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あれから三十分後、鐘が鳴って教室を出た。いや、そのまま校舎を出た。
ここは埼玉のとある大学。僕は今、大学のキャンパス内を歩いている。
そして、僕はそこに通う大学二年生『鈴木 浩生』という大学生だ。
半袖シャツにジーンズというラフな格好で、左手にリュックを背負い、右手で持っていたスマホを見ていた。
衣替えを終えた十月のこの季節、学校の庭の木々も赤く色づいていた。
教室を出て、中庭を歩く。今はちょうどお昼の時間だ。
「また、浩生はゲーム?」
僕の隣には、一人の女がいた。
長袖のカーディガンをまとったポニーテールの女。
彼女の名は、『神崎 美幸』。同じ大学で、同じ学科の同級生だ。
ただ、それだけの関係ではないのだが。
「僕がゲーム好きなの、知っているだろ」
「ふーん、まあいいけど」
「まあな」
美幸の方を振り返らずに、スマホをいじっていた。
僕の目の前の画面は、ゲーム画面だ。
「よく飽きないわね」
「飽きているよ」僕はスマホを見ながらすぐに答えた。
「飽きているなら……」
「まあ、ライフワークの一つみたいなものかな。
ほら人間って、メシ食ったら歯を磨くだろ、風呂も一日一回入るだろ。それと同じ」
「それがスマホのゲームとどう違うのよ?」
「一応これ、『ユーベル ファンタジア』だし。中学からやっている」
僕が今やっているのは『ユーベル ファンタジア』というゲーム。
王道ファンタジーRPGの触れ込みで人気のゲーム。
元は十年以上前に流行った携帯ゲームソフト『ユーベル ワールド』が、スマホ版に進化している。
プレイヤーは騎士団を率いて、ファンタジー世界ユーベルを冒険する。
スタミナを消費して、シナリオを進める一般的なスマホゲーム。
「『ユーベル ファンタジア』は、昔から続いているわね。
課金必要だし、あたしはとっくに飽きたわよ。
『ユーベル ワールド』はやっていたけど、これはパスね。浩生はいくら課金しているの?」
「僕は課金してないよ。スマホゲームって課金者よりも無課金者を多く残ったほうが長寿だから。
とにかく、昼間の『騎士団戦』は外せないんだって。
長く続けているから、ギルド仲間にも迷惑かかるからね。
どうしても、スタミナを消費したいから」
僕は美幸の隣を歩きながら、スマホをずっと見ていた。
「ねえ、浩生」
「なんだ?」
「今日はわかっているでしょ」
「おし、勝利」
スマホ画面では、『騎士団戦』勝利の文字が踊った。
「なによ、ゲームばっかりで。忘れているんじゃないでしょうね」
「忘れていないよ、サークルの集まり。バイト終わり六時だから、七時に駅前のいつもの居酒屋だろ」
「そうじゃなくて!もういい……大事な日なんだから!」
最後に隣の美幸が、ふてくされた顔を見せていた。