表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

 死ぬときは笑ってやる。そう決めていた。

 空に輝く太陽を見ながら、彼は笑っていた。

 声は出さず、涙も流さず。

 ただただ、笑っていたのだ。


「なぜ」


 彼に問いかける男がいた。

 先ほどまで、彼と戦っていた男だった。


「わからないことが多くあります。これだけ戦いながら、貴方のことを、私は何一つ知らずにいた」


 男はそう言った。

 自分と男は敵である。そうであるならば、相手の事情を知ることなど不要だろう。

 こうなることは因果であった。出会ったときから、定られていたことだった。

 男が見下ろす。太陽が陰った。


「けれども、一番わからないのは今です。どうして、死してなお、笑うのですか」


 ああ、それこそが。俺の見たかった顔だ。

 彼はほくそ笑んだ。

 これが笑わずにいられようか。

 自分が走り抜けた生を振り返りながら……カルナは思った。




   *   *   *




 カルナの幼い頃は貧しさとともにあった。

 貧しく低い階級のヴァイシャである御者の子として育てられたカルナは、しかし自分が実の子ではないことを知っていた。

 己の肉と同一化している黄金の鎧と耳飾り。太陽と同等の輝きを持つこれらこそが、己が太陽神スーリヤの子であることの証明であった。

 カルナはスーリヤと養父の二人の父を持ち、母に育てられた。この母もまた生みの母ではないのはわかっていたが、自分を育てたことについて深い感謝をおぼえていた。

 そして、カルナは自身の生を恥ずかしく思っていなかった。

 貧しさとともにあったカルナは、自分が多くのものを持っていることを知っているのである。

 生みの親ではないが、自分を育ててくれた養父母と、いつも天から自分を照らす父がいること。己を不死身たらしめている黄金の鎧があること。そして古今無双の武の才があること。

 これだけで、十分に幸せであった。そして、彼らに恥じぬように努め続けた。己の敗北はすなわち、己を生み育てた者の敗北である。彼らに恥じをかかせることはしたくなかった。

 多くの王族に混じり、当代一の武芸者に武芸を習っていたが、それ以上は求めなかった。

 師はクル国の王、パーンドゥの子である五人の王子を優遇していた。カルナは彼らに対抗し、己の武を磨き続けた。己が最も才を持っていた弓を始めとし、剣に槍、棒術、拳法、馬車の術までもを人並み以上にこなした。

 それでも師は見向きもしなかった。が、それも仕方のないことだろうとカルナは割り切っている。ヴァイシャの生まれであるカルナは、王族であるクシャトリヤの生まれであるパーンドゥ五王子と比べるまでもなく劣っているのだから。

 かと言って対抗心が消えたわけでもなく、武芸に励み続けた。

 そしてカルナにとって、運命の日がやってくることとなる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ