暁
死ぬときは笑ってやる。そう決めていた。
空に輝く太陽を見ながら、彼は笑っていた。
声は出さず、涙も流さず。
ただただ、笑っていたのだ。
「なぜ」
彼に問いかける男がいた。
先ほどまで、彼と戦っていた男だった。
「わからないことが多くあります。これだけ戦いながら、貴方のことを、私は何一つ知らずにいた」
男はそう言った。
自分と男は敵である。そうであるならば、相手の事情を知ることなど不要だろう。
こうなることは因果であった。出会ったときから、定られていたことだった。
男が見下ろす。太陽が陰った。
「けれども、一番わからないのは今です。どうして、死してなお、笑うのですか」
ああ、それこそが。俺の見たかった顔だ。
彼はほくそ笑んだ。
これが笑わずにいられようか。
自分が走り抜けた生を振り返りながら……カルナは思った。
* * *
カルナの幼い頃は貧しさとともにあった。
貧しく低い階級のヴァイシャである御者の子として育てられたカルナは、しかし自分が実の子ではないことを知っていた。
己の肉と同一化している黄金の鎧と耳飾り。太陽と同等の輝きを持つこれらこそが、己が太陽神スーリヤの子であることの証明であった。
カルナはスーリヤと養父の二人の父を持ち、母に育てられた。この母もまた生みの母ではないのはわかっていたが、自分を育てたことについて深い感謝をおぼえていた。
そして、カルナは自身の生を恥ずかしく思っていなかった。
貧しさとともにあったカルナは、自分が多くのものを持っていることを知っているのである。
生みの親ではないが、自分を育ててくれた養父母と、いつも天から自分を照らす父がいること。己を不死身たらしめている黄金の鎧があること。そして古今無双の武の才があること。
これだけで、十分に幸せであった。そして、彼らに恥じぬように努め続けた。己の敗北はすなわち、己を生み育てた者の敗北である。彼らに恥じをかかせることはしたくなかった。
多くの王族に混じり、当代一の武芸者に武芸を習っていたが、それ以上は求めなかった。
師はクル国の王、パーンドゥの子である五人の王子を優遇していた。カルナは彼らに対抗し、己の武を磨き続けた。己が最も才を持っていた弓を始めとし、剣に槍、棒術、拳法、馬車の術までもを人並み以上にこなした。
それでも師は見向きもしなかった。が、それも仕方のないことだろうとカルナは割り切っている。ヴァイシャの生まれであるカルナは、王族であるクシャトリヤの生まれであるパーンドゥ五王子と比べるまでもなく劣っているのだから。
かと言って対抗心が消えたわけでもなく、武芸に励み続けた。
そしてカルナにとって、運命の日がやってくることとなる。