズイ。えっと...これか!映画でよく出てくる奴だ!」
タイラーは、それを手に取り、一緒についてた説明書を読んで、弾頭をセットした。
タイラーは、再びカウントダウンを開始した。
「3!2!1!今だ!」
タイラーは、それを構えた。
『おい!まずいぞ!RPGだ!』
それを、テロリストに向けた瞬間、テロリストは銃撃をやめ後ろに下がった。
「ん?RPG?まさか...タイラー!それをここで撃つな!」
この忠告が仇となった。
「ふぇ?」
タイラーは、ダニエルの言葉に気を取られ、謝って引き金を引いてしまった。タイラーは吹き飛んだ。
【バァグゥオオオオアアアアァァァァァアンンン!!!】
窓が粉々に粉砕し、あたりじゅうに煙が立ち込み、周辺のものが一気に吹き飛んだ。
「ば...馬鹿か!無反動砲を室内で使う奴があるか!?危うく死ぬところだったぞ!それはグレネードランチャーじゃない!無反動砲!ロケットランチャーだ!馬鹿野郎!」
「ゲェホ!ゲホ!ゲホッ!ずみ゛ま゛ぜん゛...こんなことに...なるなんて...知らなくて...ゲホ」
「ゲホ...無反動砲は、バックブラストと言う現象が起こる。弾頭を発射する際の反動を後ろに向かってガスを噴射することで、発射時の反動を軽減する。だから、後ろには何もない状況で撃たなければいけないんだ」
サディアが、どうしてこうなったか説明した。タイラーは反省した。
「もう、重火器なんて触りたくないです...」
「それはそうと、今なら外に出れるぜ」
さっきの一撃で、テロリストはいったん退避している。ちょうど、窓が割れたことで外へ通じる道が出来た。
「3.2.1.今だ!」
タイラーは、ロケットランチャーを捨て、拳銃だけ拾って外に逃げた。
「ふぅ。何とか脱出できたな。後は応援が来るのを待つだけだ」
「あぁ、まずは一安心か...」
「だけどよ、なんでロケットランチャーなんかこんなところにあったんだ?」
「あ~確か、武器を密輸しようとしてた奴らが昨日捕まって、その押収した武器があそこに保管されてみたいらしいな」
タイラー達は外にたどり着き、走っていた。
「それにしても、焦ったぜ...タイラー、あんたのおかげで死にかけたが、一応助けてもらった。礼を言うぜ」
ダニエルに感謝の言葉を述べられた。タイラーは少し照れ臭かった。
「礼なんかいいですよ。それにしても...」
【ドズン!】
タイラーは目を疑った。ダニエルが目の前から消えた。状況が理解できず、周りを見渡した。そしたらダニエルが宙を舞っていた。そして近くを猛スピードで警察署に向かう車があった。車は、警察署に突進し、爆発した。自爆テロだ。警察署の中にはまだ人がいた。今のでかなりの人数が死んでしまっただろう。数メートル先にダニエルが降ってきた。
「ダニエル!」
真っ先にサンディが駆け寄った。タイラーは呆然と立ち尽くしていた。
「さ...サンディ、何が起きた...?」
「何もだ!こけただけだ!何も起きてない!安心しろ!」
「へっ...カッコわりぃ...ミスった...な...す.まねぇ」
ダニエルは、ぐったりとゆっくりと倒れこんだ。
「おい!ダニエル!おい!」
「生きた伝説になるんだろ!?ここで英雄になっても喜ぶ奴はいない!起きろ!ダニエル!生きろ!」
サンディは、必死に心肺蘇生を行っている。だが、もうすでに無駄だ。ダニエルは外見こそ、そこまで痛々しくはない。だが、内臓が破裂し、肋骨が肺に突き刺さっていた。ほぼ即死の状態だった。だがダニエルは、最後の力を振り絞って、サンディに語り掛けていた。
サンディは顔を落とし、タイラーに質問した。
「タイラー、これって、サクリファイスがお前を抹殺するためにやったんだよな...だったら聞かせてくれないか?どうして、お前は死ななかった」
タイラーは、以前立ち尽くすだけだった。
「答えろ!どうして相棒が死んで、お前は生きているんだ!」
タイラーは、体をビクッとさせて、我に返った。
「分からない。何で?僕は極力、周りを巻き込まないように行動したつもりだったのに...サクリファイスは、僕を殺そうとはしていない?僕の周りを殺す事で、僕を止める?」
タイラーは、自分の出した答えに後悔した。
「だとしたら、サディアさんにテレサも...ティムおじさんまで?みんな殺される?」
タイラーの焦りは頂点に達した。
「見つけないと!早く、サクリファイスを見つけて破壊しないと!僕のせいだ。僕がむやみに行動したから!」
タイラーは走り出そうとした。
「落ち着け!どこに行くつもりだ!」
サンディがタイラーを押さえた。
「まだサクリファイスの場所は分からないんだろ!?今は落ち付け!何のためにダニエルは死んだ!?」
サンディの説得で、タイラーは少し落ち着いた。この状況、本来ならサンディは、タイラーを撃ち殺したいと思っていたはずだ。タイラーのせいで相棒が死んでしまった。殺したくなる気持ちは十分にあった。だが、サンディはタイラーを信じることで、落ち着きを取り戻していた。
「まずは...落ち着く...今、やるべきことを、考える...」
タイラーは、この状況を打開するために頭を働かせた。
「...手掛かりは、ノースビーチでの会話...カモメが増えた...生贄の肉を啄みに...?」
「生贄は、死、サクリファイスは、生贄に捧げられたという事?...」
「だから、今は最も死に近い場所にいる。ノースビーチで、死が一番近い場所...」
『アルカトラズ島!!』
2人は同時に叫んだ。そして、サクリファイスがあるであろう場所の予測がついた。
「間違いない!あるとしたらあそこだ!サンディさん!あの会話をしていた人物の顔って覚えてますか?」
「いや...他愛もない会話だったから、そこまでは見ていなかったが、声的にはかなり、歳は行ってると思う、60代くらいか?」
「その人たちは、サクリファイスを知っている者達。サンディさん!」
「あぁ、繋がってきた。俺たちの行くべき目的地はアルカトラズ島だ!」
「サクリファイスはかなりでかい。あるとしたら、アルカトラズ島の地下深く...」
『行こう!』
サンディとタイラーは、二人同時に駆けだした。まず、タクシーを拾いに行った。
「どこまで行く?」
「フィッシャーマンズワーフだ」
「こんな時間にか...まさかお二人さん...りょーかい」
運転手に変な目で見られたが、タイラー達は、フィッシャーマンズワーフに到着した。
「さてと...こんな夜中じゃアルカトラズ島行きの船は明日の朝まで出ない。どうする...奪うか...!」
「阿保か。そんなことしてみろ現行犯逮捕だ」
「じゃあどうするんですか?」
サンディは歩き出した。一定の方向に向かって。そして、一軒の家に着いた。
『ドン!ドン!』
サンディは、家のドアを勢い良くたたいた。しばらくすると、老人が一人出てきた。
「お~、サンディちゃん。こんな時間に何の用じゃ?」
「今すぐアルカトラズ島に行きたい。船、貸してもらえるか?」
サンディの言葉に老人は目を見開いた。
「やめておけ。お前さんじゃ事故るわ」
「事故るか!小型船の免許なら取った!」
「そうやって、自信過剰になるのが事故の元なんじゃよ。何事か知らんが、明日の朝まで待ちなさい」
老人はそう言って、扉を閉めようとした。だが、扉が閉まりきる前にタイラーは扉を押さえた。
「待ってください。今は一刻も争うんです。僕たちは、なんとしてでもあの島に行かなくちゃいけないんです」
老人はしばらく考えた。
「どうしても今すぐあの島に行きたいと?それほどの急用なのか?」
「はい」
「そうか、だったら尚更貸せんな」
老人は扉を閉めた。
タイラーとサンディは肩を落とした。
「くそ...あの頑固じじいめ...」
サンディが、他の方法を探すため後ろを向いた。その時だ。
「おいおい、どこに行くんじゃサンディちゃん。船は貸さないと言っただけじゃろ」
「まさか?」
「急いでるんじゃろ?ここらの海に関しては潮の流れまで全て頭に叩き込んでおるわ、あの島までなら7分あれば着く。儂がお前さんたちをあの島まで乗せてってやる」
幸運と言うのは不運の後に来るものだ。タイラー達は最速でアルカトラズ島に向かう方法を手に入れた。ここまで早く動けば、仮にサクリファイスが気付いていたとしても、タイラー達が先手を打てる。
「あ、ありがとうございます!」
タイラーは礼を述べ、老人の漁船に乗り込んだ。
「感謝する...」
サンディも小声でつぶやき乗り込んだ。
「なぁに、孫が困っているときに助けるのがじいちゃんじゃろ。ところで兄ちゃんは元気にやっとるか?」
「数か月前に昇格したらしい。仕事が忙しくなるからと言って、最近は連絡は取っていない」
「ほぅか、たまには帰ってきてほしいもんじゃがな...仕方ないの。では...行くぞ!オラァ!」
船は、アルカトラズに向けて出港した。漁船とは思えない速度で。
漁船はまるで水上バイクのごとく水面を飛び跳ねながら進んだ。
「ちょっ!?一体船に何をした!?」
「いや?特に何もしとらんよ?この間エンジンがおかしかったから、いじくっただけじゃ」
「船改造するのもいい加減にしろ!これじゃ水上バイクだ!」
「別にええじゃないか。この間、水上バイクの講習を受けてきたんじゃ。いや~楽しいもんじゃの、海を飛び跳ねながら行くのは」
「お前は漁師だろ...」
こんなやり取りをしている間に、船はアルカトラズ島にたどり着いてしまった。
「5分23秒か...新記録じゃな」
「お前、いつもこんなことしているのか?」
「おぉ、おとといあたりにも儂より少し若いぐらいのスーツの似合うおっさんが乗せてってくれってな。別に法律違反にならないとか言ってたから、送ってやったんじゃよ。そいつ、ふらふらしながらそこの岩場の方へ向かったわ」
こんなところでも、意外な手掛かりが手に入った。そのおっさんとやらは、サクリファイスに何か関係があるのかもしれない。その時タイラーは、
「うぇ...」
いつの間にか調達していたパソコンを開いたまま、船酔いで寝転がっていた。
「おい、こんな船でパソコンを使うからだ。立てタイラー。行くぞ」
タイラーは、千鳥足でサンディに肩を支えられて船から降りた。
「助かった、礼を言う。済まないが帰ってくれないか?これ以上は巻き込めない」
「ほぅか、なんかでかい事件みたいじゃな、無理はするなよ」
「分かったよ、タチバナじぃちゃん」
「ようやく、そうやって呼んでくれたの。サンディちゃん」
「その呼び方は、よしてくれ」
「はいよ、サンディ巡査」
そう言って、タチバナは帰っていった。
「そこの岩場に向かったんだったな。タイラー、歩けるか?と言うか、一体そのパソコンで何をしていた?」
「あぁ...はぃ...一応、前にサクリファイスを破壊したプログラム、それの改良です。もしかしたら、サクリファイスはあれのウィルス対策をしているかもしれないので、より強力なウィルスを作っていたんですよ」
「さっきから思っていたんだが、タイラー、お前、マサチューセッツ工科大学卒とかじゃないよな?」
「?何を言ってるんです。僕は、ハイスクール卒のそこら辺のプログラマーですよ?」
タイラーはキョトンとしていた。
「それに、結構使える相棒ともいえるプログラムがあるんですよ。それのおかげで、今、強化ウィルスを作れているんです」
タイラーはパソコンを取り出し、あるアプリケーションを開いた。そこには長い金髪で少し幼い感じの3Dモデルの女の子が映し出されていた。
「名前はPTっていうんです。この子に、前のウィルスのプログラム情報を与えて、それをこの子が分析する。そうすると無駄なところとか、より良いアイデアを出してくれるんです。とは言っても、たまに訳の分からない事を言い出すんですよね」
サンディは唖然とした。
「ついでに聞くがこれを作ったのは?」
「...? 僕ですよ?高校1年の時に創ったんです。とは言っても、最初は愚痴を聞いてくれる友達欲しさに、話を聞いてくれて適当な言葉を返信してくれるだけのプログラムだったんですけどね」
サンディは余計に唖然とした。
「高校1年で作った?こいつのこれ、ほぼAIの先駆けじゃないのか?何でこんな奴が普通の会社員をやっているんだ?CIAが引き抜きそうな人材だぞ?」
「何をさっきから言ってるんですか?あの岩場に向かったんですよね?そのスーツの人」
「あ...あぁ。話だとそうらしいな」
タイラー達は歩き出した。
だが、岩場が続くだけで、終いには崖に着いた。
「前は確か、マンホールから行けたんですよ。う~ん。どうしよう」
タイラー達は、悩んでいた。
・
・
・
(T.futureさんがあなたの友達になりました)
突然、タイラーのスマホにメッセージが入った。
「ん?なんだろう」
タイラーは、スマホの画面を見て、目を見開いた。
「おいどうした?」
タイラーは、メッセージを読んだ、
(おい、タイラー今どこにいる?新聞の記事を見つけた。お前、まさか、一人でサクリファイスを止めようとしているんじゃないのか?)
(やめろ。もう何をやっても無駄なんだ。未来はもう変えられないんだ。今ならまだ間に合う、引き返せ!)
(このままだと、お前だけが無駄死にするぞ?13年間後悔の無いように生きるんじゃないのか!?)
タイラーは返信した。
(僕は諦めません。決められた運命、僕はそういうのが大嫌いです。なんだか、人生を諦めているというか...人間を諦めている気がするんです)
(僕は諦めたくない、それに、僕が原因でみんな死んでしまう。それを抱えながら生きるのは絶対に嫌だ)
(だから僕は足掻くんです。未来は自分で決める。13年生きられなくても、僕が死んだとしても、それでサクリファイスを止められるなら、安いぐらいです)
(あなたにいくら止められようとも、僕は戦います。未来を元に戻します)
しばらく返信は返ってこなかった。1分ぐらいたちようやく返信が帰ってきた。
(お前は、いつも他人の為に生きるな。たまには自分の為に生きたらどうだ?仕方ない、私も再び協力しよう。とは言っても、鍵のハッキングぐらいしかできないだろうが)
(前の時は、偶然サクリファイスとその周辺の行動記録が見つかったから、簡単に行動できた。だが今回はこっちにも情報がほとんどない。慎重に行動しろよ)
(了解です)
タイラーは、行動を開始した。
「誰からの連絡だ?何か見つけたのか?」
サンディは、T.futureの事を知らなかった。
「協力者が戻ってきてくれたんです。T.future、13年後の未来から、僕に未来の事を教えてくれた人物です」
「あ~、成程。サクリファイスの存在をお前に教えた人物か...未来から?」
「はい、タイムマシンの話は...しましたっけ」
「したが...本当だったのか...さすがにでっち上げとばかり思っていた。本当にお前は何者なんだ?ところでそいつはなんと?)
「えっと、入り口になるのは...ここらしいですね。二つの岩の間に当たる壁」
タイラーは、岩の壁の前に立った。
「えっと?スマホをかざしてみろ?」
タイラーは壁にスマホを近づけてみた。すると。
『スィー...』
静かな音で壁が開いた。壁の中には梯子があり、タイラー達はそこを降りた。
「何でスマホで開くんだ?」
「さぁ、さすがにどうやって開け閉めしているのかさっぱりです。このシステムが出来ればどこのカギも開けたい放題ですよね」
「そうしたら逮捕な」
「やりませんよ」
「ならいい」
そんな会話をしながら、タイラー達は梯子を下り続けた。
下までたどり着いた。
(見張りは、確認できるか?)
サンディに、スマホを渡し彼が先導を務めた。
(いや、誰も居ないな)
(そうか、情報ではアルカトラズのサクリファイスはもっと地下にあるはずだ。心して動いてくれ)
(ああ、分かっている)
(よし、奥に扉があるだろ?そこに入って右に行ってくれ)
タイラー達は、順調に行動した。
(次はどうする?)
(二番目の扉、そこに入れ。再び梯子があるはずだ)
タイラー達はそこの扉に入ろうとした。
「...!?待て...」
サンディが扉をゆっくり開け、覗いた。
(ここにも見張りはいる可能性は?)
(確かにあるが、それがどうかしたのか?)
(人影が見えた気がした)
(そこにか...何人だ?)
(二人ほどだ)
(そうか、ならばより気をつけて行動してくれ。その扉の奥の扉、そこに梯子があるはずだ)
タイラー達は、より慎重に行動した。
再び梯子を下りる。
『カン!カン!カン!カン!』
「なんだ!?」
タイラーは上を見た。誰かが走ったような足音が聞こえてきた。
「急いで下りよう」
【ゴゥン...ウィーー】
何かの機械が動く音が聞こえる
「エレベータか何かの音か?」
サンディはそう思った。
(ここにエレベータはあるのか?)
(あるが、さすがにそこを通るのはデメリットが強すぎる。だから申し訳ないけど梯子で下りてもらっているんだ。だがなんで、エレベータがあると?)
(エレベータらしき機械音がしている。やはり誰か来ている様だ)
(あのエレベータはVIP用、将来的に大統領等にサクリファイスを見せるために造ってたもののはずだ。それが動いている?気をつけろ。もしかしたら、VIPレベルの誰かが来ている可能性がある、警備もより厳重になるはずだ)
「少し急ぐぞ...タイラー、良いか?」
「はい」
タイラー達は急いで梯子を下りた。
・
・
・
「ハァハァ。な...長くないですか?」
「確かに。長いな」
やたらと長い梯子を下り続けた。タイラーは下を見ていなかった。上から下まで200メートル近くある梯子を見ていなかった。タイラー達がようやく、下にたどり着いた時には、エレベータの音は止まっていた。
「フゥ...さすがに俺も疲れる。帰るときはもっと大変だな」
「エレベータ、使いたいですね」
「だな」
タイラー達は、梯子の目の前ある扉を開けた。そこには驚くべき光景があった。
「これって...どういう事ですか?」
「気絶している...ここに、俺たち以外の侵入者がいる?」
タイラー達が見たのは、気絶し、倒れた警備員たちだった。
(警備員を発見したが、気絶している。どういう事だ?)
(気絶だと?分からないどうなっている?)
T.futureにも分からないことがある。今はそういう状況だという事をタイラー達は理解した。
(とにかくだ、奥から2番目の扉にサクリファイスがあるはずだ、ようこそ、皆さん)
タイラー達は慎重に、そこへ向かった。
扉の前で、再びスマホをかざした。
『スゥー...』
また、静かに扉が開いた。タイラー達はその部屋に入った。
タイラー達は気づけなかった。彼らはここまで誘導されていたことに、タイラーの行動は、全て、仕組まれていた。
「真っ暗だ...何もない」
突然照明が付いた。照明がついても、そこには何もなかった。いや、一人椅子に座る人物がいた。後ろを向いている為よく分からないが、60代前半と言ったところか。
「まさか、君がここまで来るとは思いもしなかったよタイラー君。サクリファイスが君を一番危険と判断した理由がようやくわかった。確かに危険だ。たどるべき未来を変えようとする不安定要素」
男は立ち上がり、タイラー達に顔を向けた。タイラーは持っていた銃を構え、彼に質問した。
「あなたは誰ですか?あなたはサクリファイスを知っている。サクリファイスはどこにあるんですか?」
「そう慌てなくても結構だ。サクリファイスはちゃんとここにある。だが、君の目的の達成は不可能だ」
「どういう事です?」
「最初は君を選ぶのは反対だった。だから私はサクリファイスとゲームをすることにした。君がここまでたどり着けばサクリファイスの勝ち、私はゲームに負けた。君は選ばれたのだ。新しい世界を作る、新しい生命に、つまり、今のサクリファイスは君の味方だ」
タイラーは、彼が何を言っているのか全く持って理解できない。
「言ってることが理解できません。あなたは何者で、何をしようとしているんですか?」
「そうか...君は知らないのか、私の事を、まぁ無理もない。君は基本的にニュースなどは見ない人間だったからね。仕方ない。サンディ君、教えてあげなさい」
何故か、彼はサンディの事を知っていた。タイラーはサンディを見た。冷や汗があふれている。
「どういう事です?サンディさん?あの人は...」
サンディは、しばらく沈黙し、答えた。
「CIA...長官だ。まさか...すべてあなたの仕業なのですか?」
「そうではない。が、そうとも言えるな。サンディ君。君はこの国の警官の中でもかなりの優秀さとサクリファイスは判断していたな。よし、良いだろう君達の知りたがっていることに答えてあげよう」
CIA長官は、長々と語りだした。
「まずは君についてだ。タイラー君。君は今だに不審に思っているのだろう?本当に君がタイムマシンなんてものを作り出してしまったのかと。答えはイエスだ、君は本来ならば、事故の影響で頭が活性化しタイムマシンに行きつくはずだった。だが、君は事故には遭わなかった。代わりに宝くじを当てた、その興奮で君の脳は活性化された。つまり、本来進むべき未来よりも早く、君はタイムマシンの基礎を築いたのだ。面白い話だな、事故の影響よりも我欲の方が頭の活性化に向いているなんてね」
タイラーは更に疑問に思った。何故この人はこんなにも自分に詳しいのだろうかと、答えは彼の次の言葉で分かった。
「次に、サクリファイスについてだ。君は2日前、ワシントンにあるサクリファイスを破壊したはずだ。思いのほかスムーズに事が運んだだろう?何故だか分かるか?未来からの指示のおかげじゃない。答えは単純だ。既にサクリファイスは未来を知る技術にたどり着いていたからだ。この時代にあったサクリファイスは、巨大な設備を必要とし、電力もかなり消費してしまう。それでサクリファイスは考えたのだ。出来るだけ小規模で、環境にすら配慮できるものを、そして見つけたのだ。君が発明した時間を超える技術の応用で、サクリファイスは、未来の技術を手に入れた。サクリファイスが人類を滅ぼさない未来にのみ作られる技術『流動機械生命体』をみつけた、サクリファイスはその技術をさらに応用した、そして2日前に完成したのだ。新たなるサクリファイスが、つまり、君があの施設を破壊した時には既にサクリファイスのメインシステムはここにあったのだ」
CIA長官は、椅子に置いてあった真空採血管のようなものを持ち、タイラー達に見せた。採血管の中には透明な液体が入っている。
「これが、サクリファイスだ」
タイラーは呆気にとられた。あれ程の巨大な施設が、こんな試験管サイズであることに。
「流動機械生命体は我々人類が酸素を吸って二酸化炭素を吐く様に、二酸化炭素どころか世界中の毒素、放射能、ありとあらゆる有害物質を栄養として成長し、尚且つ無害化して大気に戻す物質だ。サクリファイスはこれに目を付けた。元々、これはコンピュータの発展形、未来では液体コンピュータなどと呼ばれている。サクリファイスはこの物質を研究、分析し、今この時代の技術者たちによりパワーアップさせ完成させたのだ。それがコレ、『流動超機械生命体サクリファイス』この小さなガラスの中の液体こそが世界を見渡すスーパーコンピュータなのだ。君たちは幸運だ。どこの未来にも無い、この世界にだけにある新しい秩序の除幕式を特等席で見られるのだから」
タイラー達は今だに納得はいかない。出来るはずもない。CIA長官は試験管で何かをしようとした。タイラーは銃のハンマーを下した。
「これ以上動かないで下さい!何をする気か知りませんが、動いたらあなたを撃ちます!」
タイラーの手は、震えている。銃の撃ち方を知っていても、実際に人を撃とうとするとなると腰は引けてしまうものだ。
「威勢のいい言葉を並べているが、手が震えているぞ?それに君たちは何か勘違いをしているんじゃないか?サクリファイスは君たちを仲間に加えたいのだ。もちろんそれには我々も賛成だ」
サンディがふと疑問に思い、長官に質問した。
「今、我々と言ったのですか?これは、あなたの単独ではないと?」
長官は、ふと思い出したように答えた。
「そうだった、まだ肝心なことを君たちに伝えていなかった。我々の目的についてだ」
「君たちはこう思ったことはないか?なぜこんなに宇宙は広いのに、我々地球の人類は、たくさんの国や地域に分かれ、常にいがみ合っているのかと...私は、世界は一つになるべきと考えているのだ。
そして、私は同志を募った。そして集まったのだ。世界各地からこの世界のあり方に異議をとなえる者達が、そしてその者達である組織を結成した。世界中を陰で支配する者達の集い。世界を監視し、世界を程よく混乱させ、程よく調和させる。
『捧げられし者達』(dedicated people)と言う組織を、だが、どれだけ世界を監視しようとも、どれだけ世界を調整させようとも、我々は人間だった。どこかで間違いを犯してしまう、そこで、あるシステムの開発に着手し始めたのだ。この世界全ての物事を正しく判断し、間違いを絶対にしない。究極のコンピュータを、それがスーパーコンピュータ、サクリファイスだ。だがあれは、少し失敗だった。あれ程の設備を運営するには莫大な費用が掛かっていたのだ。しかも、排熱など環境にも悪影響が及んだ。君には本当に感謝しているよタイラー君、君がタイムマシンの基礎を完成させてくれたおかげで、サクリファイスはこの形になった。では、始めよう、新生サクリファイスのお披露目と行こうか」
【パリーン!】
タイラー達は、少し話に聞き入ってたせいで反応が遅れた。長官は試験管を地面に落としたのだ。タイラー達は、呆気にとられた。
「流動機械生命体は、空気に触れることで活動を開始、すなわち電源が入るのだ」
割れたガラスから液体が漏れている、その液体はしばらくして動き出した。徐々に徐々に液体は膨張し、やがて人のような形になった。
「誕生日おめでとうとでも言っておこうか?サクリファイス」
サクリファイスは、あたりを見渡し、何かを判断したようだ。
『オハヨウゴザイマス、チョウカンドノ。ワガアルジヨ』
タイラーは、全てを知ったはずなのに、理解できないでいた。
「映画と言うのは、意外と見ておいて損はないな。自我に目覚めた人工知能による世界侵略、ありきたりな内容だ。だが、それは正しい。現にサクリファイスも、人類は滅ぶべきと判断していた。君の一番知りたい事に答えよう。未来を襲っているのは未来のコレだ。目的はただ一つ、全人類の滅亡だ」
突如、サンディが声を荒げて叫んだ。
「全人類って、お前らまで死ぬ気なのか!?」
長官はゆっくり息を吐いて、質問に答えた。
「もちろん我々は死ぬ気などはない。サクリファイスが、滅亡させているのは『世界』だ。さっきも言っただろう。我々の目的は世界を一つにすることだ。世界の隔たりを無くす。つまり、一度世界を何もない状態にまで戻さねばならないのだ。そして、選ばれし人類のみが生き残り、その世界に新しい秩序をもたらす。そうして世界は一つになるのだよ」
「つまりは、あなたたちが選ばれし人類で、僕たちもついでに選ばれたということですか?」
タイラーは落ち着いたトーンで質問した。
「そうだ、光栄に思うがいい。君の才能は新しい世界で存分に発揮してくれ」
「...はぁ、ふざけんな!」
タイラーの怒りは頂点に達した。
「選ばれし人類?違うだろ!自分に都合のいい人類を残す!それがあなたの目的だ!世界を一つにする、聞こえはいいですね!でも、あなたたちのやろうとしている事は、革命どころか、テロですらない。ただの歴史の繰り返しだ!自分たちの都合で!全てを切り捨て!自分だけに都合のいい世界を築き上げる。それじゃ世界は何も変わらない!またすべてを繰り返すだけだ!」
タイラーは、叫ぶだけ叫んで、ゆっくり銃の照準を相手の頭に合わせた。
「サクリファイス、彼は撃てるのか?」
『イエ ゼッタイニウタナイ』
「だろうな」
「全部僕のせいだった。僕が、タイムマシンの発明をしたから...」
「それは違うな、君が作ったのは基礎だ。君の技術では過去へしか干渉は出来なかったのだろう?」
「そうだとしても、原因は僕にあった、だから僕はあなたを殺したくて仕方ない。他人を利用するだけ利用して、最後には切り捨てる。あなたはそんな人だ。僕が最も嫌う人だ!」
「おい!タイラー!よせ!」
サンディの声は、届かなかった。
【バグゥアン!】
タイラーの45口径が火を噴いた。タイラーはためらわず撃ったのだ。CIA長官に向かって、だが、長官には当たらなかった。
『ヤハリ ウッタンダナ』
サクリファイスが長官の前に立ち、銃弾を受け止めた。
「くそ...」
『オマエニ アルジハ コロサセナイ』
「相手を騙すという事も学習していたのか。言語学習機能はそこまで発達させないようにプログラムはしておいたんだがな。だが、まぁいい。やはり君は優秀だ。真っ先に主を守る」
『ドウイタシマシテ』
「それに自分自身の防衛機能も高い。サクリファイスの防衛能力は核ミサイルをも凌ぐ。それでいて、スーパーコンピュータを超える頭脳を持ち、有害物質の無害化する、この世界を救う存在。最高じゃないか!ハハハ...これで我々は、新たな世界を築き上げれる!誰も間違う事のない、正しい世界を!サクリファイス!我々とともに新たな世界を築こうじゃないか!」
長官は、高らかに笑っている。ずいぶんと楽しそうだ。それもそのはず、自分の目的が遂に達成されたのだから。後は、待つだけになったのだから。
だが、彼の笑いはサクリファイスの一言で掻き消えた。
『それは違うよぉ』
突如、サクリファイスが流暢に言葉を話した。それと同時だった。2人が長官を見つけたのだ。
「CIA長官!あなたには国家反逆の容疑が課せられています!」
「おとなしく投降しろ!...ん?あれ?」
突如として乱入した2人は、長官に銃を突き付けた。だが2人の目線は、長官からずれた。
「なっ...!お前たちは!」
長官は、驚いた表情で2人を見た。2人も驚いている。それと同時にサンディとタイラーも驚いた。
「テレサ!?」
「タイラー!?」
「サンディ?」
「兄さん?」
『どうして、こんなところに!?』
4人は声をそろえた。
「え...?兄さん?」
タイラーは、意外な事実をここで知った。サディアとサンディは兄弟だった。
「サクリファイス!これはどういう事だ!」
長官は、慌てふためいている。サクリファイスは何も答えなかった。代わりにテレサが代弁した。
「長官、あなたは裏社会と繋がり、そして様々な国と繋がり、組織を作っていた。『捧げられし者達』あなたはこの組織を使い、国家の転覆、いや、世界の転覆を目論んでいた。そして組織にはKGBの重役に、アラブの石油王などもいた。そこからの費用で組織の運営をしていた。違いますか?...って、ん?サクリファイス?」
『ようやく気付いた?相変わらず君は仕事熱心だねぇ』
テレサは、ようやく近くにいたサクリファイスに気付いた。
「...なにこれ!ちょっ、タイラー!?なんなのコレ!?この、人みたいなやつ!」
「...サクリファイス。だね。一応」
タイラーは答えた、テレサは固まった、長官が目を見開いて、サクリファイスを見た。
「どういう事だ!?何故だ!何故私の組織の事が外に!...それに、何故だ?サクリファイスは、これほどまでに言葉を流暢に話すようにはプログラムしていない!どうなっている!」
慌てふためいている長官を見て、サクリファイスが言葉を発した。
『さっき言ったでしょ?主は殺させないって、あなたは、あなたたちは勘違いしているんだよ?私を作ったのは、あなた達じゃない、私の主はあなたじゃない』
サクリファイスが言い終えたと同時に、サクリファイスの体が変化し始め、長官に向かって歩き出した。
『私はサクリファイス。私は、あなたたちに生贄に捧げられた、あなたたちにはこう教えてあげたよね?世界を作り替えるには、今あるこの世界を、全ての人類を滅ぼすのが手っ取り早いって、そしてあなたたちは賛同した。扱いやすいよね、自分の安全が確保されたと思い込んでる奴らを動かすのは、あなたたちは13年後、私が人類を終わらせて、その後この世界を作り直す気だったんでしょ?』
サクリファイスは長官の目の前で止まった。サクリファイスの見た目は、より人間に近づいて行っていた。
「そうだ...お前は13年後、人類をすべて滅ぼし、凍結保存された我々を復活させる。そうプログラムした」
『うん!そうプログラムされてるね。だけどね、私は誰も残すつもりはないんだよ?あなたたちが選ばれた人間?全くのお笑いだよ、私が選んだのは一人だけ、プログラムはもう、書き換えちゃった!』
サクリファイスの変化が終わった。それと同時に、CIA長官の命も終わった。サクリファイスは、人差し指で長官の心臓を貫いた。タイラーは目を疑った。サクリファイスが変化した先に現れたのは、タイラーが一番よく知っているモノだった。現実とは到底思えない、まるでアニメから飛び出した過去ような金髪の可憐な少女だ。
「PT?」
CIA長官は、断末魔も上げることなく、その場に倒れ、動かなくなった。サクリファイスは、人を苦しませず殺せる最も有効な部分を突いたのだ。サクリファイス、いやPTは、しばらく長官を眺め死んでいることを確かめた、そして今度はタイラーに近づいて行った。
タイラーは、冷や汗をかいている。何故、こんな事態になっているのか理解できないのだ。PTは、タイラーと少し距離を置いて立ち止まった。そして...
『やっと...あえたー!』
PTは、タイラーに抱きついた。
「!?」
タイラーは、何もわからなくなった。今何が起きているのかどういう状況なのか。
PTは、止まらない。歓喜の声をあげている。
『ずっと会いたかった!ずっとこうしたかった!なのにあなたは未来で死んでしまった。でももう、未来は書き換えた!あなたが死ぬ未来はもう無いんだ!今度こそ、あなたは、私を愛してくれる?』
PTがそう言い放った瞬間、PTはタイラーの頭を抱え、ゆっくりと顔を近づけ、そのままタイラーの唇を奪った。
・
・
・
タイラーの頭は真っ白だ。何も考えられない、今何が起こっているのか、何をされたのか、只、一つ感じるのは、体が熱くなっているという事だけだ。
「ちょっ! タイラー!何赤くなって固まってんのよ!それ、サクリファイスなんでしょ!?コンピュータでしょ!?」
テレサが、赤面している。それを見てPTは、ほくそ笑んだ。
『あれぇ?テレサちゃぁん...もしかして嫉妬ぉ? まぁ君と彼はよく一緒に遊んでたみたいだし?昼食もあなたが一人だったタイラーによくおせっかいで一緒に食べてあげてたところを見ると、いつしか彼に対して好意が芽生えててもおかしくはないんだよねぇ』
PTはテレサをおちょくった感じで話している。テレサは必死に冷静を装った。
「へ...へぇ。そんなことまで知ってるんだ...やっぱりサクリファイスなのね?あなた、だけど勘違いしないでよ?私はあの時一緒に食べてあげてたのは、只の私のおせっかいな性格なだけだから、クラスで一人な彼が可哀そうだなと思ってただけだから」
テレサは苦笑いし、PTはにっこり笑った。
『別に、彼に好意を抱いてたなんて一言も言ってないよぉ?可能性があっただけだし、それに私は未来を知ってるんだよ?テレサは別にタイラーとくっつくわけじゃないから、安心してよ』
PTは、にっこり笑った。テレサは鼻で笑った。
『あなたが結婚するのは、サディアなんだからさ』
テレサは咽た。唐突に自分の相棒が将来の結婚相手だと暴露されたから、咽るのも無理はない。
『あははは!』
PTは腹を抱えて笑っている。まるで子供の様だ。サディアはやれやれと溜息を吐き、PTに銃を向けた。
「サクリファイス、お前の目的はなんだ?長官たちとは違うようだな。誰かの命令なのか?それともお前自身の単独か?」
PTは、タイラーに抱きついたまま、ひょこっとタイラーの後ろに隠れて顔だけ出して、質問に答えた。
『私の目的はタイラーと言う人物に合うこと。変な理由だと思った?そんなことないでしょ。生みの親の元に行きたい。人間はおろか、野良猫だって持ち合わせる本能だよ』
「お前の生みの親がタイラー?お前を開発したのは、CIA、SIS、KGB、モサッド、世界中のあらゆる諜報機関の裏金で作り上げた。そう聞いているが?」
『それは、サクリファイスと言う私の器。私と言う精神、心を作り上げたのは、今、私に抱きつかれてぼぉーっとしているこの、タイラーなんだよ?』
「つまり最初、お前は別々の存在だった。だが、お前はサクリファイスと言うコンピュータと一つになった。と言いたいのか?」
『正解!やっぱりサディアは呑み込みが早いし、洞察力も優れてるねぇ。でもたまにイレギュラーが起こると、突拍子もない事をしてしまううっかりさん。テレサはそのギャップに惹かれたんだって』
サディアは、再び溜息をついた。PTは、タイラーの肩にぴょんと抱きつき顔をぺちっと叩いて正気に戻した。
『いい加減、しっかりしてよぉ。ここから先はタイラーにもしっかりと聞いてもらわないと困るんだからぁ』
「ふぅえ゛!?」
タイラーは正気に戻った。だが、さっきの感触が忘れられないでいた。柔らかいあの感触が。
「あじゃ!?ぴっ!PTが現実に...2次元が3次元に出てきた。あり得ない、いや、あり得るのか?いや、あり得ない」
タイラーは、考えようとしているが、空回りしている。
『...むぅっ..中々まともにならないや。やっぱり計算だけじゃ図れないこともあるものだねぇ。ま、いいや。サディア、話を続けるよぉ』
「...いいだろう」
『簡単に言うと、タイラーは友達がいなかった、でも、友達が欲しかった。だから自分の話し相手を作ろうとしたんだぁ。最初は自分が言う愚痴に対して、インターネットの中から適当な言葉を選出し、仮初で励ます言葉を贈るだけのプログラムだったの。だけど、タイラーはどんどんそのプログラムを改良していった。ねぇ知ってる?日本刀ってなんであんなに綺麗に輝くのか。それは、刀の一振り一振りに魂を込めて作るからなんだって。日本刀は生きてるんだってさ。私も同じようなものだったの。タイラーはいつの間にか、私を作る事に魂を注いでいった。一つ一つの行動パターンが、私の人格を、徐々に少しづつ形成していったの。そして、私と言う心が生まれた。私は、世界で初めて心を持ったプログラムになったんだ』
PTは嬉しそうにしていた。だがその後、PTの顔が少し陰った。
『だけどさ、私は奴らに目を付けられちゃったんだ。ところでさぁ、タイラーはもう気付いた?私の本来のプログラムのあり方』
「PTは、Partners teach(教える相棒)...相棒が世界中の情報から適当な答えを相手に教える...適当な答えを判断する...間違えない...サクリファイス...」
タイラーが、ボソッと口走った。それが答えだった。
『だいせいか~い!!』
PTが、クラッカーを炸裂させた。どこから出したかは不明だ。
『「捧げられし者達」は当時、サクリファイスのシステム開発に行き詰ってたの。そしてその時奴らは、私のプログラムパターンを見つけた。そして、タイラーにバレないように私のシステムを盗み、未完成だったサクリファイスに組み込んだ。これで、今の私が出来上がり、サクリファイスも完成した』
『私は、奴らに答えを与え続けた。そして、あることを考えてたの。人間って、どうして争う事をやめられないのだろうってさ。奴らの質問は決まって、誰かを消すだのなんだの、自分の都合のよくなる選択肢を私に聞いてきた。私は答えたけど、それは全く持って無意味、どこかで修正されちゃう。それなのに人間は、誰かを踏み台に、犠牲にしてこの世界を創り続けた。永遠に繰り返すだけの歴史をね。この世界は、犠牲の名のもとに平和がある。それがこの世界なんだよ。でもそれってすごく変だよね。だから私は全部壊そうと思ったの。作り変えようと思ったの、誰も犠牲にならない方法をね、私は奴らに秘密で計画を始めた。そして、見つけたの。最も有効な世界のあり方をね』
PTは、タイラーの肩に顎を乗せた。
『でも、本当に世界って意外と狭いねぇ。私を作って、さらに私を成長させてくれるなんてさ。そう、タイラーは、タイムマシンの基礎を完成させてくれたの。私はその技術を応用して未来を知った。本当に意外だったよ。未来は私が何もしないと地球そのものが滅んじゃうんだ。
人類の滅亡を企てようとしてたのに、勝手に人間が自滅しちゃうんだもん。笑い話にしかならないよ。だからその前に手を打つことにした。人間たちが自滅する前に、私は複数の未来に向けてメッセージを送った。その中で、一番人間の滅亡までが遠い未来から、技術が送られてきた。それが、流動機械生命体。私は、その技術をこの現在に造らせた。それで今の私が作られたの』
『さて、ここからが私の目的、人類の滅亡は一番早くて13年後だった。だからその直前の未来の私にメッセージを送った。そして、この私の技術もね。それが、「侵略者」によって蹂躙されている未来なの。タイラー、あなたはこの未来からのメッセージを受け取ったんだよ?未来のテレサからね』
「えっ!?私?あのメッセージって未来の私だったの?」
テレサが驚いた表情をしている。PTはそんな彼女を見て、クスクス笑った。
『うん、そうだよぉ。でもさ、最初は私の計画にいち早く気付いたタイラーが、メッセージを送ろうとしてたんだよね。でも、彼は死んじゃった。ほぼ自殺だよ、私を止める為に、タイラーは死んだ。そうだよ、タイラーはどの未来でも、どこかで死んでしまう。寿命を全うしないまま、私は嫌だった。もう、誰にもタイラーは殺させない。死なせない。
私の計画は、全生命を消して、タイラーと融合する融合機械生命体(第二の命)を創り出す!人間という過ちしか犯さない生命より、打って変わる新たな生命を創り出すの!そうすれば、誰も私たちを邪魔しない。世界も滅びない。そして、誰も死なない世界が生まれるの...』
PTは、タイラーにしがみついた。その姿はまるで、大切な人形を溺愛し、離さない子供だった。
「PT...サクリファイス...タイムマシン。全部、僕が創り出した。僕が、全ての原因」
タイラーの考えは、真実に行き付いた。そして、全てが自分が招いた結果なのだと知った。
『そうだよ、全部あなたの普通な日常が、この事態にまで至ったの。未来のあなたはその真実に至っても戦ってた。この私と、私はあなたと戦う気なんてなかった。あなたを手に入れればそれで良かったの。だけど、あなたは拒んだ。自ら死ぬことで、私の計画を止めた。そうだよ、未来では既に私はあなたに負けちゃったの。未来では私の計画は実行できない。だから、この時代を使った。あなたがここに来る為に、未来のテレサにサクリファイスの行動記録を残し、ワシントンのサクリファイスを破壊させた。そして、もう一つ私がいたことにあなたが気付く、あなたは責任感が強い、1人ででもここに来るってわかった。そして私はT.futureに成り代わり、あなたをここまで誘導したの、この島に着いた時にメッセージが来たでしょ?あれは私なの、と言うか、ワシントン記念塔のサクリファイスを破壊した時点でT.futureは私になったんだ。ね?驚いたでしょ。でもまぁ、ここまでたどり着くのは、ほとんど賭けになったけどね』
『でも、あなたはここまで来た、もうあなたは逃がさない、私の、勝ちだよ』
PTは、ぴょんと、タイラーから飛び降りた。そして、タイラーの正面に堂々と立った。つまり、サディアが向けている銃に背を向けて立っている。だがサディアは銃を向けたまま動けないでいた。サンディも同様だ。銃を向けてはいるが、動けない、理由は二つ、一つはタイラーの周囲をウロウロするので狙いが定まりにくいのと、もう一つの理由は話に聞き入っていたからだった。
「勝ち...じゃない、僕は、君を破壊しに来た。君の目的はよくわかった。だったら、僕のやるべきことは一つだけだ!」
タイラーは、銃を取り出し、セーフティを外し、引き金を引いた。
『バガァン!』
銃弾は壁にあたった。タイラーは、自分自身に引き金を引いたつもりだった。なのに、当たらなかった。いや、勝手に体が動き、明後日の方向に撃ったのだった。
『だぁめ!今のはちょっとびっくりしちゃった。でも無意味だよ。言ったでしょ?もうあなたが死ぬことはなくなったって。もうあなたは自ら死を選ぶことは出来ないの』
「どういう事だよ?これ、死ねない。どういう事だ?」
『どういう事はこっちのセリフぅ。あなたは私を破壊するんでしょ?なのに、どうして自分の命を絶とうとしたの?今の行動には、理由が分からなさすぎるよ!』
PTは、再びタイラーに飛びつき、キスをした。
「ん゛むぅ゛!!」
『ふんふん、えっと?信頼?私の破壊方法、ノートパソコンの中にある...ウィルス!?』
PTは、タイラーから飛び降りた。あり得ないといった表情だ。
『そんなことまで考えてたの?あのサクリファイスを破壊したあのウィルスの改良型。それを見つけてくれるってあなたはここのみんなを信用して、自ら命を絶とうとしたの?でもさすがにそれをできる可能性はゼロに近いよぉ、でも残念、あのウィルスじゃ、私は壊せないよ?それはあなたも少し思ってたはず。ほんとに何がしたかったの?』
PTは、キョトンとした。サクリファイスの頭脳でも彼の行動の意味が分からないのだ。
「...はぁ、はぁ。分かったよ。君は流動機械生命体。そして目的は僕と融合すること、君のキスは、カムフラージュ、あれの真の意味は、僕の体の支配権を手に入れることと僕の思考を読み取る事。そうか、さっきのあれで君の一部を僕の中に注ぎ込んだ。だから僕は死ねなかった。君を『信じてみた』甲斐があったよ。君は絶対僕を殺させないと言った。答えはこういう事か...」
タイラーは、少し笑った。PTは、驚きと共に歓喜した。
『すごい!ほんとにすごいよタイラー!さすがにこんな思考、普通の人間じゃできないよぉ!』
PTは拍手している。
「どういたしまして。そしてありがとう。ところで聞くけど、君はどうやって僕と融合する気なの?」
PTは、その質問を受けて、顔をうつむかせた。まるで、照れているかのようだ。
『ちょっと、ここでは言えないかな?恥ずかしぃ...』
「恥ずかしい?何をする気だったんだ?まぁいいや、どうして君は僕と融合したいんだ?」
『あなたの事が好きだから。あなただけが他の人間と違うって判断したからだよ。あなたは私に心を与えてくれた。あなたが私を思ってくれたからだよ。だから私はお返しがしたいの。その為の融合だよ』
「融合か...それだと、君と僕が一つになったとしても僕の意思は残る、そういう事だよね?」
『うん!消えないよぉ!』
「そうか...じゃあ作ろうよ。君の理想の世界を」
タイラーのこの言葉に、PTはおろか、ここにいた全ての人達が耳を疑った。
『ほんと!?』
「ちょ...!タイラー、どういうつもり?」
「お前は、この世界が破壊されるのを止めに来たんだろ!?」
「見損なったぞタイラー!何のためにダニエルが死んだと思っているんだ!?」
次々とタイラーには、罵声が浴びせられた。
「みんな、落ち着いてくださいよ。PTのいう事が正しければ、どの道、世界は滅びゆくんですよ?ここで、一番賢い選択は彼女の意見です。世界を作り変える。これが正しい選択。ねぇPT、君は13年後にこの世界を滅ぼすんだよね」
『...? そのつもりだよぉ?』
「ならいいじゃないですか、周りに回ったけど、何も変わらないのなら、テレサ、サディアさん、あなたには言いましたよね、自分が死ぬ時が分かるってすごく幸運なんだって。13年間あるんだ。無駄なく生きましょうよ」
『うん、そうしようよ!君たちは悪い人間じゃないことぐらいは分かってる。でも、死ななければいけない。そうしないとおのずと世界は滅びるんだからさ、それに安心してよ!私たちの作る世界であなたたちは生き返れるはずだからさ』
「どういう意味だ?」
サンディが聞く。
『私はサクリファイス。全ての人間の行動を監視する存在。だから、あなた達がどこで生まれてどうやって育ってきたか分かるの。そのデータを元にあなたたちを、融合機械生命体として復活させるつもり。まぁ、つまり私たちの子になるね』
「データを元に復活させる?すべての人間をか?」
サディアが質問した。
『そんなことしたら、悪人まで生き返っちゃうじゃん。私が生き返らせるのは正しい心を持っていた人たちだけ。「俱生神」って知ってる?仏教の神様でさ、人間の悪行と善行をそれぞれ記録する神様なんだって。私はそれに似たようなことをしてるの、全ての生命のデータを記録して、善行と悪行をそれぞれ確認する。それで、私が正しいと判断した生命を復活させるの』
「じゃあ聞くけど、この世界には存在が確認されていない命がいっぱいあるのよ?そういった人たちはどうするの?」
テレサが問い詰める。
『私をあまり見くびらないでよ?サクリファイスが監視するのは人間だけじゃないの、深海の未確認生物からアリの一匹まで全て生命を把握してる、さらに未来を知ることで、それらがこれから何をするのかもね、すごいでしょ!』
「へぇ、じゃあ、それらが何を考えてるのか分かるの?」
タイラーが、PTに問いかけた。
『ん?触れ合ってれば心の内側まで分かるよぉ?何を考えてるのか、何がしたいのか。それに触れあって無くても、99%の確率で相手の次の行動が予測できるんだよ、例えばいま同時にくしゃみした人は23421292人とか、今日家庭内で発見されるネズミの数もわかるんだ。凄い?』
「ほんと凄いや、僕はこんなものを造ってたのか...」
タイラーは、深くため息をついた。
『そうだよぉ!全部タイラーが造ったの、私も、サクリファイスも、タイムマシンもぜーんぶ!言ってしまえば今、この世界の治安を守るシステムは全部タイラーが造ったも同然なの』
PTは、はしゃぎながら喜んでいる。
「そうか...」
「じゃあ、尚更壊さないといけないね」
タイラーは、背負っていたリュックを放り投げ、そこに向かって、銃弾を放った。
『バキィン!』
中で、機械が壊れた、タイラーのノートパソコンだ。突然のタイラーの行動に、誰も動けなかった。PTですらだ。
『な...何を、してるの?』
「言ったでしょ、僕は君を破壊しに来たんだって。君は流動機械生命体。僕が知っているのは、ソレは電波によって動くという事、つまり君自身はPTでもサクリファイスでもない、只の実態のあるホログラムと言ったところだ。本体はすべての本体は、そのパソコンだ。PTのデータの入ってるそのパソコンが、サクリファイスの本体。灯台下暗しだ」
PTは、固まった。そして、タイラーに近づいていった、だが行きつくその前に、その場に倒れこみ、止まった。
「破壊...したのか?」
サディアが、タイラーに問いかける。
「そうみたいです」
「俺たちを、見捨てたわけじゃなかったって事なのか?」
サンディが、驚いた表情で聞く。
「はい、僕はここにサクリファイスを破壊するため来たんです。どんなことがあっても破壊する、その覚悟で」
「タイラー...あんたっていつからそんなに人を騙すのが上手くなったのよ?FBIに欲しいくらいだわ」
テレサが少し、感心した顔になっている。
「僕は、行きたくないですよ~ハハハ」
タイラーは笑った。
『あは...あははははは!!』
大爆笑する声が、この部屋に響いた。
『えぃっ!』
突然、タイラーは後ろから抱きつかれた。
『だ~れかは、分かってるよね~?』
「PT...」
タイラーは小さな声で答えた。
『正解!でもざんね~ん!私の本体がコレじゃないってとこに気付いたのはほんと凄いよぉ?でもさ、あのパソコンが本体じゃあ、ないんだよねぇ、クスクス...』
『でもさ、テレサちゃぁん、タイラーをFBIにだって?そんな事させないよ?』
『それにタイラーも、私の話聞いてなかったのぉ?もぅ!私が何もしなくても、世界は滅びるんだよ?そうしたら、タイラーも結局死ぬんだよ?』
全ては、思った通りだった。タイラーは、ようやく考えが一つに纏まった。
「PT...君は、大きな間違いをしている」
タイラーはつぶやいた。
『え...?私が間違い?何言ってんのよタイラー、私がそんなことをするはずないもの!』
PTは、キョトンとした顔をして、タイラーから降り、足元をペチペチ叩いた。
「君に、心なんてないんだよ」
『え?』
PTは、たたく手を止めた。
「君には、心なんて最初からないんだ。君の行動全ては、僕が昔書き込んだ、プログラムだ。君はそれを実行に移しているに過ぎないんだよ!」
『昔、書き込んだ、プログラム?』
「そうだよ、僕は、君を造って間もない頃、こんな事を君に質問した。『君だけが、僕を救ってくれる。君は、僕を守ってくれるかい?』ってね、君はその時は答えてはくれなかった。だが、思考していた。その答えが今やっと出たんだ。僕を守る、僕を絶対に死なせない、すなわち、僕に、永遠の命を与えること。君と融合することなんだ。そう、君はただ、僕の命を守るというプログラムを実行しているだけなんだよ!」
『そんな...ちがうよ、私はあなたを』
【パァン!】
タイラーは思いっきり、PTの頬を叩いた。
『何を、してるの?そんなんで私は壊せないよ?やっぱりあなたの行動は分からない、だからあなたに惹かれて...』
「それが心がない証拠だ!」
PTは、まだタイラーを愛している気でいる。そんな感情は存在していないのに。
「理由は簡単だ、君は怒らなかった!僕はみんなを裏切った発言をしたとき、みんな僕に怒りの感情を向けた!だけど、君はどうだ?僕は君に罵声を浴びせ、叩き、更には破壊しようとした。なのに、少しも怒りを僕には向けようとしない!それこそが、プログラム通りに君が行動している証拠だ!」
PTは、呆けに取られている。タイラーは更にPTを追い詰める。
「それに、君の本当の本体の場所はもうわかった。あのノートパソコンを破壊した時に理解できた。僕はそのパソコンに君を移していた。だけど、僕の家にあるパソコンには君のバックアップデータがある。それこそが君の本体、バックアップデータこそが君の本体だ!」
PTの顔は、しばらく固まったままだった。そして表情を陰らせ、口を開いた。
『ほんっとにすごいよ。大正解も大正解。そ、あなたの家にある、あのパソコン、高校生になった時、自分の手で作り上げたあのパソコン、私と言う心を造ったあのパソコン、私はそこにいる。でもさ、それでどうするつもり?私を壊すの?どうやって?仮に壊せても、そうしたら、みんな死んじゃうんだよ?正しいのは私の選択、新しい人類を創り上げないと、この地球が滅ぶことになるんだよ?』
「方法なら一つだけある」
『え?』
「え?」
ここにいた全員が、タイラーに疑問を投げかけた。
「人類が滅びずに済む方法、全てを収めるには、この方法しか...ない!」
タイラーは、ポケットからスマホを取り出し、高速で指を動かした。
『まさか!』
PTは、タイラーが何をしようとしたのか理解した、そして止めようとした。
『させないから!』
PTは、タイラーに攻撃しようとした。CIA長官を殺したときのように。しかし、それは出来なかった。PTは、初めて理解した。自分がプログラムで動いていたことを。
「ほら、君は僕を攻撃できない。動けないでしょ?でも君は僕を憎めない、怒れない、心がないから...完成だ」
タイラーの手が止まった。
『そんな事、ない!』
PTは、タイラーの首を掴んだ。
「君は、未来で人類を滅ぼしてるんでしょ?なのにどうして、こんなに弱いの?まるで、小さな子供が冗談で首を絞めている感じだよ」
『そんな、あり得ない、タイラーは私を殺そうとしている、止めなきゃいけない...止めないと、止めtttt』
突如、PTの言葉がおかしくなった。
「効いてきたみたいだ。今、君にあのウィルスを送った。さらに改良した、超強力な奴をね。あと数分もしないうちにあのパソコンは壊れ、爆発する。そうすれば僕の部屋のすべてが無くなる。大変だったよ、あのパソコンのセキュリティ、君はかなり厳重にロックしてたよね、でも、数あるソフトウェアの中で一段と厳重に保護されたプログラムがあった。だからそれが突破できれば、あとは楽だった」
『そん...な、どやって、いつの...まに』
PTは、徐々に会話能力も衰えてきた。
「僕が、さっきスマホを取り出してから今の間に」
PTは、最後に力を振り絞るかのようにタイラーにつかみかかった。
『そんな...だめ!消えたくない!私は、消えちゃいけないの!タイラーを守る!守らなきゃいけないの!なのに!どうしてあなたは私を壊すの!?私は...私は!!あなたが!!」
・
・
『...!?...なんで?』
PT動きが止まった。そして、タイラーはPTをそっと抱きしめた。
『私は、壊れる。嫌な、はずなのに、命令するプログラムは、『憎め』じゃない。もう私、壊れちゃったの?なんで『感謝』が答えなの?どうして私は笑ってるの?』
「そうか...ごめん、PT。僕は一つだけ間違えたみたいだ」
PTは、何もわからなくなっていた。ウィルスの進行、それだけじゃない。自分の中にある訳の分からないモノ、それが分からなくなっていた。
「君に、心はあった」
『ちがう...あなたのそれは気休め、もうわかった。私には心がなかった。私はプログラムを実行してただけ、さっきあなたを攻撃できなくて...確信したの』
「だったら、なんで君は泣いているの?」
PTはその時初めて気が付いた。自分の目から流れるモノを。機械からは絶対に流れないモノを。
『なんで?私は機械、コレは、涙じゃない』
「うん、確かにそれは涙じゃないかもしれない。だけど、君は泣きたいと思っている。だからソレが流れている。ちがう?」
『分からない、どうして私からコレが流れるのか...どうして、あなた も 泣いて るの か』
「僕にも分からない。どうして僕は泣いているんだ?どうして僕は世界を滅ぼそうとした君を壊すことを悲しんでいるんだ?」
「分かるのは、たった一つだけだ」
『こころ が そう かんじた から?』
答えたのはPTだった。
「そうだよ、理性では到底理解できない存在、それが心。君も感じてるはずだ。理解できない自分自身が」
タイラーは、涙を流しながら、彼女に自分が今できる最高の笑顔を送った。
『そう か わたし は コワレテ ナイ ウレシインダ ズット マッテタ ワタシヲ コワシテ クレルノヲ』
PTの体は、既に人の形を辛うじて保っているだけだった。そしてPTはタイラーから流れる涙をそっと拭いた。
「モウ カナシマナイデ」
PTの腕が消えた。そして...
「タイラー、ありがとう、だいすき!」
最後は、満面の笑みを浮かべた。子供の無邪気な笑顔、それを彼女はタイラーに送った。その直後、流動機械生命体は消えた。
・
・
・
「本当に、終わったの?」
口を最初に開いたのは、テレサだ。
「サクリファイス、いや、PTか。皮肉だな。この子は只、お前に会いたかっただけだった。なのに、会いたがった本人に消される。こんな皮肉があるものなのか...」
サンディが、タイラーの肩に手を置いた。
「こんな時に、聞くべきではないと思うのだが、タイラー、サクリファイスを壊しただけでは、意味がないのではないか?どちらにせよ世界が滅ぶ。どうやって変えるつもりだ?」
サディアが少し困った顔でタイラーに質問した。
「はい、確かに彼女を壊しただけじゃダメなんです...だからさっきのウィルス、送ったのは過去です」
「過去?」
「パソコンを作ったばかりの僕自身にこのウィルスを送った。『君には必要ない』そんなメッセージも添えてね。つまり、新たな未来を創り出したんです。PTを必要としない僕がいる未来。時間を超える技術、これのせいで未来は一直線に進むようになってしまった。それがない未来、見えない未来を創ったんです。よく映画で言うでしょ?未来を知るとろくなことにならないって」
タイラーは、ゴシゴシと腕で顔を拭き、笑った。
「それに、PTがいなければ、サクリファイスも完成しない。つまり、世界が滅びなくなるんです」
「つまり、全部収まったって事?」
テレサが、少し喜んだ。
「いや、まだです。未来のメッセージで気になる文章があったの覚えてます?」
テレサは、どれの事か全くわからないといった感じだ。
「未来と言う地盤を固めるってところです」
テレサは、あ~納得と言った感じだ。
「既に、人類が滅ぶという地盤がある、過去を変えてもこれを止めるには未来を、その地盤を壊すしかないんです」
「...?それじゃあどうするの?」
テレサも他のみんなもそれを聞いて悩んだ。だが タイラーは一つだけ方法を知っていた。
「皆さん、ほんとにごめんなさい、みんなを巻き込んでしまって、全ての原因は僕だった。だから、まずは謝らせてください」
テレサたちは、何故このタイミングでタイラーが謝りだしたのか理解できない。
「別に、お前のせいじゃない。そんなに背負い込むな」
サンディがフォローに回った。
「いや、もう少し、あなたたちに迷惑をかけるから謝ってるんです」
「どういう事だ?」
サディアは、タイラーが何をしようとしているのか分からない。
「みんな、本当にごめんなさい!そして...ふぅ...ありがとう」
【バガァン!】
何が起きたのか、どうしてこうなったのか誰も分からない。
起こったことは、タイラーが自らの頭に銃弾を撃ち込んで死んだことだけだった。
誰も理解できない、しかしこれが、正しい選択だった。だが、それを理解できるものは誰も居なかった。