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昔の写真は恥ずかしい〜京都帰省編2~

 佐藤家は今、京都の誠一の実家に来ている。


 愛犬のバトラッシュも、ワゴン車の後部座席の荷物置き場に載せられて連れて来られた。


 誠一の実家は昔ながらの町家で、小さな中庭があり、バトラッシュはそこに繋がれた。


 ノブ夫と一子は、いつも2階の空いた和室に寝泊まりしている。両親は1階だ。


 彼らの祖父母は土産物店を営んでいたが、高齢の為、昨年店を畳んだばかりだ。荷物の整理がまだ終わっていないのか、どの空き部屋もかなり散らかっている。


「なかなか片付かへんですまんなぁ」


「いいよ、おばあちゃん」


 一子は本やら置物やらを丁寧にダンボールに仕舞いながら、祖母に笑いかけた。


「ホンマいっちゃんには、手伝うてもろてばかりやな。せやけど、えらい助かってるんえ。歳取るとホンマ動かれへんさかいな。いつもおおきに」


 祖母も人懐っこい笑みを浮かべた。

 一子がせっせと働く一方、ノブ夫は畳の上に寝そべり、スマホをいじっている。


「お兄ちゃん、ちょっとは手伝ってよ」


 一子がイライラした様子で言うものの、ノブ夫は動こうとしない。


「今、忙しいから無理〜」


「遊んでんじゃん」


「ダチとメールだよ」


「はぁ?ふざけんな」


「だって急に隼人からメールが。あのヤロー、今、北海道行ってんだってよ。いいよなぁ。あっちは涼しいかな。函館とか札幌とか、すげえんだろうな」


「こっちも立派な観光地でしょ」


「毎年来てりゃ飽きるだろ」


「うるさい!観光しないなら手伝いなさい!」


 そう言って一子はノブ夫の耳を強引に引っ張った。ペンチで。


「イタタタタッ!! ちぎれるちぎれる!」


「こっちの箱、テープ貼ったら運ぶ!押入れまで!」


 ノブ夫は大きなダンボールを見下ろした。中には分厚い本のようなものが何冊も入っている。


「うへぇ、重そうだな。何これアルバム?」


「せや、あんたらや誠一がちっさい時のアルバムやろな。懐かしいわ〜」


 祖母は笑顔を綻ばせて、アルバムをダンボールから取り出し、めくり始めた。


「あ〜これ、思い出に浸っちゃって片付かないパターンだな」


 ノブ夫が一子に耳打ちする。しかし、一子も祖母同様にアルバムをめくり始めた。ノブ夫は裏切られた気分になる。


「い、一子ォ…!お前もか!」


「私は休憩。ちょっと興味あったんだ」


 一子が観ているアルバムには、お腹の大きい母や、生後すぐの兄の写真があった。


「うわぁ、お兄ちゃん猿みたい。仔猿!」


 一子はクスクス笑う。横から祖母が覗いて、これまたよく似た表情で笑う。


「生まれてすぐは皆こうやねぇ。やっぱ親戚やねぇ」


「やめろよ」


 ノブ夫はばつの悪そうな顔をする。


「でも、可愛いじゃん」


「せや、それにな、ノブちゃんはホンマええ子なんやで。

 予定日ピッタリでお医者さんビックリしてはったしな、先に分娩室入っとったのに時間かかっとる他の妊婦さん差し置いて、ポーン!て、すぐ生まれたしな。律子さん、お産で(なご)う苦しまんで済んだて笑ってたわ。

 夜泣きもほとんどせんやったし、ホンマ親孝行な子やったわ」


 祖母の話に、兄妹はいつしか聞き入っていた。ノブ夫は耳まで赤くなった。


「お兄ちゃん、昔は律儀でいい子だったんだ。なのに、なんで今は遅刻ばっかなんでしょー?」


「うっさいな。覚えてもないことと比べられたってしょーがねーじゃん。そう言う一子は、どーなんだよ。おしゃぶりくわえてる時から優等生だったんですかぁ〜?」


「はぁ?私だって覚えてないよ」


「いっちゃんは、予定日よりちいと早かったな。物覚えがようて、ハイハイせんとすぐ歩いたわ。それに、(はよ)うにしゃべるようなったし、お絵描きや本読みも早かったわ。あ、そういえば、壁や服にまでクレヨンで落書きしよったなぁ」


「えっ!そうだったの!?」


 一子は顔を歪ませた。幼児期とはいえ、彼女には黒歴史だ。


「へぇ〜、一子はんもなかなかやんちゃしよったんどすなぁ!」


 ノブ夫がニヤニヤしながら、わざとらしい京言葉で言ってくる。今度は一子の顔が赤くなる。

 しかし、祖母がニコニコしながら、


「ノブちゃんには、おむつ替える時、顔にお小水かけられたわ。あれは珍しやんちゃやったな」


 と言うと、途端にまたノブ夫が赤くなった。どっこいどっこいである。


「こっちは、誠一のやで」


 祖母が、持っているアルバムを二人に見せた。


 そこには、少年時代の父の写真が並んでいた。野球や虫取りなどしている。


「わっ、スゴイ!お父さんの若い頃って、お兄ちゃんそっくりだね!写真の中にお兄ちゃんがいるみたい!」


「ホントだ…合成みたいだ…父さん、俺に似てんだな…いや、俺が父さんに似てんのか…ここまで来ると気持ち悪いなぁ」


 二人とも大いに驚き、改めて親子の遺伝子の強さを実感した。


「蛙の子は蛙やねぇ。今のノブちゃんと同じの歳の頃はもっと似とるのよ」


 そう言って祖母がアルバムのページをめくると、二人の顔は硬直した。


「何、コレ……?」


「あん頃は誠一もやんちゃやったねぇ」


 その写真には、高校時代の若き父の姿があった。


 高校時代というより、戦国時代か。


 そこには、何処かの観光地らしき城の前で、武将の甲冑に身を包み、同じく武者姿の友人達と斬り合いのようなポーズを取っている父の姿があった。


「いや、やんちゃっていうか、何やってんのこの人ォオォォォォーーーーーッ!!!!??」


父は、昔から筋金入りの武将オタクだった。


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