しりとりやろーぜ!〜京都帰省編~
ジリジリと照りつける太陽。けたたましい蝉。溶けるアイス。
中間や期末試験を乗り越え、気づいたら夏休みになっていた。
佐藤家では、夏休みは京都の誠一の実家に帰省する。新幹線代がかかるので、彼らはいつも車で6時間もの距離を走っている。
「正月以来だったかな、お義父さんとお義母さんにお会いするの」
クーラーをガンガンに効かせた車中、運転中の誠一に、助手席に座る妻の律子が話しかける。誠一は少し考えた。
「いや、今年はまだ帰ってないから、一年ぶりじゃないか?」
「そっか、昨年と勘違いしてた」
「熱中症が流行ってるけど、大丈夫かなぁ」
「昨日電話したら、元気そうだったよ」
そんなやりとりをしている後ろで、ノブ夫と一子は、仲良くDSで対戦ゲームをし遊んでいた。
「また負けた。お兄ちゃん本当強いなぁ」
「ゲームにおいて、俺の右に出る者はいない…」
「イヤ、カッコつけてもカッコ悪いだけだから。お兄ちゃん強いのゲームだけだから」
「んな悲しいこと言うな!お兄ちゃんだってな、やるときゃやるんですよ!なんなら、今からしりとりやろーぜ!DS 飽きたし!」
そう言ってノブ夫はDS を置いて、ブルース・リーのような構えをして見せた。
「え〜?しりとり〜?小学生じゃあるまいし」
「おお、そういや小学生の時以来だな。久しぶりにやろーぜ、妹よ。しりとり…リンゴ!」
「問答無用かい!えーと、ゴリラ」
呆れながらも、一子は答える。
「ラ…ラッパ!」
「パラソル」
「ルンバ!」
「バーベル」
「ルビー!」
「ビール」
「ル…あれ?また、ル?ルアー!!」
「アール」
「ルーマニア!!」
「アーガイル」
「ぐあっ!! また…!まさかの『ル』攻め…!」
ノブ夫は頭を抱えた。
「えーっと、えーっと…ル…ル…ル〜ッ…!」
「『ル』で始まるのいっぱいありそうだけどなぁ」
「え、ある?何?」
「ほら、音楽家の」
「なんか聞いたことあんぞ!……ル…んーと……あっ、そーだ!ルートビッヒ・ヴァン・ベートーベン!! …あっ!?」
「はい、『ン』で終わり〜」
一子が手を叩いて言うと、ノブ夫は歯を食い縛った。
「おのれ〜ッ!おぬし、謀りおったな…!!」
無意識に時代劇口調になっている。父親の遺伝子のせいらしい。
「言う前に気付こうよ」
「今一度、頼も〜ッ!」
「ええ〜、またやるの?」
一子がげんなりするも、ノブ夫はお構いなしだ。
「しりとり…リス!」
「スイカ」
「カラス!」
「スルメ」
「メダカ!」
二人の接戦はしばらく続いた。前の席では、楽しそうに両親が二人のしりとりを聞いている。
普通なら、しりとりは続けば続くほど、頭に浮かぶ単語が次第に少なくなっていくものだが、一子の答える単語はそれに反比例して、どんどん複雑で多様になっていった。
ノブ夫が苦しげに一考してから答えるのに対し、一子は一向に勢いを止めることなく淡々と答えていく。
「ノイシュヴァンシュタイン城」
「なっ…!? じょう…じょ…じょ…ジョギング!」
「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」
「なんでそんな長いのが出んだよ…!」
ノブ夫は一子の知識量に困惑するばかりである。
「く、く…クジャク!」
「公事方御定書」
「!? えっ…と、き、き……気象衛生!!」
「イカ」
一子が言った途端、律子が盛大に吹き出した。
「お母さん…?」
一子もノブ夫もきょとんとして、前の席の律子を見ている。律子は腹を抱え身をよじりながら笑い転げていた。
「なんで笑ってんの…?」
「ひゃはははッ…!! だってだって、『公事方御定書』なんて、普通出ないでしょ!それに…『気象衛生』ときて『イカ』って……あぁ、可笑しい!」
二人のしりとりは、両親のツボに入ったらしい。心なしか、隣で運転する誠一も笑いを堪えているように見える。
「イカの次…ほら、『カ』だよ!」
少し頬を染めた一子はしりとりの続きを促すが、ノブ夫は一言、
「か…敵いません」
と言って、強引に終わらせた。
そうしたら、単語じゃないじゃん!!と一子に殴られた。
不毛なゲームの末、彼らは祖父母宅にたどり着いた。