003
大宮の市街地に、僕がいつも働いているバイト先があった。
それはどこにでもあるファミレス、僕はここにいた。
授業が午前に終わると、大体決まってここにいる。
「浩生、今度は野菜の仕込み」
「はい、わかりました」
厨房を預かるベテランの料理長の出す指示にそって野菜を刻む。
慣れた手つきで包丁を扱っていた。
「浩生は、料理が手馴れているな」
「はい、昔から料理していましたから」
「なるほど、それにしても見事だ」
料理長が、じっと僕の手際を見ていた。僕は構わずサラダの盛りつけを完成させた。
「浩生は奨学金で、学生しているんだよな」
「親の反対を押し切って、埼玉きているから」
「なにか事情が訳ありか?」
「いや、何もないですよ」
「でも国は新潟だろ」
「ええ、そうです」
口を動かしながらも、僕は肉を焼き始めた。
埼玉だと、新潟の人間は珍しいのか。
「大学だって地元に行けばいいはずだが」
「高校卒業した時から、魚沼を出るって決めていたんです。アイツと一緒に、小学校から」
「彼女か?」
「まあ、そんなところですね」
僕は喋り好きの料理長が、僕につきっきりだ。
最近、僕をいじるのが好きだということを知った。絡みずきのおっさんだ。
「彼女は料理ができるのか、バイトは?」
「しているみたいですよ、たしかコンビニ」
「それは残念だ、可愛いのか?」
「普通ですよ。あとはオムライスをつくればいいですね?」
僕は淡々と仕事を続ける。
「ああ、そうだな。それも頼む」
「わかりました」淡々と僕は仕事を続けた。
ちらりと時計を見ながら、仕事を進める。
「今日は客が少ないからな」
「そうですか、これでいいですか?」適当に相槌を入れた。
相槌を入れながらもオムライスを完成させた。
「おお、優秀だ。浩生の手際は本当にいいな。今のバイトの中では貴重だよ」
「ハンバークもなんでも出来ますよ、任せてください」
「いうな、こいつ。なら今度は……」
料理長が新しい仕事を与えた。だけど、僕はじっと時計を見ていた。
「では、三時だから十分間、休憩いいですか?」
「おお、じゃあこの仕込みを……」
「悪いですが、その前に休憩をとりますよ」
僕はそう言いながら、時間きっちりで休憩をとった。
それを見て、料理長が腕を組んで睨んでいるのが見えた。