頑張れ先輩!
昼休み。一子は時々、学校の屋上に行く。そこには、いつも浅井先輩がいる。
「今日も来ていましたか」
一子が先輩の姿を認めると、先輩は優しく微笑み掛けてきた。
「君が来てくれて嬉しいよ。毎日来てくれると、もっと嬉しいけど」
「それはちょっと。学級委員やら部活やら色々やることがあるので…友人ともしゃべりたいですし」
先輩は苦笑いした。
「相変わらずハッキリ言うなぁ。まぁ友達想いはいいことさ」
一子はフンと鼻を鳴らして、そっぽを向いた。
「すみませんね。先輩ほど暇じゃないもので」
それを見て、先輩はキザッたく微笑む。
「君は知っているかい…」
「?」
「美しい桜の木の下には、死体が埋まっているんだよ…」
「ええ、よく言いますね…信じてませんけど」
先輩はちょっと膝カックンされたような表情になった。
「あ…そう……えっと、その、僕が言いたいのは例えでね…君は桜のように美しいが、内にちょっと毒がある…そこが魅力だと」
「はぁ、分かりにくい例えですが、ありがとうございます」
「うん…」
「では、先輩は知っていますか…」
「ん?」
「美しく泳ぐ白鳥は、水面下では激しく脚をばたつかせているんですよ…」
「………」
「つまり私が言いたいのは、そういうことです。今の先輩は白鳥なんです」
先輩はがっくり項垂れた。
「でも、いいじゃないですか」
一子の言葉に、先輩が顔を上げる。
「白鳥は、醜いあひるの子だと思われていた小さな頃から、仲間に追い付こうと必死に脚をばたつかせて泳いでいた。
ずっと変わらず頑張り続けてるって、いいじゃないですか」
「…うん」
先輩が微笑む。
二人は青空を眺めた。