その三
「──聞け、みなの者」
聖巫女が凛と声を張り上げる。
「妾は、ここに、中立国としての立場を翻すことを宣言する。聖巫女の名において、アルトランディア国に加勢するぞ」
そう宣言したとたん、謁見の間が、蜂の巣を突いたような大騒ぎとなった。
それは長い歴史において、あり得ないことであった。
「お、恐れながら聖巫女様。お考えをお改めくださいませっ」
「中立国として平穏を保ってきた我が国を血なまぐさい戦いに参戦させる気ですか!」
「正気の沙汰ではございませぬ」
「近隣諸国にどう申し開きをしたらよいのか……」
あわてふためく重臣たち。
その顔色は真っ青で、わずかに腰を浮かした状態で硬直していた。どう対応すればよいのかもわかっていない様子であった。
悲鳴をあげる彼らに、しかし、聖巫女は鼻先で笑うだけだ。
「中立国など……バカバカしい。よいか、もとよりバーラントが中立を保ってきたのは、近隣諸国に狙われることを危惧したものでも、聖巫女の力が悪用されることを憂えてのことでもない。密やかに伝統を受け継ぐこの国を野蛮な者たちに踏み荒らされたくなかったからだ。天神に守られたこの国を、歴代の聖巫女たちはだれよりも愛し、大切に守ってきた。おかげで周辺の諍いに巻き込まれることなく、平穏に過ごすことができた」
けれど、と聖巫女が続けた。
「十七年前。次期聖巫女を喪い、妾はこの国も命運もこれまでかと思っていたのじゃ。ティーン以来、次期聖巫女の証を持った者は生まれず、そなたたちも先を憂えていたのではないか?」
聖巫女がいなければ、この国は成り立たない。
そう暗に含めて聞かせる聖巫女に、騒いでいた重臣たちがいちように押し黙った。
先ほどとは違って神妙な面持ちなのは、この国を聖巫女とともに支える彼らがだれよりもそのことを痛感しているからだろう。
「だが、それももう終いじゃ。天神が遣わしてくださったのじゃ、次期聖巫女を。──ティーンの娘ユリアこそ、この国の救世主となろう」
聖巫女がそう告げると、水を打ったようにしんっとなった空間が、次の瞬間、大歓声で沸いた。
「次期聖巫女の願いを受け、妾はアルトランディア国に加護を与える。依存はないな?」
聖巫女の問いかけに、重臣たちは居住まいを正すと、一斉に首肯した。




