007
美幸との飲み会はサークルの飲み会の比じゃない。
美幸は完全に酒に強い体質だ、どんどん僕に酒を進めてきた。
これはかなりの酒豪だぞ、美幸は。既に缶ビール七本も開けていた。
僕はぐったりしながら机に伏せていた。なんだかすごく気持ち悪い。
「いいじゃん、いいじゃん、ほら飲みが足りないよ」
「美幸、強いな」
「そんなことないって、浩生が単に弱いんだよ」
少しテンションが高いが、目はしっかりしている。
「そんなことある、美幸って酒豪スキルあるんだな」
「ねー、つまんないんだけど」
「ああっ、頭がガンガンする」
僕は気持ちわるいのをこらえながら、机に頭をつけて横になっていた。
美幸は八本目の缶ビールに手を伸ばす。
「あたしが二十歳なら、もう八年になるのか」
「そうだな、長いな。一生懸命生きてきて、八年か」
「浩生、忘れていたでしょ」
「忘れられるわけないだろ、あいつのことは」
顔を上げて、胸が痛くなる。八年前のことは十月二日、この日以外はタブーにしてきた言葉だ。
それは一つの罪であり、僕らの責任でもある。
「そう?そういうふうには見えないわ」
「絶対に忘れていない、忘れないことが免罪符だ」
僕は苦い表情を見せていた。胸にわだかまるムカムカもあるが、それ以上に辛さもあった。
その過去は、僕と美幸の間に残る忌々しき歴史。
幼なじみになった悲しい歴史。
「忘れていないならいいわ、あたしが代わりに埋めてあげられればいいのだけど……」
「できねえよ!」僕は激しく否定した。
僕の目は美幸を睨んでいた。
「そうよね、ごめんなさい」美幸は取り繕う笑顔を見せた。
「お前は毎年、同じ反応だな」
「だよね、あたしは今も成長していないね」
「……悪い」
「いいのよ、こうやって話ができるのもヒロだけだし」
美幸は、缶ビールを一気に飲み干していた。そんな美幸が急に僕にスマホを見せた。
「まあ、いいけど。ねえ、今日ネット見たら、面白い動画見つけたけど」
明るい表情に変えて、僕に見せてくる。人気ユーチューバーの謎の画像だ。
彼女なりの気遣いだろうか、この空気の重さに耐えられないから空気を変えようとしていた。
それは見たことある画像で、あまり面白くないが。そんな僕はスマホ画面の時計に目を奪われる。
「ああっ、時間だ!」
そういながら僕は胸焼けする中、ポケットに入れたスマホを取り出す。
『騎士団戦』の時間だ。しかも既に出遅れている。
「なによ?」
「ごめん、ちょっとトイレ」
「またぁゲーム?このテンションで、最低なんですけど」
さも嫌そうな顔を見せた美幸。
だけど、僕はそのままそそくさと部屋を出ていった。
そして、シェアハウスのトイレに駆け込んでいく。
トイレは、小さな個室。
僕はスマホでこの部屋に来ていた。
本当なら下のフロアにある自分の部屋に帰るところだが。
少し頭がくらくらする中でスマホの電源を入れると、さっきと同じ『YES』と『NO』のボタンが大きく見えた。
(なんだこれ……)取りあえず深く考えずに『YES』のボタンを押した。
いや、押してしまったのだ。
すると、「ありがとう」女の子の声が聞こえた。
「え?」スマホから聞こえる声に、僕は周囲を見回す。
それから酔いが回った僕は、急に激しい眠気が襲ってきた。
すぐに僕の目の前が真っ暗になった。