009
走る、走る。
息が切れて、苦しい。
普段あまり走らないから、こういう時の運動不足が祟るな。
背中にはゴブリン、明らかに敵対的な相手だ。
人間の声ではない甲高い声を上げて、僕に容赦なく襲いかかってきた。
「はあっ、はあっ。なんで襲って来るんだ?」
「ゴブリンは、人間に集落を襲われた恨みがある。だから今でも逆恨みで人間を襲うのじゃ」
「僕は襲っていないっ!」叫びながら走った。
背中にいるゴブリンが、鋭利な刃の長いナイフを振りかざす。
「やばっ!」
走りながらも、僕は背中に恐怖を感じていた。
迫り来るゴブリンの目が血走っていた。
最弱モンスターのゴブリンが、こんなに強いとは思わなかった。
「なんとかならないのか?」
「今は無理じゃろ、とにかく走るのじゃ」
「走るって言ったってどこに?」
見渡す限りの草原、周りには建物らしきものがない。
建物がなければ、逃げる場所もない。
草原の中を必死に足を動かしながら、僕は迫り来るゴブリンから逃げていた。
「こういうのって大体、あるよな。急に覚醒したり、変身したり、魔法使えるようになったり」
「お主は自分が一般人なら異世界に来た瞬間、特殊能力に目覚めるとか思っているのか?」
「違うの?」
「違うに決まっておろう、世の中はそんなに甘くないのじゃ」
「マジかっ!」僕が叫んだ瞬間、背中に居たゴブリンがナイフを突き刺した。
ギリギリ僕は回避したが、シャツを切り裂いていた。
「やばっ!」
そして恐怖のあまりに、足がもつれてしまう。
前につんのめった僕は、草原を激しく転倒。
「クソッ!」僕は慌てて受け身を取るが、下手な受け身で右腕を強打した。
草原をゴロゴロと転がっていく。
「ギギッ!」
奇声をあげながら僕に向かって、飛びかかるゴブリン。
ナイフを持って、普通の人間よりも高い跳躍力で飛びかかってきた。
(これは夢……だよな)
僕は半ば諦めにも似た虚ろな目で、ゴブリンを見ていた。
そして、次の瞬間僕の顔は血で染まった。