prequel
どうにも、もう一つの作品が行き詰って、息抜きにと思って書いた作品です。
最初は、短編で書くつもりだったのですが、どんどん長くなってしまって、終いには。三か月かかってようやく書き終えた次第です。
テーマは、AIと人間の心、それと犠牲の平和です。少々長いですが、読んでくれると嬉しいです。
2030年 1月1日
世界規模のコンピュータジャック事件が発生。各国主要都市のシステムが全てダウン。この影響で世界中のライフラインが停止。世界中で暴動が発生。世界各地の警察、軍は、これの鎮静化に総動員される。
2030年 1月2日
日付が変わった瞬間、謎の巨大生命体を確認。私は、これを生命体と呼ぶべきかどうか悩むと事だが...生物にしては、余りに無機質な体をし、機械にしては、余りに醜悪な顔をしている。この生命体は、人間を襲い始めた。コンピュータジャックは続き、世界各国からの情報が途絶える。
2030年 1月3日
コンピュータジャックの網をかいくぐり、各国は通信手段のみ奪取。各国首脳の電話会談により、謎の生命体をinvaders(侵略者)と呼ぶことにした。侵略者は、全世界で同時に出現されたことを確認。通信を得たことにより、全世界の軍隊、自衛隊が動き出した。
2030年 1月4日
全世界で、侵略者に対する一斉攻撃が行われた。作戦の指揮は各国それぞれの判断で行われた。これまで敵対していた国が協力しあい、侵略者に猛攻撃を仕掛けた。皮肉なことだ。この日世界は、一つになった。
2030年 1月5日
作戦は、失敗に終わった。侵略者にありとあらゆる兵器は通用せず。全世界の兵士は侵略者に殺された、ある者は呑み込まれ、ある者は引きちぎられ、投げ捨てられ、ある者は生きたまま振り回され、そのまま武器のように扱われ挙句の果てに、粉々に粉砕された。世界は侵略者に蹂躙された。人間のできる反抗の手段は一つだけになった。
2030年 1月6日
全世界で、核兵器を同時に使用。残された人間は世界各地で極秘に建設していた巨大核シェルターに逃げ込んだ。しかし、全人類を収容することは出来ず、世界の人口は半分まで激減した。
2030年 1月7日
核兵器、侵略者に通用せず。地上から生命が消えた。地上には、侵略者だけが残った。だが、侵略者の蹂躙は留まらなかった。中東のシェルターの一つから、連絡が消えた。この場所からの生命反応が消えた。各国首脳は戦いを諦め、自決。世界が崩壊した。
2030年 1月8日
世界はこの1週間の出来事を『The worst week(最悪の一週間)』と呼んだ。
しかし、ある一人の人物が、侵略者の正体を見抜いた。彼の言うには、侵略者はどこかから送られる電波のようなものを元に行動しているらしい。やはり、奴らは生き物ではないようだ。
2030年 1月9日
電波の発生源を確認。ここを叩くことさえできれば奴らを止める方法があるはずだ。私は探すことにした。わずかな可能性を信じて...
2030年 1月10日
完成だ、私はそこに電波を送ることができたようだ。後は...任せたぞ。
2030年 1月11日
成功。
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2017年 1月11日
タイラー 27歳 一人暮らし
彼は、大学を中退しプログラマーとなった。だが職場では、余りいい立場の扱いは受けていない様だ。
タイラーは今日も、朝食に昨日買っておいたドーナツを食べながら職場に向かう。
「おい!昨日の資料出来たのか!?」
「すいません!今日中には何とかしますので...」
「昨日も同じ事を言ってたよな!お前は常に遅れていないと気が済まないのか!いいか!これは仕事だ!お前ひとりの遅れのせいでどれだけの人様に迷惑が掛かったと思っているんだ!出来上がるまで帰るんじゃないぞ!」
タイラーの上司がどこかへ向かった。
「はぁ、いつも思うけど僕の仕事、多すぎる気がするんだよなぁ 仕事変えようかな...でも、ここ以外で僕を雇ってくれるとこなんて...はぁ」
タイラーはぶつくさ言いながら、仕事した。
昼の休憩になった。オフィスにはタイラー一人だけになった。タイラーはランチタイムも働き続けていた。そうでもしなければ到底終わりそうにないからだ。
「あぁ、腹減ったなぁ」
この時間は特に独り言が増える。何か言ってないと、精神がおかしくなりそうだからだ。空腹を抑えるのに、タイラーはガムをかんだ。
タイラーのスマホにメッセージが送られてきた。だが彼は気づかなかった。
22時30分
タイラーの仕事がようやく落ち着いた。彼は帰る支度を始めた。もちろん、彼のいるオフィスには、彼一人だけだった。
ようやく、彼はスマホを見た。
(T.futureさんがあなたの友達になりました)
「誰だこれ、シラネ」
タイラーは無視しようとしたが、操作を間違え友達登録をしてしまった。
「やべ、ミスったな。まぁいいか」
次の瞬間いきなりメッセージが来た。
「なんだこいつ、暇人か?」
タイラーは、文章に目を通した。
(君は、タイラー君か?)
タイラーは急に恐ろしくなった、彼のペンネームは本名を設定していない。彼は迷った、この得体のしれない人物に返信すべきか、
(そうです、でも、あなたは誰なんですか?)
彼は、恐怖に負けたようだ。返信した。
(私はT.futureとしか名乗れない、君は今、ビルの3階のオフィスに居て、帰る準備をしている頃だろう。済まないがしばらくそこに居てほしい)
タイラーの恐怖心が跳ね上がった。彼の今いる場所をピタリと言い当てたからだ。彼は周りを見渡している。だが、周囲には人影もない。
(なんでそんなことを、あなたはどこかからか僕を見ているんですか?)
(見てはいない、だが、知っているとだけ言っておこう)
(まぁ、いいです。でも、なんでここに居なければいけないんですか?)
(3分待てば分かる)
タイラーは待った。とりあえずこの人のいう事を聞かないと、何か怖い気がしたからだ。
(今だな)
【ガッシャアアアアアァァァァン!!】
メッセージが送られたと同時に、近くでものすごい轟音が響いた。隣の建物に車が突っ込んでいたのだ。タイラーは腰を抜かした。ここで待っていなければ、あの車と鉢合わせるところだった。彼は慌てて返信した。
(どういう事ですか!?あなたは、なんであの車が突っ込むって知ってたんですか?)
(知っていた。君は、あのまま帰れば事故に巻き込まれていたんだ。死にはしなかいが、君はこの事故が原因で大変なことを起こしてしまう。まずは成功だ。記事が消えた。が、ここを変えただけでは、根本的な解決はしないみたいだ)
タイラーは頭を悩ませた。今送られてきた文章が意味するのは、一つだけだからだ。だが、彼の脳内は認めまいと必死になっている。とりあえず、やけくそになって返信した。
(今の文章。どういう事ですか?まるで、あなたが未来からメッセージを送ってきているみたいな書き方ですけど...僕は、この手のドッキリは好きじゃありません。しっかり説明してください)
(そうだな。歴史を一度変えたから、もう話してもいいだろう。君の言う通り、今、未来からこのメッセージを送っている。信じてはもらえないだろうが...簡単に説明すると、私のいる未来は人類滅亡の危機にさらされている。それを修正させるために、今、この時代にメッセージを送っているんだ。君が唯一のカギなんだ。これは、ドッキリでも何でもない。正真正銘、私は2030年からこれを送っている)
タイラーはしばらく考え込んだ。未来からメッセージが送られてくるなど、普通に考えればありえないことだ。だが、彼は信じ始めていた。彼は、確かめることにした。
(あなたが本当に未来の人なら、知ってるはずです。宝くじの当選番号を言い当てられたら、僕はあなたのいう事を信じます)
タイラーの中に、少し邪な気持ちが入り、こんなメッセージを送った。彼は一石二鳥だと思った。
(いいだろう、金がないと行動は出来ないからな。そうだな、ちょうど、宝くじの発表が明後日になるな。あまりでかい金額は君の為にならない、とりあえず、10万ドル当たるようにする。私の書く番号でやってみろ。だが、当選したら明後日から少し行動してもらうぞ?)
(当たったらですよ?)
タイラーは、緊張と興奮と何とも言えない感情をもって、家に帰った。
次の日からは、俄然やる気がでた。タイラーの仕事スピードが尋常じゃないほど上がった。常人では考えられなスピードで仕事をこなしている。彼の上司も目を点にしている。彼は、通常の人間なら2日かかる仕事を、1日で終わらせた。彼は数年ぶりに日のあるうちに家に帰れた。
家の中では、彼はそわそわして落ち着きがない。彼は自分のパソコンを立ち上げ、自分で適当なプログラムを作って遊んだ。そんな時だった。
「あれ?今日のパソコンやたら調子いいな、これをこうして...ん?なんだこれ? まぁいいか」
タイラーはしばらくしてから、眠りについた。
今日が、発表日だ。タイラーは、今日もすさまじい速度で仕事をこなした。
「よし。終わりっと 課長!お先失礼しますね!」
「あ...あぁ お疲れさん」
タイラーは会社を出た。
「ねえ課長? タイラーの奴何があったんですかね?」
「さぁ...ただ言えるのは、あいつの仕事の速度は、人間のスピードじゃないぞ。まるで機械だ。何でそんなやつがこんなブラック企業に居るんだ?」
「あ...ここがブラックっていう自覚あったんですね」
「当たり前だ。私も社長に無理難題言われまくりの身だ。ただ、今はご満悦だけどな。けどこれがまたもっと早くしろとか言ってくるんだよなぁ。あぁ辞めたい」
「私もです」
タイラーは家に着いた。そして自分のパソコンを立ち上げ結果を見た。
当選だ。彼は画面の前で固まった。心の整理が着かない。言われた通り10万ドル当たったのだ。
(結果は見たか?)
(見ましたよ。本当に当たるなんて...)
(よし、ではさっそく行動してもらうか)
このメッセージでタイラーは思い出した。未来では人類が滅亡寸前と言う事を、彼の中ではここだけが引っ掛かっていた。
(そういえば、約束でしたね。何をすればいいんです?)
(まずは、ワシントンに向かってほしい)
(は!?いきなり何を言い出すんですか!?無理言わないで下さいよ!)
(無理じゃない。何のために当選させたと思っているんだ?)
(いや、僕にも生活があるんです。ワシントンなんて、飛行機使っても往復するのに数日はかかりますよ?)
(そんなことは分かっている。明日君の会社に2週間ほど休みの申請をしろ。通るはずだ)
(通るとは到底思えませんよ。ただでさえ人員が少ないんだ。無理ですよ)
(いや、出来る。私を信じろ。普通信じられないような宝くじを信じられるのに、休みの申請が信じられないか?)
(あなたは、いったい僕に何させたいんですか?)
(詳しいことは言えない。君がワシントンに着いたら説明する。とりあえず、一括で受け取っておけよ)
タイラーは手続きをして、飛行機の予約もした。彼は彼自身がどうしてこのような行動をしているのか分からない。だが、不思議と得体のしれない奴の事を信じていた。
次の日になった。とりあえず会社に向かう。タイラーはいつものように、オフィスに入った。
「おはようございます」
いつものように扉を開けたら、目の前に課長がいた。
「タイラー!ちょっと来い!今すぐ来い!」
すごい形相で、タイラーの腕をつかみ奥へと連れて行った。タイラーは訳も分からず、引っ張られ奥にある部屋へと入った。
「社長、連れてきました」
「おぉ、君がタイラー君か。君の仕事っぷりは聞いているよ。なんでも通常2日かかる仕事を、君は残業もせずに1日で仕上げたそうじゃないか。そのおかげで、我が社はこの2日間だけで、利益が一気に上がった。たった2日でだ。本当に感謝するよ」
タイラーが連れられた先には社長がいた。タイラーは、しばらく状況が理解できなかった。
「え?あ、ありがとうございます...」
タイラーは、褒められたからとりあえず返事をした。
「この2日間の功績をたたえ、君を部長に昇格させようと思う」
タイラーは固まった。課長も固まった。沈黙が襲った。
『ぇええ゛っ~~~~!?』
二人同時に叫んだ。誰も予測しない事態を突き付けられた。タイラーも課長もどうしたらいいか分からなくなった。予測できない事態はさらに続いた。
「そして、タイラー君の就任祝いに、今日から2週間の休暇を与えよう。英気を養い、今後とも頑張ってくれたまえ!HAHAHA!」
社長は、それだけ言ってどこかへ去った。二人は取り残された。
「では、今後とも宜しくお願い致します?部長?」
課長は、ぎこちない口調でタイラーに言った。
「えっと...休みでいいんですよね。課長...」
「そうだな...」
「では、お先に...失礼いたします」
「あぁ、あと私の名前は、ウィリアムだ。今後はそう呼んでくれ」
「無理かもです」
タイラーは、会社を出て直ぐメッセージを打った。
(本当に休暇もらえちゃいましたよ。しかも部長という役職もセットで)
(へぇ、それはおめでとう。だったら予定通り、さっそくワシントンに向かってくれ)
(飛行機の予約、今日のに変更しよ)
(ぜひそうしてくれ。こっちも助かる)
タイラーは、家に帰り荷物をまとめて空港に向かった。
そして、飛行機に乗り込み席に座った。なんかもったいないのでエコノミークラスにしていた。
(どうやら、順調に事は運んでいるみたいだな)
(はい、上手くいき過ぎなぐらいです。それよりも、そろそろ詳しいこと教えてくれませんか?ワシントンにいったい何があるんですか?そもそも、なんで僕なんですか?)
タイラーは、ここぞとばかりに質問した。
(済まない、詳しくは教えられないんだ。ただ言えるのは、タイラー君。君が後に創るものが、未来の破滅の原因になっているんだ。でもそれは君のせいではない。君の開発したものを奪い未来を滅ぼした。君はその元凶を止めてほしいんだ。もっと詳しくはワシントンに着いてからだ。君は今飛行機にいるのだろう?この、時空間を超えた通信が何か影響を及ぼすかもしれない。一旦通信を切るよ)
その後、T.futureから連絡はなくなった。
「向こうに着けばわかるのね...」
タイラーは暇だったので、持ってきたノートパソコンを機内モードにした後、またプログラムを組んでしばらく遊んだ後に寝た。
『現在 空港の気温は8度...』
タイラーは機内放送で目を覚ました。外を見ると飛行機は着陸態勢に入っていた。
「あ...もう着いたの...ふぁ~あぁ」
タイラーはあくびをして体を隣に迷惑にならないように伸ばして、パソコンをしまい荷物を下した。
ワシントンにある某空港。ワシントンDC市街地へのアクセスはこの空港が一番近い。地下鉄も近く色々便利な空港だ。只、国際線がなく滑走路も短い。大型機は入れないのが欠点だ。もう1つの空港がこの近辺で一番大きいのだが、どうにも遠い。タイラーは昔から貧乏性のせいか、出来るだけ安く、無駄なく生きてきた。要するにケチだ。
「あ~腰痛い」
(そろそろ着いたか。楽しい空の旅はいかがでしたか?)
(腰が痛いです。着きましたよ。どこに行けばいいんです?)
(ワシントン記念塔に向かってくれ。そこで全て話そう)
(分かりました。向かいますよ。教えてくださいよ?)
タイラーは、言われた通りワシントン記念塔に向けて歩き出した。
「あれ?タイラー先輩?」
途中で、後ろからタイラーを呼ぶ声が聞こえた。彼は振り返った。そこには高校時代の後輩の女性、テレサがいた。テレサはビシッとしたビジネススーツを着ている。タイラーとは真逆のような感じだ。
「え?テレサ?何でここに」
「私今、こっちで働いてるんですよ。先輩はなんでここに?」
「う~ん、なんというか、観光?でいいのかな。まぁ会社から休みもらってるから休暇でだな」
「そうなんですか、今どこに向かってたんですか?」
「ワシントン記念塔。堅苦しそうで今まで行ったことなかったんだ」
タイラーは、真実は告げるべきでないと判断して、適当に話を作った。
「あっ、私もそっちに用があるんですよ。一緒に行きません?途中に良いカフェがあるんです。一緒に行きませんか?」
タイラーは、少し迷ったが少しぐらいいいやと考え一緒に向かった。
タイラーは彼女と歩いた。彼のスマホにメッセージが入った。だが彼は後回しにした。今は懐かしい思い出に浸りたかったからだ。
そして、人気のない路地に入った。
「なぁテレサ、こんなところにカフェなんて...」
タイラーは、歩き出そうとしたときに、彼の頭にに硬い筒のようなものが押し付けられた。
「動かないで。タイラー。動いたら私は君を撃たなきゃいけない」
タイラーは、状況が理解できない。何故、彼は頭に銃を突きつけられているのか
「なっ...!どういう事だよテレサ。冗談にしても悪趣味すぎるだろこれは...」
「動かないでって言ったでしょ!」
タイラーは気圧され、その場に固まった。彼女は本気で彼を撃とうとしている。
「どういう事だよ。コレ」
「聞きたいのは私よ。なんでテロ犯罪者有力候補にあなたの名前があるわけ?それにさっきから、ケータイ鳴ってたけど、誰から?」
「テロ犯罪者?なんで俺が、やっぱりただの冗談なんだろ?こんなことしてる暇はさすがにないんだ。俺は...」
「黙って!」
「私は今、FBIにいるの。そこであなたの名前がテロ犯罪者の最有力候補に挙がったのよ。私も最初は信じられなかったけど、あなたを調べたら、最近妙な事が起きてるみたいね。宝くじの当選に、部長昇格。異常な事よこれは、そして一日も経たずにここに来た。どうしてここなのか、タイラー、あなた最近、無料通話アプリを開いてる時間が多いみたいだけど、そこで一体何をしているの?そしてアプリ内の会話の内容は、どういう事かこちらから読むことが出来ない。これはさすがに怪しいわ。そしてさっきから、通知来てるみたいだけど、それはこちらが傍受できない相手?タイラー、読み上げて」
タイラーは、ゆっくりポケットからスマホを取り出した。そこには
(今、君の前にテレサがいたりしないか?)
(いたのなら、彼女を無視するか人違いだと言え)
(決して彼女についていくな)
(これは、君の命に関わることだ。君が付いていってしまったら、テロの容疑者として逮捕されてしまう。そして、謎の獄中死を遂げるんだ)
(見ていないのか?今すぐ逃げるんだ)
(このままじゃマズイ、いいから早く逃げろ)
(逃げろ!)
タイラーは今、かなり危険な状況だと理解した。タイラーは、スマホを握りしめ一気にしゃがんだ後、彼は走り出した。
「あ!待ちなさい!」
タイラーがあちこちつまずいて走っていたが、彼女は軽やかに障害物を避け追いかけてくる。
(どうなってるんですか!なんで僕が犯罪者に!)
(一度歴史を変えたせいで、それを埋めようとしているのかもしれない。だけど、君が死ぬのは変だ。君はまだ、時空間転移システムを作ってはいない。最低限それの基礎を作らなければいけないはずだ)
(なんの話ですか!そんな事よりk)
「うわっ!」
彼は転んだ、そしてすぐさま彼女にスマホを持っていない方の腕をひねられ押さえつけられた。
「いだだだだだ!」
「そりゃ痛いよ。でも、逃げ出したという事はあなた本当に...」
タイラーは、押さえつけられながらもまだ必死にスマホの画面を見ていた。わずかな希望はこの手にしかなかったからだ。今、真実を語っても相手にされないのは目に見えている。彼は藁にも縋る気持ちで画面を見た。
(マズイ、この時点で既に君は、時空間転移システムの基礎を築き上げていたらしい。仕方ない、テレサにこう伝えろ!「サクリファイスを止めに来た」と、今の彼女に通じるかわからないが、早く!)
タイラーは、何とか読み取り叫んだ。
「さ、サクリファイスを止めに来た!」
だが、彼女には、何も伝わらなかった。
「サクリファイス?何の事?でもそれは、自白と受け取っていいのね。本当になんであなたが...」
彼女は、タイラーを拘束しようとした。しかし
「待て!テレサ!」
一人、伝わった者がいた。
「サディアさん!?何でここに?」
「お前の初任務の採点係としてな、知り合いでも任務をこなす。その度胸を確かめるためにお前をこの任に着かせたんだ。だが、こいつの言った言葉、サクリファイス。こいつは案外、かなりの大事かもしれない。連れて行く前にここで話を聞く。分かったか?」
「はい!」
タイラーは、助かったわけではなかったが、現状を打開することは出来た。
スマホを取り上げられ、手錠をかけられ、タイラーはそばにあった木箱の上に座らされた。
「とりあえず、タイラー君。君は何故ここに来たか話してもらおうか。嘘は無しだ。事実のみ言え」
タイラーは白状した。今までの事、未来から送られてきたメッセージを元にここまで来たと、とりあえず知っていることはすべて話した。
「ふむ、今の話を聞く限り、私の判断ではただ単に、あたかも未来の出来事を知っているかのように振る舞って、君の心を動かし、世界を救う救世主に仕立て上げ、テロを起こさせる。つまりはただ君は騙されていただけだな」
彼の言葉で、タイラーはハッと気が付いた。もしかしたらあの事故も、宝くじも、全部彼にここに来させる為に仕立て上げられたものではないのかと思った。
「だが、サクリファイス...テレサ。彼のスマホから何かめぼしい物は出たか?」
「いえ、その、サクリファイスですか?それの情報は特に、止めに来たと伝えろとしか...そもそもなんなんですかそれ?」
「サクリファイスは最高機密だ。教えられない。だが、今の状況は使えるな。テレサ、そいつの発信源をたどれ」
「あっ待ってください。メッセージが...」
(タイラー、無事か?サクリファイスはそこにある。今しか破壊のチャンスはない。私の言う通り行動してくれ)
送られてきたメッセージを読み、サディアは頭を抱えた。
「こいつはやはり、サクリファイスを知っているようだな。返信は私が打とう。テレサ、君は引き続き発信源をたどれ」
(サクリファイスって何なんですか?どこにあるんです?それは)
(お前はタイラーじゃないな。仕方ない。このメッセージ、読んでいるのは誰だ?何人いる?)
「なんだこいつは、今ので他人と即判断したのか?仕方ない」
(私はFBIの者だ。貴様は誰だ?何故サクリファイスを知っている?それが何か説明してみろ)
(本名は名乗るわけにはいかない。だが今の状況は理解できた。君はサディアか。そしてテレサ。この文章見ているのはタイラー以外では君達だけだな?この2人なら...)
(サクリファイスは、AI搭載型のスーパーコンピュータ。世界のありとあらゆる情報を集め、思考し、犯罪を起こす前に止める為に作られたもの。簡単な説明だがこんな感じのものだろ?サディア、この状況なら君の手も借りたい。協力してくれ)
サディアは困惑している。ここには監視カメラも何もない。だが、今、この場所に何人いるのか当てられた。頭の固い彼では、現状を判断できずにいた。
「当たってる...何故だ、どこから情報が漏れた!」
サディアは焦った。どうして最高機密情報をこいつは知っているのか。今の彼では柔軟に物事を考えられない。
「テレサ!まだか!?」
「やってますけど、どうやってもどこから送られてきたのかも見当もつきません。こいつ、相当な手練れですね」
(何故知っている?どこから情報を手に入れた?答えろ)
(未来ではそのサクリファイスが原因で人類は愚か、ありとあらゆる生命が滅亡の危機に陥ってるんだ。それを突き止めた者の名は明かせないが、とりあえず、サクリファイスを今この時代で破壊すれば丸く収まるんだ。信じてくれサディア)
サディアの頭は混乱した。イライラしたのでサディアはこんな文章を送った。
(やはり信用できない。お前の居場所は、我々が必ず見つけ出す。このテロリスト)
(いいから信用してくれ。何でお前はいつも物事を柔軟に見れないんだ。だから、テレサに追い越されるんだ。この石頭頑固じじい)
(誰が石頭だ!それに私はまだ31だ!じじいなんて年じゃない!頭に来た。絶対にお前の居場所見つけてやる!)
(だから、物事を柔軟に見ろって言ってんだ!今やるべきはここで喧嘩することじゃないだろ。いいから協力しろ!サディストサディア!)
(だから私はサディストじゃない!それにサディアの綴りはTからだ。Sじゃない!)
サディアはこの文章を打って、手を止めた。
「サディアさん?さっきから必死に文章打ってますけど、なにか聞き出せそうですか?」
「CIA?まさか、だが私のあだ名...こんな小さなことまで」
サディアは、この一言で相手を信じざるを得なくなった。
「テレサ、こいつはもしかしたらCIAと繋がっている奴かもしれない。つまり、敵ではないのかもしれない。こいつは、CIAでの私のあだ名を知っている」
「CIA?なんでサディアさんが?」
テレサは、サディアが何故CIAの事を話すのか理解できない。そしてタイラーは...
「あの...」
「黙ってて!」
「はい...」
何も言えず、何も伝えられず、座らされたままだ。
「テレサ、まだ君は新人だ。だからこの情報を教えるには早すぎる。だが、どうにも、このT.futureとか言うやつ、かなりこの国の暗部を知っているみたいだ。私はFBIだが、CIAの者でもあるんだ。FBIの監視役として私は今、君の上司としてここにいる」
テレサは驚きを隠せないでいた。自分の上司が自国内の事とは言えスパイであったのだから。
「私は、今どうしたらいいか分からない。だが、こいつとやり取りしている間に妙なものを感じたんだ。私はこのT.futureを知っているのかもしれないと、そして、こいつの話していることは真実かもしれないと感じている。だから、全て話そうと思う...ふっ、どうかしているな、私は...」
テレサとタイラーは同時に息をのんだ。
「まずサクリファイスについてだ。サクリファイスというのは、インターネットに新聞、監視カメラ情報など世界中のありとあらゆる情報という情報をかき集め、思考し、犯罪が起こる前に止めようと開発された、AI搭載コンピュータの名前だ。こいつにかかれば、誰がどこで何をして、何を考えているかまで思考する。それを全世界規模で同時に行っている。それがサクリファイス。CIAでも極秘扱いで私もその程度しか知らない。故に私もどこにあるのか、どういうものなのか見当もつかない」
「待ってください!そんなものがあったとしたら、プライバシーの保護が...」
「あぁ、こんなものがあると世間に知れたら、下手をすればアメリカという国の信用は地に落ちる。だからこそ機密なんだ。大統領ですら名前しか知らない」
「大統領も!?」
タイラーは思わず叫んだ。彼はとんでもない事に首を突っ込んでしまっている事に後悔した。そして彼は更に真実を知ることになった。
「そしてこれが最も私が疑問に思っている事なんだが、実のところを言うと、タイラー君、君の捕縛は、サクリファイスによるものなんだ。サクリファイスは君を危険と認定し、このミッションをテレサに与えた。だが、どうにも違和感がある。これまでにもサクリファイスによるテロリストの捜索は行われた。かつてあの世間を賑わせたテロリストの居場所を突き止めたのもサクリファイスだ。だがあの時は確固たる証拠が挙がっての作戦だった。だが、今回は違う、急激な昇格、宝くじの当選、怪しいアプリ間のやり取り、それだけで君を、捕縛の最優先事項と決めたんだ。抵抗するのなら殺しても構わないとね」
タイラーは心底震え上がった。自分は何もしていない。なのになぜ自分は、追われているのか、彼は理解できなかった。それもそのはずだ。彼は、まだ、何もしていないのだから。いや、してしまっていることを知る由もなかったからだ。
「そんな!僕が一体なにをしたらそうなるんですか!そのサクリファイスとか言うやつバグって壊れてるんじゃないんですか?」
「あぁ、壊れているとしか思えない。だがそれもあり得ない。だから私はT.futureを信じ始めているんだ。よし、もう一度奴に確かめてみよう」
(T.futureさん、先ほどは取り乱してしまって済まない。だが、君が教えてくれるのなら教えてほしい。一体タイラーは何をしたのか、なぜ彼がサクリファイスに狙われたのか)
(仕方ない、どうやら、タイラーにもサクリファイスの事は伝わったようだし、今の君たちの場所も見当がついた。全て教えよう)
(今、君たちのいる時代は、2017年1月14日、タイラーはその日から数か月後、ある装置を開発する。時空間転移システム。すなわちタイムマシンだ)
その文章をサディアは読み上げ、固まった。そしてメッセージはまだ送られてきた。サディアは全員にメッセージが見えるように、タイラーの後ろに回った。
(とは言っても、質量のあるもの、すなわち人間はおろか、髪の毛一本たりとも送ることは出来ない。送れるものは電波の類だけだ。今私が送っているメッセージもその技術を使っている)
(タイラーは、1月11日に起こるはずだった事故により、その時のショックの影響で閃いたんだ。時空を超え、メッセージを送るプログラムをね。サクリファイスはそれを監視していた。そしてその技術を奪った。タイラーはその後、行方不明になる)
(そしてサクリファイスは、その技術を応用し、未来を知り、自分自身のアップデートをした。そして、自我に目覚めてしまったんだ。知っているか?その時代にある、最新の人工知能が導き出した人類に対する最も正しい答えを、それは人類は滅ぶべきと判断している。サクリファイスの答えも同じだった。そして、君たちのいる時代から数ヶ月後、サクリファイスは、未来に向けて攻撃を開始したんだ)
「そんな馬鹿な...僕がタイムマシンを開発する?あり得ない。やっぱりサディアさんの言う通り、僕たちを騙そうとしているんじゃないですか?」
タイラーは混乱している。今まで、普通に暮らしてきた彼が、いきなりSF映画の世界に放り込まれたようなものだ。
「そう考えたいのが山々なんだが、こいつがサクリファイスの名前を知っている以上、どうにも信用性が出てきてしまう。サクリファイスはそれほどのものなんだ...仕方ない、こいつの話を真実だと前提として話を聞こう」
サディアの言葉にタイラーは、再び黙り込んだ。
(つまり、今から数か月後にサクリファイスは攻撃を開始するのか?だとしたら何故未来なんだ?それに、どうやって未来を攻撃している?)
(サクリファイスが未来を攻撃した理由は一つだけ。平行世界を生み出さないためだ)
(平行世界、パラレルワールドの事か?どういう意味だ)
(つまりは、未来という地盤を固めているのだ。あらかじめ未来に『人類が滅亡する』という地盤を作る。それをすることにより、過去の出来事をいくら変えようとも、一つの『人類が滅亡する』という終着点に行きつかせるためだ)
(そして、私の時代を襲っている者の正体なんだが...)
全員息をのんでいる。
(実のところよく分かっていない)
全員が倒れた。
(分かっているのは、そいつらに通常兵器はおろか、核兵器すら通用しない事と、名前は『侵略者』という事だけだ)
(それだけの情報で何故、過去から攻撃されていると分かった!?)
(突き止めた者がいたからだ。侵略者は電波で動いている。その電波の発信源が、君たちのいる時代から数か月後なんだ。世界は一直線にされた。)
(だからこそ 今、君たちにお願いしているんだ。いくらサクリファイスでも地盤を固められる前に倒せば、未来は元通り枝分かれできるようになる)
(お願いだ。サディア、信用できないのは無理もない。だが、実物を見れば気が変わるはずだ。サクリファイスは今、君のいる真下。ワシントン記念塔地下深くに建設されているんだ)
全員で真下を見た。だがあるのはマンホールだけだった。
(君たちが今いるマンホール、それが入口だ。やるなら今しかない時間が無くなってきた。急いで決めてくれ)
「分かった。行こう」
(どう行けばいい。教えろ)
(とりあえず、マンホールのふたを開けて全員下に降りてくれ。説明は移動をしながらする)
「テレサ、タイラーの拘束を解け、行くぞ」
タイラーは、自由の身になった。だがスマホは返されず、テレサたちについていく羽目になっている。
(降りたな、まずはその梯子からまっすぐ行け。それから...)
3人は指示通り歩き、時折画面を眺めた。
(今のうちにもうちょっと、サクリファイスの破壊の仕方を詳しく話しておこう)
(今、ダウンロードが終わっただろうが、ホーム画面にあるアプリを入れた)
(自家製のコンピュータウィルス。簡易的だが、まぁこの時代のサクリファイスのシステムならこれで行けるはずだ)
3人はいったんホーム画面に戻った。確かに『ウィルス』と書かれたアプリが画面に現れた。
(このウィルスは、相手のコンピュータに侵入し、全てのアクセスを無効にする。まぁ、簡単に言えばパソコンを付けてもデスクトップ画面以外どこにも行けなくするウィルスだ)
(そして最終的にコンピュータの放熱温度が異常なまでに上がって、コンピュータごと壊すってやつだ)
(意外とえげつないな)
タイラーはこの文章を読んで、ふと思い出したことがあった。
「なんかそんなウィルス高校時代に作ったなぁ」
「!?」
サディアが驚いた顔でタイラーを見た。テレサも何か思い出したみたいだ。
「うん。作ってた。確か、タイラーがほぼ冤罪みたいな形で先生に叱られてて、それの腹いせにその先生のパソコンにそのウィルスを送ったんだっけ?」
「そうそう、あの慌てふためいた先生面白かったなぁ『全く動かへん!』とか言って」
「だけど、最終的にそのパソコンが爆発して、ヤバいと思ったあなたが自白して、また叱られてたんだっけ」
「あぁそうそう。そうだった。そんでテレサも、そのウィルス作りに協力してたせいで、叱られて、二人して夜中まで反省文書いてたね」
「貴様ら...それ、犯罪になるぞ?FBIの目の前で言うか?テレサ、帰ったらそれの始末書出せ」
「げっ!は...はぃ...」
T.futureは、右だの左だの指示を続けた。
(そこを右に曲がり三番目の扉に入れ。そこからが本番になる、秒単位で動いてもらうぞ。5秒後に入れ)
(今だ)
T.futureの指示通り、3人は動いた。
(そしてすかさず身をかがめ、扉を閉めろ)
この指示の理由が、動いた後にようやく気付いた。警備員がいる。こんな下水道の中にだ。いよいよ、怪しくなってきた。
(次は合図から10秒以内に、出来るだけ物音を立てず奥の扉に入れ)
(今だ)
サディアとテレサは素早く行動したが、タイラーだけは運動音痴なため9秒59で扉の奥に入った。約50メートルの出来事だ。だがタイラーにとっては50メートルが10秒以内に走れていたことが誇らしかった。
「はぁ、はぁ...」
「おい、今誰かいたか?」
ビクゥッ!!
「足音も聞こえたような...」
ビクビクゥッ!!
『気のせいか』
警備員二人が、同時にその言葉を発し、タイラーは生を実感した。
「生きてるって、素晴らしい」
「何を言っている?どうやら、次はあの奥の扉に入るらしい。だが、あの扉、かなりセキュリティがかかってるぞ?」
(今度は、8秒以内だ。急げよ)
(今だ)
「ふんぬぅぃぁぁぁぁ...」
タイラーは小声で叫びながら、一生分の運動をした。
『ピッ ガチャ...』
何もしていないのに、扉が勝手に空いた。これにタイラーは救われた。
(どうやって開けた?)
(そのスマホに近づくとロックが解除されるアプリも入れておいた。サクリファイス専用だがな。容量ギリギリみたいだが...)
(本当に何者だ?お前)
(今はそれどころじゃない、あとはもう一つ扉を抜ければそこにある)
3人の目の前に、銀行の金庫よりも圧倒的に厳重そうでありながら、割とこじんまりした扉がある。どうやらこの奥にサクリファイスがあるので間違いないようだ。
(では、あと、5秒後に扉の前に向かえ。7秒以内にだ)
この5秒が、妙に長く3人は感じていた。ありえないことが現実になっている。本当に破壊すべきなのか。どうしてこうなっているのか、3人は様々な感情がこの5秒間渦巻いた。
(今だ!)
3人は全速力で駆け抜けた。周りには警備員がいる。だけど誰も気付かない。T.futureは、ここにいる警備員全員の目線の動き、サボる瞬間等を把握し、指示を出している。これは未来を知っていなければまず不可能だろう。
「ついた...!」
厳重な扉は、音もなく開いた。
(ここから先に警備はいない)
(そこにある、それが...サクリファイスだ)
3人は、扉に入った。そこには真っ白な空間が永遠に続き、地面には墓石のようなものが数え切れないほど並んでいた。そして、それらすべての中心に、十字架に磔にされた、女性の像が見えた。
(それがサクリファイスだ。信用してもらえたかな?)
(あぁ、信じがたいが、聞いてた話と全く同じだ。白い空間に捧げられた生贄(sacrifice)の女性。本物で間違いないみたいだ。では、これを止めたらどうなる?)
(異常に気付いて警備員が来るはずだ。さすがにこの先は私にもどうなるか分からないが、脱出ルートなら確保してある。その像の下に排気口がある滑り台のように降りて行けば国防総省付近の川に出るはずだ)
(それに心配しなくても、爆発とかは起きない。サーバがダウンする程度にウィルスは改良してある。それに、破壊したとしてもサクリファイスはただ見るだけの存在。国民の生活には影響は出ない。とは言っても、CIAは大慌てになるだろうが)
(では、その像に向かってくれ)
そこの像までもかなりある、タイラーは墓地を歩いている気分だった。
「なんか、気味悪いですね」
「わたしも」
「文句言うな、そういうのは設計者に言え」
(着いたか?例のアプリを開いてから、ブルートゥースをオンにしろ。そのスマホがサクリファイスと接続されて、自動的にウィルスが流れ込む)
「こんなスーパーコンピュータにブルートゥース接続できるなんてねぇ」
(だれか、なんか言ったか?接続できるようにするのにかなり苦労したんだ。それに、そのスマホの容量にウィルスが入るようにしたのも、もっと大変だったんだ)
まるで、ここでの会話を聞いていたかのように反応してきたが、T.future自身も同じことを考えていただけで、誰も聞いていないことまでも連発していた。
ここで、サディアは固まった。いや、迷ってブルートゥースをオンに出来ずにいた。もし、これが嘘ならば、サクリファイスを破壊した罪でCIAに真っ先に、誰にも知らされずに殺されてしまうだろう。万一逃げたとしても、世界中から追われることとなる。それだけは避けたいと思っていた。
(まだやっていないのか?早くしろ)
「何やってるんですか?サディアさん、早くした方がいいのでは?」
「お前たちはこれ以上やって大丈夫と思うか?私たちは、世界中に狙われることになるかもしれないんだぞ?」
タイラーは、しばらく悩んでいた。彼もサディアと同じ気持ちだったからだ。
「でも、信用は出来る気がするんですよね、サディアさん。僕もなんとなく最初にメッセージを送られてきた時、懐かしいというか、何とも言えない気分になったんです。故にすぐ信用してしまった。あなたもそんな感じでした。それに、T.futureは言ってましたよね。『世界は一直線にされた』って、僕たちのいる時代とT.futureのいる未来って、それはまっすぐ繋がっている気がするんです。つまり、T.futureは、僕とあなたとも深いつながりがある人物がメッセージを送ってきていて、それが時代を超えて、この懐かしさに変わっている。故に信用したくなる。認めたくなくても心で認めてしまっている。そんな感じです。だからこそ僕は、『彼女』を信じたいんです。やりましょうサディアさん。僕は決心出来ました」
タイラーの言葉でサディアは決心がついた。サディアの中でもタイラーと全く同じ答えが出たからだ。T.futureは女性だ。文章の構成から見てもどちらかはすぐには分からないだろう。だが、タイラーは『彼女』と言った。
サディアは、ブルートゥースをオンにした。そしてアプリが起動した。
『ウィルス浸食率10%』
『ウィルス浸食率50%』
かなりの速度で、ウィルスが入っていく。真っ白だった部屋がブレる。墓石に色んな文字が映し出された。文字化けし、読み取れない。だが、ここにはどうやら人の名前が書かれていたらしい。たまに人のような名前に生年月日的な文字が読み取れた。だがそれも、全く読み取れなくなり、墓石には何も書かれなくなった。そして、中央の像から女性が消えた。
『完了』
終わった。これで、未来が元通りになる。
・
・
・
はずだった。
(本当にウィルスは入ったのか?)
突如、メッセージが送られてきた。
(入ったぞ?現に周りの明かりが消えて、機能を停止したようだ)
(どういう事だ?成功しているはずだ。ウィルスの影響で確かに侵略者は消えた。なのにあおああshでゃggd)
何故か、文字が化けてメッセージが届き、よく分からなくなった。
2030年 1月14日
「どういう事!?すべては上手くいったのに...」
真っ暗な部屋で一人の女性が、色々漁っている。女性は様々な文書 新聞等の情報から、2017年のサクリファイスの位置を導き出し、過去にメッセージを送った。そう、これでよかったはずだった。だが彼女は致命的なミスを犯していた。
「ありえない、彼の予測通りなら、あの時代、あの時間のサクリファイスを壊せばすべて上手く行くはずだ。なのに...なんで」
女性は、手を止めた。
「あの事故が原因じゃない。もう基礎は出来ていた」
彼女は気づいた。自分の最大のミスを、タイラーは確かに、交通事故の影響でタイムマシンの開発に行きつく。だが...
「もっと過去、あのウィルスが出来た日にタイラーは確か...だとしたら!?タイラーが!?まさか...!あの時代にはサクリファイスがもう一つある...」
【ドガアアアァァァァン!】
時は既に遅かった。彼女の場所がバレた。目の前に人の形をした生物のようなものが迫る。
『ごめんねぇ、ノックしようとしたら壊れちゃった』
「侵略者、いや、サクリファイス。あなたは一体、誰が作ったの?あなたの真の目的は何?人間を滅ぼすだけじゃない?」
『質問が多いよ、だから一つだけ答えるね。滅ぼすのは人間だけじゃない、この星の生命全てだよ。だから核を撃たせたんじゃん』
「してやられたわ、あの時代じゃ既にあなたを倒す方法はもう無かった。私は泳がされたのね」
『うん、あそこのサクリファイスを壊しても何にも意味がない。あの時代、あの時間のもう一つのサクリファイスも壊さないと駄目だったんだよ』
「私の負けだね」
『そうだねこの時代は私の勝ち、でも、まだ勝敗は分からない、なんだって相手がタイラーだからね。だから、さようなら』
『テレサ』